弁証論治:

0015:子宮内膜症 半年の鍼灸でどの程度の改善が見込めるのか

半年にわたる鍼灸治療で体調が改善した、子宮内膜症弁証論治
..問診
問診>

29歳、女性 専業主婦
身長:162cm、体重:52kg
家族構成:夫

主訴・・・不妊、生理痛

肉親の病気の遺伝的傾向:父親が高血糖。母親が高コレステロール。
姉と妹がアトピー性皮膚炎。

【主訴の生理痛、及び婦人科系について】

初経11歳。
生理周期は26日、5~7日間(昔から)。
生理の血状は血液にたまに小さい塊が混じる。血色は出血した時の色。
生理2日目は量が多いが、全体量は普通。
妊娠、出産、流産の経験は無し。
結婚24歳。

生理痛は17歳(高校)くらいから感じるようになり、20歳頃から量は多くないものの生理痛が酷くなった。24歳で子宮内膜症の診断となるが、20歳から25歳までは、生理痛で寝込んだり、嘔吐、失神したりするほど酷かった。痛み止めの内服、座薬が効かず、安定剤と麻酔を点滴していた。

27歳でラパロ手術を受ける(診断名:子宮腺筋症、内膜症、ステージ4)。以降、経過観察となり、29歳現在は左右の卵巣に小さなチョコレート嚢腫があり、ダグラス窩にも内膜病巣がある。

生理痛は手術以降ほとんど無かったが、今年2月頃からまた徐々に生理痛が起こり始めている。生理痛の薬は飲まずに過ごせている。現在、生理痛はよくあり、生理前には下腹部と腰に鈍痛、むくみやすくなり、生理が始まって3日目くらいまでは下腹部に刺すような痛みが出る。生理6~7日目は出血は無くても下腹部痛があり、10日目から14日目(排卵)くらいが1番体調が良く疲れを感じなくて元気がある。

生理痛は朝起きた時から痛くて、そこを何とか我慢して起きて動き始めると楽になり、仕事に行って立ちっぱなし、動きっぱなしの時間帯が一番楽、夜は朝ほどではないが痛みを感じる。手術前はさすがに痛すぎて動けなかった。夜は痛いと思ってもお風呂に入ると痛みが楽になる。

生理痛は体が冷えている時に痛むことが多く、クーラーや冬の冷えで生理痛は余計に痛くなる。梅雨時にも生理がきつくなるが、これは冷えるからではなく、雨だと気分がスッキリしない上、体が気圧の変化に付いていけないからではないかと思うとのこと。また、チョコレートや生クリームを食べた時、疲れている時にも、生理痛が起こりやすいと思う。

手術後、掛かりつけの漢方医に体重の変化を記録するように言われて、体重の変動が月に2~3kgあることに気付く。生理数日前~生理中が一番重くてプラス2~3kg、生理終了から徐々に減って、排卵時期が一番軽く、排卵後徐々に体重が増える。月によって増減の幅は違うが、鍼灸治療を受ける前のほうが増減が大きい月が多かった。最近では、6月の生理前は3kgくらい増え、その後不正出血や腱鞘炎があり、この時期にどーんと体重が減った。今月の生理の前はあまり増えていない。

2年位前から、生理前にむくむことに気がつく。顔が浮腫んでいることに最初気付いて、足を見るとやはりむくんでいるので、体全体が浮腫んでいると思うとのこと。
【疲れやすさについて】

23歳で仕事を始めた頃から疲れやすくなった。朝起きた時から疲れていて、日中仕事をしているときは気を張っているが、家に帰ってからまた疲れがどっと出ていた。この疲れと一緒に、気分の落ち込みもあった。

去年末に鍼灸治療を受けるようになって、疲れ、気分の落ち込みはましになり、現在は落ち着いている。

【ふだんの状態について:その2】

風邪・・・風邪は年に1~2回くらい引く。風邪を引くと咳がいつまでも残る。

食事・・・食欲は普通、食事時間は朝7時、昼13時、夜20時で規則的。食事時間は15分、空腹感はよくあり、普通に噛んで食べている。食事はいつもおしい。食後にお腹が張ることはめったにない。
よく食べるのは、白米、パスタ、豚肉。好きなものは、甘いもの、果物、肉、魚、辛いもの。嫌いなものは、牛乳、カップ麺。

