カテゴリー : 講演記録

2015年 山下湘南夢クリニック講演『女子胞力を磨く、東洋医学鍼灸で出来ること。』

2 肝木の人間観

ここに、一本の木を描いてみました。

健やかに、気持ちよく、伸びやかに生きている一本の木です。

この一本の木、ただ、一本の木だけで生きているのでしょうか?よくみていみると、この一本の木は周りの環境と一緒に生きていることがわかります。この周りの空間も含めた丸ごと一本の木。これを東洋医学の世界では、人間の生きている存り様、人間そのものと考えています。私という人間が生きているあり様を一本の木から考えてみましょう。

この木は大地に立っています。土には滋養があり、泉には水がたたえられています。一本の木は根をしっかりとこの大地に伸ばし踏ん張ります。そして滋養や水を吸い上げます。

大地をしっかりと踏みしめ、一本の木は天に向かって枝葉を広げます。天空には太陽の光りが満ち、風が枝葉をゆらしています。葉が光りと空気によって充実し、枝葉を揺らす風が循環を促しています。

一本の木は滋養と水のある大地に根を下ろし、光りと風がそよぐ天空に枝葉を伸ばし、ゆったりとした気血の循環をもちながら生命を充実させてゆきます。天空からは雨が降り大地をぬらし、大地からは滋養が昇り天空へと送られます。私という一本の木は大地と天空の循環によって生命を授かり、生きる意思を持って存在する、丸ごと一つの存在なのです。

私たちは父と母から命を受けます。この世に生を受けた小さな小さな双葉のころには、天地も弱く敏感。お母さんのお腹の中で守られ、育まれなければ、生長することができないほどはかない命でした。

そして、この命は日々生長を重ね、自ら一本の木を育てることができるほど徐々に充実していきます。人間で言えば、誕生の頃。生まれ落ちて、お母さんから離れ、自分自身の大地に根を下ろし、自分の天空を使って呼吸し生長していくわけです。

自分の大地は土と泉。土は東洋医学では脾胃の力といいます、胃腸の力のことです。泉は水、東洋医学では腎の力といいます。この大地を滋養し潤す脾腎の力が私たちの生命をはぐくむ土台となります。

そして天空に枝葉を大きく広げ私たちは呼吸します肺の作用です。その肺を温め輝かせているものが太陽である心です。充実した大地と天空によって育まれる一本の木そのものを東洋医学では、肝「生きる意思をもった存在」と名づけて呼んでいます。東洋医学でいうところの五臓が出そろいましたね。充実した天地に支えられることによって、ー本の木である肝はあるがままに生命を健やかに気持ちよく謳歌し育っていきます。

このような、まるごとひとつの生命にとって、病を得るということは、どういうことなのでしょうか。

どこかに不足が生じて病んでいるのでしょうか?

どこかに生命力が偏ってしまっているのでしょうか?

生命力が充実してこない理由はどこにあるのでしょうか?

困った症状を出している原因はなんなのでしょうか。

これらの理由を知るために、土と水の大地の状態、光りと風の天空の状態、生きる意思をもった肝木の状態をしっかり観察し理解し把握することから東洋医学は始まります。

この丸ごと一つの人間のどこに偏りがあるのか、不足があるのか、弱さがあるのか、脆さがあるのか、丸ごと一つの存在であるという全体観を持ちながら分析的な目で観察し、解決策を考えていくことが治療につながるのです。

まるごと一つの生命に支えられた一本の木は、大地から栄養を吸い上げ、天空に向かって枝葉を伸ばし、光りを受け風が枝葉をゆらし、気持ちよく生命を謳歌しています。

大地と天空の間には循環がおこります。

天空からは恵みの雨が降り注ぎ大地を潤し、大地からは根がその滋養をくみ出します。

伸びやかな気血の循環によって、この木はいきいきとご機嫌に生命を楽しんでいるわけです。このご機嫌に日々を生きる一本の木を生命力が謳歌できる様にするにはどうしたら良いのか考え底支えするのが東洋医学です。

私たちは、笑い、泣き、語り、歌い、明日の希望をもって生命を楽しみ生きています。

生きる意思をもち、大地に根を張り天空に枝葉を広げ、伸びやかな気血が循環のなかで生きる意思をもって存在している。これが私という丸ごと一つの人間なのです。