弁証論治:

0116: 流産 吹き出物 のぼせやすさ 子供が欲しい

.<問診>
34歳、女性 専業主婦
身長:157cm、体重:48kg、血圧:記載なし
家族構成:夫

主訴・・・①妊娠したい、②顎、口の周りの吹き出物、③のぼせやすい、④冷えると下腹部が時々痛む

..【主訴について】
①妊娠したい・・・結婚29歳で、31歳から妊娠を希望する。32歳の検査で多嚢胞性卵巣と診断されるが、クロミッドの服用で卵胞ができるとのことで、生理周期もそれなりに安定するようになった。病院でのタイミング指導の後、34歳から人工授精を行う。妊娠するも6週目で胎嚢が見えず、流産となる。その後、流産前の生理周期に戻るのに7ヶ月掛かる。

②顎、口の周りの吹き出物・・・20代前半から慢性的に出る。31歳で仕事を辞めるまでは常に出ていて、年々悪化傾向だった。仕事を辞めてからはましになった。高温期にひどくなったり、生理前に出ることが多いように思う。時々、鼻の頭にも吹き出物ができる。

③のぼせやすい・・・20代後半くらいから冬に外気温と室内の温度差が大きくなると、寒い所から部屋に入ったときに、ほてるような、のぼせのような体に熱がこもった感じで暑くなる。そんな時に鏡を見ると顔が赤い。

④冷えると下腹部が時々痛む・・・不妊治療を始めた32歳頃から冬に冷えると下腹部が痛むようになった。

..【同時に起こるようになった体調の変化】
記載なし

..【その他の治したいこと】
記載なし

..【その他問診で分かったこと】
・20代前半にマクロビオティックを食事の7割ほど取り入れていて、体重が減ることがあった。そのせいかどうかは分からないが、20代を通して生理が時々止まっていて、長いときは1年くらい生理が無かったこともあった。この体重の減少や食事などで、吹き出物が減ったり増えたりということは無かった。

・仕事はデスクワークだったので体力的にきつくは無かったが、お金を扱うことが多く、緊張感は常にあった。

..【ふだんの状態について】
…(体調の悪い変化)
肉体疲労時、気を使った後、睡眠不足のとき

…(体調の良い変化)
春、秋・・・寒くも暑くも無いから。

…(風邪)
風邪を引くと、喉痛、発熱。

…(食事)
食べる量は普通。
食事時間は規則的で、朝7時、昼12時、夜19時。
30分以上かけて食べ、普通に噛んで食べる。
食事前の空腹感は時々。
食事は、よくおいしく食べれる。
食後にお腹が張ったり、胸焼けは、めったに無い。
間食はよくあり、洋菓子を食べる。

…(水分)
水分摂取は1日に200ccのコップで5杯以上、計1000cc以上。
麦茶、緑茶、紅茶を飲む。
喉の渇きは時々、口舌喉が粘ることが時々。仕事をしていた頃は、仕事中よく
喉が渇いて水分を取っていた。でもトイレは近くなかった。

…(飲酒)
ほとんど飲まない。

…(タバコ)
吸わない。

…(大便)
2~3日に1回出る。
便秘気味なのは子供の頃からで食生活があまり良くなかったせいだと思う。マクロビオティックのときは、比較的ましだったが、マクロビを止めるとまた便秘がちだった。仕事中は便意を我慢しないといけないことも便秘の原因だ思う。バランスのよい食事と、仕事を辞めていつでもトイレに行ける環境が自分のお通じには合っていると思う。

最近はあまり無いが、便秘でおなかが張ってつらいときは薬を服用していた。薬を服用すると下痢に近くなる。はと麦を食べると便通がいいので、便秘気味だと思ったら、ご飯に混ぜるようにしている。

便が出切らない感じは無い。
便はバナナ状で、こぶし大。
便器に付着することはめったに無い。
臭いは汲み取り程度でよく臭う。

…(小便)
1日5~6回。
残尿感、尿切れが悪いことは無い。
夜間排尿は水分を取りすぎのせいだと思うが、時々あり、4時ごろに1回起きる。
尿の色が黄色いことは時々。