間食・・・週に3~4回。子供の頃から甘いものを全般に間食するが、ここ半年くらいはチョコレートは我慢して、最近は和菓子(水羊羹)を食べている。

水分摂取・・・就職した頃にデトックスが流行り、その頃から意識して水分を取っていて、1日2リットル以上は飲んでいる。初めから2リットルくらいはすんなり抵抗無く飲めた。初めの頃はコントレックスのような硬水を飲んでいたが、お腹が冷えて下痢しやすくなったり、肌が荒れたりして、自分には合わないような気がしてコントレックスは止める。以降は、水、玄米茶、ルイボスティー、紅茶、炭酸ジュースを飲んでいる。軟水で下痢をすることはなく、お茶を飲むと小水の回数は増える。コーヒーは大好きだが我慢している。口の粘々感は20歳頃から感じていて、今も口が粘ることは極たまにあるが、鍼灸治療を受けて減ってきた。

飲酒・・・大好きだがほとんど飲まない。飲むときは、ビール350~500ml+酎ハイ350ml+梅酒コップで1~2杯くらいは飲む。

タバコ・・・吸わない。

お通じ・・・1~2日に1回、すっきり出る。便は、バナナ状、こぶし大で、便器にに付着して取れにくいことはめったにない。汲み取り程度の臭いがすることは時々ある。

小便・・・1日5~6回。尿の色が黄色の時はたまにあるが、その他残尿感や夜間排尿など問題なし。

睡眠・・・0時前後就寝、5時半起床。寝付きはよく、眠りは深く、寝起きもよく、翌日に疲れが残ることも無い。以前は恐い夢を見てうなされることが多かったが、ここ数ヶ月はほとんど夢を見ない。たまに夢を見ても恐い内容ではない。

足の冷え・・・25才頃から冷えを感じるようになった。だが、その頃掛かってた漢方の先生には「実際はそんなに冷えてない、そう感じるだけ」と言われる。末端が本当に冷たく感じるようになったのはもっとあとの方だと思うが、ハッキリとした時期は不明。一年以上は前だとのこと。鍼灸治療を受けるようになって冷えは気にならなくなった。

【他に治していきたい症状】

以下のアレルギー症状を治したい。

・季節の変わり目の喘息・・・上記参照。
・肌が痒くなりやすい・・・生理との連動は意識したことはない。虫さされの痒み、古傷(お灸のやけども)の痒みが起こりやすい。特に原因もなく全身あちこち痒くなることもある。蕁麻疹ではない。上記参照。

..切診

<切診>

(脈診)
左関 弦強い

(舌診)
舌尖 やや紅
舌裏怒張 無し

(腹診)
両脾募あり
心下詰まり
肝の相火 無し
臍から上前腸骨棘辺りにかけて「ハ」の字に少し突っ張り

(経穴診)
右神門 硬結
右後谿 冷え
左内関 弛み
左合谷 詰まり、腫れ
左外関 亀裂
左陰陵泉 筋張り
左足三里 やや陥凹
三陰交(右>左) 冷え
右申脈 冷え
右公孫 冷え、筋張り

(背候診)
両肺兪 発汗

..時系列
<時系列>

子供の頃・・・大病はしないが、アレルギー性鼻炎や皮膚病で
病院に行かない月は無かった。

7~9歳・・・アレルギー性結膜炎の診断(現在まで)。
アレルギー性鼻炎が1年中ひどかった。

10歳まで・・・自家中毒(周期性嘔吐症)を繰り返して通院する。
夜驚症(夜中起きて泣き叫ぶが本人は記憶がない)も
あった。

10歳・・・体がぐんと大きくなり、アレルギー性鼻炎も良くなる。
以降、秋口に鼻炎の症状が時々出る程度になる。
自家中毒はなくなるが、自律神経失調気味で、吐き気、
頭痛、めまい、悪夢、倦怠感などでよく病院に通う
(24歳頃まで)。

11歳・・・初経。

17歳(高校)・・・生理痛が徐々に起こり始める。

18歳・・・高校卒業、大学入学、一人暮らしを始める。
半年ほどで体重が5kgくらい減り、以降この体重を
キープしている(現在まで)。
●眠りが浅くなる(29歳まで)。

20歳・・・生理痛が酷くなり、寝込んだり、嘔吐、失神したり
するほど酷かった(27歳手術まで)。
喘息が出始める(現在まで)。
口の粘々感を感じ始める(現在まで)。

