肝気鬱結、ストレス状態の不妊
今思うと、彼女の不妊は、いわゆるストレス性のもので、大きな器質的な問題はないケースだったのでしょう。
イラストをご覧ください。東洋医学の世界では、このように人間を一本の木にたとえることがあります。
健やかな心身とは、左側の図です。肥沃な大地にどっしりとした根をおろし、健やかに天空に枝葉を伸ばす一本の木。太陽が光を降り注ぎ、一つの生命として暢びやかに安定している様をあらわしています。
それに比べ、右側の図は、幹も色味を増し緊張している様子ですし、天空を枝葉が埋め尽くし、風が通ることも、光が柔らかく一枚一枚の枝葉に降り注ぐとこも出来にくくなっています。そのなかで、ぎらぎらと太陽だけはより光をましています。
人間は、一生懸命頑張って生きています。一生懸命頑張るということが、この枝葉をぐうっと生い茂らせて情報に目を光らせ、気持ちを集め凝らして頑張っているということなのです。
そしてこれが身体のストレス状態です。
ぎゅうぎゅうとなって詰まってしまった天空があるが故に、身体の全体に対する気血の巡りが悪くなり、妊娠で一番大切な、「妊娠に致るための一連のシステム」がスムーズに運ばなくなってしまうのです。
長年の不妊治療は、身体に大きな負担と精神的なストレスを呼び込み、このような「ストレス状態」で身動きが取れない身体になり、結果として妊娠しにくくなっていたのでしょう。諦めて泣きはらすことによって、この天空にぎゅうぎゅう詰まった枝葉が払われ、風が通り、光が一枚一枚の枝葉に降り注ぎ、ふんわりと彼女の下に赤ちゃんがやってきてくれたのではないかと思います。
20年前の治療では、卵子と精子を直接的に出会わせて子宮に戻すという体外受精の技術がありません。ストレス状態で動かなくなってしまった卵管がおこしているあとちょっとという不妊状態に対して、なすすべもなかったのでしょう。
不妊は、オールオアナッシング。つまり、妊娠できるか、出来ないか二つに一つです。
彼女のように、大きな問題はない、もう一息、卵管采がスムーズに動いて、卵子と精子の出会いさえあれば妊娠にいたるのだという状況でも、ただ「妊娠できない」という事実の前には、不妊という状態しかありません。
もうあと一息、でも精子と卵子が上手く出会えていない。
この解決に、現代では体外受精という選択肢が用意されています。出会えていない精子と卵子を体外で出会わせ、子宮に戻す。このことで沢山の方々に朗報がもたらされました。本当に有難い治療方法だと思います。
赤ちゃんが欲しく、大学病院に通うころの彼女に、いまもし出会えたらとふと思うことがあります。
彼女は、病院の先生からの話にショックをうけ泣き晴らすということで、からだがストレス状態から脱し、全身の気のめぐりの悪さがとれ、卵管采が気持ちよく動き卵子をキャッチし、精子と出会い、肩の荷が降りリラックスできた子宮内膜にスムーズに着床できたのでしょう。
彼女が、最後に妊娠を得ることが出来た状態、それと同じ状態を作るように鍼灸でお手伝いができます。アドバイスができます。
また、現代では体外受精という手段があります。彼女に、体外受精の技術があったら、ストレスなく不妊治療が受けられ、赤ちゃんともっと早く出会えたかもしれません。
そしてまた、IVF-ET(体外受精ー胚移植)の手を借りても、ストレス状態による、ふんわりと着床してくれないという不妊状況は存在します。そういったときにも鍼灸は力強いお手伝いをすることができます。
赤ちゃんが欲しい、妊娠したい。そう願っていらっしゃる方々に、少しでもお手伝いが出来れば、私はとってもとても嬉しいのです。