弁証論治:

0026:よだれつわり 妊娠中の気になる症状

症例集→唾液の量が増える「よだれつわり」が辛い(32歳出産)【case:000026】

よだれつわりの弁証論治
..<問診表>

32歳、女性、専業主婦

家族構成:夫

体重:記載なし、身長:157cm

肉親の病気の遺伝的傾向:高血圧、狭心症(両親)

..【今一番つらい症状】

唾液過多・・・妊娠10週目頃(6月末)から急に起こった。辛いのは、朝<昼<夕=深夜。常時辛いが、特に食事後に唾液の量が増える。
この症状は悪化傾向には無いが良くもなっていない。
妊娠が初めてなのでこの症状も今回が初めて。
この症状の原因は妊娠によるつわり、自律神経の乱れだと自分では思う。
今回の症状が起こると同時に出てきたのは、頭痛、目の奥の痛み、眠りに入りがたい。
妊娠してからお通じがよくなり、水のような足の冷えが良くなった。
全身的な体調に合わせて変化するかはよくわからない。
今まで治療を受けたことはない。

..【普段の状態について】

全身の状態の良い変化・・・朝。
全身状態の悪い変化・・・季節の変わり目、肉体疲労時、気を使った後。
風邪に関する記載なし。

..【食欲について】

食欲は普通で、30歳頃から少しだけ食欲が落ちている。
食べる時間は規則的で、朝は9時、昼12時、夕19時。
食事時間は早食いで普通に噛んで食べる。
食事前の空腹感はよくあり、よくおいしく食べれる。
食後にお腹が張ったり、胸焼けは時々。
よく食べるものは、白米、パン、うどん、ほうれん草、鶏肉、トマト。
嫌いな食べ物は、刺身などの生もの。
間食は、よく取る。

タバコは22歳~26歳まで4年間吸っていた。
飲酒はほとんどしない。

飲み物は、1日に200ccのコップで5杯以上以上。
水、麦茶、牛乳、オレンジジュース。
口舌喉は時々渇く。口舌喉に違和感がよくある。

..【大便について】

大便は2日に1回出て、妊娠前は少し便秘ぎみだったのが妊娠してお通じはよくなった。
便秘でおなかが張って辛いことは時々あるが、便秘薬はめったに服用しない。
大便が出きらない感じはめったにない。
大便の形は、太い、コロコロで、量は少なく、臭いは普通で時々臭う。
便が便器に付着することは時々。

..【小便について】

小便は1日7~8回。
残尿感、尿切れが悪いことは無い。
尿の色が悪いことはめったに無く、黄色。
夜間排尿は妊娠してから、時々3時頃に1回起きることがある。

..【睡眠について】

就寝0時頃、起床5:30.
寝つきは悪く、寝起きはよい。
眠りは記載なし。
翌日に疲れが残ることは時々。

..【婦人科の状態について】

初経14歳。
周期は35日型の7日間で、不安定で遅れる。

生理が起こると体調不良はいつもある。
生理前、生理初期に、腰、下腹部に鈍痛、イライラ。

生理血の形状は、出血したときの色、粘った膜。
量は普通で、2日目が多い。
出産経験は無し。

..【他に治していきたい症状】
喉の違和感(痰が絡まる感じ)。
目の奥の痛み。
頭痛。
食後の胃もたれ。

..<時系列>

14歳・・・初経。

26歳・・・結婚。
     妊娠するまで自営業で働く。

30歳・・・少し食欲が落ちる(現在まで)。

32歳5月・・・妊娠6週目からつわりで吐き気がする。

32歳6月・・・妊娠10週目から唾液過多で唾液が飲み込めなくなる(現在まで)。
       左目の奥の痛み(現在まで)。

32歳7月・・・妊娠14週目。
       気持ち悪いのは治まる。

32歳8月現在・・・妊娠17週目。
         唾液過多、目の奥の痛み、頭痛、食後の胃もたれ。

..<切診情報>

..【脈診】
両尺 輪郭あるが力がカクンと弱い
右関 中位から浮いてやや硬い

..【腹診】
中カンの奥にやや硬さあり

..【経穴診】
右太淵 腫れ
右内関 陥凹
左後谿 陥凹
右陰陵泉 奥に冷え
左湧泉 冷えきつい
左照海 冷え
左水泉 緩み
左下腿腎経 冷え

..【背候診】
大椎周り細絡多い
両肺兪 発汗
左肝兪 少しへたれ
左胆兪から左脾兪 筋張り
左胃兪 陥凹深い
左三焦兪 陥凹大きい
右三焦兪 陥凹
左腎兪 二行
両大腸兪 緩み

..<五臟の弁別>

..【肝】
今回の症状が起こると同時に出てきたのは、頭痛、目の奥の痛み、眠りに入りがたい。
全身状態の悪い変化・・・気を使った後。
生理前、生理初期に、腰、下腹部に鈍痛、イライラ。
喉の違和感(痰が絡まる感じ)。

左肝兪 少しへたれ
左胆兪から左脾兪 筋張り

..【心】
口舌喉は時々渇く。口舌喉に違和感がよくある。

左後谿 陥凹

..【脾】
特に食事後に唾液の量が増える。
妊娠してからお通じがよくなった。
全身状態の悪い変化・・・季節の変わり目
30歳頃から少しだけ食欲が落ちている。
早食い。
食後にお腹が張ったり、胸焼けは時々。
間食は、よく取る。
便秘でおなかが張って辛いことは時々ある。
便が便器に付着することは時々。
喉の違和感(痰が絡まる感じ)。
食後の胃もたれ。

