弁証論治:

0014:バセドウ病 臍の舟形の抜け、大手不妊クリニック

..病因病理

15歳のころからバセドウ氏病を発症するものの、動悸、疲労という症状に対して、初発時は3年間の服薬をしたものの、その後は、再発しても半年程度の服薬ですぐに収まるというように、バセドウ氏病そのものは、大きな問題にならず経過している。

不妊治療をするものの、IVF-ETにて妊娠流産したり、化学的流産になるごとに、動悸がし、疲労感が強くなるバセドウ氏病が再発している。
これは、不妊治療で腎気が消耗しているところに、妊娠することで陽気の発動がつよくなったため、心熱がこもり、バセドウ氏病の再発となっていると思われる。

お体を拝見すると、一番目立つのは臍を中心とする任脉上の舟形のゆるみである。これは任脉の生命力の薄さと、全身のくくりでもある臍の力の弱さのあらわれでもあろう。臍、任脉を中心とする全身の気虚をあらわすものと考えられる。また、全体に弱い脈、舌の歯痕胖大も全身の生命力の虚損である気虚のあらわれと考えられる。

また背部輸穴も、全体に力がなく、そのなかで特に目立つのが、肝兪から脾兪までが平板な感じになり、胃兪が大きく抜け、その上で左の胃兪から三焦兪にかけての大きなゆるんでしまっているところである。これは、肝胆を脾兪胃兪で必死に支えようとしているが、三焦兪までにおよび支えきれていないということを示し、身体をなんとか持たせているのが脾胃の力であり、それもかなり疲弊し、三焦兪という腎気まで使いながらなんとか支えていることをあらわしている。この状態で、腎兪、三焦兪に負担のかかる不妊治療などをすることで全身状態がすぐ
に悪化することは明瞭である。

手の三焦経、心包経が表裏で内関のゆるみ、外関の大きく広がって薄っぺらくなっているということは、陰陽ともに虚損という全身の気虚のあらわれと考えることもできるし、内関という心気のゆるみの問題、外関という三焦(腎)の弱さのあらわれともみることができよう。

また左足の公孫がこそげ、外反母趾となっているのも、背部輸穴の脾胃の穴がへたりながら、肝胆をささえているのと同様に、生きるということをなんとか肝気を張って頑張っている(つまり、普通に生活すること自体で、肝気を張らなくてはならないぐらい、身体の虚損状態が強い)というあらわれとも考えられる。

問診上では、寝つきもよく眠りも深く、便通も一日一回時々で切らないことはあるものの、さほど問題のある便通ではない。小便も残尿感が時々あるという腎気の弱さを候わせる項目があるが、全体としては大きな問題を呈してはいない。

しかしながら体表観察上は、上記のとおり非常に虚損し気虚の状態をあらわしている。これは現在の生活がこの方にとって無理のないペースであり、食事も、少食で30分以上かけることから脾胃に優しい状態を保っており(間食をやめるともっといいですね)、器を大事にする生活がなされているからだと思われる。

しかしながら、明瞭な腎虚、気虚状態のまま不妊治療で腎気を落としたり、妊娠することで陽気の発動があったりすると、ふたたび動悸、疲労というバセドウ氏病の再発と為り、妊娠継続が難しくなってしまうのだろう。気虚を救い、腎気の器を少しでも充実させておくことが、非常に重要だと思われる。

..弁証論治

弁証 腎虚を中心とした気虚
論治 益気補腎

..治療方針

腎虚が明瞭であり、腎虚を中心とした気虚ということで、身体の弱りの出ている、三焦を使って(外関、三焦兪)治療をすすめていきたいところだが、不妊治療を希望されており、腎気を高めることと、衝任脉の支えを作ることが肝要と考える。

この方の場合、生命力の弱さがくくりの弱さとしてあらわれ、手の三焦経と心包経という表裏であらわれる弱さ、任脉と膀胱経(督脉)の身体の表裏の弱さという状態であらわされていると考えられる。

腎虚を中心とした気虚というときに、身体に表現されている、表裏のくくりの弱さを目標に生命力をあげ、一元の人間としてのくくりをつけることが大切であろう。これは不妊治療をすすめたときにおこしてくる、腎虚、心熱の亢進(バセドウ氏病の状態)を防ぐ意味でも重要であり、腎気をあげ気虚を救う大道であろう。この側面から考えると、臍を中心とする舟形のゆるみが、裏の側面の治療目標であり、三焦兪の抜けが表の側面の治療目標であろう。

臍を中心とする任脉上の舟形のゆるみは、全身のくくりの甘さ、気虚状態を示すとともに、不妊治療で一番大事な、衝任脉の支えの弱さを如実に露呈していると考えられる。この船形の緩みをしまりあるものとすることが、不妊をも含んで、全身の気虚を救うものとなるのであろう。内関ー(月亶)中、気海、足三里ー公孫あたりを観察し使用しながら任脉の緩みをしまりあるものとし、背部の胃兪、三焦兪で納め全身のくくりをつけていこうと考える。

生活提言

全身のパワー不足(気虚)であり、無理がかかるとバセドウ氏病という内側に熱のこもってしまう病態をおこすように、少し不安定なお体の状態でもあります。

日常の生活に無理がなく、食生活なども少食でゆっくりたべることなどが、胃腸の状態をよくし、体調を保つのに役立っていると思います。ただ、これだけ無理のない生活をしているのに、身体にあらわれた経穴などの状態や舌、脉などの状態を観察すると、『病気ではない』ものの、『もろくパワー不足の身体』であることは確かです。

