弁証論治:

0028:体外受精以外に赤ちゃんを授かる道はないのでしょうか?

症例集→流産歴があり体外受精を勧められたが自然妊娠で出産(38歳出産)【case:0028】

体外(IVF-ET)以外に赤ちゃんが授かる道はないのでしょうか?弁証論治

この症例は、かなり長期にわたっての妊娠希望があり、大学病院にて丁寧にフォローを受け、最終的に妊娠にいたらず、
体外受精を提案されたものの、ご夫婦としてその選択に納得ができず、迷ってご相談にこられた方の症例です。

こういったケースではいたずらに時間を消費させてしまうことは禁物です。
ただ、妊娠出産については、ご本人の希望、そしてなるべく自然にというポイントは当たり前に
優先されるべき項目でもあります。

年齢要因をしっかりと踏まえながら、でも、今までの治療で不足していた部分を補うことでご本人の希望に添うことができることもあるんだなと実感した症例でした。

 

 


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..36歳 女性 身長158センチ 体重50キロ
主訴:不妊 色々試したが主治医より「IVF-ET(体外受精ー胚移植)に進むべきではないか」と
言われ迷っています。肩こりが辛いです
..時系列の問診
29歳 結婚 妊娠希望
30歳 自然妊娠、胎嚢は見えたがその後自然流産 体重53キロ
~31歳 自分たちでタイミング
ケイギョクコウと煎じ薬の漢方薬を飲む
~32歳 病院にて、HCG、デュファストン、クロミッドによるタイミング 6周期
ホルモン検査、卵管造影、フーナー検査異常なし。黄体ホルモンがやや不足と
いわれる。
通水検査でややとおりが悪いが問題はないでしょうと言われる。

~34歳 フルタイムの仕事をやめる
当帰芍薬散、六君子湯などの漢方薬を飲む、ヨガやジムに通う
大学病院に転院
ホルモン検査問題なし、フーナー問題なし、卵管造影問題なし(痛みアリ)
腹腔鏡検査(その後人工授精m-iui)をほぼ毎月。
腹腔鏡検査では大きな問題はなかった。子宮筋腫があるが、小さいため取らず
腹腔鏡検査前に人工授精したが、腹腔内に精子は一匹も到達しておらず。

下痢をきっかけに体重が3キロ減ってしまった。

~36歳
クロミッドは体質にあわず1回のみ、その後HCGを毎回打ち
人工授精12回。主治医よりIVF-ET(体外受精ー胚移植)を勧められる。

他に治していきたい症状は、生理前の頭痛

人混みに行くと、割と直ぐに頭痛がする。のりものに酔いやすい。
冷えるとなかなか取れないので、いつも腹巻きをしている。

..普段の状態について
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全身状態が悪化するもの:クーラー、気を使ったあと
風邪を引くと:鼻水、寒気、喉痛、発熱

食欲について 普通、30才頃から少し落ちている、規則的で空腹感は時々ある。
普通に噛む、食事は時々美味しい、胸焼け腹脹が時々する。
嫌いなものはない、好きなものは和食全般。
間食はほとんど毎日和菓子など、飲酒喫煙はしない。
水分はお茶やココアなど800cc程度
口などが渇くことはめったいにない

便通は2日に1度、お腹が時々張る、薬の服用はない。出きらない感じは時々、
付着することはめったにない、

小便は1日7回、残尿感、尿切れの悪さ、夜間排尿はめったにない。

12時に寝て7時に起きる
寝付きは普通、眠りは深く、寝起きはよい。翌日に疲れが残ることは時々。

初経13歳、29日型7日間
排卵の2日前 身体が疲れる
排卵時期より生理開始まで、夕方になると下腹が鈍痛
生理2,3日前より 左右のこめかみに頭痛、下腹が痛く、身体が疲れる
生理痛は刺痛、鈍痛、疲れ。小さい塊、粘った膜が混じる。

流産前は生理痛がひどかったが、流産後は以前より痛みが和らいでいる
流産後はしばらくいつも体温が低いような状態で冷えていた

..切診
脉診 全体が柔らかい、脉幅が少し狭い
左関上が弱い
腹診 心下つまりなし、脾募薄くあり(右>左) 左太巨やや冷え 関元冷えなし

左右列缺陰り 右<左
左霊道 陥凹陰り
右神門小さい硬結
右後谿 陥凹
左外関亀裂、左陽池やや冷え
右足三里 溝で陥凹
左足三里 ぽこっと陥凹
左大都 割れて冷え
三陰交 右やや陥凹 左 陥凹冷え
左湧泉 冷え
左太衝 陥凹
左築賓 冷え陥凹

