弁証論治:

0070:妊娠6ヶ月の方のリウマチの弁証論治

現在妊娠6ヶ月の方のリウマチの弁証論治です。

32歳女性 夫、子供(2歳七ヶ月)主婦。
血圧114-80 体重56 身長150
祖母がリウマチ 両親が高血圧

主訴
 手、肩、足の指、膝、肘の腫れ、痛み
 手のこわばりがある、首もいたいときがある
 腸の調子が悪い

☆病歴:
小学校の高学年より花粉症を発症
99年7月 第一子を帝王切開にて出産

00,12月ー1月にかけて
子供がぐずるために、寝不足などが續き疲れていたところ、 年末に胸がしこり痛み、熱が出た。
病院で風邪も引いているし、乳腺も脹れているということで 断乳することにした。
熱がひいああと、右手の人差し指が赤く脹れた。痛みはないも 病院にいっても、これだけでは判然としないということで、 シップで対応

01、夏まで
はじめは右手人差し指の近位指節関節だけの痛みだったのが、 徐々に広がる。右手人差し指の付け根、となりの指とだんだん 脹れの範囲がひろがり、夏ごろには、指が曲がりにくい、関節 が痛いなどの症状がでそろった。

01、秋ごろ
左足が脹れ水を抜き、次に右の膝のも脹れ水を抜く。
一時的にはよくなるが、なんとなく痛いという状態は続く。

0201
リウマチにいいといわれる酢、鉱泉を飲む。
どろっとした便がたくさん出て非常に疲れ、 リウマチの症状が悪化。
いままで痛くなかった肩が非常に 痛み始め困った。

03
花粉症も妊娠のため薬を飲んでいないので非常に悪化。
風邪も引いている感じ。手足の関節が腫れて痛い。
当院受診。

☆問診
〔辛い時期は〕
辛い時期は朝、昼で常時あり、一定しない
冬や季節の変わり目にとくに状態が悪い
その症状は悪化傾向にありますか
少し変形したり、腫れがひどくなったりします。

〔今回の症状について〕
今回がはじめてで、はじめは一本だった指が3本もはれている。
一年前から指が腫れた、肩が寝ると痛かった
自分の体調が悪くなったり、寒くなったり、朝起きた時が悪い。
他に花粉症、肩こりを治していきたい。

〔いま一番辛い症状について〕
いつからですか?
いま、一番辛い症状は、3週間前からひどくなった。
今回の症状が起こる前に、肉体的に無理をした、精神的に無理をした、花粉症が ひどくなった、おかなが痛くなった。

今回の症状の原因はなんだと思いますか?
今回のひどい状況の原因は、花粉症が酷くなっていることと(妊娠希望のため今 回は薬を飲んでいない)、鉱泉を飲んだため、腸の調子が悪いからではないかと 自分では考えている。
症状のきっかけは、1年前に風邪を引いて熱がでた。そのあと肩と指が赤く腫れた。
リウマチにいいという鉱泉を飲みすぎた(妹は同じ鉱泉を飲んで、甲状腺の状態 がよくなったので)のではないかと思う。飲んだら便の量がとても増え、どろっ としたものが出た。非常に疲れた。
膝が痛くなったのは、太ったと思い、ダイエットをした。

今回の症状と同時に出てきた症状や体調の変化は?
痛みの部位は、腸、首、肩
食欲不振、口内炎、下痢、足、手、膝、肘のむくみ(朝、夕)
身体がだるい、こむらがえり、目が疲れやすい、夢をよくみる。

今一番辛い症状は全体の調子に合わせて変化しますか?
変化する

いままで受けてきた治療は?
01年2月から1年間 整形外科でロキソニン、モーラス、ボルタレンをもらう。 痛みはやわらぎ、腫れも少しはひく。

ふだんの状態について
全身の状態の悪化する要素は?
クーラー秋、冬、季節の変わり目、朝、夕、入浴の翌日(入浴は良い変化)
肉体疲労時、気を使ったあと、睡眠不足の時、食べすぎ、便秘
風邪をひくと、くしゃみ、鼻水、寒気、のど痛がおこる。

食事について
食欲は普通、一定、早食い、空腹感があり、かまない時が多い、美味しく感じ ることがよくあり、食後に腹が脹ったり、胸やけがすることが時々ある。

よく食べるもの
白米、パン、味噌汁、牛乳、なす、さかな、とりにく、豆腐、大根、パスタ、 きのこ
好きな食べ物ーチョコレートケーキ、パスタ、なす、ここあ、プリン
嫌いな食べ物ーチーズケーキ、あずき、せりり。
間食は?
3時にココア、おせんべい、ポテトチップ

タバコはすわない、お酒はほとんど飲まない。
一日に400cc以上の飲み物をのむ(牛乳、水、お茶)
口がかわくことはめったにない、
口が粘ることが時々ある。

便通
大便は一日1-2回出る。
お腹がはってつらいことはめったにない、
薬は服用していない。
時々で切らない感じがする。
バナナ、コロコロ、軟便状
量は多く、便器に付着することが時々ある、匂いは普通で時々におう

