弁証論治:

0046:不育、不妊、強い肝鬱弁証論治

症例集→極限までの疲労とストレスで不妊、口内炎、こり、吐き気(32歳出産)【case:0046】

..問診
29歳、女性 事務
身長:164cm、体重:51kg、血圧:110/70
家族構成:夫

肉親の病気の遺伝的傾向:高血圧、糖尿病、心臓病、心筋梗塞(父方の祖父母)など。

主訴・・・①不妊、②こり

主訴

①不妊・・・26歳結婚、27歳から妊娠を希望し始める。タイミング指導、人工授精5回を経て、現在、体外受精を検討中。高温期11日目頃に、妊娠検査薬において弱陽正反応が出るが、1~2日で陰性になり、継続しない。弱陽性反応が出る日は、吐き気、不眠もしくは早朝に目が覚める、ということが起こる。

高温期11日目夜にはおなかがぐるぐるとせわしなく鳴るが、翌朝にはぴたっと治まる。ここ2年ほどこれを繰り返している。3,4日後に生理がくる。

こり・・・背中の背骨を中心に、特に左側がよく凝る。イライラしたとき、仕事が忙しいときがつらい。悪化はしていない。

その他:ストレスを和らげたい。

普段の状態について

(体調の悪い変化)

クーラー・・・足首が冷える

(体調の良い変化)

記載なし。

(風邪)

記載なし。

(食事)

食べる量は20歳頃から食欲が落ちてきている。
食事時間は規則的、不規則、朝:9時、昼:14時、夕:23時、夜食:記載無し。
食事時間は15分で、よく噛んで食べる。
食事前の空腹感は時々で、おいしく食べれる。
食後にお腹が張ったり、胸焼けは、無い。
よく食べるのは、白米、大豆類(豆腐、納豆)、カボチャ、アスパラ、ほうれん草、肉類、ヨーグルト。好き嫌いは特になし。
間食はよくあり、フルーツを食べる。

(水分)

1日に100ccのコップで2杯以上飲む。
口舌喉などの渇きはよくあり、違和感は時々。

(飲酒)

今は月2~3回、以前は数日、多量飲酒。

(タバコ)

吸わない。

(大便)

2日に1~2回は出る。
便秘はめったにないので、便秘薬は使用しない。
便が出切らない感じは無い。
便は太い、細い、下痢状などその日によって異なるが、量は多い。
便器に付着することは時々で、臭いは普通。

(小便)

1日の5~6回、仕事の日は1日3~4回。
残尿感、夜間排尿は無い。
尿切れが悪いことは時々。
尿の色が悪いことはめったにない。

(睡眠)

就寝1時、起床7時。
寝付きは良く、眠りは深く、寝起きは普通。
翌日に疲れが残ることは時々。
昔はよく歯がぼろぼろ抜ける夢を見た。5年ほど前から仕事をしていて
時間を気にしてスムーズに行かない夢を見る。
【婦人科の状態】

初経14歳。
生理期間は5日間で、周期は28日。
生理血は濃い、出血したときの色で、始めは薄茶色→濃茶色→鮮血→濃い赤に変化する。
生理の形状はサラサラ、水様、親指大の塊、小指大の塊、小さい塊、粘った膜など、周期によって全て当てはまる。
量は異常に多いときもあれば、普通の時もある。
生理2~4日目が出血が多い。

排卵痛、排卵後の乳房痛がある。
高温期に下腹がチクチク痛む、発熱(37度超え)、イライラ、吐き気(高
温期11日目のみ)精神的に不安定になる。
これらの症状は、生理が来ると治まる。
毎回では無いが、生理痛(下腹部の鈍痛、刺痛)が、生理1~4日目にある。

(生理に伴う他の症状)