21歳・・・先天性耳ろう孔の手術を受けるついでに、
鼻粘膜をレーザーで焼く。
以降、アレルギー性鼻炎は無くなる。

22歳・・・大学卒業、就職。
ますます生理痛が重くなる。
疲れやすくなり、気分の落ち込みが激しくなる(29歳まで)。
水分を2リットルくらい取るようになる(現在まで)。
●便秘を意識するようになる(27歳手術まで悪化傾向)。

24歳・・・結婚。
(H15) 子宮内膜症と診断される。
25歳・・・不妊治療でタイミングと人工授精を何度か行う。
(H16) 足の冷えを感じるようになる(29歳まで)。
毎日、婦宝当帰膠または当帰芍薬散を服用。
加えて、低温期:杞菊地黄丸または海馬補腎丸、
プラス血府逐オ丸、インターパンチ
(免疫調整の健康食品)を服用。
高温期:加味逍遥散を服用。
以上の漢方を27歳手術まで続けるが、高価なわりには
効いている実感無し。

27歳・・・ラパロ手術(診断名:子宮腺筋症・内膜症ステージ4)。
(H18) 生理痛が無くなる(28歳まで)。
術後、体重の変化を記録するように言われ、月に2~3kg
の変動があることに気付く。
ツムラの当帰芍薬散または婦宝当帰膠がいいだろうと
自分で判断して、服用(29歳3月まで)。
足の冷えを確実に感じるようになる。
生理前に体全体がむくんでいることに気付く(現在まで)。
●便秘が解消される(術後半年間程)。

28歳11月・・・鍼灸治療を週1回受ける(現在まで)。
(H19)

29歳1月・・・フルタイムの仕事を週3のパートに減らす(6月まで)。
(H20)
2月・・・採卵-胚移植。
この後くらいから生理痛がまた徐々に起こり始める
(現在まで)。
..五臟の弁別

【肝】
結婚で、子供のころから吐き気、めまい、悪夢、夜驚など解消、夫だけに辛いといえる
(肝鬱がきつい可能性、夫が精神の中心の可能性)
生理痛で寝込む、嘔吐、失神(肝鬱の可能性)
子供のころから目の症状(結膜炎など、現在も続く)(肝気の上逆の可能性)
クーラーで冷えるとこめかみが痛い(冷えで肝鬱になる可能性)
6月に突然左右の指全部、重度の腱鞘炎、不正出血、こむら返り
左関上、弦強い
足の冷えを感じる(他覚的には冷えていないといわれる)

【心】
原因もなくあちこち全身がかゆくなることがある(心熱の可能性?)
心下つまりあり
右神門 硬結
右後谿 冷え

【脾】
アイスクリーム生クリームを食べると生理痛がきつい
梅雨に生理がきつい
子供のころからアレルギーで鼻炎、皮膚病、喘息(現在も続く)
夏に皮膚のかぶれが強い、
怪我で作ったあざは消えにくい
梅雨と秋に喘息
20から2リットルの水分摂取
食事食欲よい、便通、よい
6月に突然左右の指全部、重度の腱鞘炎、不正出血、こむら返り
虫刺さされ、やけどでかゆみがおきやすい。(炎症になりやすい、皮膚の弱さ)
両脾募アリ
左陰陵泉 筋張り
左足三里 やや陥凹
左右三陰交冷え
右公孫 冷え、筋張り

【肺】
子供のころからアレルギーで鼻炎、皮膚病、喘息(現在も続く)
梅雨と秋に喘息
風邪を引くと咳がいつまでも残る(肺気、腎気の弱りの可能性)
原因もなくあちこち全身がかゆくなることがある
虫刺さされ、やけどでかゆみがおきやすい。(炎症になりやすい、皮膚の弱さ)
左合谷 つまり、腫れ
両肺兪 発汗

【腎】
風邪を引くと咳がいつまでも残る(肺気、腎気の弱りの可能性)
子供のころからアレルギーで鼻炎、皮膚病、喘息(現在も続く)
生理前にむくみ(顏、足)
疲れていると生理痛がきつい
生理後半に気分の落ち込み、疲れが増す
朝起きたときから疲れている
左内関 ゆるみ
左外関 亀裂
右申脈 冷え

