弁証論治:

0031:冷え性・便秘・不妊の弁証論治

・問診

33歳女性 身長162 体重66kg

主訴 :冷え性、便秘症、子供が欲しい

肉親の遺伝的傾向:糖尿病

【主訴について】

治療はいまのところ受けていない。なるべく運動するようにして血行をよくするようにつとめている。

IVF-ET(体外受精ー胚移植)をしたが、妊娠しなかった。妊娠、出産したい。

【ふだんの状態について】

食欲は普通、規則的、15分程度、噛まないことが多い、食事はいつも美味しい。汁物、麺類をよく食べる。間食は週に1度程度でほとんどしない。たばこは30歳まで一日1,2本喫煙していた。

飲酒は月に4,5回つきあいがあるときに。水分は700cc程度。

胃の上(心下部)が詰まった感じで辛く、心臓が悪いのかと思うようなことがある。

体調が悪いと胃薬が手放せないことがある。

冬に身体がキンキンに冷えてしまったと感じることがある。カイロが手放せないことがある。

喉がよく渇く。昔から汗かきで、冬でも動くと汗が出る。
喉や口などの違和感はない

3,4日に1度の便通、いつもお腹が張って辛い。
朝ご飯のあと、時間があるとなんとか便通がある。
よく便秘薬を服用している(ビフィズス菌の整腸剤、週に2,3回)
中学生頃から便通が悪く、就職後特に便秘がひどい。
便秘がひどいのと疲れが重なると発熱する。3ヶ月か半年に1度おこしている。
薬を服用してもあまり便は出ない。
いつも出きらない感じがある、細い便で、量はこぶし大、ときどき付着する。
生理前は特に便秘がひどい。
便通が悪いと体調が全体に悪化する

小便は1日5,6回。夜間尿、残尿感などなし。

睡眠は、ねつきは普通、夢をよく見る、寝起きは悪い、いつも疲れが残る。

30歳流産、血液が固まりやすい不育症といわれ高温期に小児用バファリンを服用

月経開始13歳、31日周期で7日間でぴたっと終わらない。
生理初期に下腹部に鈍痛、吐き気。生理の色は濃い。
生理前は特に便秘がひどい、肩こりがひどい、胃が苦しい詰まる。
卵巣嚢腫があるといわれている

【不妊治療について】

29歳より妊娠を希望
右の卵管閉塞、抗リン脂質抗体、精子の動きがよくない。
半年ほど人工授精
30歳、2回自然妊娠、胎嚢確認できず流産
32歳、自然妊娠流産
33歳、1回目 IVF-ET 妊娠せず
   2回目 IVF-ET 初期胚を移植、妊娠せず
   3回目 胚盤胞2コ戻し 妊娠せず。
 IVF-ETのときには、小児用バッファリン服用

・時系列の問診

就職してから便通がとても悪い、疲れがとからむと発熱することもある
20代後半 腰から下が冷えるようになる。
27歳結婚 体重増える
29歳妊娠を希望し始める
30歳 流産 妊娠反応あるも、胎嚢見えず
30歳、2回自然妊娠、胎嚢確認できず流産
32歳、自然妊娠流産
    人工授精を4回行う 妊娠せず。

33歳、1回目 IVF-ET 妊娠せず
   2回目 IVF-ET 初期胚を移植、妊娠せず
   3回目 胚盤胞2コ戻し 妊娠せず。

・体表観察

舌 舌先に瘀斑、瘀点あり、
お腹 季肋部のつまりきつい、心下詰まりきつい
   中脘に冷え、つまり。中脘部が脾募の高さよりもふくれている(大腹の腫れ)
左右列缺ややかげりあり
右の太淵 発汗
右の神道ゆるみ
左の内関 ゆるみ
右の後谿 冷え
左外関、亀裂、冷え
左右風門、大椎、奥に冷え、ゆるみ
左右肺兪 発汗
左右三焦兪から腎兪にかけて、亀裂、抜け
仙骨部 冷え
右次髎 つまり

