弁証論治:

0183:肩こり、便秘、下腹部が常に冷えている、不妊 弁証論治

38才 女性 身長153 体重60キロ
主訴 肩こり その他(下腹が常に冷えている、便秘、不妊)
肩こりと便秘は中学ぐらいの時から(体重が増えても特に変化なし)、下腹部の冷えは最近感じる。

普段の状態について
季節の変わり目、肉体疲労時、気を使ったあとに調子が悪い
風邪をよく引く 喉痛 発熱などがある。

食欲は普通、30歳頃から落ちている。不規則。30分以上かける。
空腹感はあり食事は美味しい。時々食後に胸焼け
間食は毎日

時々口、喉が渇く、違和感などは滅多にない。
飲酒喫煙なし
4-5日に1回の便秘 出なくてもお腹の張りを感じない。
生理の前は特に便秘がひどくなり、生理がくると下痢になる。
出切らない感じはよくある。細い、コロコロ、軟便
付着することは滅多にない。

小便は1日4,5回
残尿感、夜間尿などない

寝つきはよい、多夢 寝起きは普通
翌日に疲れが残ることがよくある。

初潮は15歳 周期は28日(やや不安定)
色は濃い、小さな塊、量は少なめ、2,3日目が多い
生理前の7日頃からイライラ、胸の張り、落ち込みやすくなる
生理の時に腰痛

婦人科について
妊娠について
32,36歳自然妊娠、流産
36才から体外受精をはじめ3回挑戦するも妊娠にいたらず。
婦人科一般検査について問題なし、タイミング1年、人工授精6回 体外受精3回
妊娠にいたらず。
妊娠時には、非常にきついつわりがおこり、流産が確定し、通常であればつわりが
消失する時期になっても1週間ぐらいは、そのままきついつわりとなってしまう。

..時系列の問診
中学の頃から便秘、肩こり(変化なし)

25才ぐらいの時は体重50キロぐらい
30代前半のころ、仕事が忙しい時期が1ヶ月ぐらいあり、夕飯が遅くなり3キロぐらい増加
32才、36才と自然妊娠するも心拍が見えず流産。どちらもつわりがひどくて入院。その後
普通に食べられる様になって体重が増加し現在に至る。
30代後半 体外受精を3回行うも妊娠しない

..切診
ときどき、脉診のために手をそろえてもらうと手先が震える
脈:左関尺浮位で消える 
舌:淡紅やや紅舌気味、やや黄色い膩苔 歯痕あり、戦アリ、舌裏怒脹あり
爪の根本が昔から黒い(貧血なし)
左章門ややつまり
心下つまりあり、脾募あり
肝の相火なし、裏肝の相火なし
気海引きあり
左大巨冷え
右小腹急結ややあり
左外関陥凹、
左陽池 冷え
右後谿陥凹
右神門はれ大きい
右霊道こそげ

大椎細絡あり、少し熱感あり、盛り上がり
右肺兪から心兪亀裂
至陽冷え
膈兪陥凹
右脾兪陥凹(トップ)
左胃兪陥凹(2番)
腎兪陥凹深い

左大都冷え
公孫割れ
右臨泣詰まりきつい、
三陰交陥凹
陰陵泉腫れ

..五臓の弁別
…【肝】
中学の頃から肩こり
生理前7日ぐらいにイライラ 胸の張り 気分の落ち込み
脈:左関尺浮位で消える 
舌 戦アリ、舌裏怒脹あり
左章門ややつまり
爪の根元昔から黒い
肝の相火なし、裏肝の相火なし
左小腹急結ややあり
右臨泣詰まりきつい、

…【心】
淡紅やや紅舌気味
心下つまりあり
右後谿陥凹
右神門はれ大きい
右霊道こそげ
至陽冷え
膈兪陥凹

…【脾】
中学の頃から便秘
体重がだんだん増えている
季節の変わり目に体調悪化
時々食後に胸焼け
間食は毎日
4-5日に1回の便秘(はりは感じない)
やや黄色い膩苔あり
脾募あり
気海引きあり
右脾兪陥凹(トップ)
左胃兪陥凹(2番)
左大都冷え
公孫割れ
三陰交陥凹
陰陵泉腫れ

…【肺】
大椎細絡あり、少し熱感あり、盛り上がり

右肺兪から心兪亀裂
…【腎】
最近下腹部の冷えを感じる
疲労時、流産後 体重が増えている
疲れが残ることがよくある
自然妊娠するも流産2回
左大巨冷え

左外関陥凹、
左陽池 冷え
腎兪陥凹深い

…【気虚】
歯痕あり

…【内風】
舌:戦アリ
手先の震えあり(脉診時)
妊娠時の非常にきついつわり(流産確定後も1週間以上続く、疑われる病気はなし)

…【オケツ】
舌裏怒脹あり
爪の根元昔から黒い
小腹急結ややあり、
右臨泣やや詰まりきつい
大椎細絡あり、少し熱感あり、盛り上がり

..病因病理
主訴は肩こりと便秘、不妊である。肩こりは中学ぐらいからおこり、変化がなく現在に至っている。便秘も、同じく中学ぐらいからおこり、変化はない。お腹の張りも感じず、生理前にひどくなり、生理がくると下痢になるという状況である。中学の頃からお腹の張りを感じない便秘、肩こりがあるということから、脾気の弱さと肝鬱の可能性が伺われる。便秘で張りがない状態で4,5日に1回ぐらいの便通である。生理前になるとイライラ、落ち込みなどと共に便秘が悪化し、生理がくると下痢となって便通がつく。生理前の肝気の高ぶりに脾気が押さえられ便通に影響し、生理によって肝鬱が疏通されると便通がつくのではないかと思われることから、脾気は肝気のありように強い影響を受けている。

