弁証論治:

0102:体調全般の悪さ、更年期の疑い動悸、倦怠感、イライラ感、弁証論治

症例集→全身の倦怠感、動悸、更年期の疑い、身体を立て直しての妊娠(33歳出産)【case:0102】

31歳の女性、体調が全般に悪く、だるさが強いということで、まず身体の立て直しからはじまり、当院受診後1年2ヶ月ほどたってから本格的な不妊治療を挑戦。妊娠期間中も、前置胎盤や出産時のトラブルなど大変な出来事が数々ありましたが、母子ともに無事にご出産の時を迎えかわいい女の子が誕生しました。

妊娠、出産には、『ご本人の生命力』を高めることがとても大事です。

その上で、適切な西洋医学の力強い主導は本当に有難い物だと思いました。

妊娠初期に、なんとなく『この出産は大変そうだ』という予感がし、大きな病院への

受診をお勧めしましたが、その結果、より大きな病院への連携も強まり、出産時の

トラブルも乗り越えられ、子宮を残すことができ、第二子への希望がつながりました。

よかったな、よかったなと私も本当にほっとしています。

その後、無事に第二子も出産。

いろいろなことがあった症例ですが、私もほっと胸をなで下ろしました。

<問診>

31歳、女性 パート看護師

身長:158cm、体重:50kg、血圧:120/70

家族構成:夫

肉親の病気の遺伝的傾向:特になし

主訴・・・全身の倦怠感、肩こり、腰痛、動悸、イライラ感

..【今一番つらい症状について】

徐々に起こり、朝と深夜につらく、時期は一定しない。

朝はだるさ、夕方はだるさに加えて腰痛と肩こりがつらい。

肩こりは仕事が続くと出てくる。

季節の変わり目がつらい。

日によって波がある。

20歳過ぎぐらいから起こり始め、慢性的にある。

自分では寝不足の時に起こることが多いと思う。

…【今回の症状について】

今回の症状は20歳過ぎから慢性的にある。

今回の症状が起こる前に、肉体的、精神的に無理をした。

自分では運動不足とストレスが原因と思う。

…(今回の症状と同時に出てきた症状)

下腹部痛(生理と生理の間なので排卵時痛なのかとも思う)(ここ数ヶ月)

下腹部、足の付け根のあたりが張った感じがするの(ここ数ヶ月)

のぼせ(ここ数ヶ月)

体がだるい

目が疲れやすい

眠りが浅い

以前めまいがあり、良性発作性めまいではないかと言われ、内服で2~3日で治まった。

今一番つらい書状は全身的な体調の変化によって変化する。

動悸、イライラ、のぼせに対しては産婦人科で更年期の疑いということで、女性ホルモン補充療法と鎮静剤の服用の治療を受ける。3ヶ月経過治療効果はよくわからない。

..【他に治したいこと】

生理と生理の間の時期に下腹部痛がある

不妊

下痢しやすい胃腸の状態

..【ふだんの状態について】

…(体調の悪い変化)

クーラー、冬、季節の変わり目、朝、深夜、肉体疲労時、気を使った後、睡眠不足の時、旅行の時、風邪をひいた時、食前、食べ過ぎ、飲みすぎ、便秘、下痢、生理2~3前、生理と生理の中間

…(体調の良い変化)

春、入浴中、入浴後(少し良い)、入浴の翌日

…(風邪)

風邪をよく引く

風邪をひくと、喉痛、下痢、肩こり

…(食事)

食べる量は普通で、昔から変わらない。

食事時間は不規則で、朝:だるくて食べない、昼:12:00、夕18:00~21:00のどこか。

30分以上かけて食べる。

噛まないことが多い。

食事前の空腹感はよくあり、いつもおいしく食べられる。

食後とは限らずお腹が張ることがよくある。下痢でお腹張るのと同じ感じ。ガスが溜まりやすい。

よく食べるのは、豆腐、納豆、肉。

好きな食べ物:鶏肉、ブロッコリー、ホウレンソウ、果物。

嫌いな食べ物:イクラ、レバー。

間食は週に1回くらいで、プリンやヨーグルトを食べる。

…(水分)