…(睡眠)
就寝は記載無く、起床5:30。
寝付き、寝起きは普通で、夢をよく見る。
翌日に疲れが残ることは時々。
夢は、昔経験した嫌なこと。

..【婦人科の状態】
生理が始まった歳は?。
生理周期は32~34日型で5~6日間。
32歳の時、多嚢胞性卵巣でクロミッドを処方されて排卵するようになった。
生理血の色は出血した時の色で、小さい塊や粘った膜が混じる。
生理の量は少ない。
生理1~2日目が量が多い。

生理に伴う不調は時々ある。
20代半ば頃から生理前からイライラ、眠気、発熱、疲れ、吹き出物があり、吹き出物以外は生理が来ると症状は治まる。発熱は、疲れがピークになった夕方に微熱が出るような感じになる。
31歳で仕事を辞めると、疲れや眠気を感じてもすぐに休むことができるようになったので、眠気、疲れ、イライラ、発熱はましに感じる。

生理1日目に下腹部の鈍痛がある。

..【これまでにかかった大きな病気】
特になし。

<時系列>

初経・・・不明。

子供の頃・・・便秘(現在まで)。

20代・・・吹き出物が慢性的に出るようになる(現在まで)。
     体重44kgくらい。
     時々生理が止まることがあった。

20代前半・・・マクロビオティックを7割ほど食事に取り入れる。
        体重が減ることもあった。

20代半ば・・・仕事中は喉が渇く。
        生理前にイライラ、眠気を感じるようになる(現在まで)。

20代後半・・・冬に外気温との差でのぼせを感じるようになる(現在まで)。

29歳・・・結婚。
     少しずつ太り、48kgくらいで安定する(現在まで)。

31歳・・・仕事を辞める(現在まで)。
     吹き出物がましになる(現在まで)。
     生理前のイライラ、眠気、疲れなどがましになる(現在まで)。

32歳・・・多嚢胞性卵巣と診断受ける。
     薬を服用して生理が周期的に来るようになる(現在まで)。
     冬に冷えると下腹部が痛むようになる(現在まで)。

34歳・・・人工授精を始める。
     6週目で流産し、生理周期が乱れる。
     生理周期が流産前の状態に戻るのに7ヶ月かかる。
     不妊治療中。

<切診情報>

..【脈診】
両尺 輪郭甘い
右関 輪郭クリア
左関 輪郭クリア、やや弦

..【舌診】
やや戦
歯痕あり
舌裏怒張 あり

..【腹診】
脾募 あり
肝の相火 無し
左少腹急結 あり
中カン 塊
神闕 抜け
気海 抜け
関元 やや抜け

..【経穴診】
霊道 きついこそげ
右神門 やや硬結
左外関 動き悪い
左陽池 冷え
列缺 こそげ(右<左)
右太淵 腫れ
右内関 陥凹
右足三里 弛み
三陰交 冷え
復溜 冷え
右臨泣 つまり
右公孫 冷え
左公孫 陥凹
左大都 開いてる
左然谷 陥凹
右血海 こそげ

..【背候診】
上背部 ソウ理の粗
右肺兪 大きい陥凹
心兪 陥凹
左膵兪 大きい陥凹
左胃兪 外へ崩れて陥凹(トップ)
右胃兪 陥凹
右三焦兪 少し陥凹
懸枢から上仙 影
骨盤部 細絡あり

<五臓の弁別>

..【肝】
吹き出物は仕事を辞めるまでは常に出ていた。
吹き出物は年々悪化傾向だった。
吹き出物は仕事を辞めてからはましになった。
吹き出物は高温期にひどくなったり、生理前に出ることが多い
仕事はお金を扱うことが多く、緊張感は常にあった
20代を通して生理が時々止まっていた
気を使った後、体調悪化
喉の渇きは時々、口舌喉が粘ることが時々。
仕事をしていた頃は、仕事中よく喉が渇いて水分を取っていた。
生理の量は少ない。
20代半ば頃から生理前からイライラ、眠気、発熱、疲れ、吹き出物があり、吹き出物以外は生理が来ると症状は治まる。
発熱は、疲れがピークになった夕方に微熱が出るような感じになる。
31歳で仕事を辞めると、疲れや眠気を感じてもすぐに休むことができるようになったので、眠気、疲れ、イライラ、発熱はましに感じる。