・五臓の弁別

・・肝
中学生頃から便通が悪く、就職後特に便秘がひどい。
生理前は特に便秘がひどい
胃の上(心下部)が詰まった感じで辛く、心臓が悪いのかと思うようなことがある。

・・心
胃の上(心下部)が詰まった感じで辛く、心臓が悪いのかと思うようなことがある。
季肋部のつまりきつい、心下詰まりきつい
右の神道ゆるみ   
右の後谿 冷え
左の内関 ゆるみ

・・脾
体調が悪いと胃薬が手放せないことがある。
3,4日に1度の便通、いつもお腹が張って辛い。
よく便秘薬を服用している(ビフィズス菌の整腸剤、週に2,3回)
中学生頃から便通が悪く、就職後特に便秘がひどい。
いつも出きらない感じがある、細い便で、量はこぶし大、ときどき付着する。
生理時に吐き気、生理前に胃が苦しい詰まる
中脘に冷え、つまり。中脘部が脾募の高さよりもふくれている(大腹の腫れ)

・・肺
喉がよく渇く。昔から汗かきで、冬でも動くと汗が出る。(肺気が弱い可能性)
左右列缺ややかげりあり
右の太淵 発汗
左右風門、大椎、奥に冷え、ゆるみ
左右肺兪 発汗

・・腎
便秘がひどいのと疲れが重なると発熱する。3ヶ月か半年に1度おこしている。
生理前は特に便秘がひどい
寝起きは悪い、いつも疲れが残る。
流産 3回
生理が7日間続きぴたっと終わらない

左外関、亀裂、冷え
左右三焦兪から腎兪にかけて、亀裂、抜け
仙骨部 冷え
腰から下が冷えるようになる
冬に身体がキンキンに冷えてしまったと感じることがある。カイロが手放せないことがある。

・・風邪
左右風門、大椎、奥に冷え、ゆるみ
左右肺兪 発汗

・・瘀血
舌尖に瘀斑、瘀点あり

・・不明
喉がよく渇く。昔から汗かきで、冬でも動くと汗が出る。
(肺気が弱い可能性、気滞により、喉に水分がまわらない、表衛が守られていない可能性)

・病因病理

主訴は冷え性、便秘、不妊ということである。

27歳の結婚後、体重増加。また腰から下の強い冷えを感じ始める。29歳から妊娠を希望し、、30歳、32歳と合計3回妊娠し流産。このとき抗リン脂質抗体による不育を指摘され、次の妊娠ではバッファリン服用での妊娠継続をと計画されるものの、32歳の流産後は、人工授精を四回、IVF-ETを3回おこなうなど、高度移植医療の力を借りても、妊娠すらできなくなってしまっている。

もともと便通が悪く、ストレスによりより悪化。そして疲労が加わると便通がより悪化し発熱までしてしまうという状況である。この便通の状況から考えると、脾気は肝気の影響を受けやすく、また腎気が落ちると、上焦で肺気が発熱を伴うほど鬱滞させることにより下向きのベクトルを作り、なんとか便通がついている状況であったと思われる。つまり、この方の便通は、腎気、肺気、肝気、脾気と全身の生命力を総動員することにより、やっと便通がつくような状況であり、便通と全身状態は密接にリンクし、なんとか便を出し、均衡を保っていたのだと考えられる。

この状況の上に、20代後半からは腰から下の強い冷えと、結婚してから体重が増加という要素が加わる。この腰から下の冷えというのは、なんらかの原因で腎の陽気に強く影響があったのではないかと考えられる。それに湿痰の増加があり全身の生命力の巡りは一段と悪化するという状況である。

こういった状況であるも、32歳までは妊娠が成立していた。
そして33歳の3回目の流産をきっかけに、妊娠すら成立しないという状況になる。これは流産、不育という強いストレスが、腎気に強い影響を与えたため、また流産そのものもでも腎気を落としてしまったためではないかと思われる。

