弁証論治:

0196: 二人目不妊、39才自然妊娠での妊娠出産

<問診表>

37歳 女性
血圧:106/65、身長:155㎝、体重:47㎏(体重は昔からこれくらい)
仕事:立ち仕事
家族構成:夫、子供一人

主訴:1、冷え症(特にふくらはぎ、お尻などの下半身)、2、下腹部痛

【今一番つらい症状について】
1、冷え症・・・産後のいつの頃からかはわからないが、お尻やふくらはぎなど下半身に冷えを感じるようになった。冬はお風呂上りでもひんやりして感じる。職場で足元が冷える。

2、下腹部痛・・・流産後、常に下腹部に痛みがある。流産後は腰が痛いこともある。もともと若い頃から排卵の頃に下腹部の痛みを感じていた。出血したこともあり、病院に行くと排卵出血だから心配ないと言われたことがあった。

【その他に治したい症状】
目の疲労・・・子供の頃からあるアレルギーが産後ひどくなり、同時に目の疲れも感じるようになった。アレルギーは1年を通してあるが、しいて言えば夏はましな気もする。アレルギーは喉の違和感や鼻炎の症状やひどくなると喘息っぽくなる。

【ふだんの状態について】
(体調の悪い変化)
肉体疲労時、気を使った後、睡眠不足の時、旅行の後

(風邪について)
風邪はめったにひかない
風邪を引くとどの痛

(食事)
食欲は普通で、35歳頃より食欲が落ちている。
食事時間は規則的で、朝7時、昼12時、夕18:30。
30分以上かけてよく噛んで食べる。
空腹感はよくあり、よくおいしく食べられる。
35歳を過ぎた頃から、食後のお腹がよく張る。思い当たる原因は無い。特に生理前や夕方からお腹が張ることが多い。
よく食べるのは白米、パン、ヨーグルト。
好きな食べ物は寿司、てんぷら、魚介類、果物。
嫌いな食べ物は特になし。
間食は小学生のころからよくとる。クッキー、チョコ、せんべい、アイスなど。職場でおやつが出るので食べる。

(水分)
1日に飲む量は200ccのコップで9杯で約計1800cc程度。
飲むのは、麦茶、ルイボスティ、豆乳、牛乳(たまにジュース、炭酸)。
口喉などの渇きは辛い物や味の濃い物を食べた後や暑い時だけ。違和感もめったにない。

(飲酒)
週に4~5回、ワイン1~2杯。18歳から36歳現在まで。但し、春の流産後から禁酒中。

(タバコ)
吸わない。

(大便)
2日1回出る。
便秘でお腹が張ってつらいことは時々で、薬は使わない。
特に産後は、便が出切らない感じがよくある。
便の形はバナナ、コロコロ、軟便で、量はこぶし大。
便器に付着することはよくある。
臭いは汲み取り程度でよく臭う。

(小便)
1日10回。
残尿感、尿切れが悪いこと、尿の色が黄色いことは、時々。
産後から夜間排尿は時々で、起きるときは2時頃に1回。

(睡眠)
就寝22時頃、起床6:30。
流産後、寝付き、寝起きは悪い。
仕事や訳のわからない夢をよく見る。
翌日に疲れが残ることは時々。

(婦人科の状態)
初経11歳。
生理周期は28日、生理期間は5日間。
生理血は出血した時の色で、小さい塊、粘った膜が混じる。
量は普通で、生理2日目が量が多い。
生理痛は1~2日目に鈍痛。
生理2~3日前から胸の張り、腰の痛み、下腹の痛み、吐き気、イライラ、後頭部の頭痛があり、生理が来ると症状は無くなる。
排卵時期に、卵巣周辺の張りと痛み。

30歳で結婚し、妊娠を希望してすぐ妊娠し、31歳で出産、母乳はよく出た。出産後は腰痛がひどくなり、少し鬱気味だった。出産後は生理の量は減った。
34歳頃から二人目の妊娠を希望し、37歳で妊娠するも8週で心拍確認できず流産となり手術する。流産後は、体調は悪くはないが腰痛と下腹部痛(主訴2)がある。流産後、生理の量が増えて普通に戻る。

