弁証論治:

0097:爪もみで悪化した潰瘍性大腸炎の弁証論治

・問診
25歳 女性 身長155 体重43キロ

主訴:腹痛 下痢

症状は、徐々におこった、朝がつらく、辛い時期は一定せず、季節の変わり目には調子が悪い
以前よりも薬の効きがにぶくなったような気がする
18歳の春に発症し、再燃、緩解を繰り返している、年に1,2回おこる
季節の変わり目、身体が疲れたとき、風邪を引いたとき、身体に合わないものを食べたときにおこる
他に肩こりを治したい。

今一番辛い症状は9月末からはじまった。
自律神経免疫療法の爪もみを自分で試した際の治癒反応?
今回の症状が起こると同時に、食欲不振、下痢、腹痛、体重の減少がおこった。
そのほか舌がむくんでいる。
(爪もみ療法は本を参考にし、手足の薬指だけは揉まず、他の8本を1日3回もんでいる)

現在の症状に対して、
18歳4月より(現在も継続中)
大学病院にて潰瘍性大腸炎との診断を受ける。
内服、座薬、点滴、白血球除去、内服を続けていても悪化することがある。

・・普段の状態について

体調が悪化すること
 精神的な負担があると体調が悪化(下痢など)する
 季節の変わり目 朝、肉体疲労時、睡眠不足、風邪を引いたとき
 食後 下痢
体調がよくなるとき
 入浴後

食欲は小食 規則的、15分くらい 空腹感はよくある
食事は普通にかむ、美味しく食べられる、食後の胸焼けは腹がはるくとは時々
よく食べるものは 白米、豆腐、鶏肉、魚 豆乳、ビスケット、おせんべ
間食はよく取る
飲み物は、500cc以上 ほうじ茶、野菜ジュース、豆乳、乳酸菌飲料など

喉が時々渇く
口が苦いことが時々ある
大便は1日6-10回 
便が出きらない感じはよくある、細い、下痢状、付着することはよくある

小便は一日7-9回
残尿感、尿切れの悪さはめったにない、
薬の色で尿の色はいつも黄色い、夜間排尿はめったにない
睡眠は寝付きは普通、眠りは浅い、寝起きは普通、翌日に疲れが残ることが時々

・・婦人科の状況について
今一番辛い症状と生理の状態は関係ありますか?
関係している。生理中ずっと悪化、生理が終わる時期によくなる。
生理がおくれがちになってきたような気がすせる、生理が長引くようになってきた
初経は11歳、30-35日周期7日間、 おくれぎみ
生理がくると体調がよく悪化する 生理前、生理中、生理後期に体調悪化
鈍痛、たまに吐き気、イライラ、腰や下腹部、生理の色は濃い、粘った膜、
生理は2,3日目が多く、生理の血の量は普通だと 思う

調子が悪いときには、朝の4時か5時頃下痢で目が覚める。
落ち着いているときには、朝起きてから下痢。

・時系列の問診

17歳 高校3年生の5月頃、部活や環境の変化で少し体調が悪かった

18歳 大学入学しての4月、季節の変わり目、身体が疲れた、風邪を引いた。
   体調悪化、病院で検査したら潰瘍性大腸炎と言われた。
   薬の服用で一度収まったがぐずぐず

19歳 秋 ステロイドの内服 症状収まらず 

19歳 冬 悪化、薬をかえて落ち着いた
(年末 ペンタサ+ステロイドから、サラドピリン+ステロイドに変更)
1年ぐらい調子よかった。

21歳 就活などのストレスで体調悪化 入院、ステロイドの点滴

22歳 ステロイドの座薬で症状落ち着く→春

23歳 秋に悪化、入院 一ヶ月で退院
その後1年ぐらいステロイドの座薬を 使い調子はよかった
食事も普通
   体重50キロ

24歳 1月 インフルエンザにかかった 
   2月から徐々に悪化、下血と吐き気 入院(体重43キロまで減少) ステロイド 絶食 人工透析 
   4月退院
   6月生理で下痢をし、そのまま下血 入院 月経を止める薬を打ち始める
    白血球除去 8月退院 体重少し増え45キロ

25歳
  9月末 免疫力を上げるという爪もみ療法(1日3回)をはじめる
   下痢1日10回、発熱、下痢はおさまったりひどくなったりしている。
   リンパ球が爪もみ療法で増えると思ったが、血液検査では増えていない。
   体重が減り43kg

