着床前診断(PGT)への迷い、悩み

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着床前診断の迷いや悩み

不妊治療のご相談をしていて、難しい課題だと思うのが着床前診断です。

以前は、かなり審査が厳しく、着床前診断そのものにたどり着ける症例の方はごくまれでした。いろいろな制度がかわりここ数年はかなり取り入れる方が多くなりましたね。ただ、今回の保険適応とのかねあいで並用ができない項目になってしまいました。

 

☆着床前診断と出生前診断の違い

 

着床前診断と、ちょっと名前が似ているのですが、出生前診断というのもあります。これは非確定的検査と、確定的検査にわかれます。

詳しくはこちらを→出生前診断についてキチンと知っていますか?

着床前診断について、昔ながらの定義に当てはまるケースであれば、やはり着床前診断をした上での不妊治療については私も着床前診断をしたほうがよいという意見に賛同します。流産のつらさ、それも何度も繰り返す流産や死産は、体験した人にしか分からないところだと思います。その繰り返し・・・。

着床前診断はこういう場合における一つの灯りとなるかと思います。

 

☆体外受精で良好胚を移植したいということと、着床前診断について

体外受精をしていると、『良好胚を移植したい』という課題がでます。
つきつめると、着床前診断をした良好胚を移植したいと言うことにつながるのも、理解出来ます。

保険適応の前には、かなり着床前診断を取りこむ方が多く、ご一緒させていただきました。
ある方は、5個取れて4個良好胚、良好胚移植で妊娠、出産。

また別の方は7個取れたので3つ着床前診断をうけ、2つ良好。ご本人と相談して、着床前診断をしていない4つの胚の中からひとつを選択肢、先に移植し妊娠されました。私がなぜ着床前診断をおこなっていない胚からの移植を勧めたというと
・いままでの不妊治療の経過をみると、卵の問題よりもご自身の血流の問題が主ではないかと思われる。着床前診断の結果も、良好胚の確立が高い。だから診断をしていない胚も良好胚の確立が高く、今回、移植時にしっかりと鍼灸を取り入れ血流を改善するアプローチで妊娠出産につなげることができるのではないかと考えた。
・今回の着床前診断を受けてOKがでている胚を第二子用に残し、着床前診断をしていない卵を先に移植した方が、年齢要因の若い現時点の方が妊娠しなかったときも含めて、対応の幅が広がり、結果への可能性をあげることができる。
・今回、先に着床前診断を受けて妊娠に至っても、着床前診断を受けていない胚をどうするのかという課題が残ってしまう。

そんなことをあれこれ考えました。
なんとなくのカンだったのですが、この方にとっては着床前診断よりも、ご自身の血流をあげることが妊娠のチャンスを広げる課題ではないかと思ったわけです。
結果的に、診断を受けていない胚で無事に妊娠され、ご本人はとても喜んでいらっしゃりました。

☆妊娠と淘汰 そしてドクターからの言葉

妊娠には”淘汰”ということが、とても大切なプロセスとして存在します。

初期の妊娠であれば 日本産科婦人科学会より

”早期に起こった流産の原因で最も多いのが赤ちゃん自体の染色体等の異常です。つまり、受精の瞬間に「流産の運命」が決まることがほとんどです。この場合、お母さんの妊娠初期の仕事や運動などが原因で流産することは、ほとんどないと言って良いでしょう。”

これは事実ですね。

しっかりと基礎体温などをつけていなければ、気がつかないほど早くリセットがおこなわれ、流産とは思えないような状態も多いかと思います。これは自然なことです。

ただし、不妊治療をしていて、この状態を繰り返す人がいます。もう少し週数が進んでの流産ならば、不育症などの懸念と言うことになりますが、初期の段階では余りそういった解釈よりも、上記の日本産科婦人科学会での発表道理の解釈がされ、ドクターからは『卵の問題』『あなたには問題がありません』とされるかと思います。

そういった状態の方のご相談を非常に多く受けます。

そしてやはりあたりまえの”淘汰”のプロセスであることも多いのは事実です。

しかしながら、ではご自身の課題はないのかといえば、その方のお身体の状態によっては、卵を受け止める子宮の力をしっかりと底上げしてあげることは出来ると思います。

その手入れの上で、自然の淘汰であれば淘汰されるかと思いますし、この手入れは次の卵を十分に成長させ、次の受精卵のお迎え環境を作ります。つまり女性自身の卵受け入れ環境を整えるということです。

☆自然の淘汰と、ご自身で出来ることのはざまで

この二つの課題に対する見極めがなかなか難しいなあとは思います。
良好胚を移植しても妊娠出来ないときに、
  →良好胚でも遺伝子異常の卵
  →良好胚で遺伝子異常もない卵