<時系列>

昔から・・・排卵頃に下腹部痛(現在まで)。
20歳頃・・・体重47kg(現在まで)。
25歳・・・卵巣嚢腫(薬で散らす)。
30歳・・・結婚
31歳・・・妊娠を希望してすぐ妊娠し、第一子出産。
     産後、腰痛がひどく、少し精神的に不安定だった。
     産後、便がスッキリ出にくい(現在まで)。
     産後、アレルギーが悪化(現在まで)。
     産後、目が疲れやすい(現在まで)。
     産後、時々夜間排尿に起きるようになる(現在まで)。
     産後、生理の量が減る。
30代中頃・・・下半身に冷えを感じるようになる(現在まで)。
34歳・・・第二子の妊娠を希望する(現在まで)。
35歳・・・食欲が少し落ちる(現在まで)。
     食後にお腹が張りやすくなる(現在まで)。
37歳春・・・心拍確認できず、流産、手術する。
      下腹部の痛みが常にある(現在まで)。
      腰痛も感じるようになる(現在まで)。
      寝付き、寝起きが悪い(現在まで)。
      生理の量が増えて普通に戻る。
37歳秋現在・・・冷え症。下腹部痛。

<切診情報>

【脈診】
右尺 やや硬い

【舌診】
舌質 淡紅から淡白
舌苔 白苔が厚め
歯痕あり
戦あり
舌裏少し暗く、怒張少しあり

【腹診】
左肝の相火あり
臍周 弛み
気海 弛み、抜け
関元 弛み

【経穴診】
右内関 陥凹
列缺 こそげ
右太淵 腫れ
左外関 動き悪い、やや冷え
左陽池 冷え
左神門 硬結

左大腿から下腿の胆経 つっぱり
左大都 陥凹
左公孫 大きい陥凹
右臨泣 少しつまり
三陰交 やや弛み
復溜 冷え
左陰陵泉 つっぱり

【背候診】
右肺兪 きつい陥凹
坐位の時は身柱を中心に背骨が右に凸の側弯、俯伏せだと側弯ではない
身柱からTh4までの右夾脊 筋張り
胃兪 陥凹(左>右)
腎兪 陥凹(左<右トップ)
右次リョウ つまり

<五臓の弁別>

【肝】
生理2~3日前から胸の張り、腰の痛み、下腹の痛み、吐き気、イライラ、後頭部の頭痛があり、生理が来ると症状は無くなる。

31歳・・・妊娠を希望してすぐ妊娠し、第一子出産。
     産後、生理の量が減る。
37歳春・・・心拍確認できず、流産、手術する。
      寝付き、寝起きが悪い(現在まで)。
      生理の量が増えて普通に戻る。

戦あり
怒張少しあり
左肝の相火あり
左大腿から下腿の胆経 つっぱり
右臨泣 少しつまり

【心】
左神門 硬結

【脾】
食べ過ぎるとお腹が張ったり体調が悪くなる
間食は小学生のころからよくとる。
便秘でお腹が張ってつらいことは時々。
便器に付着することはよくある。

31歳・・・妊娠を希望してすぐ妊娠し、第一子出産。
     産後、便がスッキリ出にくい(現在まで)。
35歳・・・食欲が少し落ちる(現在まで)。
     食後にお腹が張りやすくなる(現在まで)。

舌苔 白苔が厚め
臍周 弛み
右内関 陥凹
左大都 陥凹
左公孫 大きい陥凹
三陰交 やや弛み
左陰陵泉 つっぱり
胃兪 陥凹(左>右)

【肺】
アレルギーは1年を通してあるが、しいて言えば夏はましな気もする。
アレルギーは喉の違和感や鼻炎の症状やひどくなると喘息っぽくなる。

31歳・・・妊娠を希望してすぐ妊娠し、第一子出産。
     産後、アレルギーが悪化(現在まで)。

列缺 こそげ
右太淵 腫れ
右肺兪 きつい陥凹
坐位の時は身柱を中心に背骨が右に凸の側弯、俯伏せだと側弯ではない
身柱からTh4までの右夾脊 筋張り

【腎】
(体調の悪い変化)肉体疲労時、気を使った後、睡眠不足の時、旅行の後
特に生理前や夕方からお腹が張ることが多い。
残尿感、尿切れが悪いこと、尿の色が黄色いことは、時々。
翌日に疲れが残ることは時々。

昔から・・・排卵頃に下腹部痛(現在まで)。
25歳・・・卵巣嚢腫(薬で散らす)。
31歳・・・妊娠を希望してすぐ妊娠し、第一子出産。
     産後、腰痛がひどく、少し精神的に不安定だった。
     産後、便がスッキリ出にくい(現在まで)。
     産後、目が疲れやすい(現在まで)。
     産後、時々夜間排尿に起きるようになる(現在まで)。
30代中頃・・・下半身に冷えを感じるようになる(現在まで)。
37歳春・・・心拍確認できず、流産、手術する。
      下腹部の痛みが常にある(現在まで)。
      腰痛も感じるようになる(現在まで)。
      寝付き、寝起きが悪い(現在まで)。