口内炎が少しできやすくなる。1年前までは特によく出来ていた。
体温が下がるまでに日数がかかる。

【これまでにかかった大きな病気】

胃潰瘍と顔面神経麻痺・・・20歳の時。この頃、楽しかったが忙しかった。

..時系列の問診

10代・・・小学生の頃から首をコロコロ回さないとダメ。
  体温低かった。

14歳・・・初経。

20歳・・・忙しかったが楽しかった
  胃潰瘍と顔面神経麻痺になる。
  手の指が腫れ上がり第一第二関節が曲がらなくなった。リウマチかもといわれた
   (薬を飲んでよくなった。その後なし)

20代・・・背中のこりを左側を中心に感じるようになる(現在まで)。
  仕事している頃は口内炎多かった。
  耳鳴が生じはじめた。
  呼吸がしにくくなったり疲労感がとれないときは普通に座ることもできずぐったりしていた。疲労のサインと感じていた。
  胃は痛くない
  体重47~48kg。

26歳・・・結婚により人付き合いが増え休みがなくなった。
  疲れてくるとプチプチという耳鳴りがする。
  疲れてくると呼吸が浅くなる。
  腰痛を感じ始める

27歳・・・妊娠を希望する(現在まで)。
  病院でタイミング指導を受ける(現在まで)。
  当帰芍薬散+αを服用する(現在まで)。
  仕事減らして耳鳴り、呼吸の浅さが減る。
  体温が高めになる(現在まで)。
  体重47kg。

28歳夏・・・人工授精を始める(現在まで)。
   口内炎の出来やすさが少し減る(現在まで)。

28歳冬・・・自然妊娠するも、5週目に流産する。

29歳春・・・左卵管形成術を受ける。

29歳夏現在・・・体外受精へのステップアップを検討中。
  疲れて出る耳鳴り、呼吸の浅さは今は無い。
  体重51kg。

..切診
脉診

左尺 浮が消える、輪郭甘い
右尺 浮が消える、輪郭甘い
両寸 輪郭甘い

舌診

淡紅から淡白
舌裏怒張なし

腹診

腹部全体に温
脾募うすくあり
季肋際 つまり
少腹急結はくすぐったくてわからない

経穴診

列缺 こそげ
太淵(右>左) 腫れ
右外関 やや動き悪い
右陽池 やや冷え
右神門 腫れの中に硬結
左神門 腫れ
右公孫 陥凹
左公孫 陥凹きつい
左太衝 やや腫れ
右臨泣 やや動き悪い
右陽陵泉 陥凹
左陽陵泉 少し陥凹
大腿部胆経 つっぱり
両陰陵泉 つっぱり
右水泉 陥凹

背候診

腠理の粗
大椎 やや冷え
右肺兪 陥凹
右厥陰兪 陥凹
両心兪 陥凹
左膈兪 陥凹きつい
右膈兪から三焦兪まで筋張り
右三焦兪 陥凹
左胃兪 陥凹
両腎兪 やや陥凹

..五臓の弁別 

高温期11日目頃に吐き気、不眠もしくは早朝に目が覚める
高温期11日目夜にはおなかがぐるぐるとせわしなく鳴る(下痢をしたいような感じではなく、暴れ回る感じ)が、翌朝にはぴたっと治まる

背中の背骨を中心に、特に左側がよく凝る。イライラしたとき、仕事が忙しいときがつ
排卵時に乳房が痛い
高温期に下腹がちくちく痛い 発熱 イライラ 吐き気 精神的不安定
毎回ではないが、生理時に下腹部の鈍痛、刺痛
生理が来て体温が下がるまでに日数がかかる
疲れてくるとプチプチという耳鳴りがする。
疲れてくると呼吸が浅くなる。
仕事減らして耳鳴り、呼吸の浅さが減る

季肋際 つまり
手の指が腫れ上がり第一第二関節が曲がらなくなった。
      (薬を飲んでよくなった。その後なし)(肝鬱の可能性?)
左太衝 やや腫れ
右臨泣 やや動き悪い
右陽陵泉 陥凹
左陽陵泉 少し陥凹
大腿部胆経 つっぱり

1年前まで口内炎がよくできていた
右神門 腫れの中に硬結
左神門 腫れ
右厥陰兪 陥凹
両心兪 陥凹

食欲が20歳頃から落ちている
脾募うすくあり
両陰陵泉 つっぱり
手の指が腫れ上がり第一第二関節が曲がらなくなった。
      (薬を飲んでよくなった。その後なし)(脾虚湿盛の可能性?)