ビッグママ治療室初診前にはずーっとその朝起きる前の下痢がありその上一日中下痢だった。

爪もみをやめて、ビッグママに通い、一度はよくなった。しかし年末の風邪をきっかけにやはりこの朝の下痢が始まった。

一日中下痢というほど悪くはない。風邪から2週間たち少し落ち着いた。

・体表観察

・・脉診
寸口 短脉 
右尺 浮いて弦脉

・・舌診
歯根胖嫩
怒脹強い

・・腹診
全体に温
少腹急結左に少し
腹にカイロしている

・・皮膚
全体に乾燥
かさかさがひどい

・・経穴診
右神門 硬結
左後谿 陥凹
左外関 冷え  
左右足三里 筋張り
左公孫陥凹
左右復溜 冷え

・・背候診
左心兪から膏肓 特に大きい陥凹 トップ
左肝兪から胆兪にかけて蒙古斑
右三焦兪を根にして、肝兪から筋張り
(右肝兪、胆兪筋張り、脾兪、胃兪筋張り)
左胃兪陥凹
右三焦兪陥凹
左右大腸兪少し冷え

全体に経穴反応がない。

・五臓の弁別

・・肝
精神的な負担があると体調が悪化(下痢など)する

肩こり
舌 怒脹強い
腹 全体に温、少腹急結左に少し
左肝兪から胆兪にかけて蒙古斑
右肝兪、胆兪筋張り、

生理前にイライラ
17歳の5月頃、部活や環境の変化で精神的にストレスになり体調が少し悪かった
18歳の5月頃、大学入学のストレス、季節の変わり目、風邪、疲労などをきっかけに体調が悪化。潰瘍性大腸炎と言われる。
21歳 就活などのストレスから体調悪化一ヶ月入院 その後1年ぐらいよかった、体重50キロ

・・心
口が苦いことが時々ある

右神門 硬結
左後谿 陥凹
左心兪から膏肓 特に大きい陥凹 トップ

・・脾
腹痛、下痢の症状は季節の変わり目に調子が悪い、身体にあわないものをたべたときにおこる
精神的な負担があると体調が悪化(下痢など)する
舌がむくんでいる(ご本人の表現)
入浴後は体調がよい
小食、空腹感がよくある。食事は美味しい。
胸焼け腹が張ることは時々
便が出きらない感じはよくある、細い、下痢状、付着することはよくある
生理前にたまに吐き気

18歳の5月頃、大学入学のストレス、季節の変わり目、風邪、疲労などをきっかけに体調が悪化。潰瘍性大腸炎と言われる。
19歳から20歳 秋~冬 症状収まらず、薬を変えて落ち着いた 
24歳 1月インフルエンザから体調悪化、下痢、腹痛、入院体重43キロへ
24歳 6月生理で下痢、そのまま下血入院 体重少し増え退院

皮膚:全体に乾燥、かさかさがひどい
左右足三里 筋張り
左公孫陥凹
右脾兪胃兪筋張り
左胃兪陥凹

・・肺
腹痛、下痢の症状は風邪を引いたときにおこる
下痢で体調が悪化
24歳 1月インフルエンザから体調悪化、下痢、腹痛、入院体重43キロへ
寸口短脉
左右大腸兪少し冷え

・・腎
腹痛、下痢の症状は朝が辛い
以前よりも薬の効きがにぶくなったような気がする
腹痛、下痢の症状はは身体がつかれたときにおこる
肩こり
入浴後は体調がよい
翌日に疲れが残ることが時々
調子が悪いときには、朝の4時か5時頃下痢で目が覚める。
落ち着いているときには、朝起きてから下痢。

生理中ずっと下痢腹痛が悪化
最近生理がおくれがちで長引くようになってきた。

19歳 秋~冬 症状収まらず、薬を変えて落ち着いた 
22歳 秋に悪化一ヶ月入院 その後1年ぐらいよかった、体重50キロ
24歳 6月生理で下痢、そのま下血入院 体重少し増え退院
25歳 9月 爪もみ療法を始めたら下痢腹痛はじまる 

