カテゴリー : 不妊・婦人科の症例集 30代後半 不妊 婦人科 胃腸・便通

チョコレート嚢胞、痩せていて胃腸が弱い、アレルギー。体重アップで体力アップ。(35歳出産)

概要

胃腸が弱く瘠せ(BMI17.7)、チョコレート嚢胞などの婦人科疾患もありましたが、身体作りをしながらの妊娠、充分な大きさの赤ちゃん出産につながった症例です。

(この症例の患者さまの声はこちら→「妊娠中の鍼灸治療の満足度に関するアンケート」12-1)【case:0214】【神奈川/中郡】

ご相談内容

不妊:早く妊娠出産したいです、どうしたらいいでしょうか?
その他:静脈瘤、不整脈、アレルギー、胃腸が弱く瘠せている(BMI17.7)

32歳から妊娠希望で、2年ほどいろいろとがんばっています。タイミングや人工授精も何度も行いましたが、妊娠できません。

また、胃腸が弱く胃もたれしやすく沢山食べられないせいか、体重が現在40キロそこそこしかなく、BMIは17.7です。時に不整脈もあり、アレルギー性鼻炎も辛いです。また昨年左の膝の裏の静脈瘤がかなり大きくなっていることも気になります。

昔から、赤面しやすく、心臓の鼓動が早く感じることがたまにあります。ストレスや疲労ですぐに体重が落ちてしまいます。便通はよく、小便も1日6回程度で問題ありません。寝つきはよく眠りは浅いものの寝起きはよいです。

そろそろ体外受精や顕微授精などの高度生殖医療受精へステップアップしなければならないのかなとも思います。どうしたらいいでしょうか?

不妊治療歴:病院でのタイミング指導を半年6回以上、人工授精4回
・不妊一般検査:問題なし
・フーナー検査:問題なし
・卵管造影問題なし
・大きめ(3㎝程度)のチョコレート嚢胞が左右共にある(不妊治療には問題ないと言われた)

生理周期は28日から34日 7日間ぐらい。生理痛はひどいが昔ほどひどくはない。
高温期に体調がいつもわるくイライラしたり、気持ちが落ち込んでいたりする。

東洋医学的診立て

早く妊娠、出産したいというご希望ですね。この2年色々ご夫婦で取り組んでいらっしゃったのかなと思います。

また、体重もかなり軽く、胃腸のこと、不整脈のことなども気になりますね。不妊治療は妊娠がゴールではなく、母子共に元気なお子さんをご出産になることが一つの目標ですね。体調も気になりますね。

お身体を拝見してきになるのは、(詳細は下記)、胃腸のツボが弱い、お腹の冷えやお臍そのものに力がないことが大きいです。これは素体の力そのものの不足です。

素体の力が不足していますが、身体の上部には熱感があり、下腹を中心として足先までの足腰には冷えがあり、血流の悪さを候わせます。これは、上実下虚、つまりお風呂などでお湯を沸かしたときに上の方は熱いけど下は冷たいと言う状態です。混ぜる力が弱いのです。

胃腸の力を中心に身体の力をつけること、気血の巡りが悪く停滞しがちですので、全身の気血の巡りをよくし、子宮卵巣を中心に生命力を養っていきましょう。

少しまとめておきますね。

1)体重=体力です。現在のBMI17.7から少しでも増やすようにしていきましょう。目標はBMI19.5 です。胃腸の力をあげて、滋養を取りこむ力をあげていきましょう。

2)チョコレート嚢胞などエストロゲン依存性疾患
毎日豆乳を飲んでいるとのことですが、エストロゲン依存性疾患がある方の場合、大豆製品をやめることでかなり状態がよくなった方を多く経験しております。豆乳はかなり強いのでやめてみてはいかがでしょうか? また1ヶ月ぐらい徹底的に大豆製品をやめて、チョコレート嚢胞や子宮内膜症の様子を見るのもよいかと思います。

3)体外受精や顕微授精などの高度生殖医療は、年齢要因を考えてそろそろスタートする時期ではあります。しかしながら、いまの体重、体力でスタートしてしまうよりも、もう少し(3ヶ月から半年程度)身体作りをしてからのほうがスムーズに体外受精や顕微授精などの高度生殖医療がすすみ、妊娠、出産へつながるのかと思います。急がば回れです。