小便
一日10回ぐらい出る
残尿感はめったにない。尿切れが悪いこともない
色は、白濁、黄色
夜間排尿はめったにない。

睡眠
寝つきは普通、眠りは深い、夢をよくみる、寝起きは普通。
翌日に疲れが残ることが時々ある。

婦人科について
今一番辛い症状と生理の状態とは関連がありますかーわからない。
生理は12歳からはじまり、28日周期5日間。不規則で早くなる
生理痛は時々あり、生理初期に鈍痛、下腹部痛がする。
生理の色は濃い、粘った膜、膿血、血液がまじる。
出産は29歳帝王切開。
出産前後に高血圧になった(現在正常)
1年間生理がなく、その後は通常に来ている。
出産後は復調しているのかどうかわからない。
出産後母乳はよく出た、1歳半まであげていた。
もう一人、子供がほしいのです。

☆弁証
【風】
風邪を引いて熱が出たあとに発症
身体のあちこちの関節に発症

【熱】
乳腺が腫れて熱が出たあと、風邪を引き熱が出た
指や関節の熱感、腫脹
お正月に風邪を引いて熱が出たあと発症
口内炎
生理が不規則な時は早くなることがある
舌がやや紅い
左の太衝が熱で腫れている

【気虚】
風邪を引いて熱がでたあとに発症

【寒】
寒い時に悪化
クーラーで悪化
冬に悪化

【肝】
こむらがえり
目が疲れやすい
夢をよくみる
気を使ったあと症状悪化

【心】
口内炎ー心熱の発生?
右の神門ー実

【心包】

【脾】
季節の変わり目が状態が悪い
鉱泉を飲んだら、便の量が増え、非常に疲れた
食後に腹が脹ったり、胸やけがすることが時々ある
下痢
食べすぎ、便秘で症状悪化
便が時々で切らない感じがする。
便の状態がバナナ、コロコロ、軟便状で、便器に付着することが時々ある。
胆兪から脾兪にかけて、大きく虚
脾気をいためる可能性があるもの
好物ーチョコレートケーキココア、間食をする

【肺】
左太淵ー実
左合谷ー虚
左右肺兪ー虚

【腎】
鉱泉を飲んだら、便の量が増え、非常に疲れた
身体がだるい
夢をよくみる
睡眠不足で症状悪化
翌日に疲れが残ることが時々ある

【胃】

【三焦】
左右外関ー虚

【気虚】
寒い時に悪化、
朝がつらい
体調の悪い時に悪化
身体がだるい
入浴の翌日症状悪化
翌日に疲れが残ることが時々ある

【血】

【おけつ】

【虚】

【相互の強弱】

☆論治
論治  5/5
痺証では、正気の虚、外邪の罹患、瘀血湿痰の問題を中心に時系列で、 考察していく必要があると考えられます。
99年7月に高血圧のため帝王切開にて出産
01年12月末、寝不足が続いた後、乳腺がしこり、痛みと発熱があり、医者 で風邪も引いているから、断乳をと言われ断乳する。熱がさがったあと、右手 人差し指に、あまり痛みは伴わないが、赤く脹れるという状態が出現。

痺証の場合、出産後の疲れ、すなわち腎気を中心とした正気の虚が発症のきっ かけになることが多いのですが、本症例の場合は産後とりたてて不調ということはなく、高血圧も納まり、母乳も良く出て、出産後1年で生理も始り、一定の正気の 回復をみていますが、充分な腎気の回復があったとまでは、いえなかったのでしょう。その後の寝不足などの、育児疲れにより、肝欝気滞が極限 におこり、乳腺の脹れをもたらしてしまったと考えられるのではないかと思います。

疲労のために、気機の動きが滞り、肝気鬱結をおこし、乳腺が欝滞し、発 熱した。また同じく疲労のために風邪を引き込み、営衛の不和を引き起こし発熱したのではな いかと思います。

そしてこの一連の、疲労、気機の滞り(肝欝気滞)、発熱、外邪の罹患により、 痺証が出現してしまったのではないかと考えられます。

いったん発生した痺証は、納まることはありませんでしたが、整形外科では、 いまの程度では積極的な治療は進められないと、痛み止めの内服ややシップなどで なんとか日常生活は不自由なく過ごしています。しかしながら、発赤は、だんだ んと広がり、夏ごろには、手指、手関節、足指、肘など症状が出揃う感じになっ ています。

劇的な進み方ではないにしろ、一度生じた全身における正気の弱りが、積極的 に補われることがなかったので、局所的には関節各部における、気機の疏通不利 による気滞をおこし、熱感や痛みが徐々に広がって言ったのではないかと考えられます。

その後、秋になり寒くなったことより、左ひざの痛みから、右ひざの痛みが 発症し、水を抜くなどで対応していますが、症状が増えていっています。これは 寒さによって、より気機の動きが悪くなり、局所の阻滞をおこしていったと考え られます。