不妊治療というのは、普通の方でも無理がかかるものです。気虚気味の方にとっては非常に負担となるでしょう。生活面で落ち着いた無理のない生活をなさっていますが、その上に、間食をやめ、日々お灸などをして、より養生につとめていただきたいと思います。

また、お話などをしていると、落ち着いて無理に気を立てて頑張っている方にはお見受けしませんが、身体を拝見すると、かなり気をたて頑張って生活していることがわかります。これは、気持ちが『がんばるぞー』となりやすいのか、『がんばるぞー』と気合をいれないと、普通の日常生活を送れない状態(つまり身体の弱り)なのかと思います。もし精神的に力が入りがちであるようでしたら、気持ちをリラックスして精神的に無理をしないこと。そして身体の弱りが中心であったら、今以上に気をつけて、養生につとめていただければと思います。

身体のパワー不足の気虚気味の方にとって、不妊治療はかなり負担です。そのうえ、妊娠自体も大変だし、出産でも大きな傾きをおこし虚損病の発症となることもあります。いまのうちに養生をできるだけして、身体の力を少しでも底上げしていくようにがんばっていきましょう。

初診

20XX.9、18
…1)左(陽池、外関)臍温石、ミニ灸大赫、足三里+10、右陽陵泉、右臨泣
2)肺兪(7)
3)左(胃兪ー三焦兪)(15) 中膂兪(鍼、温石、ミニ灸)、右(胃兪、三焦兪)ミニ灸、ミニ灸三陰交
自宅施灸指示:左(陽池、外関)関元、大巨、足三里、右陽陵泉、肺兪、胃兪、次髎

..(20xx.9、24)
任脉のしまりがよくなっている
施術、同じ。

..(20XX.11、13)
神門、後谿、申脈の反応のほうがいい感じがする。
…1)中注7 大巨ミニ灸、右(後谿ー神門)、足三里(灸頭鍼ーミニ灸)、左三陰交(灸頭鍼ーミニ灸)、左(臨泣ー申脈)+ミニ灸
2)肺兪7
3)胃兪ー腎兪ー中膂兪、承山、申脈

..(20XX.1.4)
fshが10.4でとてもよかった
今日はd3、前周期はプラノバール。
治療同じ

..IVF-ETスケジュール
d3  1月4日
採卵 d14 1月15日
鍼  d17 1月18
移植 d18 1月19
鍼  d22 1月23日(移植後4日目)
鍼  d28 1月29日(移植後10日目)
hcg プロゲステロンの注射
鍼  d35 2月5日(移植後17日目)妊娠反応+
鍼  d39 2月9日
検診 d43 2月13日 初めて胎嚢が見えた。
鍼  d49 2月19日
検診 d50 2月20日 心拍確認

..7w(20XX.2.19)
尺位の脈、少し不安定
心拍確認できた
1)下腹棒灸、右後谿、足三里
2)三焦兪、腎兪、中膂兪(鍼、温石、ミニ灸)

..7w(20XX.2.23)
筋腫の位置が低めで前置胎盤になる可能性も高い。
8ヶ月ごろから管理入院の可能性が高い
施術同じ

..(20XX.2.26)
右下腹が少し固く盛り上がり、胎盤がこの当たりについた感じを
思わせる。しかしながら、固い感じが、筋腫の存在も思わせる。
施術同じ

..(20XX.3.1)
..(20XX.3.4)
筋腫も大きくなっているようだ
..(20XX.3.7)
..(20XX.3.11)、
..10w(20XX.3.15)
筋腫が少し冷えてきつい感じ、しっかりと棒灸をするように指示
左下腹に塊がある。
施術同じ

..(20XX.3.19)
今日検診、順調だった。施術同じ

..11w(20XX.3.22)
10月7日が予定日
冷えがぐっとあがってくる。
施術同じ。
1)下腹棒灸、後谿、足三里
2)(左(脾兪、胃兪)三焦兪、次髎)(鍼、温石、ミニ灸)

..12w(20XX.3・25)
脈がかなり速い(治療前96、仰向け治療後84)
外関、陽池を自宅施灸指示
下腹が大きくなった、しかし右の飛び出しが小さくなり全体にまるくなってきた。
1)下腹棒灸 左外関7、左陽池7 足三里
2)左胃兪、左腎兪ーとても大きい、(鍼、温石、ミニ灸)、脾兪、右胃兪ー右腎兪 (鍼、温石、ミニ灸)、中膂兪(鍼、温石、ミニ灸)

..12w(20XX.3.28)
伊藤病院で甲状腺の状態はOKといわれた
施術同じ

..14w(20XX.4.12)
おちついている。おなかの形がかわってきた。
施術同じ。

..15w(20XX.4.14)
おなかが柔らかい感じになって、下腹の下のほうにあった固い部分が上に
あがってきている。全体に落ち着いている。
前回の検診(4月9日)で、安静といわれなかったので少し動いている関係で
おなかが張る。
1)下腹棒灸、外関 足三里灸頭鍼
2)脾兪、三焦兪、腎兪、次髎