弁証論治:

0025:ストレスがあると食べてどんどん体重増加、妊活希望

ストレスがあるたびに、食欲が増し、体重増加ということを繰り返し、25歳の時には52キロ出会った体重が34歳では74キロまで増えてしまっています。妊娠のご希望もあります。さて、お身体の状態を紐解き、一緒にどのようにしていったらよいのか、考えていきましょう。


…<問診>

34歳、女性、鍼灸師

家族構成:夫、祖母、父、母、弟3人

体重:74kg、身長:164cm

肉親の病気の遺伝的傾向:糖尿病、胃がん、低血圧
【今一番つらい症状】

8月の生理がこなかった(妊娠ではない)

その症状は今回が初めてで、急に起こった。
悪化傾向にあるかどうかは不明。
今回の症状が起こる前に肉体的、精神的に、少しバタバタしていた。
風邪は引いてなかった。
生活環境にも変化は無かったが、今まで一人暮らしをしていたのが4月から同居を始めた。

今回の症状が起こった原因は、妊娠か疲れだと思う。

今回の症状が起こると同時に出てきた体調の変化は、体重の増加、夕方のむくみ、夢をよく見る、朝に足の裏が引きつる。

今一番つらい症状は全身的な体調の変化に合わせて変化するかはよくわからない。
現在の症状に対して今まで治療は受けていない。

【普段の状態について】

全身の状態の良い変化・・・入浴中、入浴後、入浴の翌日
全身状態の悪い変化・・・クーラー

風邪を引くと鼻水、発熱。

【食欲について】

大食で、食べる時間は不規則(朝は無し、昼12時、夕23時)。
食事時間は30分で普通に噛んで食べる。
食事前の空腹感はよくあり、食事はいつもおいしく食べれる。
食後にお腹が張ったり、胸焼けはない。
よく食べるものは、玄米、そうめん、生魚。
好きな食べ物は、ごはん、味噌汁、そうめん、果物、かしわ
嫌いな食べ物は、らっきょ、生のたまねぎ、コーヒー、人参のグラッセ
間食は、同居を始めた4月頃から、夕食後によく取るようになった。

タバコは吸わない。
飲酒はしない。

飲み物は、1日に200ccのコップで5杯以上、合計1000cc以上。
水、梅酢、なお七を飲む。
口や喉は乾いたり、粘ったりしない。

【大便について】

大便は1日2回出て、便秘することはない。
大便が出きらない感じは生理前に時々ある。
大便の形は、バナナより少し細く、量はこぶし大、臭いは普通。
便が便器に付着することはめったにない。

【小便について】

小便は1日5回。
残尿感、尿切れが悪いことは無い。
夜間排尿は時々。
尿の色が赤いことは時々。

【睡眠について】

就寝0時頃、起床5:30.
寝つきはよく、夢をよくみて、寝起きはよい。
翌日に疲れが残ることは時々。
夢の内容は、昔から同じ世界で知らない人と話すことが多い。

…【婦人科の状態について】

初経11歳。

生理が起こると体調不良は時々ある。
生理前、生理初期に、寒い、下肢が落ちる感じ。
部位:下腹部。

生理血の形状は、血液で、量は普通。
生理の量が多いのは2日目。
出産経験は無し。

…【他に治していきたい症状】

肩こり(肩甲間部)

<追加の問診事項1>
精神状態と体重がリンクしやすい。
尿の色が赤いとは、濃い黄色のこと。
尿の変化があるときは、疲れているとき、イベントがあるとき、緊張があるとき。
夜間排尿は30歳過ぎから。

生理2~3日前は、便秘気味になる。
生理1日前は、全身が寒いなと思うと翌日に生理が来る
生理2日目は、量が多く、下腹が抜ける感じ、寒い感じがする。

<追加の問診事項2:時系列>

中学1年・・・剣道を始める(社会人になっても続けていた)

高校1年・・・体重48kg。
       鉄欠乏性貧血でよく朝に足がつった(高校2年には治る)。
       これ以降、左右差無くピキッと痛みが走ることがある。

21歳・・・会社員、体重52kg。
     だんだん太っていく。
     この後もストレスなどで簡単に体重が増減する。

25歳・・・宮本式ダイエットで1年間で10kg痩せる(62kg→52kg)。

27歳・・・ストレスにより1年間で体重が5kg増える。

28歳・・・鍼灸学校入学。
     体重58kg→68kgに増える。
     肩甲間部のこりを感じ始める(現在まで)。
     ストレスがあった。
     うどんが美味しかった。
     修学旅行(北京)に行き、気管支炎になる。これ以降太っても痩せにくくなる。