左膈兪 陥凹きつい
右膈兪から三焦兪まで筋張り
右公孫 陥凹
左公孫 陥凹きつい
左胃兪 陥凹

疲れてくると呼吸が浅くなる。
腠理の粗
大椎 やや冷え
右肺兪 陥凹
列缺 こそげ
太淵(右>左) 腫れ

吐き気、不眠もしくは早朝に目が覚める
高温期11日目夜にはおなかがぐるぐるとせわしなく鳴るが、翌朝にはぴたっと治まる
背中の背骨を中心に、特に左側がよく凝る。イライラしたとき、仕事が忙しいときがつらい
呼吸がしにくくなったり疲労感がとれいときは普通に座ることもできずぐったりしていた。疲労のサインと感じていた。
足首がひえる
翌日に疲れが残ることは時々
排卵痛がある
高温期に下腹がちくちく痛い 発熱 イライラ 吐き気 精神的不安定
生理がきて体温が下がるまでに日数がかかる
疲れてくるとプチプチという耳鳴りがする。
疲れてくると呼吸が浅くなる。
仕事減らして耳鳴り、呼吸の浅さが減る
26歳から腰痛を感じ始める

右外関 やや動き悪い
右陽池 やや冷え
右水泉 陥凹
右膈兪から三焦兪まで筋張り
右三焦兪 陥凹
左胃兪 陥凹
両腎兪 やや陥凹

気虚

脉、輪郭が甘い

瘀血

生理に親指大~小指大 塊がまじる
毎回ではないが、生理時に下腹部の鈍痛、刺痛

..病因病理

子供のころから、コロコロと首を回さないとダメというように、気滞が生じやすい傾向があった。また。ご自身が疲労のサインと感じる状態は、呼吸がしにくく普通に座ることもできないほどぐったりとなっている状態である。これは、この方が、まともに座れないという非常に弱った状態になるまで『疲労』という腎気の弱りを感じることができないということであり、肝気をはって頑張っているときには、他の状態は意識にのぼらないということであろう。

このように、ご自身の素体の状態を意識せずに、強く肝気を張って過ごすことが多かったので、 20歳のころには、楽しかったが忙しいというときに、胃潰瘍と顔面神経マヒを生じる。強い肝気が横逆して胃を犯したり、顔面部に肝気が上逆して機能失調を生じさせたり、末端には肝気が鬱滞して熱を籠もらせリウマチではないかといわれる指先の腫れを生じさせたのではないかと思われる。しかしながら20歳と若かったため、腎気の回復により肝気が納まるにつれ、局所の問題は局所の問題として解決していったのではないかと思われる。

仕事をするようになり、仕事中は常時強い肝気を張る必要が生じた。それにより、肝気が上逆して心をつき心熱を生じて口内炎となり、耳を犯し耳鳴りを生じた。

26歳の結婚により人付き合いが増え、休みがなくなり、腎気が一段と落ちてしまったため、腰痛を感じるようになり、日常生活を支えるために肝気が立つことが必要となり、より強い肝気が常にたっている状態となった。肝鬱が強くなったので耳鳴りにはプチプチという音がくわわり、肝気が肺気を鬱滞させ困窮させたため疲れてくると呼吸がしにくいと言う状態になった。

こののち、仕事を減らしたことにより肝気の高ぶりは小さくなり呼吸の問題、耳鳴りが軽減。心熱も緩和され口内炎も減った。しかしながら腎気は補われることがなかったので、腰痛は継続している。

妊娠への挑戦をはじめたころより、高温期11日目頃に、夜におなかがグルグルなったり(下痢をしたいような感じではなく、暴れ回る感じ)、吐き気、発熱、眠れなさ、イライラなどがおこっている。

