カテゴリー : 不妊・婦人科の症例集 30代後半 不妊 婦人科

培養室の力とガッツな努力で不妊治療の扉をあけよう!(36歳出産)

概要

卵の質が悪い、受精卵が出来ない、不妊治療が前に進まないといったときに、力がある培養室というのはとても大切なポイントです。そして諦めないご本人の淡々とした努力も大切です。

(この症例の患者さまの声はこちら→「妊娠中の鍼灸治療の満足度に関するアンケート」12-2
【case:0219】

ご相談内容

35才女性です。結婚して2年になりますが、なかなか子供が授かりません。

子宮内膜症の進行が早く、ドクターから早めの体外受精へのステップアップを勧められていて、来月には採卵の予定です。しっかりと体調を整え、妊娠、出産につなげたいと思っています。

☆全体的な体調
子供の頃から外反母趾、高校生ぐらいから便秘がひどく、肩こりや冷え性が気になる。

春先に体調が悪化。食欲は普通、空腹感は時々、食事はいつも美味しく、時々食後の腹脹や胸焼けがある。

口は時々渇く、違和感はない。タバコは吸わない、飲酒は月に4,5回程度。

便通:三日に1回程度、お腹が張って辛いことはよくある、ウサギのようなコロコロ便。時々酸化マグネシウムを飲むと、程よい固さになって体調もよくなる。便が出きらない感じはよくある、コロコロ、量はすくない、便器に付着することは時々、よく匂う。

小便は1日に6回残尿感、尿切れの悪さなどない。夜間排尿は時々。

寝つきは普通、夢をよくみる。疲れが残ることはめったにない。

子供の頃はしもやけがあった

☆婦人科の状態
初経は13才、31日周期で7日間。
小さい塊が混じる。量は普通。
生理痛はいつもある、1,2日目に鈍痛。
排卵時に時々下腹がチクチク痛む。
高温期に胸の張り、吐き気、イライラ、眠くなる。

☆不妊治療歴
自分たちでタイミングを合わせたー1年

ホルモン検査、エコー検査、精液検査にて子宮内膜症の指摘を受け、早めのステップアップとなった。

子宮内膜症は自覚症状はなかったが、進行が早いと指摘され、不妊治療を急ぐことになった。

☆東洋医学的な体表観察
舌:潤、やや蛋白、胖嫩歯痕あり、舌裏怒張少しあり
脈:輪郭が甘く、右尺やや硬め
腹全体が暖かい、肝の相火無し、裏肝の相火ややあり。臍引きあり、臍周抜け
気海抜け、関元(CV4)左より少し冷え、少腹急結右あり、左合谷(LI4)こそげ、左外関(TE5)左陽池(TE4)左後溪(SI3)やや抜け
左神門(HT7)硬結 右曲池(LI11)、
大椎細絡あり、腠理の疎、右は胃兪(BL21)陥凹
右胆兪(BL19)左脾兪(BL20)両腎兪(BL23)抜け
腰から骨盤回り細絡多し、
右の裏内庭から台とまで強い冷え陥凹、公孫(SP4)陥凹右<左 右臨泣つまり、三陰交(SP6)ライン冷え、陰陵泉(SP9)抜け右は冷えきつい
足の冷え:足首から下、復溜(KI7)から下に冷え細絡

東洋医学的診立て

早くお子さんが欲しいというご相談ですね。病院での指摘もあり、前にしっかりと向かってご夫婦で歩まれていると思います。体外受精などの治療をスムーズにすすめ、結果につなげていきたいですね。

お身体を拝見すると、足末端の冷え、子供の頃のしもやけなど、東洋医学で言うところの気血の巡り、血流に関する問題が多く見受けられます。子宮内膜症もその血流の滞りと考えることもできますね。

また、便秘や身体に出来ている細絡なども、気血の巡りの悪さ、滞りが起こりやすい体質であることを示していると考えられます。(肝鬱気滞血瘀)

また、血流の悪さは気血の巡りである血流そのもの悪さと、血流を支える土台の力(腎気)素体の力強さの課題があります。この土台の力の不足があると、気血の巡りを下支えすることができません。臍の引き、力のなさなどから土台の力の不足も感じられます。

脾腎の陽気をあげ、気血の巡りをよくし、不妊治療を前に進めましょう。

東洋医学的弁証論治
弁証:脾腎の陽気不足 気滞血瘀
論治:益気補脾補腎 疏肝理気
治療方針:血流の悪さが目立つので、しっかりと温養補脾補腎 必要に応じて疏肝理気

治療経過

X年9月 35才
・ビッグママ治療室受診 鍼灸治療スタート
X年10月
・採卵 4つ取れたが三つ空砲、1つ変性卵
X年11月
・6月は1.6㎝だったチョコレート嚢胞が4.5㎝になっていた。
チョコレートの嚢胞など婦人科疾患の進行が早いため、婦人科疾患の検査は勧め、また不妊治療はスピードアップした方がよいとアドバイス。体外受精の治療が早めに進められるクリニックに転院
X年12月
・採卵、空砲と変性卵で受精卵が出来ず。
X1年1月
・不妊治療のクリニック、転院
・チョコレート嚢胞、子宮内膜症は悪性の所見ないと言うことで経過観察
X+1年3月
・採卵、受精せず。受精障害の可能性があるので、次回は卵子活性化を提案された。
X+1年4月
・採卵、受精せず。培養室からまだやれることはあるのでと言われた。
・伊藤病院受診 チラージン服用開始
X+1年5月
・左右一つづつ取れた(いままで右は取れず)。2個受精、2つ成熟し受精ー移植(8分割グレード3)、残りは胚盤胞培養へ
・鍼灸治療の頻度を1日おきにする(頻度をあげる)
X+1年6月
・妊娠判定(hcg129,P20.9)残りの卵は胚盤胞にならず。
・次の判定日までほぼ毎日鍼灸治療をいれる

妊娠の経過
5w
・胎嚢確認OK、伊藤病院再受診
鍼灸治療頻度は2,3日おきにいれる。可能ならば連日でもOKということにして頻回にする
黄体ホルモン補充
6w
・卵黄嚢見えた、出血がある(問題ないと言われる)黄体ホルモン補充
9w
・不妊クリニック卒業、大きめの病院での出産を勧める転院
・週に2〜3回の鍼灸治療

出産報告
無事に3300グラム越えのベビちゃん、胎盤が700グラムもあった。

あとがき

体外受精などの不妊治療は始めてみなければ分からないことが多いです。

採卵してみて、卵の質が悪い、受精卵が出来ないなどの大きな壁につきあたられましたが、こういった不妊治療が前に進まないといったときに、力がある培養室というのはとても大切なポイントですね。培養室の前向きな工夫と努力、提言そして、出来ることはやっていこうという諦めないご本人の淡々とした努力。どちらも頭が下がる思いです。

東洋医学的な身体の状態は確かに気血の巡りの悪さ(気滞血瘀)と、身体を芯から温める力(脾腎の陽気)という課題ですが、それが不妊治療において具体的にどういったポイントとなり、病院選択になるのかということが、ご本人のシンプルな努力があったために、明確になり、困難事例でありながらも、治療がスムーズに進んだと思われます。

迷いなく、やれることはやっていく。その姿勢に頭の下がる思いです。