カテゴリー : 不育 不妊・婦人科 東洋医学 コラム

不育症~東洋医学から考えてみよう!

5)不育症と甲状腺

<KLCでの甲状腺検査~伊藤病院>
今から2年前ぐらいからでしょうか? 新宿の加藤レディースクリニック(KLC)を受診された患者さんが、甲状腺の検査に伊藤病院に行ったという話を伺うことが増え、調べてみるとかなりしっかりフォローの体制ができているのを知りました。

そこで、他の内科などで甲状腺TSHの検査結果がOKを出ている患者さんに『念のために行ってみたら』とお勧めしたら、伊藤病院的に10人中シロ(何も治療の必要なし)が2人ぐらいという結果で驚きました。いわゆる異常値ではないけれど妊娠希望ならば飲むべきという方や、しっかりと甲状腺機能低下症の病名をいただいてくる方まで。自信と説得力ある説明にさすが甲状腺疾患を扱う専門病院ならではの結果だと再認識しました。

<伊藤病院と甲状腺>
伊藤病院は昔から甲状腺で有名。また、私的にはここは面白いパンフレットが多い! と思っています。以前は疾患そのものもパンフレットで説明されていましたが、ある時から『それは本で買ってね』という感じになった気がしますが、それでも、季刊で出しているパンフレットや説明の小パンフレットは秀逸だと思います。説得力がありますよ、説得力が。

もともと、甲状腺に対する自己抗体(バセドー病や橋本病など)と自己免疫状態は深いつながりがあるというあたりが、出発点のようですね。ここは伊藤病院のインフォメーションを見ながら考えていきましょう。

<甲状腺と妊娠>
・場処:甲状腺は、首の下の方にある小さな臓器。普段は目立ちませんが、『首が腫れているんじゃないかなあ?』と思う方に病院受診をお勧めしますと、『薬を飲むことになりました』などという報告をいただくことがあります。全身の小さ司令塔である臓器です。食事に含まれるヨウ素を材料にして甲状腺ホルモンを合成してくれます。

・役割:この甲状腺ホルモンは新陳代謝と大きく関わりがあります。また、妊娠中の場合は胎児の脳を含めた身体発育や子供の成長に大きな関わりがあります。妊娠と甲状腺について語られることが多いわけですね。

・TSH(甲状腺刺激ホルモン):TSHの測定がよくおこなわれます。これは脳から甲状腺に働きなさい!!と作用を促すホルモンです。甲状腺刺激ホルモンといいます。TSH(甲状腺刺激ホルモン)の値は、

正常値は<0.2-4.5μIU
妊娠を考える人は2.5μIUです。

かなり低めにしていくことが求められるわけですね。これは流産を減らすことが分かってきているからです。TSHが高いということは、甲状腺がやや機能低下しているということ。チラージンSを服用して補充療法を積極的におこなうクリニックが増えてきたように思います。

<チラージンS>
甲状腺の機能が低いときに服用するチラージンS、これは甲状腺ホルモンと同じもの。内服することで、甲状腺ホルモンとTSHのバランスが調整されます。妊娠中の服薬は気になるところですが。ドクターや薬剤師さんと相談しましょう。胎児への影響がある薬ではないようです。ただ、一緒に鉄剤などを飲むと効きが悪いようです。工夫で対応できるようですので処方されたときに伺っておきましょう。

妊娠中はより甲状腺ホルモンが重要になります。チラージンSを飲んでの妊娠であれば、その後の通院も忘れずにしっかりと!

<ヨウ素、コンブ、イソジン>
この甲状腺ホルモンの材料となるヨウ素は、食物から摂取されるミネラルです。このヨウ素を取り過ぎると甲状腺ホルモン値が低下してしまうことがあります。ヨウ素過剰なのですね。海藻類に沢山含まれていて、飛び抜けて多いものがコンブ。ひじきも控えめに。のり、わかめ、めかぶ、もずくなどの海藻類は伊藤病院のパンフレットによると制限する必要はなしとのこと。よかったですねえ。ただし、このコンブについては、昆布だし、コンブパウダー、昆布茶なども要注意、イソジンにもヨウ素が含まれていますので、うがい薬にも要注意ですね。

6)高プロラクチン血症、LH分泌過剰

高プロラクチン血症は、不妊治療でもよく話題になります。無排卵の場合は治療対象となりますが、排卵がちゃんと起きている場合には治療をしないケースも多く見ますね。見解が分かれるような感じです。不育症的には証明されていないので却下と。

