弁証論治:

0120:子宮内膜症、排卵痛35才出産の弁証論治

症例集→きつい子宮内膜症からの不妊治療(35歳出産)【case:0120】

..<問診>
33歳、女性 会社員
身長:160cm、体重:49kg、血圧:低め
家族構成:夫

肉親の病気の遺伝的傾向:母が卵巣嚢腫、妹が子宮筋腫

主訴・・・子宮内膜症で生理痛、排卵痛がつらい、生理不順、子供がほしい

..【今一番つらい症状について】

28歳で結婚、32歳から妊娠希望。
自分たちでタイミング、病院でのタイミング指導。

大学生くらいの頃から生理痛が年々ひどくなっている。29歳の時に子宮内膜症と診断されてピルを服用し、排卵は止めて定期的に生理だけ起こしていた。排卵痛、生理痛は楽になったが、更年期症状のようなのぼせ、ほてり、動悸、眠れないということが起こるようになった。

32歳から妊娠を希望してピルの服用を止めると、生理痛がきつくなった。
高温期には、体のだるさ、夢をよく見る、朝起き難い、口渇、耳がふさがるようなキーンとする耳鳴り、腰痛、下腹が渋るような痛み、頭痛、胸の張り、吐き気、イライラ、情緒不安定が起こるようになった。
これらの症状は生理が終わる頃まで続き、また排卵の頃から次の生理が終わるまで症状が出てくる。
この頃から体重が増えている。

..【その他に治したいこと】
腰痛

..【ふだんの状態について】
…(体調の悪い変化)
クーラー、秋、冬、梅雨時、季節の変わり目、夕方、肉体疲労時、気を使ったあと、睡眠不足の時、食前、食べ過ぎ、飲みすぎ、便秘、下痢、風邪をひいた時

…(風邪)
風邪をひくと、喉痛、発熱、下痢、頭痛(左右)

…(食事)
食べる量は昔から普通。
食事時間は、仕事の日は不規則、昼:12時。
15~30分かけて、普通に噛んで食べる。
食事前の空腹感は、よくあり、おいしく食べられる。
食後にお腹が張ったり、胸焼けは、ピルを止めてからよくある。
よく食べるのは、白米、野菜フレーク、カレー、鍋、パン、ホウレンソウ、豆乳、パスタ。
好きな物は、パン、牛乳、チーズ、白米、卵
嫌いな物は、エンドウ豆、てんぷら、セロリ、香草、生もの、油がたくさんあるもの(下痢するから)
間食はよくとり、パン、チョコレートを20歳くらいから食べてる。

…(水分)
1日に、100ccのコップで5杯以上、合計500cc以上飲む。
ルイボスティ、とうもろこし茶、紅茶、ゆず茶を飲む。
ピルを止めてから口、喉はいつも渇き、口が粘ることがよくある。

…(飲酒)
ほとんど飲まない。

…(タバコ)
吸わない。

…(大便)
1日に4回出る。
便秘でおなかが張ってつらいことはめったにない。
薬は使用しない。
便が出切らない感じは時々。
便はバナナ状で多い。調子が悪い時は水様便。(注:高校生の頃から下痢をすることはあったが、水様便ではなかった。水様便になったのは20代の頃からで、この頃には胃痛もするようになった)
便器に付着することはよくあり、きつく臭うことが時々ある。

…(小便)
1日3回、仕事をするようになった頃から、仕事中にトイレに行けないことが多く、トイレの回数が減った。
31歳くらいから残尿感はよくある。
尿切れが悪いことは時々。
尿の色はいつも黄色。
夜間排尿はめったにない。

…(睡眠)
就寝2時、起床11時(休日)。
31歳くらいから寝付き、寝起きは悪く、夢をよく見る。
ピルを止めた頃から翌日に疲れが残ることがよくある。特に生理前はずっと疲れている。
夢は、時間に追われる夢や階段の夢をみる。

..【婦人科の状態】
初経13歳。
生理期間は5~6日間で、周期は不規則で、不安定、遅れる。
生理血は濃くて、親指大の塊、粘った膜が混じる。
量は異常に多くて、生理初期から中期が多い。

生理に伴う体調不良はいつもある。
主訴参照。

..【これまでにかかった大きな病気】
急性腸炎~大腸炎の疑い・・・20代の頃に2回入院する。急性胃腸炎か大腸炎の疑いとのことで、その後下痢しやすいのは続いているが、経過は良好。

腎盂腎炎・・・20代に2回なる。

..<時系列>

高校生・・・体調が悪いと下痢をする。

大学生頃・・・生理痛がひどくなる(現在まで)。
トイレの回数が1日3回に減る(現在まで)。
体調が悪い時の下痢が水様便になる(現在まで)。
体調が悪いと胃痛が起こる(現在まで)。

