アドラー心理学1,2

1. いつものパターンからの脱却

私は、『東洋医学で人を診る』という観点から、患者さんのいままでの人生の文脈を知り、現状を理解し、あらまほしき未来について、どのような方法があるのかを一緒に考えていきます。

少し具体的にお話ししていきますね。

主訴:
腰痛 20代後半女性
状況:
・雨が降ったり、季節の変わり目になると腰が痛くなる。
・3年ほど前に発症、だんだん悪化している。
・痛みの場所は腰、骨盤、足の付け根と移動する。
・腰痛が悪くなった頃から体重が少し増えて身体が重い。
・二便睡眠に問題はないが、最近食後に腹脹があり便がすっきりと出切らない感じがすることがある。
・腰痛が悪い季節にはアトピーっぽい皮膚の状態も悪化する。
体表観察:
・舌に苔があつくのっている。
・腰部に細絡が多い。
・皮膚にざらざら感が強い。
・腎兪、大腸兪に陥凹。
・脾兪に弱り(縦長の亀裂)右大都冷えがきつい
現状把握と方針:
湿気と連動する体調悪化があり、体重の増加とともにだんだん悪化していることから、内湿の増加によって腰痛ならびにアトピーが悪化している可能性が伺える。
あらまほしき未来:
身体の中にある湿気を取り去ることによって、悪化している腰痛やアトピーの軽減を願う。このために胃腸の力をしっかりあげることが必要と思われる。また胃腸の力をバックupする生命の土台の力(腎気)を挙げることが必要だとおもわれる。

上記が、私がしている東洋医学的な弁証論治です。ただ、「腰痛」ということに注目するのではなく、腰痛をおこしている身体の状況を把握し、今後の未来に向かって展望していくわけです。

アドラー心理学の場合は、「人間の精神生活を研究する上で重要な問いは「どこに向かって?」である」としています。つまり全ての行動には目的があるということです。そして現時点での「ライフスタイル」を分析し、不都合があれば「ライフスタイルを変更」し、その人生の流れを変えようとしています。

ライフスタイルというのは、自分やり方、いつものパターン。このいつものパターンによってよりよい状況が生み出されているのならば変更の必要はありません。ただ、問題が発生し、悪化しているようであれば、いつものパターンから脱却する必要があります。これが「ライフスタイルの変更」となるわけです。

2. 「責任逃れの口実を与えない」アドラー心理学

私が提案させていただいた東洋医学的な観点の問題を、アドラー的な発想からも応援していきます。つまり、弁証論治することによって得られた治療目標によって、身体の側面からのライフスタイルの変更を狙います。この上で、その方の行動パターンを、「腰痛のない気持ちの良い身体」という目標に向かって舵取りできるようにアドバイスさせていただきます。心のありようと身体のありよう、これは一体なのです。

身体から、そして心から。私たちのありようを知る方法は沢山あります。

今を知り、未来を変える。

どちらも「あらまほしき未来に向かって」歩むことを応援していることに変わりはないと私は思っております。

アドラーの目的論は非常に厳しい側面も持ちます。だから実践的だと私は思います。厳しいというのは、その行動の目的を考えれば、選択しているのは自分自身であり、「自分の運命の主人である」ということです。

この症例の場合「腰痛が悪くなった頃から体重が少し増えて身体が重い」と言う項目があります。身体の調子が悪いため(腎気が落ちる)→腰痛が悪化。

体調が悪いために食生活の不摂生が生じ体重の増加→体重の増加がより一層腎気への負担となる→腎気が落ちる→腎気が落ちたので腰痛悪化。

これは、悪循環です。ここから脱するために、腎気をあげるという東洋医学的なアプローチと、悪循環が起きているときに、その位置から逃げずに症状を引き受け一歩前に進むという行動が必要です。そしてここを変えていくのは、他の誰でもない自分であり「自分の責任」なのです。

「責任逃れの口実を与えない」これがアドラー心理学の厳しいところです。そして非常に前向きで人生の変革を実践的に押し進めるポイントでもあります。東洋医学の実践も同じなのです。

さあ、選んでいるのはあなた自身。
覚悟を決めて前に進みましょう。
あらまほしき未来に向かって!

【参考文献】
「実践カウンセリング : 現代アドラー心理学の理論と技法」
野田俊作:監修 アドラー心理学研究会:編集 ヒューマン・ギルド出版部刊

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