弁証論治:

0192:41才 不育症 咳 肩こり 吐き気 体外受精するものの自然妊娠 出産

<問診表>

41歳 女性
血圧:120/60、身長:147㎝、体重:49㎏(BMI:22.68)
仕事:専業主婦
家族構成:夫

主訴:1、喉の痒みと咳、2、不妊(繰り返す流産)

【今一番つらい症状について】
1、喉の痒みと咳・・・17歳の頃から寝付くときや寝ているときに、喉が痒くなり、発作のように激しい咳が急に出てなかなか止まらないことがある。喉の痒みで目が覚めて咳が止まらず眠れない時が特に辛い。痰が絡むこともある。

咳が出るのは10月頃から4月頃の花粉の季節。特に2~3月が咳が出る頻度が高く、症状も重くなりやすくて咳喘息や気管支炎になってしまたこともある。つらい時は病院で強い咳止めを出してもらい、良く効くが、薬のおかげで治るというよりはアレルギーのシーズンが過ぎたら治っていたという感じがする。もともと子供の頃から目の痒みや鼻水などの花粉症もある。

喉を酷使する仕事をしていた時の方が症状は重く、仕事を辞めた後は咳がずいぶん軽くなった。また花粉症の症状は田舎に住んでいる時より関東に住んでいる時の方が辛い。流産の前後では変化無し。

2、不妊(繰り返す流産)・・・38歳で結婚し、39歳で妊娠を希望してすぐに自然妊娠するも7週で流産、手術となる。数か月後、自然妊娠するも8週で流産、手術となる。2回の流産後、体重が増え、生理周期が長くなったが、体調は復調していると思う。今年春から夏にかけて人工授精を3回行い、妊娠するも8週で流産、手術となった。病院では特に不妊要因、不育要因は無いと言われる。

(体重の変動について)
子供の頃からぽっちゃり傾向で、18歳頃から20代後半までは45kg前後だったが、20代後半のストレスで38kgまで痩せた。その後、35歳くらいまでは42kg前後で、35歳くらいから45kg前後で安定する。39歳の2回の流産、41歳の流産、体外受精と1kgくらいずつ増え、現在49kgとなる。

(婦人科の状態)
初経12歳。
生理周期は30日(39歳の流産までは27~28日周期)、生理期間は6日間。
生理血は濃い色で、小さい塊が混じる。
量は普通で、生理1~2日目が量が多い。
生理痛は1~2日目に鈍痛。10代の後半から生理痛があり20代の頃は3日目まで痛かった。30代後半からは1日目が痛いだけで、1日目だけ鎮痛剤を1回服用するだけで済むようになった。
25歳頃から、生理2~3日前から胸の張り、腰の痛みがあり、生理が来ると症状は無くなる。流産の前後で変化は無し。

ここ数年、生理が本格的に始まる数日前から茶色のおりものが出始めるようになった。

【その他に治したい症状】
頭痛、肩こり・・・小学校高学年の頃から肩こりの自覚があった。頭痛とセットになったのは18歳くらいから。頭痛と肩こりは同時に発生することが多く、頭痛がひどくなると吐くこともある。疲れが溜まっている時、寒いところに長時間いたあと、やりたくない仕事をしたあとに、頭痛と肩こりが起こる。肩こりは主に左側が多く、首筋から肩上部が凝る。頭痛はこめかみあたり、おでこの奥など、締め付けられるような痛みがほとんど。ズキズキした痛みのときは、目の奥も痛む。

【ふだんの状態について】
(体調の悪い変化)
肉体疲労時、気を使った後、睡眠不足の時、旅行の後

(風邪について)
風邪はめったにひかない

(食事)
食欲は普通で、以前と変わらず。
食事時間は不規則。
食事時間は15分で普通に噛んで食べる。
空腹感は時々で、いつもおいしく食べられる。
食後にお腹が張ったり、胸焼けがすることは時々あるが、辛いことはない。
好きな食べ物は、フルーツ全般、香草類、豚肉。
嫌いな食べ物は、特になし。
間食はよくとり、常備菓子、せんべい、チョコ、クッキー、果物など。