LH分泌過剰は、多膿疱性卵巣症候群(PCOS)でよくみられます。しかしながら、PCOSの有無に限らず、反復流産の原因として報告されているといま論文として肯定するもの否定するものがあり、今後の検討が必要とのこと。現時点での明確な結論はなしということでしょうかねえ。

7)染色体異常、不妊不育の検査やPGDについて

何年か前でしょうか、出生前診断(PGD)が新聞に大きく載りました。流産を繰り返すご夫婦に大きな朗報だと。よく考えると、出生前診断をするということは、体外受精をするということです。しかしながら体外受精そのものが、それほど高い成功率ではなく且つ高額の治療です。本当に朗報なのかなあと疑問に思っておりました。

スライド80そこで、『EBMに基づく不育症診療の実際』のなかの26-28ページの記述に目が行きます。相互転座をもつ不育カップル、PGDをしてもしなくても、次回妊娠成功率は63パーセント。PGDをする場合は、3.84回のIVFが必要。ううーーーん。

体外受精をしたことのない方で不育に悩んでいる方でしたら、「体外受精をしてPGDして問題のない受精卵を移植すれば100パーセント流産なく出産できる」というイメージを抱いてしまうと思います。しかしながら、ここにはかなり大きなギャップがあるなあと思います。結局、妊娠そのものに問題のない場合は、相互転座の問題解決のPGDはあまり現実的ではないのかなあと私も思います。

染色体の検査はこのようなこともありさほど一般的ではありませんね。今までうちの患者さんでも、ここまでの検査をなさった方は数名でした。ところが、外国で体外受精を受けた方の資料を拝見したときに、当然のようにこの染色体に関する検査結果資料が入っていて不思議な気持ちがしました。

海外では、体外受精をするという決断をしたときに、初めから染色体の検査まで含めてがっつりと細かい検査をしてから入るということでした。日本では、たとえば風疹の抗体値ですら不妊治療に入ったときのルーティーンではなく、途中で追加検査となり、不妊治療中断ということをみたことがあります。また何度も体外受精をしてから、不育症の検査に進むとか。

不妊治療は、様々な考え方があり、必要のない人が大多数ということもあり費用の点で『最初から行う』という感じにはならないかと思いますが、年齢要因があって、不妊治療のスピードが非常に大切になっている方の場合は、同時並行に進めた方がよいのではないかなあと思うことも多々です。

<染色体異常の検査について>
不育症の染色体異常を考えるときに大前提があることを、今回だいぶ納得ができました。つまり、不育で悩んでいる人の染色体異常というのは、健康で社会生活を営めるレベルの人間の検査であって、流産胎児の染色体異常のレベルとはまったく違っているということです。当たり前なのですが、言われてみると納得ですよね。

そしてまた、『EBMに基づく不育症診療の実際』28ページの最後の方に、胎児の染色体検査について記載があります。不育症で悩むかもしれませんが、それでもするりとすり抜ける可能性が高いこの染色体異常。胎児(つまりお子さん)が『知らないでいるというのもひとつの選択肢であろう』ということに私も賛成です。知ってしまって対応するには荷が重すぎますね。

<遺伝子診断を考えるというい富和清隆さんのお話し>
先日、NHKラジオをPodcastで聞いていたところ、『遺伝子診断を考える』ということで、東大寺福祉医療病院の院長である富和清隆さんがお話をなさっていました。お話を聞くうちに、遺伝子診断が私たちに何を教えてくれるのか、そしてパンドラの箱をあけてしまうような遺伝子診断をどの様に考えて受けるのか、受けてどの様にしたらよいのかをお話しくださいました。

例えば、もし女性は保因者であり、発病はしないけど、男の子を出産の場合に出現する病気の遺伝子診断がついた場合。この情報を結婚していない妹に知らせるべきかどうかということを仰っていて、はっとしました。調べた方はすでにお子さんがいて、そのお子さんのために調べたとしても、保因者であることがわかれば、発病していないご自身の兄弟も保因者である可能性がある。そして保因者であることが分かった未婚の方が結婚するときに相手に告げるべきか、これからの人生をどう考えるべきかと言う課題を突き付けるということがどういうことなのか。伺っていてはっとしました。パンドラの箱ですね。