1日に飲む量は、100ccの湯呑で3杯以上、200ccのコップで2杯以上、合計700cc以上。

コーヒー、水、お茶を飲む。

口、舌、喉の渇きは時々あり、口が粘ることが時々。

…(飲酒)

飲めない。

…(タバコ)

記載なし。

…(大便)

1~2日に2回出る。

下痢のおなかが張ってつらいことはここ1~2年よくある。それ以前はお通じに問題を感じたことがない。下痢でお腹に張り感があり、出てもお腹が重い感じがある。

便秘薬は使用しない。

便が出切らない感じはよくある。

便はバナナ、細い、軟便、下痢で、量はこぶし大。

便器に付着することは時々、臭いは時々臭う。

…(小便)

昔から1日に8~10回。

29歳くらいから残尿感、尿切れが悪いことはよくある。

尿の色が白濁なことがごくたまにある。

夜間排尿はめったにない。

…(睡眠)

就寝22:00~23:00、起床7:00~8:00。

寝付き、寝起きはよく。

20代後半くらいから眠りが浅い時期と深い時期がある。

眠りが浅いと翌日に疲れが残る。

夢はよく見て、支離滅裂な内容が多い。

..【婦人科の状態】

今一番つらい症状と生理は関連している。

初経14歳。

生理期間は6日間で、周期は28~30日。

生理に伴う体調不良はよくある。

ここ数カ月、排卵頃?にのぼせ、足の付け根から下腹部の痛み。

生理2~3日前から、体のだるさ、気分の落ち込み、いらいら、吐き気。

イライラは生理が来ると、気分の落ち込みは生理2日目に治まる。

生理2日目から足のむくみを多少、仕事の時に感じる。

目、足がつらい。

生理の量は普通、色は濃い~出血した時の色で、粘った膜が混じる。

生理1~2日目が出血が多い。

結婚25歳。

妊娠を希望し始めたのが27歳。

自分たちでタイミング4カ月。

..【これまでにかかった大きな病気】

記載なし

..<時系列>

14歳・・・初経。

20歳・・・夜勤のある仕事を始める。

倦怠感、肩こり、腰痛、疲れが取れにくい(現在まで)。

29歳・・・体調が悪化してくる 主訴が強くなってきた(仕事を辞める前から)

残尿感、尿切れの悪さが起こるようになる(現在まで)。

下痢しやすくなり、腹が重く残便感があり、すっきり感が無くなる

(これ以前は便通の問題を感じたことがなかった、現在まで)。

仕事辞める(やめて一時期体調がよくなったが、また悪化)

31歳・・・

半年前  めまいあり。

数ヶ月前から

排卵時頃に下腹部、足の付け根が痛む、のぼせがある

1週間前

思い当たることはないのに1週間前から動悸がする。

..<切診情報>

..【脈診】

全体に輪郭甘い、浮位がすっすっと消える。

右関と右寸 少し細く目立つ。

..【舌診】

右にワイ舌

舌裏がやや赤い

..【腹診】

肝の相火 きつくガチガチ

心下 つまりあり

臍 引いてくる

関元 抜け

..【経穴診】

右後谿 陥凹

外関 冷え

左陽池 冷え

下肢胆経 つっぱり

足足三里 こそげて反応がない

復溜 冷え

左公孫 冷え、きつい弛み

右臨泣 硬結

右申脈 動き悪い

水泉 冷えきつい

..【背候診】

風門 発汗、冷え

神道 弛み

右心兪 抜け

左胆兪 大きい抜け

左脾兪 抜け

左胃兪 少し抜け

腎兪 陥凹

大腸兪抜け

..五臓の弁別

…【肝】

自分では主訴の原因は運動不足と、ストレスだと思う

下腹部痛、足の付け根あたりが張った感じ(ここ数ヶ月、排卵時あたり)

のぼせ(ここ数ヶ月)

目が疲れやすい、眠りが浅い

めまいがあったが内服で治まる

気をつかったあと体調が悪い、

生理2,3日前からイライラ、吐き気、気分の落ち込み(生理で治まる)

