不妊・婦人科別館:

はじめに – 赤ちゃんと出会うための旅 (1)

私が不妊を知ったとき

私が、不妊という事を知ったのは、もう今から18年も前のことです。当時私は25才、始めての妊娠中でマタニティースイミングに通っていました。そこに、私よりはちょっと年上の妊婦さんがいらしていて、

『赤ちゃんが欲しくて、だいぶTK大学病院に通ったんだ。でも35歳になって、ドクターから治療をおしまいにしましょうといわれて、コタツで泣きにないていたの。そしたら、なぜだかポコッと授かって・・・』

もう今から18年も前のことです。マタニティースイミングでは、私と同世代の元気な若い妊婦さんが多くて、ちょっとお姉さんの彼女のお話を私は実感なく、ふーんそうなんだあと思って聞いていました。目の前の彼女も一緒にスイミングを楽しむ普通の妊婦さん。ただ一緒に楽しくプールの時間をすごし、私は7月に、彼女は8月に出産し、翌年、彼女も年子のお子さんを出産し、私も少し遅れながら年子の子供を出産しました。

今思うと、彼女の不妊は、いわゆるストレス性のもので、キャッチアップ障害。つまり、精子と卵子がであえていないということが問題の中心だったのでしょう。当時の治療としては、排卵の誘発が中心で、人工授精までの治療。治療することでより身体がストレスとなり、卵管采の動きが悪くなり、不妊状態が深くなってしまったのだと思います。(注:こういうキャッチアップ障害で、精子と卵子がであえていないときの西洋医学的な治療が体外受精であり、身体のストレスをとるということであれば、鍼灸がよいと思います)

ドクターに治療中止をいわれ、泣いてあきらめたとき、東洋医学でいう肝気鬱結が晴れ、身体にストレス状態がなくなったため、卵管采が気持ちよく動き、妊娠に致ったのだと思います。多分この方には排卵障害などがなかったためでしょう。気が楽になって身体の状態がよくなり、思わぬ年子の妊娠。あのときは私も年子妊娠の渦中になったので、「まったく年子とはねえ(^^;)」と話しましたが、彼女にとっては、それまでの遅れを一気に取り戻した思いだったのではないでしょうか。

不妊治療との関わり

不妊の治療というのは、ここでもわかるように、ある時期まで、女性側に過排卵をおこさせて、なんとか受精の機会をあげようということが中心でした。それがこの10年ぐらいでしょうか。体外受精の登場で圧倒的な進歩をみせました。35歳で不妊治療終了とされていた時代から、生理がある限り治療可能の時代です。また、時代の流れとともに、女性側の妊娠への意識もかわり、妊娠を望む年齢があがってきたことも、現代の不妊治療の流れを大きく推し進める要因にもなっていると思います。

私は、ここ数年、体外受精を中心とした不妊治療に挑戦する方と、深くかかわり、鍼灸臨床を通じてできるお手伝いをさせていただいています。

生命を嗣ぐ、生命のリレーをする

女性にとって妊娠は、まさに自分の命の中で次の生命をはぐくんでいく行為ですね。妊娠し出産できる女性は、そういったことに直接的にかかわれる、存在です。

自分の命もそういったリレーによってはぐくまれてきて、また自分もはぐくんでいく。

もしかしたら直接的にリレーにかかわることができない運命かもしれません。

それは、私たちが決められることではなく、もっと大きな何かがきめているのでしょう。
子供は授かるもの、ああ、そうなんだと思います。

生命は、リレー。
ただひとりで存在しているのではない。
社会の中に生きる私たちは、
生命のリレーに、直接、間接にかかわり、
その社会の一員として生きていくのだと思います。
連なる生命の中の一つの輝きが、私たち一人一人の生命そのものなのでしょう。

社会の中で、生命が嗣ぎ、嗣がれていく。今、私の命があり、社会の中で存在がゆるされているということに感謝の気持ちがわいてくるのを感じます。

不妊治療の一般的な流れ

赤ちゃんが欲しい、でも出来ない。そんなときに産婦人科にいけばいいのかな?と誰でも思いますね。一般的な流れをお話したいと思います。

タイミング、人工授精など

年齢にもよりますが、1年程度普通の夫婦生活を経ても妊娠に至らない場合は、ご夫婦の基本的な検査と、排卵を少し促して、受精のチャンスをあげ、妊娠を考えようという作戦を取ります。これがタイミング、人工授精などによる挑戦です。

また、腹腔鏡などにより、骨盤内臓器の癒着などをとりのぞき、卵管采の動きをよくして、受精を促す方法もとられることがあります。

これらの治療は、排卵を促し(過排卵させ)、精子と卵子の出会いのチャンスを濃厚にすることで妊娠を促しています。ある一定の期間は、挑戦してみるのがいいと思います(ただし、薬物などをあまり使いすぎることには注意が必要だとは思いますが)

ここで妊娠に到れば、いままでの不妊は精子と卵子の出会いが少し足りなかっただけなんだなということになります。

これらの治療で結果がでないときには、精子と卵子を直接的に出会わせる方法にシフトすることとなります。

精子と卵子を直接出会わせる方法(体外受精)

過排卵させ、出会いの濃度を高める方法で反応がない場合は、物理的に精子と卵子が出会えていない可能性があります。すなわちキャッチアップ障害といわれる状態です。この場合、いくら排卵を起こさせてもムダになります。物理的に精子と卵子が出会えていないわけですから、何個卵子があっても、受精卵になりようがありません。

つまり、過排卵をおこさせ、沢山の卵子があっても、卵管采がキャッチして卵管に運び、精子と出会っていなければ受精しないということです。また精子も卵管膨大部まで到達していなければ卵子と出会えません。この物理的に出会えない状態を、卵子を体外に取り出し、精子と出会わせ受精卵を作るのが体外受精です。受精した卵は、受精後二日から1週間程度の間に子宮に戻され着床を待ちます。

体外受精では、上手く受精卵が出来ないときには顕微授精という方法をつかったり、受精卵を胚盤胞まで培養し戻す方法や、凍結技術を駆使して、よりよい状態の子宮に戻したりと、いろいろな工夫がされています。

卵の誘発の仕方、受精卵の扱い、戻すときのホルモン管理など、体外受精を行う施設によってかなり差があります。

これは、実際に受精卵を戻しても、妊娠に到らないことが割合的に多いということから、種々の試行錯誤がされている結果だと思います。

よい受精卵を戻し、子宮のホルモン状態もよいのに、ただ妊娠に至らない。こんなことがよくあります。

体外受精は、画期的な治療法ではありますけど、手軽に、確実に結果が出る方法であるとはいえないと私は思っています。