生理1日目に下腹部の鈍痛がある。
左関 輪郭クリア、やや弦
やや戦
左膵兪 大きい陥凹

..【心】
喉の渇きは時々、口舌喉が粘ることが時々。
仕事をしていた頃は、仕事中よく喉が渇いて水分を取っていた。

霊道 きついこそげ
右神門 やや硬結
心兪 陥凹

..【脾】
顎、口の周りの吹き出物
体重の減少や食事などで、吹き出物が減ったり増えたりということは無かった
20代前半はマクロビオティックを食事の7割ほど取り入れていた
時々、鼻の頭にも吹き出物ができる。
食事前の空腹感は時々。
間食はよくあり、洋菓子を食べる。
便は2~3日に1回出る。
便秘気味なのは10代の頃からで食生活があまり良くなかったせい。
マクロビオティックのときは、比較的便通はましだった
マクロビを止めるとまた便秘がちだった
仕事中は便意を我慢しないといけない
バランスのよい食事と仕事を辞めていつでもトイレに行ける環境が自分のお通じには合っている。
便秘薬を服用すると下痢に近くなる。
はと麦を食べると便通がいい
便が出切らない感じは無い。
便はバナナ状で、こぶし大。
便器に付着することはめったに無い。
臭いは汲み取り程度でよく臭う。

脾募 あり
中カン 塊
右内関 陥凹
右足三里 弛み
三陰交 冷え
右公孫 冷え
左公孫 陥凹
左大都 開いてる
右血海 こそげ
左胃兪 外へ崩れて陥凹(トップ)
右胃兪 陥凹

..【肺】
寒い所から部屋に入ったときにのぼせる

列缺 こそげ(右<左)
右太淵 腫れ
上背部 ソウ理の粗
右肺兪 大きい陥凹

..【腎】
顎、口の周りの吹き出物
流産前の生理周期に戻るのに7ヶ月掛かる。
不妊治療を始めた32歳頃から冬に冷えると下腹部が痛む
肉体疲労時、気を使った後、睡眠不足のときに体調悪化
仕事中よく喉が渇いて水分を取っていたが、トイレは近くなかった。
翌日に疲れが残ることは時々。
生理の量は少ない。

発熱は、疲れがピークになった夕方に微熱が出るような感じになる。
31歳で仕事を辞めると、疲れや眠気を感じてもすぐに休むことができるようになったので、眠気、疲れ、イライラ、発熱はましに感じる。

両尺 輪郭甘い
神闕 抜け
気海 抜け
関元 やや抜け
左外関 動き悪い
左陽池 冷え
復溜 冷え
左然谷 陥凹
右三焦兪 少し陥凹
懸枢から上仙 影

..【気虚】
歯痕あり
霊道 きついこそげ
列缺 こそげ(右<左)

..【オ血】
生理に小さい塊や粘った膜が混じる。
舌裏怒張 あり
左少腹急結 あり
骨盤部 細絡あり

<病因病理>

主訴の一つである吹き出物が出始めたのは20歳ころからで、その後、仕事を辞めるまで徐々に悪化し、慢性的に出るようになっていった。20代前半の頃に、マクロビオティックを7割ほど取り入れた食事をしていたが、吹き出物には変化が無かった。20代半ばからは特に仕事中に喉の渇きを覚えるようになり、生理前には吹き出物の悪化だけでなく、イライラや眠気を感じるようになった。20代後半には、冬に寒い所から室内の温かいところに入るとのぼるようになった。

この流れを見ると、20代で社会人となり、肝気が日常的に昂りやすくなっていたのではないかと思われる。その肝気の熱が胃経に波及して吹き出物を出来やすくしていたのではないかと考える。仕事を辞めると常時出ていた吹き出物がましになったことを考えると、仕事でかなり肝気を張っていたことが窺える。そしてこの肝気の昂りは腎気も圧迫し、生理が時々止まることになったのではないかと思われる。