大椎周り 下から冷えがあがる
上背部 そうりの粗
左右風門、左肺兪 左右厥陰兪 右心兪、左膏肓 陥凹

左胆兪 ぼこっと陥凹
左脾兪 二行 陥凹きつい
左右三焦兪 陥凹
命門冷え
左大腸兪冷え
右次髎つまり

..五臓の弁別
【肝】
流産後生理痛が和らぐ
人混みに行くと、割と直ぐに頭痛がする。のりものに酔いやすい。
気を使ったあと全身状態悪化

排卵の2日前 身体が疲れる
排卵時期より生理開始まで、夕方になると下腹が鈍痛
生理2,3日前より 左右のこめかみに頭痛、下腹が痛く、身体が疲れる

左太衝 陥凹
左胆兪 ぼこっと陥凹

【心】

左霊道 陥凹陰り
右神門小さい硬結
右後谿 陥凹
左右厥陰兪 右心兪、左膏肓 陥凹

【脾】
下痢をきっかけに体重が3キロ減ってしまった。
食欲について 普通、30才頃から少し落ちている、規則的で空腹感は時々ある。
普通に噛む、食事は時々美味しい、胸焼け腹脹が時々する。
便通は2日に1度、出きらない感じは時々、
脾募薄くあり(右>左)
右足三里 溝で陥凹
左足三里 ぽこっと陥凹
左大都 割れて冷え
三陰交 右やや陥凹 左 陥凹冷え
左脾兪 二行 陥凹きつい

【肺】

左右列缺陰り 右<左
大椎周り 下から冷えがあがる
上背部 そうりの粗
左右風門、左肺兪 左右厥陰兪 右心兪、左膏肓 陥凹

左大腸兪冷え

【腎】

流産後はしばらくいつも体温が低いような状態で冷えていた
冷えるとなかなか取れないので、いつも腹巻きをしている。
下痢をきっかけに体重が3キロ減ってしまった。

排卵の2日前 身体が疲れる
排卵時期より生理開始まで、夕方になると下腹が鈍痛
生理2,3日前より 左右のこめかみに頭痛、下腹が痛く、身体が疲れる
左太巨やや冷え 関元冷えなし
左外関亀裂、左陽池やや冷え
三陰交 右やや陥凹 左 陥凹冷え
左湧泉 冷え
左築賓 冷え陥凹
左右三焦兪 陥凹
命門冷え
右次髎つまり

【風邪】

流産後はしばらくいつも体温が低いような状態で冷えていた
冷えるとなかなか取れないので、いつも腹巻きをしている。
大椎周り 下から冷えがあがる
上背部 そうりの粗
左右風門、左肺兪 左右厥陰兪 右心兪、左膏肓 陥凹

【気滞】
【気虚】

左右列缺陰り 右<左

..病因病理

結婚後、自然妊娠しているが、流産。その後、生理痛は軽くなるものの、からだの冷えは
強くなっている。流産後から、西洋医学的な治療は手厚く受けるものの、妊娠から5年経過しても妊娠出来ず、主治医からはIVF-ET(体外受精ー胚移植)へのステップアップを勧められている。

もともと、気を使うと全身状態が悪化したり、人混みに行くと直ぐに頭痛がしたりなど、
肝気が立ちやすく支えとなる腎気も不足気味であるため、より肝鬱が強くなりやすいタイプではないかと思われる。腎気の支えが弱いので、陽気が発動し排卵がおこる時期に頭痛がしたり、
腎気に負担を掛ける高温期においてより腎気不足が明瞭になるため夕方より下腹の鈍痛となったりしている。肝気の生理的な高揚を腎気が支えきれていないのである。このため、生理がおこる直前では上焦で肝気が上逆して頭痛となっている。

腎気を後天的に養うであろう脾気も、大きな問題はないものの、足三里は陥凹しており、
左の湧泉から三陰交にかけて冷えや陥凹を見せている。また背部兪穴の右脾兪は二行で陥凹もきつく、腎の陽気不足により脾の陽気が不足ししっかりと機能できていない状況があり、
下痢をきっかけに体重が3キロも落ちてしまったままである。

上背部大椎周りに下から上がってくる強い冷え、左右風門、左肺兪、左右厥陰兪など上背部経穴の大きな陥凹、そして命門、左大腸兪の冷えなど、風邪が内陥していること、そして中心である命門の部分にまで冷えがあるなど、深い風邪の陥凹と腎陽の不足を感じさせる。