【オケツ】
生理にたまに塊が混じる、
生理痛が失神するほどの刺痛
ラバロで生理痛なくなる

【気逆】
生理痛で寝込む、嘔吐、失神
心下つまりあり

【陽虚】
生理痛がお風呂に入ると楽、身体が冷えるときつい、冬がきつい
生理痛は朝起きたときが一番つよい、動きっぱなしが楽

鍼灸治療を受けるようになっての変化
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生理前の乳房脹痛、吐き気、イライラが無くなった。
→肝鬱、気逆の解消 腎気が立った可能性
生理に伴う体重の増減が大きい月が減った。
→腎気がたった可能性
常時あった疲れやすさ、気分の落ち込みが随分減った。
→腎気が立った可能性
足の冷えが気にならなくなった。
→肝鬱が解消された可能性
口が粘る感じが減った。
→脾気が立った可能性
寝付きがよくなり、眠りも深くなり、翌日に疲れが残ることがよくあったのが無くなった。
→肝鬱が払われ、腎気が立った可能性
恐い夢も見なくなった。
→肝鬱が払われ、腎気が立った可能性
便秘でお腹が張ることが時々あり、便秘薬を使うこともあったが、それが無くなった。
→肝鬱が払われた可能性

..病因病理
10歳までのアレルギーなどのトラブルが多い中、それなりの素体の成長を
とげ、11歳で天癸がいたり月経がはじまった。しかしながら
吐き気、頭痛、めまい、悪夢、倦怠感などのトラブルが多く、必要以上に肝気を
はる生活をしており、肝鬱気味の状態ですごしていると考えられる。

この肝鬱気味の状態で過ごすということは、素体である、肺、脾、腎に
負荷をかける可能性がある。この方の場合には、素体に対して無理を重ねるよう
な負担となっていった可能性がある。

18歳での一人暮らしを契機に、体重が半年で5kg落ちたり、睡眠が浅くなる
など、支える素体が少し小さくなってしまった。一人暮らしで精神的に肝気をよ
り張っているために脾腎に負担をかけた可能性や、素体の支えが小さくなったこ
と自体が肝鬱をより悪化させることになる可能性が考えられる。

小さいころよりの肝鬱気味の状態、
素体の支えが弱くなったこと、
精神的な肝気の張り。
これらが長い期間続いたことにより、20歳ごろには、肺気脾気に負担が出てき
てしまい喘息気味になったり、口の粘り、生理痛、生理のときの嘔吐などの症状
が始まることになる。

上焦における肝気の鬱滞は、肺気を抑圧し喘息気味の状態を引き起こし、心熱を
つき口の乾きなどになっていると考えられる。またこの長く続く強い鬱滞が下焦
におけるオケツの引き金となっていった可能性がある。生理痛の症状の劇的な悪
化を考えると、この時点で、風邪の引き込みや、風邪が内陥していた可能性や、
冷えが入り込んでいる可能性も考えられる。冷えの入り込みに関しては、それま
での冷えを気にしない生活やシャワーだけの生活で冷えが入り込んだ可能性は高
いと思われる。風邪などに関しては時系列的には不明であるが、症状が劇的であ
ることから、可能性としては否定できない。長年にわたる強い肝鬱、負担になっ
た肺脾、風邪や冷えの可能性により、下焦に強い気滞血オ、あるいは寒凝気滞血
オが発生し、強い生理痛となっていったのではないか思われる。

また若い生殖年齢にある女性の場合、子宮を中心とする月経のリズム
が身体の中の大きなリズムとなります。月経のリズムは、排卵により、腎気の支
えの元、生理的な範囲で肝気の上衝がおこり、子宮に気血があつまり子宮内膜が
厚く養われます。その後、月経がきて子宮に集まっていた気血が下に通じ、上衝していた鬱気が解消される
というリズムをもちます。

常時ある強い肝鬱は、このリズムに影響します、腎気の支えの元おこる生理的な
肝気の上衝は、強い肝気の鬱滞となり腎気に負担をかけ、月経で気血が下につう
じる時にも強い鬱滞のため下に通じにくくなり、子宮の場でより強い鬱滞となり
過度な肝気の上逆を引き起こし、嘔吐、失神するほどの痛み、オケツの発生とな
ります。またオケツはより強い痛みを生じさせるという悪循環になっている可能
性があります。