(水分)
1日に飲む量は200ccのコップで6杯で約計1200cc程度。
飲むのは、ルイボスティ。
口喉などの渇きは時々、口の違和感はめったにない。

(飲酒)
月に4~5回。18歳から現在まで。

(タバコ)
吸わない。

(大便)
2~3日1回出る。
便秘でお腹が張ってつらいことは時々。
薬はめったに使わないが、最近「オイルデル」を飲み始めたがあまり変化はない。
子供の頃から便秘傾向だが、35歳を過ぎてからは便の量が減ったように思う。20歳頃からケーキや焼き肉を食べた後は毎回お腹が痛くなり、便通がある。ただこの便通は下痢ではなく、しっかりと形のある便がスッキリ出るので、辛いわけではない。
便の形は細く、量は多い。
便が出きらないことはめったになく、便器に付着することは時々。
臭いは普通でいつも臭う。

(小便)
1日5回。
残尿感、尿切れが悪いことは無い。
尿の色が悪いこと、夜間排尿は、めったにない。

(睡眠)
就寝1時、起床6時。
寝付き、寝起きは普通で、眠りは深い。
翌日に疲れが残ることはよくあるが、仕事を辞めてからはましになっている。

<時系列>

子供の頃・・・花粉症(現在まで)。
       便秘傾向(現在まで)。

小学生・・・肩こり(現在まで)。

12歳・・・初経。

10代後半・・・生理痛が出てくる。

17歳頃・・・寝付く時や睡眠中に咳が出る(現在まで)。

18歳頃・・・体重45㎏(20代後半まで)。
      肩こりと頭痛が同時に起こりやすくなる(現在まで)。

20歳頃・・・ケーキや焼き肉を食べると腹痛してお通じが出る(現在まで)。

20代後半・・・ストレスで体重が38kgまで一時期痩せる。
       その後、35歳頃まで42㎏くらいで安定。
       生理2~3日前から胸の張り、腰の痛みがでる(現在まで)。

35歳・・・体重45kgで安定する(流産まで)。
     生理痛が初日だけになって少し軽くなる(現在まで)。
     便の量が減った気がする(現在まで)。

38歳・・・結婚。

39歳・・・2回自然妊娠するも流産、手術。
     流産後、体重が徐々に増える(現在まで)。
     流産後、生理周期が長くなる。
     生理直前に茶おりがでるようになる(現在まで)。

40歳・・・仕事辞める(現在まで)。
     翌日に残る疲れがましになる(現在まで)。
     咳が軽くなる(現在まで)。

41歳夏・・・人工授精で妊娠するも流産、手術。

41歳秋現在・・・喉の痒みと咳、不育不妊。
        体重49kg。

<切診情報>

【脈診】
左尺 やや弦
左関 浮位 抜ける

【舌診】
舌質 淡紅~淡白
舌苔 薄白

【腹診】
脾募あり
心下つまりあり
裏肝の相火 左ややあり
中カン 冷え、腫れ
臍 やや上向き
大巨 奥冷え
関元 奥冷え
少腹急結 左少しあり

【経穴診】
手の皮膚に艶あり
右内関 陥凹
太淵 腫れ(右>左)
左外関 陥凹
左陽池 冷え
右神門 腫れ
左公孫 陥凹
右臨泣 つまり
左三陰交 こそげ
右足三里 大きい陥凹
右申脈 やや冷え
復留ライン 冷え
足首から下の皮膚が硬い

【背候診】
上背部 細絡あり
大椎 盛り上がり、冷え
風門 弛み、発汗、冷え
左胃兪 陥凹
三焦兪 陥凹(右がトップ、左が2番)
右腎兪 陥凹
大腸兪の高さから下が冷え

<五臓の弁別>

【肝】
寝付くときや寝ているときに、喉が痒くなり、発作のように激しい咳が急に出てなかなか止まらない。
疲れが溜まっている時、寒いところに長時間いたあと、やりたくない仕事をしたあとに、頭痛と肩こりが起こる。
首筋から肩上部が凝る。
頭痛はこめかみあたり、おでこの奥など、締め付けられるような痛みがほとんどで、ズキズキした痛みのときは目の奥も痛む。

小学生・・・肩こり(現在まで)。

左関 浮位 抜ける
少腹急結 左少しあり
右臨泣 つまり

【心】

心下つまりあり
右神門 腫れ

【脾】
頭痛がひどくなると吐くこともある。
間食はよくとる。
2~3日1回出る。
便秘でお腹が張ってつらいことは時々。
薬はめったに使わないが、最近「オイルデル」を飲み始めたがあまり変化はない。
子供の頃から便秘傾向だが、35歳を過ぎてからは便の量が減ったように思う。
20歳頃からケーキや焼き肉を食べた後は毎回お腹が痛くなり、便通がある。ただこの便通は下痢ではなく、しっかりと形のある便がスッキリ出るので、辛いわけではない。
便の形は細い。