東洋医学的な考察:東洋医学的なお身体を拝見しての情報(東洋医学的な用語が多くなりますが、列記しておきます。)
脈のほそさ、舌がやや右への歪舌、舌の苔がやや黄色い、舌裏怒張がある。
お臍に手をかざすと引いてくる感じがある。中注(KI15)の冷え、右の大巨(ST27)冷え、太淵(LU9)はれ、左外関(TE5)、陽池(TE4)冷え、右神門(HT7)硬結、左養老(SI6)冷え。大都(SP2)大きく陥凹 右公孫(SP4)陥凹、三陰交(SP6)、足三里(ST36)陥凹、左右懸鍾(GB39)つまりきつい、左肺兪(BL13)陥凹、右厥陰兪(BL14)陥凹、脾兪(BL20)陥凹右>左 右胃兪(BL21)亀裂 左腎兪(BL23)陥凹 左右次髎(BL32)

東洋医学的弁証論治
弁証:脾虚肝鬱オ血 腎虚
論治:益気補脾補腎  
治療方針:脾気をあげ、滋養を取りこむ力をあげる。脾気のバックアップと、子宮卵巣の力をつけるために腎気を温養する。腎気を温養することで肝鬱瘀血の納まりを期待する。基本的に肝鬱瘀血は手を入れないが、場合によっては肝鬱瘀血にも手を入れる。

治療経過

初診:左外関(TE5)陽池(TE4)、右足三里(ST36)、三陰交(SP6)、右公孫(SP4)大都(SP2)、気海、関元温灸、脾兪(BL20)、三焦兪、次髎(BL32)
自宅施灸指示:左外関(TE5)、陽池(TE4)、気海関元 三陰交(SP6) 足三里(ST36)、胃兪(BL21)、脾兪(BL20)、三焦兪、腎兪(BL23)、次髎(BL32)、胞肓(BL53)など適宜。施術の度に指示。

4月 初診、以降週に1,2回のペースで鍼灸治療、毎日の自宅施灸、食事の見直し
7月 体重が2キロ増える
   採卵ー凍結せずに移植。判定日hCG6.5 P5.74 妊娠継続出来ず
   体調を崩し、増えた体重が減ってしまった
9月 採卵周期に入るが、受精卵ができず終了
10月 採卵ー3つ採れたが胚盤胞にならず凍結出来なかった。
12月 採卵3つ取れ一つ胚盤胞になり凍結
2月 体調がよいので連続採卵にする 
   採卵5つ取れて3つ胚盤胞になった。
4月 凍結胚盤胞移植 鍼灸治療の頻度を週に3回にする 判定日hCG125 Pは振り切れ妊娠継続

妊娠中、胃腸の不快感、胸焼け、胃のトラブルは多いが大きなトラブルはなく経過。12wまで週に3回。それ以降は週に1−2回

無事に2800グラム越えのベビちゃんを出産。おめでとうございます。

あとがき

無事のご出産、おめでとうございます。ご家族3人のお写真、とても幸せそうで、私も気持ちが温かくなってきました。

胃腸のパワーがちいちゃめで、体重がBMIで19.5を切る痩せ型タイプの方の場合、『頑張って食べると痩せる』という悪循環をおこしてしまいます。しかしながら、体重は体力。鍼灸はこういった方の場合、薬やサプリと違い胃袋を使わないアプローチとなりますので、無理なく体調を整えられると思います。

また昨今、赤ちゃんの低体重の問題は、母子栄養協会の「【最新】妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針2021」などにも詳しいですし、日本産科婦人科学会からも、『妊娠中の体重増加の目安』として提言されています(→【健やか21】「一般のみなさまへ 妊娠中の体重増加の目安について」の掲載について(日本産科婦人科学会))。日本の妊婦健診はとにかく『太るな!』という厳しい指導の時代がありました。しかしながら、赤ちゃんの低体重は大きな問題です。

当院では
1)妊娠前からの体調を整えること
2)妊娠初期の胎盤形成期の鍼灸アプローチ
3)妊娠中の体重コントロール

この3つをとても重要と考えております。とくに、2番は、赤ちゃんを十分大きく育てるのに必須の項目です。赤ちゃんが十分な体重を得ての出産は、赤ちゃんへの大きなプレゼントです。ぜひ、ポイントを踏まえて頑張って乗り越えていきましょう。