カテゴリー : 学会・論文

第62回 全日本鍼灸学会 講演記録『着床、妊娠、心拍確認に至った難治性不妊症への鍼灸治療』

時系列の問診

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四診を通じて、弁証論治をおこない、その方の現時点に至る物語を読み解き、今後の見通しをたてます。

問診は時系列の問診を中心とし、大きく変化があったところを押さえ生命の変性を知ることがポイントです。

この症例の場合、20代からむくみがち便秘ということから、腎気の弱さ脾気の弱さがうかがい知れます。

28才の時に茎捻転をおこし右の卵巣切除をしています。下焦における瘀血肝鬱の可能性があります、そういった状況の中不妊治療をすることでむくみや便秘がより強くなってきたと言うことから、不妊治療そのものが腎気に強い負担となったと思われます。

36才ではなんとか出産までたどり着きますが、出産によってむくみ、便秘はよりひどくなり、体重がぐっとダウンしてしまいます。出産は大きく生命力の傾きがおきます。いったん気血両虚をおこしそこから立ち直る時期です。充実した生命力があれば、充分乗り切れるこの傾きですが、この症例ではもともと脾気腎気の弱りがきつかったので出産という大きな生命力の傾きを支えきれず、出産をきっかけに、生命の器が一段小さくなってしまったということです。

その後第二子を希望し不妊治療を継続していますが体調はますます悪化というところで鍼灸治療初診となっております。

体表観察

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現時点(初診時)の体表観察です。

百会熱感、心下つまりから強い気の上衝が伺えます。

中焦は、中脘の固さ、臍周の冷え盛り上がり、脾兪の緩みなどから動きの悪さがみてとれます。

下焦は板のような下腹、少腹急結、細絡、骨盤の硬さ、次髎の冷えなど腎虚、瘀血が進んでいることが伺えます。

一つの身体の中で、ようようなことが同時にみてとれるわけです。これらを一元的に中心の課題を考えていきます。

四診を統合し、弁証論治をしていきます。

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時系列の流れを踏まえ、大きなベースとなる課題を考えます。

今の状況は、脾腎両虚の状況から、出産という大きな気血の傾きがきっかけになり、器の底割れをし、生命力が一段小さくなってしまった状況のなか、強い肝鬱が生じている状況です。

この方の場合、心熱、肝鬱などの問題を出していますがこれは枝葉の問題であり調整しやすい課題です。

しかしながら、脾腎の問題は器を作る大本です。そして脾腎を補うことなしに、この方の不妊の状況を解決する手立てはないのではないかと思います。また枝葉の問題も、枝葉自体の調節で解決するのではなく、脾腎の器を立て直すことで、枝葉の問題が納まることを期待します。

産後という回復時期に回復しきれず脾腎の器をこわしてしまったこと。脾腎の弱さに乗じて強い肝鬱が生じている。また風邪の内陥があることで生命に負担となり、上焦の気の上焦は強くなり、より脾腎をそこなうこととなっているのではと思われます。