弁証論治:

0200:ストレスで肩こり、頭痛、不眠、筋腫、妊娠したい 32歳

<問診表>
32歳 女性
身長:157㎝、体重:47kg(BMI:19.07)
仕事:事務

主訴:1、不妊、2、夜中に目が覚める

【今一番つらい症状について】
1、不妊・・・29歳で結婚、30歳から妊娠を希望する。なかなか妊娠しなかったので病院に行くと、プロラクチン値が高いため現在は薬を服用中。その他の不妊の基礎検査は問題なし。

(婦人科の状態)
初経はたぶん中学生だと思うが記憶にない。
生理周期は27~29日、生理期間は5日間。
生理がしっかり始まる2日前から茶色のおりもの、終わりも茶おりが2日くらいあって終わる感じ。昔からそんな感じ。

生理血は濃い色で小指大の塊が混じる。量はよく分からない、生理1~2日目に量が多い気がするが、よく分からない。

排卵の頃に排卵痛がある。妊娠を意識し始めて、排卵痛かもと思うようになったので、いつからあるかは分からない。

生理2~3日前から胸の張り、下腹部の痛み、イライラ、ニキビができる。胸の張りは生理が始まって無くなるが、下腹部の痛みは生理痛になる感じ。イライラは、生理前じゃなくてもある気がするので生理前の症状なのかよく分からい。ニキビはおでこや頬にできる。生理前に毎回ニキビができるわけではなく、できない時もある。

生理1~2日目に鈍痛の生理痛がある。いつからかははっきり分からないが、20代後半には生理痛はあったと思う。薬は飲まない。

普段から首肩の凝りがあるが、生理が始まる時には朝からがっちり首肩が凝っている感じがして、生理3~4日目にこの凝りがひどくなると頭痛がする。生理が終わる頃には普通の肩こりに戻る感じ。ただ生理じゃない時もデスクワークが忙しくて首肩の凝りがひどくなると頭痛がすることはある。

肩こりからひどくなると首、頭と痛みの範囲が上に上がってくる。肩こりは肩上部。左右差は無い。頭痛になった時には吐き気がして、それを我慢するのに精いっぱいで頭痛はどこが痛いかは分からない。頭痛がして吐き気がしている時は、光に過敏になる。なので家に帰るのに車の運転をしていても対向車のライトが辛く感じる。寝れば落ち着く。仕事中の頭痛だと薬を飲む。

いつ頃から肩こりがあるかはよく分からない。

生理痛、排卵痛は悪化傾向にはないと思う。

31歳夏に子宮のポリープを切除して、完治。31歳冬に腹空鏡で子宮筋腫切除手術受ける。生理に大きな塊は混じらなくなったが、その他は特に変化を感じない。

2、夜中に目が覚める・・・今年3月から夜中に何度か目が覚めるようになった。毎晩目が覚める。職場が変わってストレスが多い。また基礎体温を測るようになり、夜中に目が覚めた時に計るようにしているので、余計に目が覚めやすくなった。それまで眠りが深かったかどうかは、気にしたことがないので分からない。

(睡眠)
就寝22:30~23:00、起床5:30~6:00。
寝付きは普通で、眠りは浅く、夜中に何度が目が覚めて、寝起きは悪い。
翌日に疲れが残ることはよくある。
記憶に残っているのは悪い夢が多い。

【ふだんの状態について】
(体調の悪い変化)
肉体疲労時、気を使った後、睡眠不足の時、旅行の後、クーラーや冬

(風邪について)
風邪はめったにひかない。

(食事)
食欲は普通だが、運動をしていた高校生の頃や今より食べていて、体重もあった。
食事時間は規則的で、朝6時、昼12時半、夕19~20時。
30分以上かけてよく噛んで食べる。
空腹感はよくあり、いつもおいしく食べられる。
生理前には、食後にお腹が張ることが時々ある。

(水分)
1日に飲む量は約計1400cc程度。
飲むのは、水、牛乳。
口喉などの渇きは時々で、違和感は無い。

(飲酒)
ほとんど飲まない。

(タバコ)
吸わない。

(大便)
1日1回出る。生理中は1日2~3回出る。
便秘でお腹が張ってつらいことは時々あるが、薬は服用しない。
便が出切らない感じも時々。
便の形はバナナ、食べたもので時々下痢、量はこぶし大。
便器に付着することはめったにない。
臭いは汲み取り程度。