20代・・・腎盂腎炎2回、下痢、血便で入院2回。

28歳・・・結婚。

29歳・・・内膜症の治療のためピルを服用し始める。
のぼせ、ほてり、動悸、眠れないということが起こる。

31歳・・・仕事が忙しくプレッシャーも大きかった(1年間)。
寝付き、寝起きが悪くなる(現在まで)。
残尿感をよく感じるようになる(現在まで)。

32歳・・・妊娠を希望し、ピルの服用を止める。
生理痛がどんどんきつくなる(現在まで)。
高温期に色々な症状(体のだるさ、夢をよく見る、口渇、
耳がふさがるようなキーンとする耳鳴り、腰痛、下腹が渋る
ような痛み、頭痛、胸の張り、吐き気、イライラ、情緒不安定)
が起こるようになった(現在まで)。
翌日に疲れが残ることが多くなる(現在まで)。
食後にお腹の張り、胸焼けがよく起こるようになる(現在まで)。
体重が増える(現在まで)。

33歳現在・・・体重52kg。
妊娠を希望し、仕事は少しセーブしている。

..<切診情報>

..【脉診】
尺 中~浮位 緊~弦
関 輪郭甘い

..【舌診】
舌裏怒張 あり

..【腹診】
右季肋際 つまり
中脘 塊あり
臍 冷え
関元 抜け

..【経穴診】
右太淵 腫れ
列缺 こそげきつい
左外列缺 盛り上がりきつい
神門 はれ
霊道 ややこそげ
右内関 陥凹
後谿 こそげ
右外関 動き悪い
大都 陥凹
水泉 冷え
右足三里 弛み溝
左足三里 溝
公孫 こそげ
陰陵泉 弛み
湧泉 冷え

..【背候診】
大椎周り 細絡あり
風門 陥凹
右肺兪 陥凹
右心兪 陥凹
右胆兪~胃兪 筋ばりで、胃兪が根
左脾兪 陥凹
左胃兪 陥凹
腎兪 大きい陥凹

..<五臓の弁別>

..【肝】

29歳・・・内膜症の治療のためピルを服用し始める。
のぼせ、ほてり、動悸、眠れないということが起こる。
31歳・・・仕事が忙しくプレッシャーも大きかった(1年間)。
寝付き、寝起きが悪くなる(現在まで)。
32歳・・・妊娠を希望し、ピルの服用を止める。
生理痛がどんどんきつくなる(現在まで)。
高温期に色々な症状(体のだるさ、夢をよく見る、口渇、
耳がふさがるようなキーンとする耳鳴り、腰痛、下腹が渋る
ような痛み、頭痛、胸の張り、吐き気、イライラ、情緒不安定)
が起こるようになった(現在まで)。

関 輪郭甘い
右季肋際 つまり
右胆兪~胃兪 筋ばりで、胃兪が根

..【心】
ピルを止めてから口、喉はいつも渇き、口が粘ることがよくある。

29歳・・・内膜症の治療のためピルを服用し始める。
のぼせ、ほてり、動悸、眠れないということが起こる。

神門 はれ
霊道 ややこそげ
後谿 こそげ
右心兪 陥凹

..【脾】
梅雨時、季節の変わり目、食前、食べ過ぎ、飲みすぎ、便秘、下痢に体調悪化
食事時間は、仕事の日は不規則
食後にお腹が張ったり、胸焼けは、ピルを止めてからよくある
間食はよくとり、パン、チョコレートを20歳くらいから食べてる
便が出切らない感じは時々。
便はバナナ状で多い。
便器に付着することはよくあり、きつく臭うことが時々ある。

高校生・・・体調が悪いと下痢をする。
大学生頃・・・体調が悪い時の下痢が水様便になる(現在まで)。
体調が悪いと胃痛が起こる(現在まで)。
20代・・・下痢、血便で入院2回。
下痢しやすくなる(現在まで)。
32歳・・・妊娠を希望し、ピルの服用を止める。
食後にお腹の張り、胸焼けがよく起こるようになる(現在まで)。
体重が増える(現在まで)。

関 輪郭甘い
中カン 塊あり
右内関 陥凹
大都 陥凹
右足三里 弛み溝
左足三里 溝
公孫 こそげ
陰陵泉 弛み
右胆兪~胃兪 筋ばりで、胃兪が根
左脾兪 陥凹
左胃兪 陥凹

