弁証論治:

0040:3年にわたる鍼灸治療。PCO排卵障害、体外受精直前の自然妊娠34才出産弁証論治

..【副題】
3年にわたり、鍼灸治療を続け、IVF-ET(体外受精ー胚移植)しか妊娠出来ないのかと思われた症例ですが、無事に自然妊娠をすることができました。不妊には何が原因かわからないことも多いです。排卵障害について、薬剤での排卵誘発などを用いた人工授精でもなかなか妊娠にいたらず、ステップアップとしての体外受精が選ばれるときでしたが、『もう少し自然で・・』という思いが実った症例です。

..主訴 不妊 生理不順 
30歳女性 身長158センチ 体重48キロ
主訴の生理不順は昔から、だんだん悪化傾向にある。
他に冷え性を治していきたい。
母は24歳で姉、27歳で自分を産んでいる
生理不順の悪化はひとり暮らし(21歳から24歳)での食事体調管理にあったのではないかと思う
6歳の時腎盂炎になった。そのとき抗生物質は控えるようにと言われた。

普段の状態
クーラーで調子が悪い
入浴後に調子がよい
風邪を引くと首、頭(左右)がだるくなり、おなかの調子が悪く(下痢)なる、発熱
食欲は普通、10代よりも落ちている 食事は不規則で夜は7時から9時。
食事時間は30分以上、空腹感がありおいしい。おなかが張る胸焼けはめったにない。
間食は甘いものやチョコレートを毎日
飲み物は1200cc以上お茶や水
口の渇きはよくある、違和感はない。
大便は1日に1から3回、便が出きらないことはめったにない、こぶし大。付着して取れにくいことは時々。
小便は1日6回、残尿感、尿切れが悪いことはない。色は黄色くなることが時々、夜間排尿無い
睡眠は夜の11時半から13時に寝て6時15分に起きる。
寝付きはよい、眠りは深い、寝起きはよい。時々翌日に疲れが残る。

婦人科の状態
生理がはじまったのは13歳、生理の日数は4,5日
30日から50日あるいは60日ぐらいの周期 遅れがち
生理による体調不良はめったにない。
生理初期に腰、下腹部に鈍痛程度。少し生理前に胸が張ることがある
たまに小さい塊が混じることがあるがほとんど血液、生理の量少ない

時系列
中学生ぐらいから肩こりを感じている
20代前半、ひとり暮らし(21歳から24歳)で生活が乱れ体調が悪化。
      生理周期も35から50日60日とのびる
      鼻が詰まりやすく、そういったときはガスもたまりやすい
      花粉症発症、今も鼻スプレーでアレルギーを押させている。
25歳頃 生理の量は普通ぐらいだった  
     ひとり暮らしをやめ家に戻る
27歳結婚 結婚して家事をするようになり少し負担。
      生理周期はより長くなり3ヶ月に1回ぐらいになった。
28歳妊娠希望
30歳生理の量が少なくなった

..切診
脉診 右尺やや細く浮き気味
舌診 やや赤い 舌裏怒脹なし
腹診 心下詰まりなし、脾募アリ(右<左)
    気海関元抜け、左右大巨冷え
    肝の相火なし

なで肩、色白

経穴診
列缺(右<左)かげり
大椎周り細絡きつい
身柱発汗
左右肺兪 陥凹 発汗

左神門腫れ硬結
左霊道 陰り
左内関 ゆるみ
左後谿陥凹

足三里(右<左)陥凹
左太白 陥凹
左三陰交 冷え陥凹
左脾兪 陥凹たよりない

承山から承筋 割れ (左>右)
左湧泉やや冷え
左復溜から築賓 冷え
左右腎兪 陥凹(右は直上に筋張りあり)

..五臓の弁別

【肝】
昔から生理不順 悪化傾向にある
風邪を引くと首、頭(左右)がだるくなり、おなかの調子が悪く(下痢)なる、発熱
30日から50日あるいは60日ぐらいの周期 遅れがち
20代前半花粉症になる。鼻が詰まりやすく、そういったときはガスもたまりやすい
肝の相火なし

