弁証論治:

0006:疲れやすい、ぐったりしてしまう。.未)テン、経穴、経アリ

.6)未)疲れやすくぐったりしてしまう弁証論治
..主訴
大変疲れやすく、すぐぐったりとしてしまう。
胃腸が弱い
他に治していきたい症状:肩や腰が重い。不整脈がある。
36歳女性 主婦 夫、子供5歳
身長156センチ 体重46.4kg
…四診
….問診
28歳 ダイエットで食事の量を制限(48kgが46kgへ)
31歳出産。
妊娠前にストレスをかかえ、肉体的にも精神的にも、
多忙、寝不足、人間関係のストレス、ダイエットなどで無理を重ねる状態。

妊娠をしたとたん気力が全てなくなってしまう状態となった。
妊娠中から、今回の症状が発症。妊娠中は出産まできつい悪阻が続く状態だった。
(妊娠前体重48kg、出産後50kg)
出産直後は、まわりも応援してくれ張り切って頑張た。
出産2ヵ月後主訴がはっきりと出現。

33歳ビッグママ治療室受診
このときの主訴:
-1)何をしてもすぐ疲れてしまい、ぐったりとしてしまう。
-2)変に身体が熱くなる
-3)頭がぼーっとして特に腰、肩がだるくなる
34歳 内科にて胃腸の薬、十全大補湯などを服用
35歳 婦人科にて、排卵を按させる薬を服用ー生理にまつわる疲労感の軽減

症状は少しづつよくなって来ている感じがする。

36歳:現在 症状が一皮むけてよくなった感じがする。
朝や夕方など一定せずに辛い。夏が辛い。朝起き難い
外出したとき、生理のとき、動きすぎたときに辛い。

普段の状態
ー春、夏、朝、夕方、肉体疲労時、気を使ったあと、睡眠不足、
旅行のあと、風邪を引いたとき、食べすぎたときなどよくない。
33歳ごろから食欲が落ちている。規則的で少食、空腹感はあり、よくかむ、
いつも食事は美味しく、胸焼け腹脹は時々
間食は1日2回食事の残り、食パン、おもち、おせんべい、さつまいもなど。

便秘でおなかがはってつらいことがよくあり、2日に1回出る。
潤腸湯を飲んでいる、やや下痢気味になるがときに体調の変化はない。
便器の付着や出切らない感じが時々ある。こぶし大

小便は1日7、8回残尿感尿切れの悪さなし。夜間尿はよくある3-5時ごろに1回

寝つきは悪く、眠りは浅く多夢、疲れが残ることがよくある。

生理中の1-5日ぐらいが調子が悪い。
生理が終わってから高温期に入るまでが調子がよい。
ピルを飲むようになって、生理周期に振り回されることはなくなった。

生理前、初期、中期、後期にわたって、体調が悪い
鈍痛、寝込む、疲れ。粘った膜、膿血。2-3日目が多い。
出産後体調がもっとも悪化(産後2ヶ月ぐらい)、疲れはひどくなったが
痛みは減り、周期も安定。出産後母乳は良く出た。
産後の体調不良からの完全復調にはまだ遠いと思う。

..切診

舌診、淡紅舌薄白苔 はんだい やや色褪

脈診、非常に細く不安定な感じ、数脉、結代

腹診、臍に動悸、肝の相火なし

左肺兪虚
右心兪大きく虚
左脾兪、右の三焦兪虚
左腎兪大きく虚

右養老実
右神門冷え、実
左神門動きが悪い、実
右合谷実 動きが悪い
右外関 実
右後谿 冷え、実
足三里虚(右、大きい>左)
左太白、虚(大きい)
左太淵、実

..五臓の弁別
【肝】

春に花粉症や頭痛でつらい
目が疲れやすい(渇きコンタクトが辛い)
気を使った後に状態が悪化
高温期に状態悪化
産後生理周期が安定
産後から、排卵痛がおこるようになった、生理前にイライラ、だるさが出るようになった

【心】

口内炎
非常に細く不安定な感じ、数脉、結代
右心兪大きく虚
右養老実
右神門冷え、実
左神門動きが悪い、実
右後谿 冷え、実

【脾】

湿度が高いと悪化
状態が悪化したときに、胃が悪くなった
食後にガクッと来ることがある
食べすぎで状態悪化
食後の腹脹、胸やけがよくある
夏に体調悪化し、食べると胃が苦しく、空腹時も気持悪かった
時々大便が出きらない感じ、便器に付着
左脾兪虚
足三里虚(右、大きい>左)
左太白、虚(大きい)