31歳・・・鍼灸学校卒業。

32歳・・・弟子入りする。
     翌日に疲れが残るようになる。

33歳冬・・・悩みでストレスがあり、2回ほど非常にきつい生理痛があった。
      生理が1回来なかった。
      高速バスに乗るとふくらはぎがむくむようになった。

34歳4月・・・体重68kg。
       同居するようになり、精神的、肉体的にバタバタして落ち着かなかった。

34歳8月・・・体重74kg。
       生理が来なかった。
       家族で食事をするようになり、間食が多くなる。
       夜の往診で夕食が23時くらいになる。
       お腹がいっぱいだと鍼がうてない感じ。
       朝に足の裏がひきつるような違和感がある(つっているのではない)。
       夕方にふくらはぎがむくむ(バスに乗らなくてもむくむようになる)。

34歳9月現在・・・夕方のむくみは足首になった。
…<切診情報>
○脈診
脈:沈濡弱、左関上弦
○舌診
舌質:淡白~淡紅、舌尖紅
舌苔:白ジ苔
舌その他の情報:静脈怒張あり、戦
○腹診
大腹:奥につっぱり
右大巨:やや冷え
脾募:たっぷり
心下~左季肋際にかけてつっぱり
少腹急結(左>右)
肝相火:なし
○経穴診
右合谷:つっぱり
右外関:陥凹
右後ケイ:陥凹、奥に冷え
左神門:硬結(左>右)
右太淵:腫れ、奥に熱感
右照海:スジ張った硬さ
左太白:つっぱり
公孫:陥凹(右>左)
太衝:腫れ硬結(右>左) 右は熱もあり
臨泣:硬結(石の如し)(右>左)
右築賓:陥凹
左湧泉:冷え、陥凹
右湧泉:奥にすじ張り
○背候診
大椎~陶道:腫れ、全体に温感
右肺ユ:陥凹
左肝ユ:陥凹
左脾ユ:陥凹
左脾ユ一行:つっぱり
左胃ユ:陥凹
左腎ユ:陥凹
左大腸ユ:陥凹

…<五臟の弁別>

【肝】
今回の症状が起こる前に精神的に少しバタバタしていた。
夢をよく見る
精神状態と体重がリンクしやすい。
尿の変化があるときは、緊張があるとき
生理2~3日前は、便秘気味になる
生理1日前は、全身が寒いなと思うと翌日に生理が来る

大便が出きらない感じは生理前に時々ある。
生理2~3日前は、便秘気味になる。

33歳冬・・・悩みでストレスがあり、2回ほど非常にきつい生理痛があった。
      生理が1回来なかった。
脈:左関上弦
舌その他の情報:静脈怒張あり、戦
少腹急結(左>右)
太衝:腫れ硬結(右>左) 右は熱もあり
臨泣:硬結(石の如し)(右>左)
左肝ユ:陥凹

【心】
舌尖:紅
心下~左季肋際にかけてつっぱり
右後ケイ:陥凹、奥に冷え
左神門:硬結(左>右)
【脾】
体重の増加
大食で、食べる時間は不規則。
間食は、同居を始めた4月頃から、夕食後によく取るようになった。

34歳8月・・・家族で食事をするようになり、間食が多くなる。
       夜の往診で夕食が23時くらいになる。
       お腹がいっぱいだと鍼がうてない感じ。
舌苔:白ジ苔
大腹:奥につっぱり
脾募:たっぷり
心下~左季肋際にかけてつっぱり
左太白:つっぱり
公孫:陥凹(右>左)
左脾ユ:陥凹
左脾ユ一行:つっぱり
左胃ユ:陥凹

【肺】
右合谷:つっぱり
右太淵:腫れ、奥に熱感
大椎~陶道:腫れ、全体に温感
右肺ユ:陥凹
左大腸ユ:陥凹

【腎】
今回の症状が起こる前に肉体的少しバタバタしていた。
夕方のむくみ
朝に足の裏が引きつる
全身状態の悪い変化・・・クーラー
夜間排尿は時々。
尿の色が赤いことは時々。
翌日に疲れが残ることは時々。
尿の変化があるときは、疲れているとき、イベントがあるとき
生理2日目は、量が多く、下腹が抜ける感じ、寒い感じがする。
生理2~3日前は、便秘気味になる
生理1日前は、全身が寒いなと思うと翌日に生理が来る
高校1年・・・鉄欠乏性貧血でよく朝に足がつった(高校2年には治る)。
       これ以降、左右差無くピキッと痛みが走ることがある。