20歳頃・・・ケーキや焼き肉を食べると腹痛してお通じが出る(現在まで)。
20代後半・・・ストレスで体重が38kgまで一時期痩せる。
       その後、35歳頃まで42㎏くらいで安定。

脾募あり
中カン 冷え、腫れ
臍 やや上向き
右内関 陥凹
左公孫 陥凹
左三陰交 こそげ
右足三里 大きい陥凹
左胃兪 陥凹

【肺】
寝付くときや寝ているときに、喉が痒くなり、発作のように激しい咳が急に出てなかなか止まらない。
咳が出るのは10月頃から4月頃の花粉の季節。
ひどくなると咳喘息や気管支炎になってしまたこともある。
喉を酷使する仕事をしていた時の方が症状は重く、仕事を辞めた後は咳がずいぶん軽くなった。
首筋から肩上部が凝る。

子供の頃・・・花粉症(現在まで)。
17歳頃・・・寝付く時や睡眠中に咳が出る(現在まで)。

手の皮膚に艶あり
太淵 腫れ(右>左)
上背部 細絡あり
大椎 盛り上がり、冷え
風門 弛み、発汗、冷え

【腎】
喉を酷使する仕事をしていた時の方が症状は重く、仕事を辞めた後は咳がずいぶん軽くなった。
疲れが溜まっている時、寒いところに長時間いたあと、やりたくない仕事をしたあとに、頭痛と肩こりが起こる。
首筋から肩上部が凝る。
頭痛はこめかみあたり、おでこの奥など、締め付けられるような痛みがほとんどで、ズキズキした痛みのときは目の奥も痛む。
翌日に疲れが残ることはよくあるが、仕事を辞めてからはましになっている。

39歳・・・2回自然妊娠するも流産、手術。
     流産後、体重が徐々に増える(現在まで)。
     流産後、生理周期が長くなる。
     生理直前に茶おりがでるようになる(現在まで)。
40歳・・・仕事辞める(現在まで)。
     翌日に残る疲れがましになる(現在まで)。

左尺 やや弦
裏肝の相火 左ややあり
大巨 奥冷え
関元 奥冷え
左外関 陥凹
左陽池 冷え
右申脈 やや冷え
復留ライン 冷え
足首から下の皮膚が硬い
三焦兪 陥凹(右がトップ、左が2番)
右腎兪 陥凹
大腸兪の高さから下が冷え

<病因病理>
主訴である喉の痒みと咳は17歳頃から花粉が飛ぶ時期に起こるようになった。夜寝付く時や寝ている時に、喉の痒みが起こって咳が止まらなくなる。咳が止まらずなかなか寝付けなかったり、寝ている時に咳で目が覚めたりする。

これらの情報から、この喉の痒みと咳は花粉症の症状の一つで、花粉という外的要因の影響が大きいことが窺える。ただ夜寝付く時や寝ている時に起こっていることから肝気が納まる夜に、花粉という外邪に喉がさらされると、その外邪と戦うために肺気が集まって痒みや咳を引き起こすが、花粉を排除しきれるほどの余力が肺気にないため、長引くひどい咳になりやすかった。

そして余力のない肺気を補うために肝気を使い気逆になりやすい状態になる。それでも外邪を追い出すことができないと更に咳が長引き、ひどくなると咳喘息や気管支炎を引き起こすことになった。

子供の頃から便秘傾向で小学生から肩こりがあることを合わせて考えると、もともと肝鬱気逆傾向の素体があるように思われる。それが17歳頃から肺気に余力がないために、肝気が納まる夜に花粉を追い出そうと咳をするようになり、気逆傾向に拍車がかかり始める。そして18歳頃から肩こりに頭痛が加わるという肝鬱気逆が強まっていることが窺える。

