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2010年 山下湘南夢クリニック ゲスト講演『不妊と鍼灸治療』

一連のシステムがスムーズに動くと言うこと

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人間を一本の木にたとえる、つまりイラストの左側にあります「木」がそのありようです。

「妊娠」ということを中心に考えてみましょう。

上の図をご覧ください。

腎というのは、「木」のどっしりとした大地をさしています。木をしっかりと支え養う肥沃な大地が「腎:生命の土台」と言う言葉で表現されています。

根っこの部分と大地の部分、つまり「脾と腎」東洋医学でいう、胃腸の力(脾)と生命力の源(腎)の力です。

蓋となっている肝は暢びやかな心身。天空に向かって気持ちよく生い茂る枝葉、幹のありよう、そして全体のスムーズな循環をあらわしています。

この腎と肝に支えられ、守られ、妊娠にいたる一連のスムーズにおこることが妊娠にはとても大切です。

精子が順調に卵管を旅し、卵子が卵管采に上手く把えられ、卵管膨大部で、精子と卵子の出会いとなり、受精卵が出来る。

初期胚、桑実胚、胚盤胞と、卵管は受精卵を育み、運び、腎の土台がつくりあげたふかふかのお布団にふんわりと受精卵を着床させます。

この一連の流れは、すべて、腎の土台と、肝の暢びやかな心身が大切なのです。

東洋医学はこの腎の土台を作ることや、肝の暢びやかな心身を作ることにとても力があります。そしてこの二つは妊娠にいたる旅にとってとても重要なのです。

IVF-ET(体外受精ー胚移植)では、この図の中央、「精子の旅」と「出会い」「受精卵の旅」にとても大きな力を発揮してくれます。

物理的に卵管の閉塞などがある場合、精子と卵子の出会えず受精卵が出来ません。

一般不妊治療と言われる人工授精までの『身体の中でおこることの応援』を中心とする治療では、この物理的に出会えていない状態についてはなすすべがありません。20年前の彼女は、多分ストレスのために卵管がスムーズに動くことが出来ず、精子と卵子の出会いが妨げられていたのでしょう。現代でしたら、IVF-ET(体外受精ー胚移植)が彼女の強い味方になったと思います。

西洋医学の治療で、過度の排卵誘発など負担になる治療を受け続けると、生命の土台である腎を痛めてしまいます。不妊治療を受け続けていてだんだん身体の調子が悪くなってきたとおっしゃる方はとても多くいらっしゃいます。

【沢山排卵させればチャンスが増える】確かに、多少の過排卵は治療の性質上必要とされるでしょう。でも、腎に大きな負担をかける薬漬けとも思われる治療は、腎の土台をすり減らし、却って悪循環をおこし、『どんどん卵巣の反応が悪くなり、薬も大量に必要となってしまった』『沢山の卵はとれたけど、妊娠出来なかった』そして『いくら薬をつかっても反応しなくなってしまった』という腎の疲弊状態を招いてしまいます。

では、全ての西洋医学的治療をやめて、自然に任せる一本に絞る東洋医学的な妊娠への道が唯一最良の道でしょうか?

私は、『妊娠に致るための旅』は、その年齢、状況などにより個々に判断されるべきだと考えています。年齢が若く不妊治療歴が短ければ『自然』に任せ、東洋医学的な不妊治療だけで挑戦する時間をもつのもとてもよいと思います。不妊治療のファーストチョイスが東洋医学(鍼灸)であっても、かなりの割合の方への解決策になると思います。

しかしながら、卵管などに物理的な要因がある、精子の数が極端に少ないなど、『自然』に任せる治療法だと、『精子と卵子の出会い』が出来ないと考えられる場合は、やはり『西洋医学』の手を借りるという選択肢も考えに入れておかなければなりません。

ましてや年齢要因が絡んでくると、選ぶことの出来る範囲が刻々と減ってしまいます。その方のチャンスを最大限に生かすためにはどうしたらいいのかを考えることが大事です。

このためには、不妊カウンセラーと一緒に『不妊治療の作戦』をたて、計画的に目処をもって前に進むことが大事です。不妊治療では『時間の無駄』が最大の敵です。ご自身の大事な時間を無駄にしないように、そしてただ闇雲にあせり過度な治療で腎を痛め悪循環に陥らないようにと願わずにはおれません。

私はもう10年以上IVF-ET(体外受精ー胚移植)をなさる方々のお身体を東洋医学的な四診を通じて拝見してきました。シンプルに、脈を診て、腹を診て、舌を診て、皮膚を診ることを通じ、『こんなに?』と思うほど強い治療繰り返し、繰り返し身体を痛めつけてしまった方を沢山拝見しています。

そうした経験を通して、できる限りナチュラルでスムーズな高度生殖医療は、結局妊娠への近道ではないかと思うに致っております。山下湘南夢クリニックはじめ、加藤レディースクリニックグループのシンプルなARTを私が信用できるものだと思う所以であります。

そして、山下先生の採卵、移植などのスムーズで確実なテクニックは、信頼に足る技術を提供できる数少ない先生のお一人だと思います。シンプルでナチュラル、そして確実な技術によるIVF-ETは、東洋医学でいうところの、「腎」にも「肝」にも負担をかけず、「妊娠にいたる一連のシステムがスムーズに働く」妊娠に近い高度生殖医療なのだと私は理解しています。

妊娠は足し算治療では得られない。

無駄な足し算、念のためにの足し算をしない。

生命の土台である腎を痛めない

ストレスのない気持ちの良い暢びやかな心身。

妊娠ということを、息を詰めるように考え込まないでくださいね。
気楽に、肩の力を抜いて、楽しんではじめましょう!