この悪循環は、毎月の月経が積み重なるにつれ強まり症状がより悪化していくこ
とになります。また強い気鬱の存在は、子宮に注ぎ込む任衝脈に負担を
かけ、その流れの元となる臓腑である脾腎の負担ともなってきます。脾腎の負担
が素体の養いを失わせ、再度きつい肝鬱を呼ぶ点でも悪循環の輪にもつながります。

結婚により、精神の中心をえて、強い肝気の上逆が多少納まったものの、挙児の
希望により不妊治療に入り、この治療がまた器に負担をかけ、腎気を落としたた
め、より下焦のオケツはつよくなっていったと思われます。

27歳のラバロの手術により物理的にオケツを取り除いたことで、痛みが劇的に
減少しています。しかしながら、強い肝気の上逆のある素体の状態はかわらなかっ
たため、腎気をはたき、下焦に鬱滞を強くする不妊治療がきっかけになり、ふたたびオケツの生成がはじ
まり、生理痛がぶりかえしています。

鍼灸治療、自宅施灸では、肺気養い、肝気の過度の上逆が納められたため、腎気
も安らぐことが出来るというよい循環をおこしました。肝気が落
ち着き、腎気が生殖のリズムで使い果たされることがなかったため、生理前のイライラ、体重の増減、疲れやすさ、
気分の落ち込みなどがへり、寝付きもよくなったと思われます。

..弁証論治
弁証 肝鬱気滞血オ
論治 補気平肝

補気(脾気、肺気、腎気)

..治療方針

一番の問題は、強い肝鬱である。そして強い肝鬱の継続からから生まれるオケツ
である。
この肝鬱をいかに緩めるかという点に対して、本症例ではまず第一に肺気を充実
させ華蓋をしっかりとさせ、過度の上逆を防ぐことが考えられる。過度の上逆が
納められると、腎気の養いが促され、内側の気の升降出入を生理的な範囲に支え
ることが出来るようなる。そしてまた、肺気を養うには、脾気を養うこととなる。
肺脾を養い肝鬱をうけめられる素体作りをしていきたい。

第二に、不妊治療でいためがちな、腎気をたて、月経のリズムを支えるより所を
つくることである。

..生活提言
Fさん こんにちは

人間の身体は、精神と肉体でできているとよくいわれます。
東洋医学の世界では、その精神の動きを、肉体に密着させて一体感を持って考えられています。

精神の問題を東洋医学で考えると、五臓それぞれに配当して考える場合もありますが、
人間はひとくくりにまとまって存在しているわけですから、神志身命の動きを中心に
自己という存在を突き動かしていく精神のありようを考える必要が
あります。この動きを東洋医学の世界で語られる五臓(肝、心、脾、肺、腎)のうちの
「肝」のありようとして考えています。具体的には、生きようとし、
生きているものの「やる気、生きる意志」であり、この「やる気、生きる意志」が
人間の身体をぐっと力強く前に向かって立たせるものでもあると思います。
よくお年寄りが「気が張っているのがとれたら、ぐたっとしてしまった」などという
話を聞くことがあると思います。このときに張っている気が「やる気、生きる意志」の
示すところの肝気です。そしてこの肝気は、大地とされる脾腎(胃腸の力、土台の力)に
根ざし、天空(心肺)に向かって枝葉をしげらせています。しっかりとした土台にどっしりと
根を張り、天に向かって健やかに生きているというイメージです。

Fさんの場合、小さいころから、この肝気をぐっと張るタイプだったのだと思います。
肝気の張り方が過度であったため、天空に向かって枝葉が繁茂しすぎて支えきれず、吐き気、
めまい、悪夢などなどさまざまな自律神経失調症気味という症状を出していました。

一人暮らしもとても気が張りますね。ここで、もう一段肝気を奮い立たせてがんばってしまったので、
体重が落ちたり、眠りが浅くなったりして、肝気を支える脾腎の土台の力が弱くなってしまったのでは
ないかと考えられます。小さい土台では、その土台分しか肝気を張ることはできません。でも、
モチベーションが高く、しっかりとがんばろうという頑張り屋さんのFさんは、ここで、土台は小さいのに、
もっともっと肝気をしっかり張ってがんばるということをされました。

