私の受けたい治療⑧ 170を越えなくなった血圧グラフと便秘改善
大学病院時代には色々な患者さんを拝見することとなりました。
それも自分が担当者として、他科でのカルテや、それまでの状況をふまえ、
目の前の患者さんに自分の見立てで、自由に鍼灸臨床を出来ることは
大きな学びとなりました。
☆入院患者さんへの鍼灸治療
入院している患者さんは、体調管理を病棟でしているので、変化が客観的に
わかりやすく、勉強になりました。
なかでも、一番の大きな学びは、
2度の脳梗塞後に、入院されている70代の男性患者さんでした。
整形外科からのオーダーで、脳梗塞後の体調不良や便通の
課題を東洋医学で解決したいということでした。
☆カルテによる体調管理の正確さ
入院中の患者さんは、
・入院中という、規則正しい日常生活がおくられていること
・記録が管理された状態であること
・鍼灸治療が週に2回2ヶ月間連続しておこなわれたこと。
上記の条件がそろい、非常に変化がわかりやすい状態です。
ご本人が体調がよいとか、手が動きやすいといった感想的なコメントだけでは
忖度が生じ、どうしても正確な情報とは言えない側面もあります。
しかしながら、特に血圧と便通に関しては、しっかりと記録で変化がわかり、
また、リハビリからのコメントもとても参考になりました。
症例検討として当時、一つのレポートにまとめてあります。ひよっこ鍼灸師の私としては書くのがとても大変でしたが、大きな学び、そして臨床の自信がおおきくついた症例となりました。
☆☆2度の脳梗塞後の麻痺、高血圧、便秘
整形外科から紹介の東洋医学科初診の患者さん、
ドクターが『あなたの好きなやり方で治療していいよ』といつものごとくいわれ、カルテを拝見し、もう一度問診、体表観察をおこないました。
現病歴:
40歳:胃潰瘍の手術
59歳 脳梗塞による左半身麻痺(歩行可能でかなり回復)
72歳 3月 脳梗塞により右上肢の脱力
・若い頃よりの便秘症で週に1度程度の排便
・腎機能障害、高血圧症、
確かに、からだに麻痺があり、おつらそうではありますが、
それなりに、動かすことはできていました。
私はリハビリそのものは、整形外科でもおこなっていることだし、主目的とはせず、血圧の変動と、便通に注目しました。
☆☆血圧のきつい変動
カルテをみると、血圧は一日に何回か測定され、いろいろなことで、大きく変化していました。大きく上がったり、ガツンと下がったり。とにかく不安定な血圧でした。
それに薬を飲んでいるのに、便通も悪い状態。
この二つの改善ができないかと鍼灸治療をデザインしていきました。
☆☆治療方針 弁証
中経絡 気血両虚 腎虚
益補脾腎 疎通経絡
脾腎の気を補うこと、そして経絡を疏通していくことを治療目標にしました。
他科からの紹介でしたので、紹介の中心になっていた麻痺側へのアプローチはちょんちょんとし、その後自分の立てた方針をしっかりと行いました。
☆☆初診 様子見の鍼灸治療
合谷、支溝(TE6)(パルス) 手三里(LI10)曲池(LI11)パルス
風池(GB20)
初診は鍼灸が初めてだったので少し様子見といういことで、軽く麻痺の出ているところにパルスをしてみました。
☆☆2-5診 ぐっと改善、前に進んだ体調、血圧、便通
初診後、手が少しよくなったと言うことで、しっかりと治療をはじめました。
合谷ー支溝(TE6)、手三里(LI10)ー曲池(LI11)パルス
足三里(ST36)、陰陵泉(SP9)、大巨(ST27)、天枢(ST25)、脾兪(BL20)、腎兪
風池(GB20)、気海(CV6)(灸)
腎兪には灸頭鍼をおこない、便秘対策で気海(CV6)にはお灸をいれました。
ここまでの治療で、便通がつきはじめ、5診のときには、拡張期の血圧が90から80に下がって安定してきた、昨日大量の排便があった、またリハから東洋医学の効果で手の運動能力が向上しているとのコメントがありました。
☆☆6−16診 笑顔がでて、血圧安定、便通良好
合谷ー支溝(TE6)、手三里(LI10)ー清冷淵(TE11)パルス
足三里(ST36)、大腸兪(BL25)、灸頭鍼
照海(KI6)、天枢(ST25)、腎兪、置鍼
風池(GB20)、天柱(BL10) 手技鍼
気海(CV6)灸
8診のころには最近身体全体が軽くなった、便通、血圧が良好とのこと。
笑顔が増えてきた。
麻痺などの症状がでているところには、筋パルスで対応。
体調そのものの管理は、足三里(ST36)など胃腸の経穴と、体幹腹部の経穴を使い、身体の軸をしっかりさせるということに注目。
便通に対して、気海(CV6)のお灸が大學病院にいながらも施灸がゆるされ、それが効果的であったことは注目にあたいしました。便秘で、シンプルに体調をあげ、お腹の力をつけるということが効果を出すのだと実感しました。
☆☆意外な結果、血圧のグラフの思いも寄らぬ改善
カルテを見ていて、驚いたのは、血圧の変動です。
入院患者さんですから、細かく診ていますが、この変動が滑らかというか、アップダウンが少ない。
ときに170を突発的に越えていた収縮期血圧が高くなっても150程度までで納まり、拡張期血圧も突発的に110を超えていたのが、90を越えることがなくなっていました。
なにかの動作、食べる、起きる、トイレなどで急激にあがり、急激に下がるというアップダウンの激しい血圧が、上がるときはあがるけど、滑らかでり、突発的な大きなあがりがなくなってきました。下がるのも大きく下がるということもなくなってきました。
全体に、安定した血圧になってきたのです。
☆☆便通の改善
便通も、鍼灸にいらっしゃる前は薬を使っているのにどうにもコントロール出来ず、
時に浣腸をして出すという状況でした。
鍼灸治療前は21日間で3回
鍼灸開始直後から21日間は出た5回に少しでた3回
鍼灸治療後は21日間で10回
著名な変化で、いまも記録を見返して驚いています。
5診をこえたころに、リハからのコメントで、東洋医学の治療で
身体機能も改善とあるので、私ではわからない西洋医学的な観点からも
改善がみられているんだなと嬉しくなりました。
血圧、便通も鍼灸でこんなにも変わるんだ・・良好に改善できるんだという実感は
その後の私の鍼灸治療に大きな影響をもたらしました。