カテゴリー : 不妊・婦人科 コラム

不妊治療を終えるとき

3)自分で決める人。終わりの見えない不妊治療からの卒業の仕方

いまから30年以上前、私がこの世界に入る前の話です。
私の友人が

「35歳の誕生日を過ぎたときに、大学病院の不妊治療を担当してくれていた先生から治療は終了と言われたのよ」

と仰っていました。いまから30年以上前の高度生殖医療が一般的になる前までは、これが現実だったと思います。そして、自分が『やめる』という決心をするのではなく、医療者側から治療終了を言い渡されるのは、残酷だけど、飲み込みやすいのかも知れないなとも感じました。この友人も、お医者さんからのこの言葉で、不妊治療を終了したのです。

35歳で、医者から「不妊治療終了」と言われれば、確かにそのときには悲しいかも知れません。でも、この言葉は受け止めざる終えません。だって、病院に行くことそのものが許されなくなってしまったのですから。私の友人も『こたつの中で泣きはらしたのよ』と言っていました。それでも、35歳からご夫婦二人の人生を歩む準備をし、二人の生活を築くことを考えることは、お二人にとって一つの区切りであったと思います。

現在は、「治療終了」が見えない時代に入ってしまっています。
ある不妊治療クリニックは、「採卵が1年出来なかったら治療終了」というガイドラインをもっているようで、ひとつの明確な指針です。ただ、この指針でクリニックを卒業なさったある方は、どうしても納得がいかず、別のクリニックであと1年ほど様子をみていただき、静かに治療からフェードアウトなさいました。ご自身の気持ちに区切りをつける時間が必要だったのかも知れませんね。

私が不妊治療に寄り添わせて頂いて、特に西洋医学的な不妊治療について考えるときにはポイントがあります。西洋医学的な不妊治療を、結果が期待できるところまでは、やっているのかどうか?やるべきところまで進まないで、感情的に、または情報の欠落から治療が進んでいないときには、前に進むべきだとアドバイスしています。そしてこの段階のするべきことを終えている場合は、東洋医学的な身体作りの介入を考えます。この介入によって、同じことをしても結果がかわることもあります。また、器質的に動かしがたい問題があるのかどうか。この場合、選択肢がどうしてもない場合もあります。ご夫婦でセカンドオピニオンを受けた上での終了を決断するときではないかと思います。

そして、やるべきことはやった上で、ご自身で『治療を終える』ことを決めなければなりませんね。
どうしても決められないとき、相談してみて下さい。少しのお手伝いができるのかもしれません。
治療を終えることがどういったことなのか、一緒に考えてみましょう。

4)東洋医学の臨床家として、生老病死する人間の存在

私は、東洋医学の臨床家です。お身体を拝見して、その身体の人生の流れの中でのありようを考えていきます。人は産まれ、育ち、成熟し、病み、死んでいく存在です。そのなかで、妊娠を希望していることもまた一つの人生のイベントだと思います。

そして東洋医学的な観点で、その方の生命力を伸びやかにし、より豊かな人生を歩んでいただくお手伝いをしています。その時々にイベントがあります。不妊という大きなイベントがある場合もありますし、更年期、身体の痛み、精神的な不安定さ、いろいろなイベントがあります。

先日ある患者さんが治療中に仰った言葉が印象的でした。その方は、もともとはお子さんが欲しいという目的で西洋医学的な不妊治療とあわせ通院なさっていらっしゃいました。現在では、病院に通うことはやめ、当院にも健康管理とうことでいらしています。腰痛が一番のお悩み。治療を受けながらふと『私も子供が欲しかったんだけど、まあ私には違う人生の方がいいって神様が言ったのかしらね』と笑っていらっしゃいました。

笑って言えるまでには、多くのことを飲み込んだのだろうなと思います。子供が欲しくて、子供とご主人と3人で歩む人生を長らく思い描かれていたことだと思います。ご自身がお母さまが44才の時のお子さんであったことも、不妊治療に対して前向きに取り組みやすい気持ちに影響していたと思います。もう少し頑張ればなんとかなるのではないかと。私もなんとかならないかと切に願っていました。

ご夫婦とても中がよくて、また二人でバリにいくのよとおっしゃっていました。うふふと笑う笑顔が印象的でした。

私はこの方が、どんなに多くの努力をしたのかを知っています。肉体的にも、経済的にも、時間的にも大きな努力を地道に積み重ねていらっしゃいました。その努力がかなわないという現実を、彼女はどのように飲み込んだのか、私には想像もつきません。かなわないこと、思い同理にならないことを飲み込み、自分の人生を豊に歩んでいかれる姿に、美しいなと感じました。そして許されている人生を豊にすごすために努力していきたいですね。