肝の相火 きつくガチガチ

食後とは限らずお腹が張ることがよくある。下痢の感じ、ガスがたまりやすい

下肢胆経 つっぱり

右臨泣 硬結

左胆兪 大きい抜け

…【心】

動悸(一週間前)

心下 つまりあり

右後谿 陥凹

神道 弛み

右心兪 抜け

…【脾】

朝はだるさが辛い

季節の変わり目が辛い

ここ1,2年下痢しやすい、下痢が出てもお腹が重い

食後とは限らずお腹が張ることがよくある。下痢の感じ、ガスがたまりやすい

便が出きらない感じ、付着することが時々

右関と右寸 少し細く目立つ。

臍 引いてくる

足三里 こそげて反応がない

左公孫 冷え、きつい弛み

左脾兪 抜け

左胃兪 少し抜け

…【肺】

右関と右寸 少し細く目立つ。

風門 発汗、冷え

…【腎】

20歳夜勤の仕事をはじめてから主訴出現

朝、だるさがとくに辛い

夕方、だるさに加え、肩こり、腰痛は朝と深夜に辛い

寝不足の時に主訴出現

下腹部痛、足の付け根あたりが張った感じ(ここ数ヶ月、排卵時あたり)

目が疲れやすい、眠りが浅い

クーラー、深夜、で悪化

29歳 残尿感、尿切れの悪さが出てきた

20代後半から眠りが浅い時期と深い時期が出てきた

生理2,3日前から身体のだるさ、

生理二日目足のむくみを感じる、気分の落ち込みは治まる

関元 抜け

外関 冷え

左陽池 冷え

復溜 冷え

腎兪 陥凹

大腸兪抜け

【内湿】

朝にだるい

ここ1,2年下痢しやすい、すっきりしない

【オケツ】

右にわい舌

舌裏がやや赤い

【気虚】

全体に輪郭が甘い

…病因病理

20歳の時から夜勤のある仕事をはじめ、倦怠感、肩こり、腰痛、疲れがとれにくいという感じが出現している。日々の疲労が取れにくくなっており、夜勤の仕事が腎気に大きく負担となり、20代の若さながら腎気を弱らせていき、20代の中頃から、眠りにも影響し、眠りの浅い時期も出現している。

29歳のころに、さしたるきっかけもなく、体調が一段と悪化している。

主訴が強くなり、残尿感、尿切れの悪さなど出現。またそれまで、便通の症状がなかったのに、腹が重く下痢しやすくなり残便感が出ている。この段階で、いままで負担になっていた腎気が一段と弱り器を小さくしたため、腎の陽虚不足が明確になり、残尿感などの尿の問題につながり、また腎の陽気不足から脾気を温養できなくなり下痢などの胃腸症状へとつながっていったのではないかと思われる。

その後、仕事をやめ、一時期体調はよくなったものの、脾気、腎気は補われることがなかったため、肝気が強くはることになり、半年前にめまいがし、排卵時には、腎気の不足、強い肝鬱により下腹部つうや足の付け根の痛みにつながっているのではないかと思われる。

また、脾腎の弱りを肝鬱でカバーするために、心下のつまりはきつくなり、胆経の突っ張りもつよくなり、きつい肝の相火となっている。このため心窩部の強いつまりは、気の升降出入を乱し、上焦にはのぼせなども出現、心熱となり動悸も出現したのではないかと思われる。

また、いつ頃からかは判然としないが、風邪の内陥もあり、肝鬱を強くし、脾腎の弱った素体への大きな負担となっていると思われる。

…弁証論治

脾腎陽虚 肝鬱

風邪の内陥

疎風散寒

温養補腎、益気補脾

…生活提言

東洋医学の世界では、一人の、丸ごと一つの生命の流れをみていきます。

そしてよく診るために5つの肝心脾肺腎という観点からみていきます。

○○さんの場合は、20歳から始めた、夜勤のあるお仕事が生命力の土台(腎)に

大きな負担となっていたようですね。腎の弱さから倦怠感、肩こり、腰痛、疲れがとれにくいといった問題が生じていたと思われます。ただ、20代という若い時期であったので、大きなトラブルにもならずにすんだのかと思います。