この状態にいつから陥っているのか判然とはしないものの、流産後から強い冷えをご本人が感じていることから、流産により肝気鬱結の状態は多少改善し生理痛が減ったものの、脾腎の陽気を強く損なったため、再度妊娠することが出来ず現在に至っているのではないかと考えられる。

..弁証論治
風邪の内陥
脾腎陽虚

論治
疏風散寒、補肺
温腎補陽 益気補脾

治療方針

第一に脾腎の陽気を温養し、肺気をたて風邪の治療をする。
次に、腎気をたて、脾気がやしなわれることにより、任督衝の一源三岐の脈を充実させ、より妊娠しやすい状態となるようにする。

..生活提言

ドクターから、そろそろIVF-ET(体外受精ー胚移植)をと勧められているのですね。
36歳であり、不妊治療歴も長く、腹腔鏡などによる自然妊娠への積極的な挑戦もなさっていますので、IVF-ET(体外受精ー胚移植)へのステップアップも、西洋医学的には妥当なところですね。

しかしながら、30歳で自然妊娠していらっしゃいます。ご自身の力で精子をキャッチし、受精卵を育て上げ、ちゃんと着床し胎嚢までは見えるところまで出来る力はもともとあるのです。

そういったもともと自然に妊娠着床する力があるのに、再度の妊娠がかなわないのは、
どうしてなのでしょうか?

Sさんは、1度自然妊娠され、その後の検査でも大きな問題はないのですから、

排卵がないために妊娠しないわけでもなく、
卵管が詰まっているわけでもなく、
黄体機能が悪いわけでもなく、
キャッチアップ障害があるわけでもなく、
受精障害があるわけでもありません。

IVF-ET(体外受精ー胚移植)で救ってくれるのは、精子と卵子が出会えていない状況を
出会わせてくれ、受精卵にしてくれるということです。

確かに、妊娠しないと言う場合に、消去法的に次のステップとしてはIVF-ET(体外受精ー胚移植)なのでしょう。しかしながら、IVF-ET(体外受精ー胚移植)が救うであろう精子と卵子の出会いは、1度自力で出来てるわけですから、ご自身が迷うのも当然でしょう。

お身体を拝見しますと、強い冷えが続いており、それにより、妊娠が成立しにくくなっている
状況のようです。流産というのは、身体の土台の力(腎気の力)を大きく損ねてしまうことがよくあります。Sさんの場合は、この流産の時に損ねてしまった生命力が回復できなかったために、一般不妊治療でなかなか妊娠が成立しなかったのではないかと思われます。

36歳という年齢は、そろそろ卵子の質が問題になる年齢ですので、高度生殖医療を選択する
場合にも、あまり先送りに出来る時間はありません。ただ、この冷えの状態をそのままに、ステップアップしても、「IVF-ETをしても妊娠しない」という結果につながるのではないかという恐れがあります。是非、時間を半年程度として区切り、身体を積極的に温め養い、子宮の力をつけていきましょう。半年ほど時間が経過しても、自然妊娠しない場合には、身体作りと平行しながら、すみやかにIVF-ETにステップアップし、ご自身に許された時間的なアドバンテージを失わないように積極的に不妊治療をしていきましょう。

また、この半年は、身体をしっかり作り上げ、整えるためにも、一般不妊治療はお休みし、
薬もすっきり抜きましょう。半年後にIVF-ET(体外受精ー胚移植)をすることになっても、
より結果が出やすくなる状況になると思います。

一緒に頑張りましょう。
..治療経過
週に2日鍼灸治療を開始。
自宅施灸を開始

初診:左列缺(鍼してミニ灸)大巨(7)関元温灸。(足三里、左三陰交)灸頭鍼、左公孫鍼してミニ灸

肺兪7 大杼(温灸)左脾兪、左胃兪、右腎兪 左大腸兪、右次髎。鍼して温灸。申脈温灸

翌日はいつもよりぐっすり眠れた。

初診から3ヶ月後
生理前の頭痛が減ってきた

5ヶ月後
検査薬うっすら陽性、もしかしたら、ケミカル流産かも。

6ヶ月後
身体がすっきりしてきた。

7ヶ月後
排卵検査薬がはっきりと出るようになってきた。
高温期がしっかりと長くなってきた

9ヶ月後(70診)
自然妊娠。
~無事に男児を出産