【心】
舌診 やや赤い 舌裏怒脹なし
左神門腫れ硬結
左霊道 陰り
左内関 ゆるみ
左後谿陥凹

【脾】
生理不順の原因は食事の不規則にあったのではないかと思う
風邪を引くと首、頭(左右)がだるくなり、おなかの調子が悪く(下痢)なる、発熱
10代より食欲が落ちている
食事が不規則 間食は毎日
口の渇きがよくある
便が付着することが時々
食事や生活が不規則になり、生理周期がよりのびる(21歳ころから)
脾募アリ(右<左)
足三里(右<左)陥凹
左太白 陥凹
左三陰交 冷え陥凹
左脾兪 陥凹たよりない

【肺】
風邪を引くと首、頭(左右)がだるくなり、おなかの調子が悪く(下痢)なる、発熱
クーラーで調子が悪い
口の渇きがよくある
20代前半、鼻が詰まりやすく、そういったときはガスもたまりやすい

列缺(右<左)かげり
大椎周り細絡きつい
身柱発汗
左右肺兪 陥凹 発汗

【腎】
昔から生理不順 悪化傾向にある
時々翌日に疲れが残る
30日から50日あるいは60日ぐらいの周期 遅れがち
生理の量少ない(25歳のころと比べて)
食事や生活が不規則になり、生理周期がよりのびる(21歳ぐらいから)
右尺やや細く浮き気味
気海関元抜け、左右大巨冷え
承山から承筋 割れ (左>右)
左湧泉やや冷え
左復溜から築賓 冷え
左右腎兪 陥凹(右は直上に筋張りあり)

..病因病理

中学ぐらいから肩こりを感じ、20代の前半、ひとり暮らしを始め、食生活を中心に生活そのものが不規則になり体調が悪化。花粉症が発症し鼻がつまりやすくなり、鼻がつまったときにはガスもたまりやすかった。また、生理も遅れ気味になった。不規則な生活が腎気を中心に身体の力を一つ落としたために生理周期は長くなり、気滞も強くなり上焦では花粉症を発症し鼻が詰まりやすくなり、下焦ではガスもたまりやすくなっていったと思われる。

ひとり暮らしを1度やめ実家に戻ったが、腎気を補うことまではできなかったため、2年後27歳で結婚で再度生活に負担がかかると、以前より遅れ気味だった生理周期は今まで以上に長くなり3ヶ月以上周期の大きな遅れとなり、腎気は補われること無く日々が経過していったため、30歳のころには生理の量も減ってしまっている。

腎気を補うこと無く日々がつづいているため、30歳という若い年齢でありながら、気海関元の抜け、大巨の抜けと下腹、下焦の力のなさは明瞭で存り、また湧泉、復溜、築賓などの冷えは、腎の陽気の不足を示している。

腎気を落とすことにより発症した花粉症や鼻の詰まりにより上焦に負担をかけ続けている状態のため、両肺兪の発汗陥凹、左右列缺もかげりというように肺気が弱り、その弱い肺気を補おうとより肝気が張るために大椎周りには細絡が生じ、風邪の時の頭痛は左右頭部でおこっている。肺気の弱りをなんとか肝気で支えている状態である。肝気をはっているために上焦には熱も生じやすいため舌は赤くなり口渇も生じる。

ご自身で、食や生活の乱れが生理不順のきっかけとなったと自覚されているので、食生活に気を配ってはいるようだが、現時点で足三里は陥凹し、脾募もあり脾気への負担も感じさせる。

..弁証論治
弁証:腎虚
論治:益気補腎
治療方針:腎気をたて下焦の充実をはかる。

..治療経過
2008年2月より 週に1度の鍼灸治療 
2010年4月より 病院のタイミング 33才
フェマーラにてタイミング4回、うち2回でフーナー良好
誘発を続け生理周期が薬のため28日になっていたが、薬を使い続けたので病院お休みということで経過。

薬をつかわなかったので、排卵が来ずD41で排卵痛があった。
D4,D25,D32、D25、D39、D46、D53、D60に鍼灸治療
D64胎嚢確認
D67鍼灸
D71心拍確認
D74鍼灸

週に一回の鍼灸治療を継続。
無事に元気な男の子を34才にて出産。
おめでとうございます(^_^)