..【肺】
秋、風邪をひいた時に体調悪化

右太淵 腫れ
列缺 こそげきつい
左外列缺 盛り上がりきつい
風門 陥凹
右肺兪 陥凹

..【腎】
腰痛
クーラー、冬、夕方、肉体疲労時、気を使ったあと、睡眠不足の時に体調悪化
尿切れが悪いことは時々。
就寝2時

大学生頃・・・トイレの回数が1日3回に減る(現在まで)。
20代・・・腎盂腎炎2回起こす。
31歳・・・仕事が忙しくプレッシャーも大きかった(1年間)。
寝付き、寝起きが悪くなる(現在まで)。
残尿感をよく感じるようになる(現在まで)。
32歳・・・妊娠を希望し、ピルの服用を止める。
高温期に色々な症状(体のだるさ、夢をよく見る、口渇、
耳がふさがるようなキーンとする耳鳴り、腰痛、下腹が渋る
ような痛み、頭痛、胸の張り、吐き気、イライラ、情緒不安定)
が起こるようになった(現在まで)。
翌日に疲れが残ることが多くなる(現在まで)。

尺 中~浮位 緊~弦
臍 冷え
関元 抜け右外関 動き悪い
湧泉 冷え
水泉 冷え
腎兪 大きい陥凹

..【瘀血】
生理血は濃くて、親指大の塊、粘った膜が混じる。
量は異常に多くて、生理初期から中期が多い。
舌裏怒張 あり
大椎周り 細絡あり

<病因病理>

高校生の頃から体調が悪いと下痢をしやすく、脾気の弱さが窺える。大学生になって器が充実してくると生理に伴う肝気の張りもきつくなって、生理痛もひどくなった。肝気の張りがきつくなったために、横逆の度合いも強くなり、胃痛を起こしやすくなり、下痢も水様便になっていった。

20代では、腎盂腎炎2回、下痢と血便での入院2回や、29歳で判明した子宮内膜症のことを考えると、もともとの脾気の弱さに加え、下焦の弱さ、腎気の弱さが窺える。その腎気の根の弱さが肝気に傷られやすい下焦となり、下焦における気虚気滞を起こし、瘀血を生じさせやすくし、生理痛のきつさに繋がっているものと考える。そしてこの下焦の弱さは、母親や姉妹の病歴を考えると、素体としての弱さと考えられる。

29歳で内膜症の治療を始めると、生理痛と排卵痛は楽になったが、のぼせ、ほてり、動悸、眠れないという症状が起こるようになった。排卵を伴わない生理により下焦への負担は軽くなったものの、定期的に生理を起こすためのピルによるホルモンの変動により、肝気が上逆しやすくなって上焦に熱を持たせ、それが心にも影響を与えていたと思われる。

それでもピルのおかげで肝鬱腎虚の悪循環を断ち切れ、大きく体調を崩すことなく数年が過ぎた。しかし31歳で仕事が忙しくなると寝付き寝起きが悪くなり、残尿感を感じるようになった。もともと下焦としての弱さのあった腎気を少しずつ損傷していくこととなっていった。

32歳には妊娠を希望し、ピルの服用を中止した。そうすると生理痛、排卵痛はどんどんきつくなり、高温期には色々な不調を起こすようになった。これは仕事が忙しくなったために腎気の虚損が深くなっていたところにピルを止め、排卵して生理が起こるようになったために、今まで以上に肝気の立ちがきつくなり、強い肝鬱を引き起こしやすくなったためと考える。仕事による腎気の虚損に加え、排卵・生理に伴う腎気への負担によ
り、腎虚肝鬱の悪循環が加速し、翌日に疲れが残ることが多くなっていった。

もともと肝気の横逆を受けやすかった脾気も、一段ときつくなった肝気の影響を受けて、食後にお腹の張りや胸焼けを起こしやすくなった。またきつくなった肝気の上衝により、口、喉はいつも渇き、口が粘るようにもなった。

切診情報からは根である脾腎の虚損に加え、蓋である肺気の弱さも窺え、これが肝気を抑えがたくもしている。まずは肝鬱腎虚の悪循環を断ち切り、身体の中心である下焦をしっかりさせるようにバランスを付けることが、主訴である妊娠にも繋がる道であると考える。

<弁証論治>
弁証:腎虚
論治:補腎

<治療指針>
まずは腎気をしっかりと立て、下焦の充実を図り、肝鬱腎虚の悪循環を断ち切りたい。そして下焦の気虚気滞からの瘀血の生成を食い止めることで内膜症の悪化を防ぎたい。そのために脾気や蓋としての肺気も同時に治療の手を入れた方がいいのではないかと考える。

<生活提言>

ピルの服用を止めてから、生理痛、排卵痛の他に色々と体調が悪い日が多く、肉体的のみならず精神的にも大変辛いことと思います。お子さんを望まれてピルの服用を中止された時期がちょうど仕事が忙しかったこともあり、以前よりも一層、生理の身体に与える負担が大きく影響してしまったと思われます。

