胚移植後の生活は「いつもと同じ」でいいの?
――コロナのステイホームが教えてくれたこと
2020年、突然のコロナ禍とステイホーム。振り返れば本当に大変な時期でした。私の治療院でも対応に追われましたが、換気環境がよかったこと、そして「妊活を止めたくない」という強い思いを持つ方が多く、キャンセルもありながら通院を続ける患者さんも案外多くいました。
この“社会全体が急に止まった”状況は、これまでとは全く違う世界を見せてくれたように思います。そして、不妊治療と長年向き合ってきた私にとって、大きな示唆を与えてくれた出来事でもありました。
■ “普段通りでいい”の限界
近年の病院では、妊娠初期の生活指導は「普段と同じで良い」が主流です。もちろんそれで良いケースも多いのですが、体表観察やこれまでの経験から、「がっつり安静」が功を奏すタイプの方が確実に存在するというのが私の実感です。
しかし、患者さんの仕事や家庭環境を考えると、妊娠初期にしっかり安静をとるのは現実的に難しいのが常でした。ところがコロナの緊急事態宣言で、社会全体が半ば強制的に“安静”状態になりました。
■ 難治症例2件と、偶然訪れた「安静チャンス」
その2020年4月、「この方は本来なら妊娠初期の徹底した安静が必要だろうな……」と感じていた症例が2件重なりました。
社会が止まり、本人たちも落ち着かない中で、私はあえてこう伝えました。
「この状況を試せるのは今だけですよ。やってみませんか?」
そして、鍼灸治療に加えてセルフ灸もしっかり行い、
- 午前中に家事をまとめて済ませる
- 午後は昼寝・漫画・アマプラ
- 夜はできるだけ早く寝る
- “頭を使いすぎない・考えすぎない”
という徹底した安静生活を送っていただきました。
結果として、長い間うまくいかなかったお二人が、今回は無事に妊娠初期を乗り越え、出産に至ったのです。
■ コロナがくれた「安静の実証データ」
私は思いました。
「やっぱりな。」
これまで臨床の肌感覚でしか言えなかった“妊娠初期の安静が効くタイプ”の存在。その仮説を裏付けるような結果を、コロナが示してくれました。
もちろん、人によって
- がっつり安静が合う人
- 普段通りで大丈夫な人
これはまったく違います。
そして安静は人によってはストレス源にもなります。“自分の意思で休む”という構造は、かえって肝鬱を強めることも多いのです。
今回は「社会がロックダウンだから仕方ない」という外的要因が、むしろ気持ちを軽くし、良い条件となりました。
■ “扉が開かない時”の選択肢としての安静
コロナが教えてくれたのは、
「安静には、状況や性格に合うときにだけ開く扉がある」
ということ。
妊娠初期の生活は一律に「普段通りでOK」と片付けられません。一般論で進めないケースも確かにあります。
どうしても前に進めないとき、がっつり安静という選択肢は、時に大きな意味を持ちます。そんな臨床の学びを、コロナは私に残してくれました。