気が裏に帰す時間帯である夜でありながらお腹がぐるぐる鳴って暴れ、同時に吐き 気がし、眠りにくく、イライラが押さえられないという状態は、肝気が高ぶっているこ とを示している。

高温期は腎気の支えの元、任衝脉の気血が充実し、陽気が高ぶる時期である。 本症例では、その陽気の高ぶりが非常に強く、生理的な範疇をこえて肝気があばれ 回っていることを示している。

右膈兪から三焦兪まで筋張り、右三焦兪 陥凹、両腎兪のやや陥凹、そして足首の冷えは 腎気の弱さを示している。高温期に気が上逆して収まりにくいと言うことは、肝気の高ぶりを 裏に納める力である腎気が不足していることによるのではないかと思われる。

子宮は下焦に存在し、腎気によって支えられる。強い肝気の上逆によって下焦における気は相対的に薄くなり、子宮を養う任衝脉の活動の低下にもつながる。

また、子宮そのものにも、月経血に塊が混じるなど強い気の濃淡があり、妊娠が継続しづらくなっているのではないかと思われる。

弁証論治

弁証

腎虚肝鬱
子宮を養う任衝脉の滞り

論治

疏肝理気
益気補腎
養任衝脉

治療指針

非常に強い肝気を払い、腎気への負担を取り去る。
腎気をあげ、妊娠のできる子宮の状況にして行く。
子宮を養う任衝脉への滞りを取り去り養う

..生活提言

もともと喘息の持病があり、お身体に対しては無理せずご自身のペースを守り生活なさっていますね。

上手にお身体とつきあっていらっしゃったのですが、首を痛めたことをきっかけに、身体全体のバランスが崩れ、生命力の土台の力(腎の力、腎気といいます)が不安定になってしまったためにバセドーを中心に、身体がだるいという訴えが強く出たのだと思います。

この腎気は、臍下丹田の力ともいわれ、一人の人間の中心にあり、身体全体をしっかりと支える者です。○○さんにとっては、特に大切で、喘息がありながらも平穏に生活することができたのは、腎気の支えがあったからだと思います。

また、この腎気は生殖においては特に大切で主導となる力です。なかなかよい卵が育たないのも、腎気に負担がかかり弱っているからでしょう。

しっかりとした生命力の土台の力をつけ、いまのとてもだるいという状況を脱し、妊娠に向け身体作りをし、今後の妊娠、出産に備えましょう。

..経過
2009年 
 10月初旬 初診 以降週に2回の施術
 10月末  鍼灸のあと疲れる。身体がすっきりしてきた
        バセドーの数字がよくなってきた
 11月 季節的なのか、喘息っぽい
     お好み焼きを食べたあと、急にアレルギー反応がきつく出て
     身体に発疹。そのあと喘息っぽい感じが抜けた

 12月 右座骨神経痛が痛い(昔、右のお尻に筋肉注射を受けてから時々でる)

2010年
 1月 お正月で少しからだが重い
    胚移植とのことだが、季節要因も考え5月ぐらいの方が良いのではと
    アドバイス。待つのならば採卵も考えても良いのではとアドバイス。
 2月 耳鳴(ぼーっと言う感じ、音が大きくなったり小さくなったり)
    採卵 鍼灸前の採卵では、すべて状態の良くないタマゴだったが、
    今回はすべて状態が良く、凍結できた。
 3月 朝から動悸がすることがある。
    ひどいときは喘息に繋がる。
 4月 バセドー数字悪化 薬が増えた
    右の肺兪陥凹がきつい
 5月 多関節の痛みあり、息苦しさあり
 6月 移植、妊娠
    動悸、息苦しさ、喘息っぽさ継続
 7月 バセドー喘息、悪化
    左耳の耳鳴、左手のしびれ、左顔のピリピリあり。
 9月 糖負荷検査にひっかかり、妊娠糖尿病 インシュリン療法
    低血糖になってしまうことがある。 喘息気味。
 11月 朝の低血糖がきついため、インシュリン中断 喘息気味

2010年 2月 無事に女児出産 おめでとうございます!