本症例の患者さんは、ご主人の心配でこちらに来院されました。
当初、ご本人としてはつわりの時期も終わり『もう、大丈夫!』と
のことでした。
お体を拝見すると、大丈夫というご本人のお言葉は、その性格や、生き方の方向から出ている言葉だと
わかりました。お体が本当に大丈夫という状態ではありませんでした。
元来、素体の丈夫な方です、脾胃の状態もよく、腎気もすこやかで、一晩寝れば快調!疲れがふっとぶという
のは、その充実した素体からもたらされる恵みでしょう。その充実した脾腎の土台の上に、やる気があり、前向きな
気持である肝気がピンと張った状態であったことは、ご本人の健康への自信となっているかと思います。
出産は女性にとって、自然のリズムの中でおこり、状態さえよければ、それをきっかけに体調がよくなる
こともありますが、大きな虚損のきっかけとなり、体調を崩す始まりにもなります。
本症例の患者さんは、第一子出産後、生理痛が軽くなるなど、お血の状態が解決されるということは
ありましたが、貧血がすすむということ、また、妊娠出産が続き、第二子出産後は、腎虚が深くなって
いる可能性を思わせます。
充実した脾腎の土台が弱くなったため、その土台をよりどころとしている肝気は無理をして張るように
なってきています。陽明腑実をおもわせる、風邪の引き方、便通の状態などがそれです。これは無理をして
頑張るというご本人の肝気のあり方を思わせますが、根本の問題は腎気の虚損による、土台が
ゆらいだことによるものではないかと思います。
貧血の問題が解決されないまま今回の第三子の妊娠で、ご本人の
自覚以上に、脾胃の状態をあらわす経穴、腎気をあらわす経穴や脉状がよくないのは、出産による虚損が
進み、問題がより深くなっていることをあらわしています。
とくに、妊娠中でありながら、お腹が少し硬かったり、冷たかったり、張ったり。また尺位の脉が押し切れ気味なのは、
かなり脾腎の状態が弱っていることをしめしています。そしてお腹の赤ちゃんにとってもあまりよくない環
境であるのは明白です。
大椎囲りの冷え、太淵の実など、風邪の停滞があるようです。妊娠中ですが、まずこれを取り去り、腎気
を温陽し、脾気を済け、無事元気な赤ちゃんを出産できるよう、がんばっていきましょう。
弁証:寒邪停滞、脾腎陽虚
論治:温陽散寒、益気補腎。