現時点から体表観察で眺めると、大椎風門の冷えゆるみ、太淵の発汗などが認められ風邪の内陥があるのではないかと思われる。

腰から下の冷えという強い腎の陽気不足は、脾の陽気不足を引き起こし中脘部での冷えとなり、体重増加によって生じた湿痰による脾募とあいまって中脘部の冷えを伴った大腹の大きな腫れとなった。

もともとの強い肝鬱は風邪の内陥によってより強くなり、横逆し、中脘部の冷えと湿痰を伴い動き難いものとなっていた塊をつき、心下をつきあげたため、ご本人に『心臓が悪いかと思われる』というような状況を作り出したと思われる。舌尖部での瘀斑、紅点も強い気の上逆を示している。

のちにおこった流産と、強いストレスが、この方の肝気の上逆をより直接的に強くしたこと。そして流産そのものの腎気への負担があったことで、もともとの強い便秘や強い冷えがあっても、それなりの臓腑のバランスがとれ、妊娠は成立していた状況を、現時点では肝鬱の強さ、腎気の弱さから妊娠すら成立しないという状況にさせてしまったのではないかと思われる。

・弁証論治

弁証:
   1)風邪の内陥
   2)肝鬱気滞 
   3)腎陽虚 

論治:
   1)疏風散寒
   2)疏肝理気 
   3)温補腎陽 

・治療指針
まず第一に、肝鬱気滞を強めている風邪の内陥をとりさる。
 風邪が内陥する以前より強い気逆があるので、必要に応じて疏肝理気し、
 気逆による脾気、腎気への影響を取り去る。
 同時に、腎の陽気をたてることで、風邪を払いやすく、妊娠しやすくしていく。

・生活提言

妊娠をご希望され、よりステップアップした治療まで受けられているのに、妊娠がなかなか 成立しないという状況でお辛いですね。不育の問題もあるのに、その前の妊娠すら成立しない状況になってきてしまっているということで、とても焦っていると言うことよくわかります。

現在のお身体の状態は、とても辛い状況ですね。

いつも、辛いと仰る○○さんの便通は、身体の土台の力が不足していることと、ストレス状態が強く影響を与えています。その上に、腰から下が冷えて辛いと仰るような冷えの問題も深く関わってきています。また胃の詰まった感じが突き上げるようでとても辛いこと、便通がないと体調が全体により悪化するということから、便通がないことが全身の状態の悪化を引き起こしていることがわかります。便通を一つの目安にして、全身の気がよくめぐりリズミカルに整うことがとても大切ですね。

そして、この、身体の冷え、土台の力不足、ストレス状態の解消はいったことが、便通をより悪化させ、全身の気の巡りを悪くし、気の巡りが悪いことがまた、冷えやストレス状態をより強くすると言う悪循環になっているということです。

また、身体の冷え、土台の力不足、ストレス状態は妊娠を考えていくときにも直結する問題です。ストレス状態が強いと、着床しにくくなりますし、冷えや土台の力の不足は流産の可能性を強くします。

定期的に鍼灸治療を受けて頂くこと。
ご自宅での、お教えしたお灸を毎日して頂くこと。
朝の時間に余裕をもって、便通がつくような習慣を作ること。

身体がかわり、流産前の状況まで戻れれば、ちゃんと妊娠出来るお身体なのだと思います。

気持ちを楽に持って、身体作りを楽しんでみましょう。

・治療経過

初診後2ヶ月 便通が少しづつ改善
5ヶ月 一皮むけた感じ
1年後 昔に比べて胃が楽
2年後卵巣のう腫が小さくなったと言われる
    生理前の胸の張りがしっかりとしてきた
2年2ヶ月(35歳) 自然妊娠 (出産予定日11月上旬)