右尺 浮いて弦脉
皮膚:全体に乾燥、かさかさがひどい
左外関 冷え  
左右復溜 冷え
右三焦兪を根にして、肝兪から筋張り
右三焦兪陥凹

・・気虚
舌 歯根胖嫩、怒脹強い
舌がむくんでいる
全体に経穴反応がない。

25歳 
 爪もみからを始めて、
   腹痛、下痢の症状が再発した。
   食欲不振、下痢、腹痛、体重の減少がおこった。
   下痢1日10回、発熱 下痢は治まったりひどくなったり
   体重が減り再び43kgへ(45kgから)

・病因病理

子供の頃から、下痢をしやすく、とくに精神的なストレスや負担があると、途端に下痢をしていたことから肝気犯胃の傾向であったことを読み取ることが出来る。

潰瘍性大腸炎と診断される1年前の春、17歳高校生のころにも、部活のストレスや環境の変化で、下痢腹痛が継続すると言う状態があったことから、子供の頃からの肝気犯胃の傾向は持続しており、この時期の心身のストレスがそれに拍車をかけたものと疑われる。

18歳で大学入学。大学という新しい環境は、精神的にとても負担になり再度肝気犯胃の状態を引き起こし腹痛下痢の症状を引き起こした。脾胃への負担だけであれば、17歳の高校時代のように一時的な問題で解決できるはずであるが、ご本人にとっては、大学への通学は、とても疲労したと感じるほど肉体的な負担であったため腎気までにもおよび長く続く下痢となっていった。

そういった肝気犯胃の状態、腎気への負担が続く中、風邪を引いた。

どのようなタイプの風邪であるのかは判然としないが、外邪である風邪を追い出すために、 肺気を充実させる必要があった。

肺気の生命力が充分であれば、他からの応援は必要はないが、気虚気味の素体であったため、肺気だけでは足らず、他の生命力を借り、陰気を踏みしめ陽気をたて生命力を賦活する必要があった。このため、肝気が主導となり脾腎の陽気をたかめ上焦に導びき、上焦は充実し、風邪はなんとか治まった。

けれども、気虚の素体であったため全体の生命力の総量が足りず、上焦に生命力が集まれば、相対的に下焦の生命力は 薄くなった。この全身の気の大きな偏在が患者さんにとって非常に大きな負担とり、素体の気虚がますまず進み、 もともと弱っていた脾腎はまたさらに弱り、下痢腹痛が継続することとなった。 とくに下痢は明け方からおこり、腎の陽気不足として明瞭にあらわれている。

高校卒業時期に風邪を引き、生命力が上焦に集まり気味となり、相対的に下焦の気は薄くなっていた。その後大学に入学。大学という新しい環境は、精神的にとても負担になり再度肝気犯胃の状態を引き起こした。風邪のため下焦の気が薄くなっていたこともあり、腹痛下痢の症状を引き起こした。その上、大学への通学は、とても疲労したと感じるほど肉体的な負担であったため腎気にも負担となり、長く続く腹痛下痢になった。とくに下痢は明け方からおこり、腎の陽気不足として明瞭にあらわれている。そして潰瘍性大腸炎との西洋医学的な病名を受けるに至った。

西洋医学的な治療により、下痢腹痛の症状はいったん治まったものの、脾腎を中心とする全身の気虚は補われることなく継続していたため、ぐずぐずと症状は続き、19歳の秋にはステロイドの内服でも症状が治まらず、冬になり寒くなって腎の陽気不足がより明瞭となると症状が悪化。薬を変えることでおちつき、1年ぐらい調子がよかった。

21歳の時にも就職活動などのストレスがきっかけで再度肝気犯胃が強くおこり、症状が発症、脾腎が支えきれず症状が悪化、入院の加療や休息によって気血がある程度回復し落ち着いた。しかしながらやはり脾腎は補われることがなかったので、また22歳の秋にも悪化し入院による回復という経過をたどっている。

24歳の時には1月にインフルエンザにかかった。強い気の上逆は胃をつきおう吐を伴い、上焦に生命力がより一層集まり、下焦の脾腎の生命力はより薄くなった。強い気逆を伴う風邪は大きな気の偏在をうみ、ふたたび全身の気虚が一段とすすみ、2月になりより悪化。絶食して脾気をやすめ、ステロイドで虚熱を納め、その上、人工透析による顆粒球除去によりなんとか症状がおちつくといった状況になっていた。