しかしながら、生命力の土台である腎に負担をかけつづけることがつづき、睡眠にも影響し、29歳の時には、生命力が一段と落ちてしまったようですね。生命力の土台の力(腎)によって、胃腸は温められ養われていきますが、腎の力が落ちたために、胃腸の力まで落ちてしまい、今までの症状に加えて胃腸の症状も出てきてしまったのだと思います。

仕事をやめても生命力の土台の力は補うことができなかったのだと思います。

土台の力が不足していたので、身体は、なんとか気を張って頑張ろうとしていたのだと思います。このため、めまいや、下腹部、足の付け根の痛み、上腹部のつまりとなっていき、動悸の出現とつながっていったのだと思います。

妊娠にとっては、この生命力の土台がとても大切です。

まず、年齢も若いのですから焦らずに身体の土台の力(腎気)をつけていきましょう。

また、胃腸の手入れもし、身体を温めやしなっていきましょう。

具体的には、規則正しく生活する。とくに夜は11時前には休みましょう。

お食事は、タンパク質、脂質などにも気をつけてバランスよく食べましょう。

身体の冷えに気をつけて、体幹を守りましょう。

毎日のお灸を続けましょう。

一緒にがんばっていきましょうね。

治療方針

まず第一に内陥している風邪をとり、素体への負担をとる

腎の陽気を暖めやしない脾気への負担をとり、脾気を養い全身の気の升降出入をのびやかにする。

…治療経過

..<時系列>

14歳・・・初経。

20歳・・・夜勤のある仕事を始める。

倦怠感、肩こり、腰痛、疲れが取れにくい(現在まで)。

29歳・・・体調が悪化してくる 主訴が強くなってきた(仕事を辞める前から)

残尿感、尿切れの悪さが起こるようになる(現在まで)。

31歳 夏 めまいあり。

秋 排卵時頃に下腹部、足の付け根が痛む、のぼせがある

 

31才 冬 ビッグママ治療室受診

1週間前 思い当たることはないのに1週間前から動悸がする。

5診後(1ヶ月後) 生理痛、腰痛軽減)

30診後(下痢などがよくなり、体調が全体に良くなった感じ)

32才 50診後 妊娠 普通の産婦人科を希望されていたが、大きめの病院を進める

妊娠中も週に1度の鍼灸治療を継続

妊娠12週 子宮口が開きやすそうだということで安静が指示される

妊娠15週 前置胎盤 が指摘される

妊娠30w 前置胎盤のため入院

妊娠36w 麻酔科ドクターより、もっと大きな病院での出産を指示され

救急車で搬送される

妊娠37w 癒着胎盤気味で出血が多いものの無事出産。子宮も残せた

無事に母子ともに健康での出産、おめでとうございます。

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初診

左外関、左陽池

臍、気海、関元

復溜、湧泉

大椎

腎兪、次髎

左胃兪、左脾兪

1ヶ月半(7診後)

1)体調が全般に良い

2)頭が痛い、目の奥が痛い。風邪ばかり引いている

考察、1)でありながら、2)の状況であるということは、脾気腎気が補われてきた(生理痛、腰痛が減少)なかで、

内陥していた風邪(内生の邪)が浮いてきて、風邪の症状となっているのではないかと考えられる。そのため、治療方針の変更はなく、このまま継続

その後

大椎、申脈、

脊柱、筋縮→督脉を温通

次髎、左脾兪、左胃兪、腎兪

右内関、公孫、中脘

三陰交(灸2回)足三里

30診(8ヶ月後)

下痢などの体調がよくなってきた。

※症状としてはたいしたことがなかったけど、状況を示す項目としては重要なポイント。

腎の陽気がたって、脾気もかいふくしてきた

→不妊治療の再開をアドバイス

胚移植時の鍼灸→妊娠へ

大椎、

左胃兪、左三焦兪、腎兪、次髎

百会7

左外関、左太衝

三陰交、中脘、関元

妊娠中も週に1度の鍼灸を継続。

無事に出産

その後スムーズに二人目も出産。