右関 中位から浮いてやや硬い
中カンの奥にやや硬さあり
右内関 陥凹
右陰陵泉 奥に冷え
左胃兪 陥凹深い

..【肺】
タバコは22歳~26歳まで4年間吸っていた。

右太淵 腫れ
両肺兪 発汗
..【腎】
辛いのは、朝<昼<夕=深夜。
妊娠してから水のような足の冷えが良くなった。
全身の状態の良い変化・・・朝。
全身状態の悪い変化・・・肉体疲労時
夜間排尿は妊娠してから、時々3時頃に1回起きることがある。
翌日に疲れが残ることは時々。
周期は35日型の7日間で、不安定で遅れる。

両尺 輪郭あるが力がカクンと弱い
左湧泉 冷えきつい
左照海 冷え
左水泉 緩み
左下腿腎経 冷え
左三焦兪 陥凹大きい
右三焦兪 陥凹
左腎兪 二行
両大腸兪 緩み

..【オ血】
大椎周り細絡多い
生理血の形状は、粘った膜。

..病因病理

26歳で結婚後、自営業で一生懸命働き32才妊娠と同時にお仕事をやめられています。

素体として、生理が遅れがちであり、手足が水のようであったことから腎気の弱り、間食が多くお腹がはったり胸焼けがしたり便器に便が付着する便秘がちでありったことなど、脾気の弱さもおもわせる、脾腎双方の弱さを思わせる気虚の状況がありました。

妊娠前に悪かった便通は、妊娠を契機に食生活を改善させることで妊娠前よりもよい状態となっています。これは妊娠初期に脾気が少し改善したということを表していると思われます。

32歳で無事に妊娠され、6週目頃より嘔くタイプのつわりが始まりました。
妊娠により気の上逆がおこったため胃気をつきつわりになったと思われます。

10週頃からは、もと気虚気味であった素体に妊娠の負担がくわわり、胎のある下焦を充実させるべく気があつまったため下焦以外ではより気虚がすすみました。全身の気のありようとして下焦を中心にあつまり他の部分は薄くなる。もともとの素体が気虚であったので、全身の気の濃淡は大きなものとなりました。

頭部や目は、生命活動として使うために気虚のなか気が集まろうとしたため虚痛の反応となり、脾気が上りきらず、胃気は下がりきれずにいたために唾液過多、ヨダレツワリの症状も出現しました。

妊娠による気逆が納まり、胃気をつくことがなくなったため、つわりは治まったものの、全身の気虚が積極的に改善されたなったので、虚痛を中心として目の奥の痛み、頭痛、喉の違和感、唾液過多(唾液が飲み込めない)は継続していきました。

背部兪穴をみると、一番の弱りが、左側の肝兪、胆兪、脾兪そして胃兪の深い陥凹です。
これらは、妊娠中であり下焦に生命力が集まる中、脾胃を中心に身体が頑張ろうとして頑張り切れていない状況を示していると思われます。胃兪の深い陥凹は、胃気の降逆機能がかなり低下していること、そして唾液が飲み込めないという状況と直結する反応と考えられます。

妊娠と同時に、食事を考え改められたことで、脾気は救われつつあると思いますが、いまだ全身に充分生命力を充満させるほどには致っていない状況だと考えられます。

..弁証論治

弁証 脾腎両虚

論治 益気補脾補腎

治療方針

妊娠中であるので、腎気を守りつつ、生命力を落としている脾胃(胃気中心に)の力をつけ、ヨダレツワリの解消をはかります。

生活提言
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一人目の赤ちゃんを妊娠中であり、なにかと不安ななか、辛い症状でお困りですね。

お身体を拝見すると、赤ちゃんをしっかりとはぐくむために、身体の中心に生命力が
集まっているため、他の部分が手薄になっています。妊娠中ですので、ある程度は仕方が
ないことです。しかしながら、手薄になってしまった他の部分の症状が、あまりにも辛いということは、手薄の程度がひどいということで、全身の生命力をあげ、子宮を中心とする部分だけではなく、他の部分ももう少し生命力が行き渡るようにしていきたいですね。

ヨダレツワリの症状が、夕方に悪化するということは、全身の疲れがこの症状に大きく影響を与えると言うことです。つまり、身体全体の力が弱いために症状が現れ、継続してしまっているということです。妊娠してから、お食事に気をつけられているのはとてもよいことで、嘔くタイプのつわり自体は収まったのも、そのおかげかと思います。この調子でもう少し全身の生命力をつけるように心がければ、辛い症状も長くは続かないと思いますし、妊娠の経過も、そして産後の日々もたくましく健やかに過ごせると思います。お母さんとして元気にがんばれるといいですね。

..初診
内関、湧泉(ミニ灸)、足三里(鍼+灸頭鍼)、
左胃兪(鍼+ミニ灸)、左腎兪(鍼+ミニ灸)、三焦兪(鍼+ミニ灸)
右(胆兪、肝兪)ミニ灸

初診後、とても良くなった。夜寝る前にはまだ症状が辛い。

4診後、ほとんど症状よくなった。
5診後、調子がよくやる気が出てきた。