(小便)
1日5回。
残尿感、尿切れが悪いこと、夜間排尿はめったにない。
尿の色は黄色。

<時系列>

高校生・・・運動していて体重51~52kg。

18歳・・・運動を止めて食べる量が減る。自然と体重減る。

20代前半?・・・寒がりになる(現在まで)。

20代後半?・・・生理痛(現在まで)。

26歳・・・事務仕事になる(現在まで)。

29歳・・・結婚。家事もしっかりやろうと頑張ってるので、これまでの実家暮らしに比べれば、少し疲れやすくなったかも(現在まで)。

30歳・・・妊娠を希望する(現在まで)。

31歳夏・・・病院で不妊の基礎検査受ける。子宮ポリープが見つかり、切除、完治。

31歳冬・・・子宮筋腫切除手術。

32歳春・・・異動で職場が変わり、ストレスを感じる(現在まで)。毎晩、何度か、目が覚める(現在まで)。

32歳夏現在・・・妊娠希望。

<切診情報>

【脈診】
全体に硬い
左関 やや滑

【舌診】
舌質 淡紅から淡白
舌裏怒張 ややあり

【腹診】
中カン 動悸
臍 引き
臍周 引き
少腹急結 あり(右<左)
裏肝の相火 きつい

【経穴診】
左内関 陥凹
右太淵 腫れ
左合谷 陥凹
左外関 こそげ
右後谿 陥凹
神門 硬結

大都 開き(右<左)
公孫 こそげ
右臨泣 つまり
三陰交 ややこそげ
右足三里 こそげ
右照海 冷え
然谷 冷え
足首から下 冷え
しもやけできることある

【背候診】
肩井 盛り上がり
大椎周り 細絡あり
右肺兪 陥凹
右厥陰兪 陥凹
右心兪 陥凹
胃兪 陥凹大きい(共に同じくらい大きくトップ)
右腎兪 陥凹
大腸兪 抜け(左>右)

<五臓の弁別>

【肝】
20代後半?・・・生理痛(現在まで)。
29歳・・・結婚。体重47kg(現在まで)。家事もしっかりやろうと頑張ってるので、これまでの実家暮らしに比べれば、少し疲れやすくなったかも(現在まで)。
32歳春・・・異動で職場が変わり、ストレスを感じる(現在まで)。毎晩、何度か、目が覚める(現在まで)。

生理2~3日前から胸の張り、下腹部の痛み、イライラ、ニキビができる。
イライラは、生理前じゃなくてもある気がする。
ニキビはおでこや頬にできる。
生理が始まる時には朝からがっちり首肩が凝っている感じがして、生理
3~4日目にこの凝りがひどくなると頭痛がする。
生理が終わる頃には普通の肩こりに戻る感じ。
生理じゃない時もデスクワークが忙しくて首肩の凝りがひどくなると頭
痛がすることはある。
気を使った後に体調悪化
生理前には、食後にお腹が張ることが時々ある。

左関 やや滑
右臨泣 つまり

【心】
生理前ニキビはおでこにできる。

左内関 陥凹
右後谿 陥凹
神門 硬結
右厥陰兪 陥凹
右心兪 陥凹

【脾】
18歳・・・運動を止めて食べる量が減る。自然と体重減る。

30分以上かけてよく噛んで食べる。
空腹感はよくあり、いつもおいしく食べられる。
生理前には、食後にお腹が張ることが時々ある。
間食は、菓子をよく食べる
生理中は1日2~3回便が出る。

全体に硬い脈
中カン 動悸
臍 引き
大都 開き(右<左)
公孫 こそげ
三陰交 ややこそげ
右足三里 こそ
左右胃兪 陥凹大きい(共に同じくらい大きくトップ)

【肺】
生理前ニキビは頬にできる。

右太淵 腫れ
左合谷 陥凹
肩井 盛り上がり
大椎周り 細絡あり
右肺兪 陥凹

【腎】
20代前半?・・・寒がりになる(現在まで)。
20代後半?・・・生理痛(現在まで)。

生理がしっかり始まる前2日前から茶色の下り物、終わりも茶おりが2日くらいあって終わる感じ。昔からそんな感じ。
排卵の頃に排卵痛がある。
翌日に疲れが残ることはよくある。
肉体疲労時、気を使った後、睡眠不足の時、旅行の後に体調悪化

全体に硬い脈
臍 引き
臍周 引き
裏肝の相火 きつい
左外関 こそげ
右照海 冷え
然谷 冷え
足首から下 冷え
しもやけできることある
右腎兪 陥凹
大腸兪 抜け(左>右)

【オ血】
31歳夏・・・子宮ポリープが見つかり、切除、完治。
31歳冬・・・子宮筋腫切除手術。

生理血は濃い色で小指大の塊が混じる。

舌裏怒張 ややあり
少腹急結 あり(右<左)
しもやけできることある

<病因病理>
主訴である毎晩、何度か目が覚めるようになったのは、数か月前からである。職場で異動があり、ストレスを多く感じるようになるという大きな環境の変化があった。また同じ頃から基礎体温を測り始め、基礎体温を測るというプレッシャーが夜中の覚醒に拍車をかけた。

家事をしっかり頑張りたいや、不妊治療のことも色々とよく調べられていてできるだけのことはやりたいという言葉から、とてもまじめできちんと物事に取り組まれているという印象を受ける。つまり性格的にまじめで肝気を張って頑張ってしまいやすい傾向にあると考えられる。