6月、月経がおこったことをきっかけに再び下痢腹痛が発症。脾腎両虚を中心とする全身の気虚が補われないままの状態で月経がきたことにより、下焦の生命力が月経とともに排出される状況となったものと考えられる。このため下焦の生命力が薄れ、腎気がおち、腎の陽気すなわち全身を温煦する力が低下したことによって脾の陽気も低下した。さらに脾の統血作用も低下したため下血が発症、気血の消耗はより急速となり入院、再度透析による治療を受けるに至った。症状のきっかけとなった月経を、半年ほど止めるホルモン治療を受けるに至りなんとか小康状態を得た。

小康状態を得ていて、調子がよいと言う状態でも、朝起きると下痢になり、日中は治まっている程度という腎の陽気不足は非常に深刻な状態であった。

同じ年の2011年9月末、免疫力をあげるということで、ご自身で爪もみ療法を開始。 下痢が1日10回とひどく発熱、体重の減少も引き起こされた。爪もみ療法によって、末端に気が引かれ、中心部である腹部の気が薄れたため、下痢が発生、起床前の4時、5時に下痢で目が覚めるという腎の陽気が非常に不足している状況となっていった。生命はなんとか陽気不足に歯止めをかけようとがんばり発熱をしたが、それもかえって気血両虚をより一層すすめ下痢腹痛は止まらず、体重の減少となってしまった。

体表観察をすると、全身の経穴の反応があまりみられない。皮膚もかさかさし肌肉の養いの不足が明瞭である。また舌も歯痕胖嫩。これは、全身の気虚がきついため、末端である皮膚表面には経穴反応がでるほどの生命力がないことを示していると思われる。全身の気虚でありながらも、肝気をなんとか奮い立たせて毎日をおくっているため、肝鬱がきつく舌裏には怒脹がきつい。

背部腧穴の心兪の大きな陥凹は脾腎両虚を中心とする気虚の中、肝腎の不足により、陰虚熱が発生しやすくなり、心陰を養えない状態をあらわしている可能性がある。左右の三焦兪の陥凹、復溜の冷え、外関の冷えからも、腎の陽気不足、腎気不足は明瞭である。

・弁証論治

弁証 気陰両虚

論治 益気補陰

・治療指針

まず第一に腎の陽気を後押しし腎気を保たせ下痢を止める。
下痢が止まった状態で、脾気腎気双方を養い、気陰両虚を救う
下痢のきっかけとなる、風邪、月経、ストレスに対しては、器が大きく 傾く前に処置していく。

・生活提言

18歳から下痢や腹痛で入院まで繰り返し、なかなか大変な状態だと思います。

いままで、比較的力の強いステロイドや透析などの治療を受けながらも、風邪、生理、ストレスなど 普通の日常生活でおこる当たり前のことをきっかけに、大きく体調を崩し、より強い治療が 必要となってきてしまっています。

これは、症状に対して対処療法はできていても、ご自身の底力を増していくような身体作りになって こなかったのだということだと思います。また、もともと底力そのものも不足気味であったという こともありますね。

手入れには順番があります。まず第一のステップ。

まず体幹(ボディー)の部分を大切にして、お腹を守るようにしていきます。

ご自身の養生でも、手足末端のツボを使うのではなく、体幹(ボディー)を中心にしていきます。

お腹をしっかり守る力が出来れば、下痢や腹痛が起こる頻度も減ってくるでしょう。

身体全体のパワーが不足していても、底力が不足していても、それなりに自分の器の中で 上手にバランスが取れていれば、症状は発生しません。まず下痢や腹痛がなく落ち着いた状態を つくるようにしていきましょう。

第二のステップとしては、身体全体のパワーをあげること。

生理がきても、風邪を引いても、多少の精神的なストレスでも、どーんと受け止めることができる 身体のパワーをつけます。このときにも、中心となるのは体幹部。中心をしっかり養うことが重要です。

生理や風邪を十分受け止めることができるパワーが出来たら、その次のステップとして、手足も 含んで全身のツボなどを使うこともできるかと思います。ここまで来ることが出来れば、身体は 加速度的によくなると思います。

症状が強く、精神的な問題もあり、前に進むのがなかなか大変な状態ですね。それでも、 若さは溢れている感じがします。しっかりと手入れして、身体をもう一度作り直して立て直しましょう。