体重が30代から増えている。仕事が忙しく食事時間などのずれで1ヶ月で3キロ増え、その後減らず。また妊娠しつわりで減少するものの流産しその後逆に増加ということが積み重なり10キロの増加している。これは、腎気に負担がかかると排泄する力が不足し体重が増加し、直接的な負担がとれても蓄った体重を裁くほどの腎気はないため、そのまま体重増加になっているのではないかと思われる。そして便通の様相からも腎気は肝気の影響を強く受けやすいことが伺われる。

この弱りがあり肝気に影響されやすいということは、脾気へのバックアップも不足しがちとなりオケツも生成されやすい状況であると考えられる。指先の爪が赤黒い、舌の根本の赤黒さ、臨泣のつまり、大椎周りの細絡などから思われるオケツは、不要なものを裁く腎気の力不足があり、そしてもともとの強い肝鬱がより強くなり、脈をみるときの手先の震えなどから、内風のおきやすさもうかがえ、腎気の弱さが肝鬱オケツの生成へつながる悪循環と、肝鬱により内風を生じさせていると思われる。また、この強い肝鬱は脾気に影響をあたえやすく内湿、オケツの生成を促しやすい状況も伺える。

過去の2度にわたる妊娠ー流産のときに、非常にきついつわりとなっている。そのつわりは、流産が確定した後も一定期間(1週間ほど)のこり、通常のつわりー流産と違う経過となっている。妊娠によって、非常につよい気の上逆がおこり、脾気に影響しつわりとなった。強い気の上逆そのものが腎気をそこない、また流産も腎気に負担となりより気の治まりどころを失い上逆が続いてしまったのではないかと思われる。

腎気の支えが不足しがちで、気の上逆が納まりにくく肝鬱内風がおこりやすいことは、平素よりおこっている舌の戦、手の震えなどから明瞭である。また腎気の弱さから便通や体重の状況から伺われる排泄がスムーズに行われなわれず肝鬱オケツも生成されやすいと思われる。

寝つきがよく充分寝ても、翌日に疲れが残ることがよくあり、妊娠するものの流産になってしまっている。腎気の不足が伺われる。肝鬱を納め内風を納めオケツの排泄を促すためにも、腎気の充実が臨まれる。そして腎気のバックアップや肝鬱が納まってくることによって、脾気への影響も減少されるのではないかと思われる。

…弁証論治
弁証論治
腎虚 肝鬱オケツ 内風
益気補腎 疎風納肝 

治療方針
腎気をたてることを中心とし、腎気の増加によって、肝鬱や内風が納まることを期待する。また、腎気が立つことによって脾気のバックアップとなりオケツが生成されにくくなることも期待し、基本的に肝鬱、内風、オケツに対しては処置をしない。肝鬱、内風、オケツが直接的に身体への問題となっている場合のみ最小限のアプローチをする。

..治療経過

ビッグママ治療室初診
大巨 関元 温灸
左外関、左陽池、三陰交 右臨泣、至陽(温灸)、腎兪、脾兪、次髎、
その後、週に1,2回のペースで鍼灸治療

至陽、臨泣、陽池など冷え、弱さが明瞭な部位を使い、全体の気血を動きやすくしておき、大巨、関元、腎兪を中心に腎気を立てることで、脾気へのバックアップを狙う。

1ヶ月後、真田クリニック板倉Dr受診、漢方を飲み始める。

Drからのコメント:
5ー6月、当帰芍薬散と防已黄耆湯 肝鬱は鍼灸におまかせして、当帰と黄耆で肺気、肝気をうごかせるエネルギーとする。
7月、8月 梅雨おわり、内湿がつよく膈におよび、なおかつ胃気の不降もあり。このため、防已黄耆湯→小柴胡湯にする
8月初旬、不妊治療の疲れからか、むくみや手の震え内湿などがきつくなる。
(腎気への負担が強く、気の上逆、内風がきつくなっている可能性)

3ヶ月後、米山からのコメント:
少し手の震えがあり、内風を井穴で調整し、補脾の治療にくわえました。体重をコントロールしましょう

Dr板倉からのコメント:
脾虚あり、胃の和降が上手く行っていないので、一度当帰芍薬散をお休みします。客観的にしようとしすぎない。

9月、残暑になり 湿が多くなる、舌もやや羸痩となり、胃気もよわい。胸脘痞悶も強く、膈への湿も多い。→当帰芍薬散の補血薬が、湿をのぞき、胃の和降するを障害になると考え、当帰芍薬散中止、小柴胡湯のみとする。

米山からのコメント:
ご本人も治療に前向きに納得され、食事記録をつけ体重コントロール。脾気腎気の調整を行う

Drからのコメント:
10月残暑もおわり、膈のつまり軽減、当帰芍薬散再開
11月膈のつまりもとれたので、小柴胡湯を中止、当帰芍薬散のみで

ご本人も治療に前向きに納得され、食事記録をつけ体重コントロール。
脾気腎気の調整を行いながら10月当帰芍薬散を再度飲み始め移植周期、無事に妊娠。
妊娠中重度の悪阻、妊娠中毒症などあるものの無事に出産。