【肺】

左肺兪虚
右合谷実
左太淵 実

【腎】

なにかあるとより辛い
2,3時間の家事、子供の相手で疲れて辛い
産後よりの月経前緊張症
産後よりの排卵痛
いつも身体が寝起きのようにボケッとして血行が悪いように感じる。
産後よりの体調悪化
肉体疲労時に状態悪化
夜間排尿に時々おきる
産後から、排卵痛がおこるようになった、生理前にイライラ、だるさが出るようになった
母乳を上げたあとは、目がかすんだり、ぐったり疲れたりした。
右の三焦兪虚
左の腎兪大きく虚
右外関実

【気虚】

朝が一番辛い
湿度、温度が高い夏に状態悪化
入浴でぐったりとするときがある
高温期から生理から7日目ぐらいまでが疲労感が強く
臍に動悸

【寒】

産後よりの冷え、足首から下、(冬は腰から下)

【瘀血】

生理の塊が出産後軽減
産後経血量が増え、塊が軽減、血液の色があかるくなり、どろっとした感じ、
鋭い痛みが減少

..病因病理:論治  5/6

主訴は妊娠、出産をきっかけにした体調不良です。

妊娠前には子供ができるまでにやりたい事をしてしまいたいという思いが強かったということもあり、非常に活動的であり、かつ、演劇のために無理なダイエットなどを繰り返したり、睡眠不足を続けたりという、非常に不規則で不安定な状態で過ごしていらっしゃいます。やる気やそれに向かう意思(肝気)がとても強く、土台を睡眠不足やダイエットでそこないつつも全体としてがんばって走り続けていたというのが、妊娠前までの姿でしょう。

妊娠前に生理が大きく乱れつつも無事に妊娠。このとたん、やる気がすべてなくなってしまったというのは、張り詰めていた気がすとんと落ちてしまった以上に、精神的な大きな落ち込みがあったことを示しています。ただ、妊娠中ということもあり、おとなしくなさっていたことで、そのこと自体は大きな問題とならなかったのでしょう。妊娠まえからみえはじめた主訴が、気力がすべてなくなった中あらわれてきたというのは、ここにこの方の素体があらわれているとも考えられます。

妊娠中になぜつわりがおこるのかを考えると、子供という陽気の塊をかかえ、その熱が胃をつき、上逆するということだと思います。この方の場合、それが非常に強く現われています。これは、妊娠前に脾気が非常に弱っていたことと、生理が間遠くなっていたことが示すとおり、中心に向かう力としての腎気も弱っていたためではないかと思われます。このため、つわりが出産までつづくわけです。これにより、ゆっくり横になって休むこともできず、胃熱のため胸焼けをおこしたり、心熱をつくといった状態にもなっていったのではないかと思います。

妊娠中は、おとなしくしていたこともあり、お子さんも無事に3200グラムで安産なさっています。しかしながら、出産後2ヶ月ほどして、家に戻り自分で家事などをはじめたとたん、決定的に主訴が出現しています。

出産は、女性にとって大きな傾きの時期です。大きく気血を虚損する中で、瘀なるものを落とし、身体が立ち直ることができることもあります。

この方の場合、妊娠前、妊娠中に重ねた虚損の中にありましたが、出産により、周りの人の喜びや応援に答えがんばって気持ちを盛り立てるということをしてしまいました。虚損した土台の上に、肝気をぐっとはって、気持ちを奮い立たせたわけです。しかしながら、ご自宅に戻り、ふっと気が抜けたとたん、はっきりと素体が出てしまうという状況になってしまったわけです。これがはっきりとした主訴の出現ということになります。

つまり、妊娠前、妊娠中と重ねた脾気、腎気、心気の虚損の上に、出産による大きな気血両虚。その上に、肝気を奮い立たせたことによる、肝陽の亢進、腎陰の虚損、心熱の亢進ということが一気におこったのではないかと思います。

