カテゴリー : 学会・論文

第64回 全日本鍼灸学会 講演記録『女子胞力を増すことによって、妊娠出産に至った一症例よりの考察』

質問と答え

Q1 不育について

不育症定義 厚生労働省研究班HPより

妊娠はするけれども、流産、死産や新生児死亡などを繰り返して結果的に子供を持てない場合、不育症と呼びます。

習慣(あるいは反復)流産はほぼ同意語ですが、これらには妊娠22週以降の死産や生後1週間以内の新生児死亡は含まれません。不育症はより広い意味で用いられています。

実は学会でも何回流産を繰り返すと不育症と定義するか未だ決まっていません。しかし、一般的には2回連続した流産・死産があれば不育症と診断し、原因を探索します。また1人目が正常に分娩しても、2人目、3人目が続けて流産や死産になった際、続発性不育症として検査をし、治療を行なう場合があります

上記の報告の通り、見解の分かれるところであるというのが現在の不育の状況でもあります。

今回の発表にあたり、

『不育という言葉を使っているが、不育症をどのように把え考えているのか?今回のケースは不育症にあてはまらないのではないか?』

というご質問をいただきましたので、お返事申し上げます。

厚生労働省の研究班HPによると、『妊娠はするけれども、流産、死産や新生児死亡などを繰り返して結果的に子供を持てない場合、不育症と呼びます。』と定義されています。習慣流産が続けて3回の流産とされるよりも少し広い意味で使われるようです。本件の場合、化学流産が2回ですので、不育症と呼んで良いのか? とは思いますが、ドクターによる精査によって自己抗体の高さが指摘されて不育症という診断がついております。

東洋医学の治療家として考えるべきところは、不育症か否かではなく、東洋医学的人間観に沿って、目の前の患者さんの物語を読み解き、東洋医学の視点からのアプローチだと思っております。このために弁証論治をしていくわけです。本件の場合は、腎虚を中心とした気虚が強く、腎気のバックアップ不足が女子胞力の不足をまねいていると判断し、私の提示できる範囲としております。もし、この範囲以上に具体的なアプローチが必要なケースであれば、もう少しいわゆる不育症専門外来などの受診を不妊カウンセリングの立場ととしてアドバイスさせて頂くということになると思います。

また、血液凝固系のからむ不育症の場合は、体表観察において違和感を感じることが多く、この場合、いわゆる不育の定義を満たしていない流産未経験の場合でも、不育症専門クリニックの受診をお勧めすることが私の臨床では多くあります。そして数多くの場合、不育症と判断されることを経験しております。体外受精などの場合、多額の費用がかかりますので、移植する前の段階でこのようなアドバイスが出来ると、患者さんにとっても、有益な情報となる可能性があるのではないかと考えております。しかしながら、この鍼灸と西洋医学の棲み分けや、不育の状態自体流動的な側面もありますので、基本的にケースバイケースの対応となっております。

Q2 女性の人生における女子胞力と腎 解説文章

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Q:女性の人生における女子胞力と腎。~妊娠、出産、産後の人生を支えるものとして

1)腎とは
私たちは、精子と卵子が結合し、親からもらった腎を拠り所に生をうけ、生命力の根源としての腎を支えとして生老病死する一生を過ごします。

そして次なる世代を生み出す男女おのおのの生殖器の生命力もまた腎を支えとしています。

腎は生命力の拠り所です。

2)女子胞力としてとらえる
腎気が支えとなり、全身の余力で養われるはずの女子胞が、

(1)月経という独立したタイムスケジュールをもち、人の一生よりも盛衰が早い。
(2)母体側の生命力を踏み台にし、独自の生命場としての勢いを持つことがある。

という2つの観点から、私は女子胞とその支えとなる腎、伸びやかさを主る肝を一体の場としてとらえ、女子胞力と呼んでいます。

3)女子胞と腎
女性の生殖の中心となる女子胞は、女性の身体の中心にあり、腎気によって養い支えられる存在です。また、奇恒の腑であり、全身の生命力の余力によって養われているとも考えることができます。腎気を中心とした全身の生命の余力が女子胞に注がれ力となるわけです。

全身の生命力が充実すれば、腎気も充実し、女子胞力も充実します。全身の生命力が不足すれば、腎気も不足し、女子胞力も衰えていきます。腎気を中心とする全身の生命力と女子胞力は基本的にリンクするわけです。

しかしながら、女性の生殖を眺めると、あたかも女子胞が主役で、それを養い守るために母体側があるのではないかと思われることをしばしば目にします。

余力で養われるはずの女子胞によって全身が振り回されることになるわけです。とくに、妊娠した女子胞は、より積極的に生命力を母体側から奪い取ります。

次世代が優先されるという当たり前と言えば当たり前の状態ですが、母体側からみると、出産という大きなイベントを乗り越えることが難しくなり、出産そのものや、産後の大きな虚損病のきっかけにもなることがあります。女子胞の生命力と母体側の関係をよく考え、母体側の虚損を少しでも補っておくことが妊娠時期、産後の養生となり、とても大切となるわけです。

Q3 女子胞力の図

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