28歳・・・太っても痩せにくくなる。

33歳冬・・・悩みでストレスがあり、2回ほど非常にきつい生理痛があった。
      生理が1回来なかった。
(これは、冬に腎気の弱りが明瞭になった可能性もありということで腎にも)

32歳・・・弟子入りする。
     翌日に疲れが残るようになる。
33歳冬・・・高速バスに乗るとふくらはぎがむくむようになった。
34歳8月・・・夕方にふくらはぎがむくむ(バスに乗らなくてもむくむようになる)。
34歳9月現在・・・夕方のむくみは足首になった。
34歳8月・・・朝に足の裏がひきつるような違和感がある(つっているのではない)。
右大巨:やや冷え
右外関:陥凹
右照海:スジ張った硬さ
右築賓:陥凹
左湧泉:冷え、陥凹
右湧泉:奥にすじ張り
左腎ユ:陥凹

【陽虚】

全身状態の悪い変化・・・クーラー
生理2日目は、量が多く、下腹が抜ける感じ、寒い感じがする。
生理1日前は、全身が寒いなと思うと翌日に生理が来る

【気虚】
脈:沈濡弱

…病因病理

主訴である、生理がこない(妊娠ではない)という状況は、精神的なストレスや肉体的な疲れが誘因となり真夏におこっています。また、ご本人の自覚はなかったものの、生理の回数を
調べると、去年の冬にストレスから2回ほど非常にきつい生理痛の生理があったことと、生理が
一回なかったことが判明しています。

もともと、ストレスで体重が大きく変動しています。ストレスによる肝の鬱熱が胃熱に影響し
(ストレスを食欲で解消する)多食になり太ってしまうということを繰り返していらっしゃいます。
これは、肝鬱をもちやすいタイプであること、そしてそれを支える丈夫な脾気があるということを
あらわしています。

28歳の鍼灸学校へ入るまでは、腎気が充実していたため、やせようと思えば簡単に体重は
減っていました。鍼灸学校での日々がストレスがあったこと、そして肉体的にも無理があり、北京での修学旅行のときの気管支炎をきっかけに腎気を少しそこい、全体に器を少し小さくしたため、体重は減りにくくなり、全身の器を小さくし気虚気味になったことにより気滞もきつくなり肩甲間部の凝りを感じるようになったと思われます。またこのときに風邪が脱けきらず内陥してしまったために上焦の気滞がより強くなってしまったという可能性も考えられます。
 
鍼灸学校卒業後も、腎気が補われることなく、弟子入りの生活に入り、肝気をはり頑張る生活は続き、ストレスが強かった33歳では一回生理が飛び、二回ほどきつい生理痛になっています。これはストレスが腎気に強い影響をあたえ、一回生理がとんでしまった、また冬で冷えもきつかったことから、腎気の弱り、肝鬱の強さ、冷えが影響し、強い生理痛となったと思われます。また
高速バスにのるとふくらはぎがむくむようになっているのも腎気の弱りがもう少し進んでしまったあらわれであると思われます。

28歳の鍼灸学校でひとつ腎気の器を落としたこと、33歳の冬にまたひとつ腎気の器を小さくしたことが考えられます。現在の生理の状況を考えると、生理前に寒いと感じると翌日に生理がくること(生理前にあった肝気のはりがとれ生理になるときに、素体の陽虚があらわれる)、生理の時に下腹が脱け寒い感じがすること、クーラーで体調悪化することなどから、小さくしている腎の器は陽虚に傾きがちになっているものと思われます。
ストレス(肝鬱)が、食欲や全身の体調に強く影響を与えるタイプであり、それを支える腎の器が小さくなっていることにより、生理に影響が出始めていると思われます。

切診情報での、背部兪穴が左脾兪を中心に胃兪、腎兪と陥凹があり、全身の生命力の投影としてみることも出来る経穴である公孫も陥凹して全身の生命力の弱さを示しています。これは問診までにでた流れと呼応するところです。