この二つが存在することは事実です。

そして、母体側にしっかりと受け止める力があれば、良好胚で遺伝子異常もない卵ならば、子宮内膜にしっかりと根を下ろし妊娠が継続出来るのかなと感じます。

 

☆『少しだけ妊娠反応がでたのですが、継続しません』という方へ。

このケースが一番悩みが深いなと思います。
着床前診断を受けるという選択肢もありますが、ご自身の妊娠を継続し進めるパワー不足というケースが多々あります。私がお勧めするのは、まずご自身の血流など妊娠に関連するパワーをあげることです。これによって解決すれば遺伝子異常などの問題ではありませんし、ここをフォローしておけば、卵の質なども向上し妊娠へ向けて一歩前に進むことができます。この状態の上に着床前診断を組み合わせるのがよいのかなと思います。

この症例0179では結果的にこの血流の課題を解決することで、妊娠ー出産につながりました。『できる限りのことをしたい』というご本人との思いで取り組んだのがこの症例になります。
判定日hcg14 ガッツでフォロー!妊娠継続。38歳出産


☆保険適応の採卵と着床前診断のかねあい

『前回の胚移植は妊娠反応は出たものの、胎嚢確認ができなかったので、次は着床前診断をした卵を移植したい』

現時点では、保険適応の採卵には着床前診断ができません。
つまり、着床前診断をするということは、採卵の時点から保険適応の高度生殖医療は選べず、採卵から自費になるということです。

もともと、着床前診断は、不育症の診断がつき、ある程度のプロセスを踏んでおこなうということになっていました。保険適応の課題とまだ調整がついていないという感じがしますねえ。

高度生殖医療と着床前診断が保険適応になれば、いっそのこと、全ての胚を着床前診断してから移植したいという考え方もあるのかなとも思います。しかしながら、着床前診断そのもののリスクもあるのかなとも思いますので、このあたりはかなり迷うところですね。

 

☆高齢の不妊治療だからこそ、着床前診断をおこなうべき?

確かに女性側がある程度の年齢以上になってくれば、遺伝子異常の確立はあがります。ですので、だからこその着床前診断ということも理解出来ます。

ただし、着床前診断は胚盤胞に培養し、胚から細胞を取り出し検査するというリスクがあります。ここで、かなり迷う要素もでてきます。

はらメディカルのこの考え方は私は非常に現実的かなと思います。

着床前診断 はらメディカル
https://www.haramedical.or.jp/content/implantation/pgt

着床前診断 PGTをしない方がいい人

  • 胚移植不成功回数は2回以上あるが、1回の採卵で得られる胚盤胞数が3個以下の場合は、胚盤胞が貴重な場合、PGTのメリット<デメリットと考えます。PGTをせずに、胚移植をして結果を得る方が、総合的な出産率は向上すると思われます。
  • 胚盤胞の外側の細胞(栄養外胚葉)のグレードが低い場合
  • 年齢が高い場合は、PGTをすることで、本来であれば妊娠・出産できる胚盤胞を排除してしまう可能性があることを慎重に検討してください。また、年齢的に生検のダメージもうけやすいです。妊娠・出産を目標にする時、PGTではなく、2個胚移植で、移植のペースを上げることで、次の採卵時期を早めることが、総合的な出産率の向上に繋がると考えます。

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このはらメディカルの、

>妊娠・出産を目標にする時、PGTではなく、2個胚移植で、移植のペースを上げることで、次の採卵時期を早めることが、総合的な出産率の向上に繋がると考えます。

は、かなり現実的な意見だと思います。

そして私の臨床でも、胚盤胞まで培養途中で止まってしまうという方が、初期胚の複数移植で妊娠ー出産したケースは多く経験しています。

これは、もともと、胚盤胞移植を目指して採卵を繰り返すものの、1年以上胚盤胞にならない方が、『そもそも移植しなければ妊娠しないんじゃない?』という私の意見を聞き入れてくれ、初期胚2個移植で妊娠、無事に健康な赤ちゃんをご出産なさったという経験がもとになっています。これ以来、高齢の方で胚盤胞にスムーズにならない方の場合は、とにかく採卵出来た卵は『移植してみよう』という感じでお勧めすることが多く、結果的に出産まで多くの方がたどりついているのです。

はらメディカルのこのご意見を拝見して、納得出来るなと思うのも、この経験の積み重ねからです。

 

☆確率の問題との葛藤

 