出産後の状況をみると、月経の周期が整い、母乳がよくでて、塊などがなくなっています。お血がおち、腎気はがんばっていることがわかります。しかしながら、出産前にはなかった、月経前のイライラ、辛さなどは腎気が虚損しているために気が高揚してくる時期(高温期)を支えることが非常につらくなっている為におこっていることです。これは出産前よりも、腎気がかなり虚損している状態であることがわかると思います。

女性の身体をみていくと、不思議なことに、腎気を虚損し、身体全体の体調までが悪化したときに、連動して、生理などの周期が長くなったり、排卵を起こさなくなったりするタイプと、逆に、とにかく頑張って排卵をおこし、高温期を維持し、月経をおこしてくるようなタイプがいらっしゃいます。

この患者さんは、妊娠、出産前はあきらかに前者であり、出産により、後者の状態にかわっていると思います。身体が虚損していても(もしかしたら、人間としては逆に、虚損しているからことなのかもしれません)しっかりと生殖のリズムを優先させて身体は動いています。

これほどまでに身体が虚損しても、生殖のリズムをしっかり持っているというときには、一番崩れてしまっているものを応援する必要があります。

食事をとったあとに、全身状況がくっと悪化する、食後の腹脹、胸焼け、胃の苦しさ、便通の状況、足三里、太白の状況からも脾気の虚損が明白です。そして、心の状態も、心熱もかなりこもっているような口内炎、数脉、結代もあり、それでいて、心兪は大きく虚損し、心は虚熱をもっているような状態を感じます。つまり、脾の陰虚が心の熱につながる、心脾両虚の状態を思わせます。精神的な辛さがかなり前面にでていたのも、この心脾の関係があったためではないかと思われます。

こういった状況下、子供のために、腎気の主導の下、衝任脉がフル稼働し、母乳をせっせと出し、子育てをしています。より本人の生命力が弱る原因になっています。こういう状況では、健やかな脾気の下大いに食べて、しっかり母乳を出すということが望まれるわけですが、健やかな脾気がないために、直接的にご本人の虚損ということにつながってしまい、体調の回復が遅れたのだと思います。

食事後1時間で運転をして緊張していらしたときには、脉がかなり数脉の上に結代が強く動悸を感じるという段階にまで達し、非常に不安定な脉状となっていました。食事、運転ということだけで、全身が疲れたことをあらわす結代がつよくなり、心熱がこもったように動悸まででてくる不安定な脉状になるということは、食物を受け取る脾胃の器が本当に小さくなり、すぐに心をついてしまうような状態になっていることをあらわしていると思われます。

まず、脾気を、陰気を中心にしてたて、心熱を納めていきます。そして脾胃の器が大きくなることにより、全身状況が好転し、腎気もより健やかになれば、月経前の症状も自然と収まってくるのではないかと思います。

..弁証論治

まず今の段階としては、

弁証:脾気虚損、心陰虚
論治:脾気を建て、心陰を補う。

..患者さんへの提言

通常の人であれば、食事をしても、生理になっても、子供の世話をしても、それほど疲労感を感じるものではありません。生理的なブレの範囲として受け止められるはずです。

そういった日常の生活動作である、食事も、子供の世話も、排卵も、高温期の維持も、すべてが、『何かあったとき』になってしまっていることが、今のご本人の辛さとなっています。そしてこれは、素体の力が非常に弱り、身体の余力がほとんどなくなってしまっているからだと思います。これでは、本当に大変で、おつらいでしょう。

このためには、身体の底力(東洋医学で曰う腎気)を少しづつでも、建て直していく必要があります。

もともと、やる気がある、なにか行動したいタイプの方です。

しかしながら、これほどまでに器が虚損していると、ちょっと何かをすることが、すぐに、器まで小さくしてしまうという悪循環になってしまうのです。何かしたい、もっとやりたいというのは、器が、日常生活が普通におくれるようになったときに、考えるべきで、それまでは、まず器(腎気、根本の生命力)を高めることが第一です。

それには、睡眠をよくとること、器以上の行動をとらないこと、脾胃(胃腸の状態)を守り、食事を節制して取る事が肝要です。胃腸の状態をしっかりさせることで、体力もついてきますし、精神的にもより安定すると思います。

産後の不調ということは、若い方の不調ということです。若いということは、それだけ生命力に勢いがあるということです。養生に勤めることで、必ず回復していけるはずです。ご自身の身体を大事にいたわり、器を育てていきましょう。

カテゴリー: | 投稿日: 2019/02/04 2019/02/04