そして、左関上の弦脉、右の太衝の熱感までもった腫れ、神門の硬結など強い気滞を示しています。これはご本人の肝気をはって頑張ろうという生きる姿勢そのものと、臓腑の弱りや湿痰などの内生の邪があるのでよけい肝気を張らざる終えないという姿のあらわれでしょう。
そのがんばり(肝鬱)を支える背部兪穴の肝兪に陥凹が現れ始めていることをみると、がんばりすぎて少しがんばりが効かなくなり始めているようにも思えます。強い肝気(生きる意思)を支えるにはしっかりとした腎気の器が必要ですし、これ以上無理ながんばりを続けるのは危険です。
(この段階がもう1,2段進むと、頑張ろうとしても頑張れないという鬱状態になってしまいます)

問診までの情報では陽虚が中心になるのではないかと思われましたが、ご本人を切診してみると、熱がこもった状況の経穴が多くあります。これは前日の発熱の影響と、当日のモデルという気の張りようで肝気がより張り鬱熱を持った可能性と、平生からの胃熱の影響も考えられます。

現時点で総合すると、頑張ろうという肝気が肝鬱となり胃熱をつき脾兪の熱として現れているようです。そしてこの強い肝鬱が脾胃、腎に影響を与えているように思えます。

妊娠へのご希望をかなえるには、腎の陽気を中心にたてること。
肝鬱を食欲で解決するいまのパターンをあらため、湿痰を排泄し腎気に負担をかけないように
することが大切ではないかと思われます。

…弁証

腎虚肝鬱
脾胃湿熱
風邪の内陥

論治
疏肝理気
健脾補腎

治療指針

肝鬱を払い、困窮させている生命力を回復させる
腎の陽気をあたため腎気を立てる(中心課題)。
必要に応じて脾胃の湿熱を払う
現段階で風邪は体表に出てきていないので、出てきた段階で取る

…当日処置

肝鬱が一番きついのでそれを払って、困窮していることによって熱
を持っている脾兪の熱鬱を払って全身に陽気がめぐるように配慮す
るとともに、生命力の治め場所として脾兪の安定化を図ることを目
的としました。

1)左神門(5分短鍼で置鍼)
  右太衝、右臨泣(5分短鍼で置鍼)

 処置後、神門の硬結がとれ、太衝の熱感がややとれる
 脉状が全体にふわっと浮く

2)左脾兪(10番で置鍼)
 脾兪から熱感があがってくるところで置鍼。

 処置後 脾兪の熱感がとれる
 脉状が全体に暢びやかになる。
 脉状のつながりがよくなる
 大腹の邪が浮いて全体に広がる
 右太衝の腫れと熱感はすっきり取れている

患者さんへの生活提言

(治療方針は腎虚肝鬱中心で、そして内湿はご自身の養生で解決して欲しいと
思っていますので、生活提言の方に織り込んでみました。)

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生活提言

結婚され、環境も変化があり、また日々の生活も忙しくご自身のお身体を構う暇もない
生活だと思います。

妊娠を望まれるときに大事なのは、生命力の土台の力、臍下丹田の力です。
睡眠を充分にとり、規則正しい生活を心がけるようになさってください。
また、お食事も、夜遅くならないように工夫してみてくださいね。

ストレスを丈夫な胃腸で解消するというパターンは、内湿をため、あらたなる
問題をおこすことつながります。ストレスと上手につきあうことも考えましょう。
妊娠や体調管理のためにも、もう少し内湿を落とし体重をセーブすることも大事ですね。
ご夫婦二人でのストレス解消、内湿解消につながるスポーツなどの楽しみをみつけるのもよいのかもしれませんね。

問診上で冷えが予想されたのに、実際のおなかは温かい状態でした。これは
おばあちゃまから頂いた腹巻きを常につけるようにして身体を守っているからですね。
ちょっとした心遣いが、女性の身体を守る養生となります。大事にしてくださいね。

妊娠する力は、個人差の大きいものです。
しかしながら、一般的に30歳を過ぎると卵管采が卵をキャッチする力が落ち、
35歳からは卵子の質の低下が始まり妊娠する力が落ちるといわれています。
妊娠のご希望があれば、基本的な妊娠に対する検査は受け、基礎体温を測り
ご夫婦でタイミングをとってみるのがいいと思われます。このとき、積極的に鍼灸治療を受けるのもよいかと思います。また、ご結婚から(妊娠を希望なさってから)1年、
あるいは35歳を過ぎても妊娠にいたらな場合は、病院で不妊治療の相談をされるのもよいかと思います。

その後、無事に妊娠出産にいたる。おめでとうございます。