吹き出物の悪化傾向に加え、20代半ばから喉の渇きや生理前のイライラや眠気が起こるようになったことから、マクロビオティックの食事が肝気の上逆を加速させたのではないかと考える。そのため心に影響しては仕事中の喉の渇きとなった。肝気の昂りがきつくなると腎気への負荷も増し、肝鬱腎虚の悪循環となっていったと思われ、肝鬱がきつくなりやすい生理前の、疲れが出やすい夕方になると微熱を感じるようにもなっていたと考える。

31歳で仕事を辞めると、肝気の昂りはかなり落ち着き、肝鬱腎虚の悪循環は脱し、吹き出物や生理前の症状はましになった。しかし、これまで肝気によって傷られていた腎気に、32歳から始めた不妊治療が更なる負担を掛けることとなり、冬に冷えると下腹部に痛みを覚えるようになったと考える。

このように腎気にかなり負荷を掛けながらも治療のおかげで、34歳の時に妊娠することができた。しかし残念ながら流産となってしまう。流産後、生理周期が元の状態に戻るのに7ヶ月を要したことも、腎気の虚損が窺える。

現在、ましにはなったものの、依然生理前に吹き出物やイライラや眠気があること、霊道や列缺のこそげから気虚も窺えることなどから、腎気の虚損があり、そのため生理前に肝気が立ちやすいという状態であると考える。

また規則正しい生活と食事でお通じはコントロールできていることから、脾胃の器は元々しっかりしていると思われるが、意外に胃兪の陥凹がきついことからかなり負担が掛かっていることが窺える。

最後に、列缺のこそげや右肺兪の大きな陥凹、上背部のソウ理の粗などから、肺気の弱さも窺える。この肺気の弱さが気逆を抑えがたくしている一つの原因と思われる。そしてその肺気の弱さが、冬の寒いところから温かいところに入ったときに、気が昇るのを素早くコントロールできず、のぼせのような状態を引き起こしてしまうものと推察する。

<弁証論治>

弁証:腎虚、肺気虚
論治:補腎、補肺気

<治療指針>
腎気をしっかりさせることを第一の目標とする。肝鬱になりやすい状態ではあるものの、仕事を辞めたことで肝鬱の最大の要因が取り除かれていることから、根である腎気に加え、蓋である肺気を補うことで、肝鬱が徐々に落ち着いていくところを目指す。

かなり負担が見受けられる脾気に関しては、様子を見ながら、必要であれば脾気からもアプローチする。

<生活提言>

症状を伺っていると、社会人になられてから、お仕事をまじめにがんばってこられていたのだろうということがよく分かります。そのまじめな頑張りが、事務仕事だったこともあってか、上に気を昇らせやすい状態を生み、生理前などホルモンバランスによって気が昂りやすいと時期と相まって、吹き出物を出させたり、悪化させたりしていると考えられます。

仕事を辞めて、吹き出物や生理前の諸症状はましにはなったものの、依然続いていることを考えると、不妊治療により体の中心、土台の力に負担が掛かってしまって、しっかり気を引き降ろせないために気が昇りやすい状態が、以前ほどではないけれど継続していると思われます。ただ人工授精をして短期間で妊娠されたことを考えると、ちゃんと体を整えていけば、次の治療でのより良い結果に繋げられ可能性が高いと思います。ここでしっかりと身体をリセットして、養っていきましょう。

まず、気が昇りやすい状態を改善するには、気を引き降ろしてあげることが大切です。そのためにはウォーキングなど散歩をするのが効果的です。時間を作って、少しずつでも始めてみてはいかがでしょうか。気がきちんと降りて、子宮のある体の中心、臍下丹田に気が納まるようになれば、気が昇りにくくなるという好循環になっていきます。

お通じが良くなかったので、お食事や生活リズムにはとても気を使われていますので、そのことが身体の支えとなってくれているように思われます。ただ胃腸への負担が大きいことがお体の状態から窺えますので、バランスよく食べる、間食を控える、腹八分目にするなど基本的なところを気をつけてみて下さいね。

..治療経過
初診 週に1度以上の治療間隔、毎日の自宅施灸。養命酒などを勧める。
3ヶ月後、高温期がきれいにあがるようになってきた。
体調を整えながら、体外受精にステップアップをする。
病院の都合や、生理周期の問題でなかなか治療が進まない中、
1年後に妊娠、初期の出血や逆子などを乗り越え無事に出産。
おめでとうございます。