20歳頃からケーキや焼き肉を食べると腹痛がしてお通じが出るとのことだが、これは脾虚というよりは、許容範囲を超えた時にすぐに反応して排泄することができる敏感な脾器であると考える。20代後半にはストレスで体重がかなり減るが、その後ストレスが減ると少しずつ体重は回復していることや、元々ぽっちゃりな体型であることからも脾器は丈夫な方であると思われる。ただこの20代後半のきついストレスは少し腎気にも負担を掛けたと思われ、生理前の胸の張りや腰痛が出るようになったものと思われる。

38歳で結婚し、39歳で自然妊娠ー流産を2度繰り返した。流産後、生理周期が少し長くなって、生理直前に茶おりが出るようになり、少し腎気を落としたことが窺える。そのため、40歳で仕事を辞めて、疲れがましになり、喉の痒みや咳もましになった。仕事でかなり腎気に負担をかけていたことが窺え、仕事を辞めて少し腎気への負担が減り、肺気にも少し余力が出たものと思われる。しかし夜の咳は無くなることはなく、またこれまでのようには妊娠しにくくなったため、人工授精を数回受けて妊娠するもまた流産となってしまったことから、少しずつ落としてきた腎気のしっかりとした回復には至っていないことが分かる。

41歳現在、仕事をしている時より疲れがましになっているとのことだが、切診情報からかなり腎虚、特に腎陽虚が顕著である。また大椎の冷えや風門の状態から風邪の内陥の可能性もあり、余力のない肺気が侵されていることで、より腎気に負担を掛けていることが窺え、妊娠に通じる下焦の力を上げるためにも風邪を取り、腎気を建てる必要があると考える。

<弁証論治>
弁証:腎陽虚、風邪の内陥
論治:温補腎陽、去風散寒

<治療指針>
まずは風邪を追い出して、肺気、腎気への負担を取りたい。それと並行して腎気を立てていき、妊娠しやすくかつ妊娠が継続するようにしたい。

肩こり頭痛も治したいとのことだが、仕事を辞めてかなり肝鬱はましなのではないかと思われるので、腎気を立てながら風邪を追い出した後にもきつい肝鬱があるようなら適宜払いたいと考える。腎気を立てることで肝鬱気逆は起こりにくくなるとは考える。

また腎気を立てることで肺気へのバックアップとなるとは思うが、喉の痒みや咳があまりにひどく、悪循環を生むようなら、肺気も補っていくことも考えておく。

<生活提言>
喉の痒みや咳は、花粉という外的要因の関与が大きいようなのでなかなか完治が難しいと思われますが、花粉の侵襲を受けにくくし、咳が起こっても咳喘息や気管支炎まで症状を悪化させないように身体の守りを強くすることはできると思います。今のお身体を拝見すると、身体の守りが弱くて風邪が入り込んでしまっていることが窺え、そのために身体の力が困窮している状況です。まずは鍼灸治療でこの風邪を追い出し、身体の守りを少しずつ高めていきたいと考えています。

風邪を追い出し身体の守りを高めるためには、生命力の土台の力のバックアップが欠かせませんが、お身体を拝見するとそちらも少し力不足のようです。この土台の力は妊娠したり、妊娠を継続させるのにも重要な生命力です。これまでのお仕事が忙しかったことや年齢から考えると著しくこの土台の生命力が不足しているとは思いませんが、妊娠を継続するには少し足りないと考えられます。ただ妊娠するだけの卵の力、受精卵を受け取る力はあるのですから、少し生活状況を見直して、自宅でもお灸をして、妊娠が継続できる身体作りをしていきましょう。

まず睡眠時間が5時間で翌日に疲れが残っているのは、改善の余地が十分にあります。睡眠時間をきちんと確保して身体の力をしっかりと養い、翌日に疲れが残らなくなると、身体の状態はとても違ってくるのではないかと思います。お仕事をされていた時に比べたら疲れは全然違うかもしれませんが、一晩の睡眠でもう少し疲れが取れるとよいですね。

また頑張る性格でいらっしゃるので、どうしても気が上に昇りがちになってしまい、肩こりや頭痛が起こりやすくなってしまいます。お仕事も辞められたので、昼間の時間に毎日散歩をして気分を晴れやかにして気を下に引き下ろす習慣を持たれると、より身体の土台の力を養うことに繋がります。ここで大事なのは、激しい運動をして疲れを溜め込まず、心地よい範囲で体を動かして、夕方以降はゆっくり過ごして夜はしっかり寝ることです。

できることから始めて、妊娠を継続できるお身体を作っていきましょう。