不妊・婦人科別館:

渡辺ゆかりさんについて – 赤ちゃんと出会うための旅 (2)

赤ちゃんを願う方々の希望に

この『渡辺ゆかり(仮名)』さんの症例は、14年を通じた赤ちゃんと出会うまでの彼女の旅の記録です。私は後半の3年強をお供させていただきました。彼女から、「まだこの一年が夢を見ているよう…センセの所に通って体はもとより精神的に楽になりました!HP上などでも直接でも患者さんに私の事例を使ってどんどん励ましたって下さいな。」とのメールをいただき、今回あらたに彼女に、その治療歴などをまとめていただきながら、ひとつの旅の記録としてまとめてみました。赤ちゃんをと願う方々の希望となればと思います。

不妊からの卒業の形はいろいろです。彼女のような赤ちゃんを抱いての卒業もあれば、ご夫婦で新たなドアをあける旅立ちとなる場合もあるでしょう。赤ちゃんを欲しいと思う気持ちは同じです。その気持ちは社会の中で、みんなの宝物を色々な形ではぐくんでいく力になっていけばと思います。もう子育てが終わってしまった私も同じです。

受けてきた治療履歴

タイミング治療は、回数計り知れず。人工授精はY産婦人科・TK大学病院・東京SA病院で計30~40回。

渡辺さんご夫婦は、決定的に悪い点がない、自然妊娠の可能性が0ではない、ということで何もしない月の排卵がもったいないといわれ、タイミング、人工授精などを繰り返しました。とくに、この説明は、東京SA病院が強く、TK大学病院では、ムダっぽいからやめておこうかと主治医と合意。

治療間隔について、

25~39才まで病院での治療は、TK大学病院時代に途中で1年7ヶ月休み。

体外と体外の間のAIHは、やったりやらなかったりなので年数は長いが、毎月というほどではなかった。

体外受精などの回数など

TK大学病院・東京SA病院・KLCで15回採卵。17回移植。(子宮外妊娠2回)

15回中 注射2~3本と薬の自然のやり方は5回。それ以外はもっと薬などを使った。

17回の移植中 ラパロ(ETR)は3回(うち1回が子宮外妊娠)。

東京SA病院のラパロは34才で2回、36才で1回。

KLCで最後の移植のときは、注射2~3本の刺激で1コしか受精卵できず(いつもよりかなり少ない)。移植後はホルモン値がよいということで、薬など一切なし。

漢方薬について

R診療所の漢方は、周期療法なども含めて、いろいろな種類を飲んだ。

マイコプラズマ肺炎になってから36歳以降は漢方薬は服薬せず

民間療法などについて

整体は3軒。鍼灸は3軒。

ザクロジュースなどの、妊娠によいとされるサプリは数知れず試した。

訪ねた子宝神社、お守り数知れず。

妊娠に、なぜいたったのかは、自分でもよくわからない。鍼灸と時期的に忙しかった仕事と、1ヶ月以上飲み続けてたドリンクのコラーゲンのおかげかな。

旅の概要の解説

渡辺ゆかりさんは、タイミング人工授精による挑戦を、24歳から29歳までおこなっています。これは、年齢的に若かかったこと、その当時は、まだ体外受精などの方法が一般的ではなかったことなどによるためであるのだと思います。

ここで、精子にも問題があることがわかり人工授精なども積極的に取り入れています。また、骨盤内臓器の状態をよくすることで自然妊娠に致ることが多いとされる腹腔鏡による処置も受けられています。腹腔鏡による処置は賛否両論ありますが、よい結果がでることもあるようなので、このあたりは、やってみなければわからないというところなのだと思います。

29歳のときに、1回目の体外受精挑戦。病院にいきだしてから5年目の挑戦であり、ここは大きなステップアップでもあります。この挑戦の結果がでなかったことで、治療はお休み段階に入っています。

31歳からの挑戦は、それまでの過排卵を起こさせる挑戦によっては結果がでないということから、体外受精による挑戦が中心になっていきます。

体外受精と一口にいいますが、卵を採取し、受精させ、戻すにあたって、さまざまな考え方があり、方法論があり、卵の成長を促すための考え方、薬の使い方、具体的な受精卵の戻し方など試行錯誤、混沌とした状態であるというのが、数々の方々の挑戦をみてきた、私の実感です。病院によって、ドクターによって考え方が違い、やりかたが違う世界なんですね。妊娠という結果が出ればそれでOK、よい方法だという感じで、やってみなければわからない世界なんです。

渡辺ゆかりさんの旅でも、前半の大学病院や、東京SA病院では、IVF〔体外受精〕にさまざまな工夫をこらし、ステロイド、ホルモン剤の投与、胚盤胞までの培養と挑戦しています。またこのときに、受精、着床の障害となる抗体検査なども受けています。

また、体外受精の戻し方でも、卵管に戻したほうがよいという考え方の卵管に戻す体外受精(ETR,ZIFT:体外受精卵卵管内移植)などにも挑戦しています。このときには、かなり薬物の投与もうけていて、処方するドクターも工夫をこらし、受けるほうの患者さんも最大限にがんばったというところなのかなと思います。

残念ながら、結果が出ずというところでした。

最後の挑戦となった、加藤レディースクリニック(KLC)の体外受精の考え方は、あまり過排卵を起こさず、数個の採卵、受精、戻し、凍結胚盤胞戻しになってからは、これがゆかりさんにとって、唯一最善なので、繰り返すという治療方針となっています。ここでは、以前とは違い、ホルモン値を血液検査で調べ、不要ならば足さないという方針が貫かれています。

妊娠に到らないときに、次なる挑戦を考えると、『何が足りなかったのか?何が悪かったのか?』という観点で考えると、どんどん足し算治療になります。

私が、加藤レディースクリニックでの挑戦する方々をみていて、『いらないときは足さない』治療なんだと、しみじみ思うことがあります。今回の渡辺ゆかりさんのケースでも、結果は出なかったけど、この方法が今考えられる唯一最善だから繰り返すという加藤側の結論にすごいと思ってしまいました。

これは患者さんにしてみれば、過酷ではあると思います。結果が出ないときに、その方法が悪かったから結果が出なかったのだと思うのは当たり前のことで、結果が出なかった方法と同じことを繰り返すのが、精神的に辛いのはよくわかります。

それを、『いらないときは足さない』で基本的に押し通し、繰り返すことを最善とする。

当事者ではない私から見ると、これは患者さん本人の負担が少なく(薬剤を多くかけると、からだに負担になり、卵がとれにくくなる、身体の状態が悪くなるなど悪循環がおこってきます)、また挑戦できる回数が増えるというメリットがあります(でも、経済的にはきついですが)。結果が出ないのは、『なにかが足りないからだ』という発想からの脱却が妊娠を考えるときには必要なのだと思います。

渡辺ゆかりさんに関しても、16回目の体外受精と、17回目の体外受精との間で、なにかを足しているというわけではありません。唯一最善と考えられるから、繰り返す。それをやり続けているだけなのです。この二回に、医療としての違いはないのです。逆に卵のグレードとしてはその前の挑戦の方がよい状態です。それなのに結果が違う。こういうことを目の前にすると、妊娠って、『コウノトリが連れてくるんだな』と思わずにはいられません。何かが足りないから結果が出ないのではなく、ただ、『その時ではなかった』から結果が出ていない。そんなことも不妊治療の中ではよくあることです。

ここからは、渡辺ゆかりさんご自身にお話をしてもらいましょう。