カテゴリー : 講演記録

2010年 山下湘南夢クリニック ゲスト講演『不妊と鍼灸治療』

IVF-ET(体外受精ー胚移植)での二人目不妊、身体の力がない場合

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先ほどは、身体のストレス状態が妊娠に与える影響についてお話ししました。

さて、この図を見てください。

左側は先ほども出てきました『健やかな心身』をもった人間のありようです。そして右側はなんだかだいぶ困った感じが伝わるのではないでしょうか。

大地も痩せ根も細くなり、幹も、そして天空に広がる枝葉も困窮して枯れかけ縮こまっています。身体がだいぶ疲労困憊し、疲れ果てている状態です。

〔身体が疲れ果てての不妊、二人目不妊〕
私の所にいらしていた患者さんで、『不妊』状態に悩む方に鍼灸治療と併用してIVF-ET(体外受精ー胚移植)をお勧めしたところ、あっさりと妊娠され、無事にかわいい女の子をご出産。鍼灸治療も無事卒業となりました。このとき、残った凍結胚が3つ。

その後子育てをされ、二人目が欲しいと思った彼女は、さっさと凍結胚を戻しました。

ひとつめ、ふたつめと戻すものの妊娠せず。妊娠-出産に致ったよいグレードの凍結胚ですので『なんで妊娠しないんだろう?』と思いつつ、『まあ、たまたまだわ』と思い、戻したそうです。

二つ目の凍結胚で妊娠しなかった結果がでたときに、『身体の状態が悪いのかしら?』と再度私の所に戻っていらっしゃいました。

お身体を再度、四診させていただいて、上の図のような変化をされていること気がつきました。だいぶ疲労困憊のお身体になっていたのです。妊娠、出産、産後の状況、育児は、30代半ばの彼女の体力をだいぶ奪っていたのでしょう。

私がなにより不思議だったのは、こんな【心身ともに疲弊状態】にあるのに、ご本人が気がつかないことです。おかしいと自分のことを思わなかった?と伺っても、「少し疲れ気味かなとは思ったけど、育児もあるし・・」とのお返事。自分で自分のことはわからないというのはこういうことなのかと思いました。

『身体の状態を、一人目の妊娠前の状態まで戻すこと。またせめて体重をあと2kg増やすこと。そのときまで凍結胚の移植は待ったほうがいいと思いますよ』

と、アドバイスさせていただきました。

しかしながら彼女は、ご自身の年齢が30代後半になり子育てに体力的な不安があること、そして上のお子さんとの年齢差なども考え『早く二人目が欲しい』と、あれよあれよという間に、3つめの凍結胚を移植し、残念ながらの結果に致りました。

その後、『もう少し待ったら・・』というアドバイスをさせていただいていましたが、すぐに再度の採卵、移植をなされ、2回目の移植で妊娠しなかったときに初めて『このままじゃダメなんですね』と納得してくださいました。凍結胚の移植(それも年齢がわかかったときの!)が3回、採卵2回、移植が3回を過ぎた所の出来事です。

鍼灸を週に1回以上、そして養命酒などの薬酒を毎日。薬酒は身体の力をつけてくれますが、いままで【妊娠するかも】といつも思っていたので、なかなかお酒である薬酒に手が出なかったようですが、肚をくくって半年の身体作りを思い立ったのでじっくりと飲むことにされました。自宅でのお灸も毎日。

そして体重が1.5キロ増えたところで、再チャレンジ。採卵しフレッシュで戻し。
これは一人目のお子さんを妊娠された方法です。残念ながら妊娠せず。このとき凍結した
胚盤胞を移植。無事に妊娠されかわいい男の子をご出産されました。

身体の疲弊状態は、一人目の妊娠ー出産を経験した方でも、妊娠に立ち向かう大きな壁に
なるということがわかります。

1度も妊娠したことがない方だと、身体の疲労状態が問題なのか、ストレス状態が問題なのか、はたまた、なにか他の要因で妊娠出来ないのか判然としないことが多いと思います。そして『妊娠すること』自体が抱える不可思議さのせいで、『妊娠しない理由』を見つけるのは案外難しいことだと思います。ただ、今の状態を分析することは出来ます。そして出来ることをコツコツと積み重ねることも出来ます。その道が少しでも妊娠に近くなるようにと願わずにはおれません。