02年1月より、リウマチによいという鉱泉を勧められ、多量に服用し、どろっ とした便が出で、非常に身体が疲れてしまう、おなかが痛い、下痢という状態に なっています。

この症状から考えると、鉱泉により、脾気を強くいためた可能性が考えられま す。便通も便器に付いたり、すっきりしないという脾虚をおもわせることが出ています。そして強 い疲れが出てきているというところから考えると、腎気まで損傷してしまったの ではという可能性が考えられます。

こういった脾腎の気をいためるという正気の虚に乗じて、ふたたび風邪を引き 込み、症状が強く悪化しています。そしてまた、この時期は花粉症もあり、妊娠 希望のため薬を服用していないので例年より症状が強るという状態の中で、今回 の一番辛い非常に強くて辛い関節各部の熱感発赤を伴う痛みの状態が発生してい ま す。

花粉症という状態は、上焦の欝気、異物を排除しようと上焦に気をあつめ、そ れが欝気、鬱熱となっている。また上焦を支えるために、脾腎の陽気を使ってる ためその臓腑に弱さー虚が見えている、そんな状態ではないかと思われます。

鉱泉の多飲により、脾気、腎気をいためたという正気の虚、風邪という外邪の罹患、花粉症という外邪による身体の脾気の弱り、上焦の鬱熱、局所における、気の滞り、肝気の疏泄不利。これにより、痺証の症状が強くなってしまっているのです。

現時点をみると、こむらがえりや目が疲れやすいなど、肝気の虚損や、口内炎 という心熱の存在が候われます。本症例の痺証は、鬱熱からはじまり、正気の虚損が回復されないため、症状が 広がっています。初期には肝欝気滞を中心とした風痺の段階にあったといえましょう。

しかしながら、今回は、鉱泉の多飲により脾気を著しく低下させ、腎気まで虚 損させたことが重大なきっかけとなっています。花粉症による鬱熱や風邪による正気の虚とあわせ、脾気の低下が症状の悪化と 大いなる要因です。

脾気の低下により、便通がすっきりつかなくなったために、身体の中の熱を取 り去る手段を失い、より鬱熱が亢進したために症状が悪化したのではないかと考 えられるのではと思います。また脾気が低下し、湿痰が形成されつつあり ます(季肋部の状態などによる)ので、それによる鬱熱も加わってきたのではな いかとも考えられます。食べすぎや便秘で悪化というのは、通じざる腑の 熱を思わせるものです。。

ご本人は、妊娠希望ということで、花粉症の薬も、風邪の薬も飲まずに頑張っています。ただ、いまのこの沢山の関節が赤く腫れている状態で妊娠しても、 状態がよりわるくなったりすれば大変なだけです。とりあえず妊娠は時期をずらし、今回は鬱熱の状態を亢進させている花粉症を抑えるため花粉症の薬を飲み、 生命力の低下をまねき、営衛の不和を生んでいる風邪も疾く治すために、風邪の 薬も飲み、鍼灸をして体の力をあげ、不要な欝滞を取り去り、蓄っている熱を落 とし、身体の腫れを納めていこうと提案しました。妊娠は身体の状態がよければいつでも出来ます。とりあえず、暴れているリウマチを落ち着かせなければなりません。

肝欝気滞、脾気虚損、疏風外感。

瀉鬱熱、通腑補脾。

☆論治
リウマチのの弁証論治2:解説
2002年の3月に当院を受診し、リウマチが落ち着いてからねということで 妊娠をまってもらいましたが、リウマチも落ち着き妊娠、2004年の2月に無 事ご出産なさいました(^^)。

当初、腫れ上がり、痛み止めなどの服用が必要だったリウマチも、1年ほどで すっかり落ち着き、薬の服用もなくなり、心配がなくなったところでのご妊娠でした。

リウマチの問題と、第一子の妊娠中に妊娠中毒症をおこしているので、妊娠中 も鍼灸治療を継続し出産にいたりました。

通常、妊婦さんの鍼灸治療は、積極的に治療するという方向性はとらず、リラッ クスして身体の状態をよくしていこうという感じにしますが、この方の場合は、 積極的に治療の手を入れていきました。

これは、妊娠前から継続して鍼灸をしていたので、積極的な手がとれたという こともあります。妊娠中は薬剤が使えませんから、妊娠ご希望の方は、鍼灸など でコントロールできる状態にもっていくというのもよいのではないかと思います。

妊娠してから、婦人科でリウマチのことを相談されたそうですが、薬を飲んで いませんということで、問題なし!ということでした。

週に1度の鍼灸治療が出来たためか、リウマチも落ち着いた状態で経過し、妊娠中毒症もおこらず、血圧、蛋白などの心配もなく妊娠期間を過ごすことができ ました。よかったですね(^^)

ただ、リウマチの方にとって恐いのは産後です。風邪に注意して、お子さんが 寝ているときはゆっくりと休んで、食べ過ぎに注意して楽しく子育てして欲しいと思います(^^)。