以前にとあるドクターが患者さんに、

”社会生活が営めるレベルのご夫婦であれば、遺伝子異常の問題は確率の問題”とご説明なさっていました。

妊娠の中で流産は、ある程度の回数の中での確率の問題と考えるのかなと私も思います。早期の妊娠検査薬を使うことを諫められるのも、こういった初期の妊娠に対しての”淘汰”の側面を考えると理解しやすいですね。

ただし、体外受精になると、『妊娠判定日』はかなり早期であるのも事実で、悩みが増えますね。

いまの、保険適応の採卵では、着床前診断との並用ができません。
保険適応の費用の安さを考えると、顕らかな『不育症』の定義にあてはまっていないケースでは、『移植の回数』をあげる方法を採る方が現実的なのかなと私だったら保険適応の可能性があるのならば保険適応を選択しますねえ。

ただし、いままでの流産歴などで、遺伝子異常の課題が確立している(いわゆる不育症の診断がついている)のならば、当然着床前診断が最優先という選択も頷けます。

☆不育症の中での、血流(血液凝固系の亢進)に関すること。

不育症には、染色体異常のものと、血流によるものが含まれています。
この染色体異常のものでは、着床前診断は非常に有効だと思われます。

ただ、血流によるものは、
1)もともとの血流の悪さ、血液凝固系の亢進の課題と、
2)年齢要因による血流の悪さ

この2点が含まれていると思います。
昨今問題となるのが、2)です。
そして2)の問題を孕む年代は、染色体異常の頻度も高くなるわけです。

なかなか悩ましいですね。

☆不妊治療をしていてのドクターの言葉の受け止め方

不妊治療をしていて、初期の流産の場合は、不育症の血流問題などの懸念と言うことよりも、上記の日本産科婦人科学会での発表道理の解釈がされ、ドクターからは『卵の問題』『あなたには問題がありません』とされるかと思います。

そういった状態の方のご相談を非常に多く受けます。

そしてやはりあたりまえの”淘汰”のプロセスであることも多いのは事実です。

しかしながら、ではご自身の課題はないのかといえば、その方のお身体の状態によっては、卵を受け止める子宮の力をしっかりと底上げしてあげることは出来ると思います。その手入れの上で、自然の淘汰であれば淘汰されるかと思いますし、この手入れは次の卵を十分に成長させ、次の受精卵のお迎え環境を作ります。つまり女性自身の卵受け入れ環境を整えるということです。

今回ださせて頂いた症例の方は、妊娠判定日に

『先生、やっぱりいつものようにhcgが低くて14でした。ドクターからは、『妊娠が継続することはほとんどないと思いますよ。あなたのせいではなくて卵の問題でしょう』と言われました。いつもこんな感じです、なにか出来ることはないのでしょうか?』

こんなご相談の電話を、不妊クリニックからの帰り道を行く患者さんからいただきました。

私は、『次の再判定の日までとりあえず出来ることは全部しようよ!』と提案し、ここからは毎日、再判定日まで鍼灸治療を取り入れ、再判定日にぐっと妊娠の数字(hCG)が伸びていました。それからは週に3回の頻度で鍼灸治療をいれることで、子宮血流をあげ、無事に元気なお子さんをご出産されました。

当院では、凍結胚盤胞移植で判定日hcg3.5という方が一番低い数字で、無事に元気なお子さんを出産されたケースも経験しています。基本的な概念としては日本産科婦人科学会の言うとおりだとは思います。

でも、出来ること、やれる挑戦はあります。応援したいです。

Hcgが3.5というのは、新宿にあるとある有名クリニックでの出来事。
『この数字ならば、奇跡でも起きない限り妊娠は継続しません』とのこと。
でも、なぜだか奇跡がおきちゃいました。これを誰にでもあてはまる、どのケースでもあてはまるとは言うことは出来ません。やはり妊娠判定日にhCGが一桁であれば、奇跡でも起きない限り妊娠は継続出来ないと言うことはあたりまえだとは思います。

ただ、妊娠判定がでたのならば、再判定時までぐらいは粘ってみてもいいのかなとは思います。

そういえば、別の病院ですが、ホルモン補充周期での移植で、非常に薄い妊娠反応。ドクターが『リセットだね』ということで、すべての投薬を終了。しかしながら1週間後、確認のために病院を受診したら妊娠が継続していることが判明。再度ホルモン補充がなされましたが、残念ながら・・・という方がいらっしゃりました。たらればになりますが、あのときに、ホルモン補充をしたまま、再判定日まで様子をみたら・・・と心の中で考えてしまいました。

 

着床前診断、流産、不育、体外受精、迷い、悩み。
それでも、なんとか赤ちゃんとの出会いがありますようにと祈っています。