右尺 やや硬い
臍周 弛み
気海 弛み、抜け
関元 弛み
左外関 動き悪い、やや冷え
左陽池 冷え
復溜 冷え
腎兪 陥凹(左<右トップ)
右次リョウ つまり

【気虚】
歯痕あり
舌裏少し暗い

<病因病理>

子供の頃からアレルギーがあり、大人になっても治っていないことから素体として肺気の弱さが窺える。また若い頃から排卵時期に下腹部痛があることから、排卵という生理的なことが、この方の体にとっては少し腎気への負担となっていることが分かる。

腎気の弱さはあっても、30歳で妊娠を希望してすぐに子供を授かっていることから、それなりに腎器は成長充実したと思われる。しかし、出産でかなり気血を消耗し、全身的な気血両虚となり、色々な体調不良が引き起こされ、それがなかなか回復しない状況が続いている。

そして産後、いつの頃からか下半身に冷えを感じるようになり、腎虚、特に腎陽虚が深くなっていることが窺える。そのために34歳で第二子の妊娠を希望するも、第一子の時のようにすぐには妊娠できず、妊娠に3年を要し、なんとか妊娠には至ったものの、腎気不足もあり妊娠継続できなかったと思われる。

この流産が更に腎気を傷ってしまい、排卵時期に時々だけ起こっていた下腹部の痛みが常に起こるようになり、腰痛も起きやすくなった。臍周、気海、関元の弛みや抜けからも、腎虚による下焦の弱りが明白である。腎気が落ちた分、肝気が立ちやすくなって寝付きも悪くなり、寝て気が収まると陽気不足のため朝起きがたくなった。

腎気が落ちたために、肝気を張りがちになり、生理前に胸の張りや吐き気、イライラ、頭痛などの気逆も起こりやすい。また食後にお腹が張りやすいとのことだが、生理前や夕方に張ることが多いこと、35歳から食欲が少し落ちたとのことだが食事量は普通でおいしく食べられていることから考えると、脾気自体の虚損が深くなったというよりも、肝気が強くて横逆したり、夕方に腎気の支えが無くなるなどで派生して起こっている可能性の方が高いと考える。

まずは産後、流産後と、落ち続けている腎気の回復を図ることで主訴である下肢の冷えや下腹部痛は改善されると考えられ、ひいては第二子の妊娠、出産へとも繋がっていくと考える。

<弁証論治>
弁証:腎虚を中心とする全身的な気虚
論治:補腎益気

<治療指針>
腎の温陽を中心に、まずは腎気の立て直しを図る。また補腎下焦による腎の根を付けつつ、元々弱い肺気も同時に補うことで、肝気が収まりやすくなるようにしたい。

脾気の弱りに関しては、食事量など自己養生で注意を促したい。

<生活提言>
一人目のご出産でかなり気血を消耗してしまい、それがなかなかうまく回復できず、じりじりと身体の力を落としていき、第二子の妊娠にも月日を要し、残念ならが流産になってしまったと考えられます。

出産、流産と、全身の生命力を一段落としてしまったために、元々の弱さの表れであるアレルギーや排卵時の下腹部痛の悪化に加え、色々な体調不良が起こってしまいました。

まずはこの落としてしまった生命力の底上げが必要です。そのためにはしっかりと睡眠をとってあげることが大事です。22時には就寝していらっしゃるので早めに寝るように心掛けていらっしゃるのだと思いますが、それでも翌日に疲れが残っていて疲れを取り切れていないことが窺えます。生命力を一段落としたために、睡眠の質が悪くなって疲れを取り切れないのだと思われます。もっと寝たいと感じるようであれば、睡眠時間を長くしたり、夜に支障のない程度で昼寝をしてあげるのも良いでしょう。

またおへそや下腹部のお腹の力が無くなっていますので、寝る前に棒灸でお腹を温めてあげると寝付きが良くなり睡眠も深くなります。これを続けることで生命力の底上げにもなります。下腹部の力が無いということは生命力の中心である身体の土台の力が無いということです。身体の力の無さが下腹部の痛みとしても現れていますので、腰やお腹にお灸や棒灸をしてあげることは、主訴である下半身の冷えや下腹部痛を取るだけでなく、第二子の妊娠出産にも繋がっていきます。

次に食事についてですが、食べ過ぎることも身体の力を落とすことになります。妊娠への準備時期である生理前の高温期や夕方疲れた時など、身体の力が他で使われている時に食べ過ぎると消化に回す身体の力が足りず、お腹が張りやすくなってしまいます。今は生命力が一段落ちた状態であるので、身体に負荷が掛らないように、特に高温期や夕食は食事の量を少し減らして過ごしてみて下さい。