カテゴリー : 不妊・婦人科の症例集 30代後半 40代 不妊 不育

『あの頃の自分に、あせるなって言ってあげたい』(38歳、41歳、44歳出産)

概要

不妊、胚盤胞移植での子宮外妊娠、ヘパリンを必要とする不育症、妊娠糖尿病と沢山の困難がありましたが、体調を整える内に自然妊娠。ガッツで乗り越えて3人のお母さんになられました。

(この症例の弁証論治→不妊不育からの出産弁証論治
【case:0036】

ご相談内容

32歳のご結婚から妊娠を希望され、流産を経ての3年にわたる不妊治療歴をもったKさんがいらっしゃったのはもう10年前になります。

35歳のKさんは、「35歳で卵子老化」と言う言葉にとても恐怖を感じてあせっていました。そして、高度生殖医療をあせっておこない、「今じゃないと思いますよ」という私のアドバイスに、「でも、時間がないんです」とおっしゃり、胚盤胞移植に臨まれ、残念ながら子宮外妊娠。

子宮外妊娠、流産の回復からスタートした身体作り。第三子は44歳での出産になりましたが、ご本人が出産直前におっしゃった、

『あの頃の自分に、あせるなって言ってあげたい』という言葉が印象的でした。

焦る気持ち、とてもよくわかります。そして、その”焦る気持ち”を前向きな原動力にして、ガッツで3人のお母さんになったKさん。少しその彼女の歩みを振り返ってみたいと思います。

東洋医学的診立て

子どものころから冷え性で冬が辛く感じるような陽気不足があり、20代後半から夜間排尿が出るように、腎気は不足気味であり、このころに脾気(胃腸の力)も落としている。

このことは、20代は155センチ48キロ(BMI19.97少しやせ気味)であったのに体重が自然と5kg減少してしまい、43kg(BMI17.89の痩せすぎ)になっていることからもわかる。

このころより、しもやけが再発。足が冷たくて眠れないようになっている。また、同時期に口呼吸が多くなり口が渇くという愁訴が出ている。肝気の横逆で脾気が落ちたことが体重の減少まで到達し腎の器がひとつ小さくなってしまったと思われる。

小さくなった脾気は、心気への養いを充分にすることができず、つよい肝鬱による内熱もあったため、口を渇かし、焦げ臭い体臭となっていった。霊道のこそげ、内関の陥凹、心兪のゆるみなどは脾気が充分に心気を養えなくなっている状態を示している。舌証をみると、舌根部には白苔があり、舌中央部は苔がはげてなくなっているので、腎気は不足がちながらまだ脾気をバックアップをしており、脾気を中心に陰気が不足している状態を示していると考えられる。

東洋医学的弁証論治
弁証:脾腎両虚、心陰虚(心血虚)、肝鬱、心熱
論治:補脾補腎
治療方針:陽虚に傾きがちな脾腎を養いながら、心熱、肝の鬱熱を納まることを期待する。

一番の問題である、脾腎の両虚つまり素体の体力のなさをカバーすることと、強いストレス状態を取り去ることをしていくなかで、無事に妊娠は果たせています。

しかしながら、妊娠をすると、しもやけがある素体であることからもわかるように血液系(血液凝固系)の問題が非常に重要となってきます。そしてこの血液系の問題は、この心熱が原因となっています。心熱が過剰になって『血が固まりやすい』という状況は、もともとの体質的なものなのかと思いますが、これは不育症、そして寿命にも直結する大きな問題です。

無事に3人のお子さんに恵まれました。次の課題は、しっかりとお子さんの成長を見守り、養生とともに子育ての楽しい時間を送っていただきたいと思っております。この心熱は体質的なものだから、心熱だけを取り去ることは無理です。陽虚(冷え)に傾きがちな、陰陽両虚である脾腎をしっかりさせることが大切です。

冷えに傾きがちだけど、陰気も、陽気も不足しているということがポイントで、冷えに傾いているけど、問題を出しているのは、『心熱』という熱なのです。これが亢進すると、身体は痩せてしまいますし、血液は固まりやすくなります。重度の上実下寒の状況があるわけです。

私が、ただ単に『冷やさないこと』を目標にしてはいけないということを考える根っこがここにあるわけです。

気虚を救うという発想が一番安全で効果的で優先すべきでしょう。そして妊娠中という緊急事態を切り抜けたら、全身を養うイメージで、お食事もされるのがよいかと思います。

人生は、長い。お子さんたちとの時間は始まったばかり。ゆっくりと、あせらずに、自分の器を大切にして成長してゆきましょうねえ。とーっても楽しみです。

治療経過

35歳からの9年にわたるあゆみで無事に44歳で第三子を出産。

あとがき

沢山の課題が次から次へと出てくる症例でした。不妊、不育症、そして胚盤胞移植での子宮外妊娠。体重がBMI17近くまで落ちながらもガッツで乗り越えていく彼女の姿に、ただただ、感心するばかりでした。少しでもお力になれるように寄り添えるようにと願いながらの9年間。3人のお母さんになった彼女はまばゆいばかりです。

「不妊」「不育」だけを取り出して治療のテーマを持つことの無意味さも教えてくださいました。また、身体作りと食事についても実体験を中心に、一緒に沢山考えて体重減少と妊娠糖尿病を乗り切っていきました。

血液凝固系の問題は不育症の問題だけではなく、ご自身の人生のテーマでもあります。お子さんのためにも、ご自身の健康管理をしっかりとしながら、楽しい日々を過ごしていただけるようにと祈っております。