カテゴリー : 不育 不妊・婦人科 東洋医学 コラム

不育症~東洋医学から考えてみよう!

1)黄体機能不全 不妊、流産

基礎体温表を眺めていて、高温期がガタガタだとホルモンがしっかり出ていないのかなあと心配になりますね。黄体機能不全という診断名がつくこともあります。では、このホルモンを補えばいいのか? といえば、なかなか悩ましいところがあります。黄体機能不全について、杉俊隆著『EBMに基づく不育症診療の実際―基礎から臨床へ』(金原出版刊)18ページから取り上げられています。

この中で、不育症患者の被妊娠周期の黄体機能不全がある群とない群を比べ、次回妊娠の流産率を無治療で比べたところ両群に差異がないという報告をあげています。つまり、黄体機能不全が非妊娠時にあると認められても、流産率の差異がないということですねえ。妊娠していないときに調べた検査じゃ意味がないんでしょうかね。

ずーっと昔、ある有名な不妊治療クリニックでは、胚盤胞移植時の黄体補充をしない場合をよくみかけました。『薬なしなんです』と不安そうに仰っていたのをよく聞いていました。その後、女性ホルモンの1つ「黄体ホルモン(プロゲステロン)」を補う作用のあるデュファストンがよく処方されるのをみるようになり、ふーーんそうなのねえなどと思っていました。きっと投薬した方がよいというデータが出たのかなと思いました。またテンダーケアは妊娠を助ける場合もあるようです。

不妊治療でこの黄体機能不全を治療対象とするかどうかは、意見の分かれるところです。この杉先生の本の中では、『充分な根拠は見出されない』とあります。しかしながら、根拠なくても効くなら使って欲しいというのが切実な願いでしょう。

しかしながら、いらないものを妊娠初期に使うというのもリスキーな話。また、デュファストンを飲んだ翌周期の採卵はあまりよい卵が採れないと仰るドクターもいらっしゃいますので、連続服用をしていたらいつまでたっても『よい卵に巡り会わない』という可能性が高まります。つまり、この周期の妊娠のためにデュファストンを飲む。でも妊娠出来ず。すると次周期の卵がよくない。結果妊娠出来ず。という繰り返しになってしまう可能性があるわけです。卵が先かニワトリが先か、謎の追いかけっこになってしまいます。

こういったケースで自然妊娠狙いでしたら、『とりあえず薬は全部やめて、鍼灸治療一本にしてみましょう』と提案させていただき、ガッツリ妊娠ー出産ということを何度も経験しています。黄体補充で上手く行けばOK。でも上手く行かないときは腹をくくって薬断ちもよいかもしれないなと思います。

2)夫リンパ球を使った免疫療法

この夫リンパ球を使った免疫療法は、私にとって非常に印象的な出来事です。

1980年代に子供を産み、その当時の育児雑誌を読んでいた記憶が私にはあります。確か当時のたまごクラブとかプレママなんとかみたいな赤ちゃん欲しい系統雑誌には、この免疫療法の話がお勧め治療法でイラスト入りではっきりと紹介されていました。

現時点からこの治療法を考えると、何をばかなことをというような結果が出ているこの免疫療法ですが、あの優しげであったかいイラストは忘れられない記憶でした。ふーーんと思っていると、この本の著者である杉先生のブログにこんな記載が!

夫リンパ球を行なった場合の生児獲得率は80.9%であり、一見良好の様ですが、無治療群の88.6%を下回っています。結局、原因不明ではなく、本当に異常のない不育症患者に夫リンパ球を行なっていた事になります。夫リンパ球免疫療法は、輸血なので、感染症などのリスクもあり、抗リン脂質抗体などの自己抗体を誘導するなどの副作用も報告されています。決して安全な治療でもないので、安易に行う事は止めるべきです。

夫リンパ球免疫療法について思う事。(杉ウイメンズクリニック)

ああ、そういうことなんですねえ。杉先生がEBMにこだわり、あいまいなままの過剰治療から、無治療でOKなのかを診断するのが役目と強くおっしゃる理由がなんだか私なりにわかったような気がします。

当時のプレママ雑誌には、私よりも少し先に妊娠して出産して(おまけに離婚して、再婚して…と続きますが)の松田聖子ちゃんが育児の日々を綴っていました。その赤ちゃんは今をときめく神田さやかちゃんです。ああ、チャンづけしちゃうのもあの時代に妊婦をやっていた同年代のよしみということで許して下さいねえ。聖子ちゃんが優しく自分のお腹をさすっていた写真が私の記憶にあります。

医学はこうやって、創造され、検証され、否定されたり、改革進歩して歩んでいくのですね。

ただ、いま思い返すと、あの記事のふんわりと温かい感情的な取り扱いにちょっと怖いものを感じました。あのとき、この免疫療法を紹介した人は、流産の人を救う救世主と思って紹介したのだと思います。食事や生活のことで、テレビや雑誌、本、啓蒙活動家はどうしても『感情にのせて』人を動かします。その是非を考えちゃいます。

不妊治療をご一緒させていただくと、ときに昔の治療が掘り返されていることに気がつくことがあります。2年前だったでしょうか、『卵管に戻す体外受精』に挑戦した方がいらっしゃいました。腹腔鏡も使っての大がかりなものでしたが残念ながら…。この治療法、胚盤胞移植が一般的になってからはほとんど見なかったので印象的でした。現場で起こったちょっとした成功をどうしても『よい症例経験』と考えるのは致し方ないところですね。うーーーーんと唸って今回は終わります。