春の異動による職場での強いストレスから今まで以上に肝気をピンと張り、また基礎体温をきちんと測らなければという自分で課したプレッシャーから、肝気がしっかりと納まりにくくなってしまい、毎晩目が覚めることとなったと考える。ただ生理痛と排卵痛は悪化傾向にないことから、この肝気による裏への悪影響はまだ深く及んでいないと思われる。

生理痛ははっきりとした記憶はないとのことであるが、20代後半には感じていたとのことである。今と同じ業務内容の事務仕事に就いのが26歳で、それまでは外回りの仕事をしていたことを合わせて考えると、仕事中に体を動かすこと、特に足を動かすことが少なくなったために、下焦の気血の流れを悪くして、生理痛を起こりやすくさせたのではないかと推察する。

そして結婚して実家を出たことで、仕事だけでなく家でも自然と肝気を張って家事をするようになり、上実下虚の状態に陥りやすくなって、更なる下焦の気血の巡りの悪化を招き、子宮ポリープや子宮筋腫ができやすい土台となったのではないかと考えた。

子宮ポリープや子宮筋腫は手術で取り除き、一通りの不妊検査でも大きな問題はなく、妊娠を望んでいるものの、まだ授からないということである。

元々、平素から肝気をはって頑張りやすい傾向にあるために、日常的に腎気を酷使することが多く、それは下焦の弱さとなり、自分の限界を超えて頑張り過ぎれば、腎気の弱りから肝気を引き下ろせず頭痛が起こり、寝ないと治まらない。この下焦の弱さは妊娠しにくさの一因になっている可能性は考えられる。

生理前の高温期に朝からがっちり首肩が凝ったり、胸が張ったり、ニキビができたりし、生理が来ればこれらの症状は治まるということから、月経という生理的な範疇を超えて、肝気が昂っていることと、生理が来ても治まらない下腹部痛、まだ若いのに感じる排卵痛、生理の始まりと終わりがスッキリしないこと、20代前半から感じる寒がりから、器の小ささが窺える。

ただ、腎器に比してしっかりしている脾器と、早めに寝たり健康を意識した食事などのきちんとした生活習慣が、小さいながらも器のバランスを大きく崩さず過ごせてきた大きな要因と考えられる。

<弁証論治>
弁証:肝鬱気逆、下焦の弱さ
論治:疏肝降気、補下焦

<治療指針>
毎晩何度も目が覚めることで体力の回復が十分でなくなるという悪循環からまずは脱するように、肝鬱を払って、根を付けるようにする。中途覚醒が落ち着いてきたら、疏肝降気しつつも、腎の裏を立てることに重点を置き、下焦の充実を図る。

<生活提言>
職場の異動があってからストレスを強く感じていらっしゃるとのことで、仕事で昂った神経がうまくリラックスできなくなってしまい、夜中に何度も目が覚めるようになってしまったと思われます。また基礎体温を測るということも目が覚めることに拍車をかけてしまっていると自覚されていますので、あまりご自身に厳しくされず、朝起きる時間に基礎体温を測るということでも良いのではないでしょうか。

フルタイムのお仕事をされていて、また妊娠も望んでいらっしゃいますし、子宮筋腫の既往歴もありますので、しっかりとした睡眠を取ることは体力の回復には不可欠ですし、引いては妊娠のためにも大事なことです。

お話をさせていただいて、○○さんはとてもまじめで頑張り屋さんな印象を受けます。仕事も家事もきちんとこなされているのはすごいことだと思います。ただご自身のお身体のことを考えると、頑張る分、体への負担は大きくなってきます。1日頑張った身体を休めるためには、時間が充分で深い睡眠はとても重要です。鍼灸治療や自宅施灸で、まずは夜に目が覚めて睡眠が中断されてしまう悪循環を断っていけるようにしましょう。

そのためにも、夜はスマホなどで目を酷使しない、仕事でのパソコン作業も長時間、根を詰めてやり過ぎず、休憩をこまめに取るなど、日常的に知らず知らずのうちにちょっと頑張り過ぎてしまう傾向にある○○さんには身体を休ませてあげる意識も必要かと思います。

また生理前は、○○さんの体の中の気血のバランスが悪くなり、気血が上に昇りやすくなってしまいます。これは高温期を維持するのが○○さんのお身体にとって少し負担になっているのですが、元々の体質的なものであり、少し”器”が小さいためであると思われます。

器自体を大きくすることは難しいのですが、器の中身を充実させたり、バランスを崩さないように生活に気を付けるということはできます。○○さんの規則正しい生活は、器が小さいながらも大きくバランスを崩さずに過ごすのに、一番大切な養生であり、○○さん自身がずっと実践されていることでもあり、とても素晴らしいと思います。

不妊治療に関してはステップアップも視野に入れてらっしゃるとのことですので、西洋医学の力を借りるにしても、自然妊娠をするにしても、鍼灸治療と養生で身体の土台作りを引き続き頑張っていきましょう。