ここで、肝気の張りすぎ、東洋医学の世界でいう肝気鬱滞の状態になったわけです。

この強い肝気鬱滞のせいで、月経のリズムがスムーズにいかなくなりました。
鬱滞があるために、月経がおこるときにスムーズに下に通じることができず、この鬱滞の中を
がんばって下に通じさせるということになり、強い痛みになりました。また、子宮まわりに
おける強い鬱滞がつづきオケツという古血がたまる状態も引き起こすことになりました。
素体として肝気鬱結気味であるのに、オケツという病理産物もくわわったため、より子宮まわりの
環境が悪化し、きつい生理痛になり、子宮環りだけではなく、全身に負担をかけるようになってしまったと思われます。このオケツが発症する要因には、もう一点、冷えの問題があります。時系列的に考えると、
どの時点での問題が中心なのか、いまひとつはっきりしませんが、高校生時代の冷える生活や、
シャワーだけの生活が、身体を冷やし、オケツを産みやすくする素因になっていたと思われますし、
全身の負担があったために、冷えの入り込みなどにも弱くなったのかもしれません。この
身体の中の冷えの問題も、オケツを悪化させ、痛みを強烈にさせる要因になったのではと考えられます。

ラバロの手術は、このオケツを物理的に取り除いてくれたために、一時的に生理痛が軽減されました。
しかしながら、素体の強い肝気鬱結や、子宮まわりの気血の流れがスムースにできる下焦の力(腎気)が不足しているため、また不妊治療で下焦に負担をかけたために生理痛がぶりかえしています。

鍼灸治療や自宅施灸が奏功したのは、肝気の鬱滞をとりのぞき、
身体の中の気血のめぐりをスムーズにすることができたことと、土台の力をつけることができたため、
過度の肝気鬱滞状態がなくなり、生理前のイライラ、体重の増減、疲れやすさ、
気分の落ち込みなどがへり、寝付きもよくなったと思われます。

「肝気をぐっと張ってがんばる」というライフスタイルは、几帳面でしっかりとした人生を切り開いて
いくときの原動力となっていたのだと思います。しかしながら、この肝気が過度に張るために、御自身の素体以上にがんばってしまい、疲れやすかったり、そして土台の力が消耗されてしまったりします。

がんばりやさんは、「人間として美しい」と私は思います。
がんばる肝気をはって生きる人は、人として前向きで、すがすがしいからです。
でも、がんばりすぎの肝気は、身体の中を暴走しますし、身体の土台の力までも損ないます。

では、どうやったら、このがんばる肝気を暴走させず、身体に向かう刃とさせないかを
考えなければなりません。

しっかりと肝気を張って前向きにいきるときに、本来的には、御自身の土台の器の大きさに
準じて、肝気を張るべきだという原則があります。植木鉢に植物を植えるときに、植えるものの
大きさと植木鉢の大きさをマッチさせることは大事ですよね。小さな植木鉢に大きな木を植えると
ひっくり返ってしまいます。Fさんはまさに、この状態で、小さな植木鉢であるのに、大きな木を植えているのです。

大きな木の枝葉をちょっと払い負担減らすこと、これが肝気を張り過ぎないということです。
そして、植木鉢を少しでも大きなものに改善していくことが脾腎の土台の力をつけることです。

肝気を張り過ぎないようにすることは、御自身の生きる意志との調整だと思います。「過度」に
「やる気、生きる意志」をもちすぎないようにすることも大事です。
そして、土台をつくるのには、ゆっくり歩いて散歩することや、毎日のお灸が有効です。これらは、
土台の力を少しづつつけてくれると思います。
そして、御自身のありようが、小さな植木鉢の大きな木であることを自覚して、アンバランスが過度に
ならないように上手に人生をいきていただければと思います。きっとその調整方法は、上手に
会得されていかれるのではないかと私は感じています。

赤ちゃんが欲しいというご希望には、鬱滞のないスムーズな気血の流れと、ご自身のささえとなる
大きな植木鉢がとても大事です。意識することで少しづつ少しづつ改善されていきます。
暢びやかに過ごしていただければと思います。

..半年あまり、週に1度の鍼灸治療で改善したこと

生理前の乳房脹痛、吐き気、イライラが無くなった。
生理に伴う体重の増減が大きい月が減った。
常時あった疲れやすさ、気分の落ち込みが随分減った。
足の冷えが気にならなくなった。
口が粘る感じが減った。
寝付きがよくなり、眠りも深くなり、翌日に疲れが残ることがよくあったのが無くなった。恐い夢も見なくなった。
便秘でお腹が張ることが時々あり、便秘薬を使うこともあったが、それが無くなった。

カテゴリー: | 投稿日: 2019/02/04 2019/02/04