お母さんや姉妹の方の病歴を考えると、○○さんも少し身体の中心であり、生命力の土台である下腹部が弱い傾向にあると思われます。このお腹に力を集めて、身体の力をしっかりとさせてあげることが、生理痛、排卵痛を始めとする○○さんの諸症状に一番大切なことだと思います。これはご希望されている妊娠への近道にもなると考えます。

そのためにはお家でお腹にお灸をやってあげるのはとても有効だと思います。それ以外には歩くなど軽い運動を日常的にすることで気血の巡りを良くしておくことも大切です。お仕事など肉体的精神的ストレスが強いと気が昇りやすくなり、お腹の力を奪います。仕事を少しセーブされているとのことですが、元々下腹部が弱い傾向の方ですので、足腰を常日頃から使うようにしておくのは、気を引き降ろし、臍下丹田のある下腹部に気を納めるのに良い方法でもあると思います。

軽い運動をしたらしっかり休むことも大切です。お仕事がお忙しい時など夜早く寝るのは難しいかもしれませんが、せめて日付を越さないうちに就寝できるようにしましょう。同じ睡眠時間でも、遅く寝て遅く起きるのと、早く寝て早く起きるのでは、睡眠の質が違ってきます。生理痛などの身体の痛みは身体を疲労させる悪循環を生みますので、できるだけしっかりとした質のよい睡眠を取って、疲労を溜めないようにしたいですね。

最後に、お体を拝見すると胃腸への負担もかなり窺えます。20代の頃には原因不明の下痢と血便を何度も経験されていますし、胃痛もおありとのことですので、身体を支える胃腸も労わってあげることが○○さんの養生には大切でしょう。食事時間は仕事の関係で不規則なようですので、できることから工夫できるといいですね。脂っこいものは下痢されるから気をつけていらっしゃることと思いますが、その他によく言われる、夜遅くの食事・甘いものの間食を控える、食べすぎに気をつけるなどもう一度食生活を見直してみてくださいね

..治療経過

☆初診:
百会7 列缺(LU7) 中注(KI15)お灸+温灸、関元(CV4)温灸
足三里(ST36)灸頭鍼 三陰交(SP6)鍼+ミニ灸 左公孫(SP4)鍼+ミニ灸 左湧泉(KI1)温灸
右心兪(BL15)、右肺兪温灸
左胃兪(BL21)、腎兪(BL23)、中膂兪 鍼+温灸

花粉症がひどい→花粉症のパイオ

週に1,2回の治療頻度で進む。
1ヶ月後→首の調子がよく、身体全体が楽な感じになってきた。

☆初診から7ヶ月後、体調がだんだんよくなってきたので、不妊クリニックに本格的に通い出す。
子宮内膜症の状態から、体外受精に進む。

1回目、一個空砲、一個移植、妊娠出来ず。
2回目(3ヶ月後)3つ採卵1つ移植、他の培養した卵は凍結出来ず。
妊娠出来ず。
3回目 4個取れたが、一つも凍結出来ず
4回目 4個取れて1つ凍結出来た。
5回目 ドミノ、移植ー妊娠 採卵した卵は凍結出来ず。
移植時の鍼灸
大杼(BL11)お灸、温灸 胃兪(BL21)、腎兪(BL23)、次髎(BL32)
中注(KI15)、関元(CV4)、臍 温灸
左陽池(TE4)、外関(TE5)、陰谷(KI10)陰陵泉(SP9)足三里(ST36)

着床頃の鍼灸
右陽池(TE4) 外関(TE5) 温灸お灸
臍、中注(KI15)、関元(CV4) 棒灸
足三里(ST36)灸頭鍼、陰陵泉(SP9) 三陰交(SP6)温灸お灸
大杼(BL11)温灸 右胃兪(BL21)、左三焦兪(BL22) 腎兪(BL23) 次髎(BL32) 鍼して温灸

妊娠 8週黄体ホルモンが低い、
9週 体温が急に下がった
左外関(TE5)、陽池(TE4)、足三里(ST36) 陰陵泉(SP9)
臍、中注(KI15)、関元(CV4) 棒灸
右胃兪(BL21)、左三焦兪(BL22) 腎兪(BL23) 次髎(BL32) 鍼して温灸

13週 糖負荷検査でケトン体が出た
15週 咳がでて気持ちが悪い。手首が痛い
30週 糖負荷検査で引っかかった。
38週 無事に出産 おめでとうございます。

もともとあれこれの不調をかかえる素体でした。
不妊治療中、そして妊娠中もその強さがましながらも、なんとか鍼灸治療で体調不良をカバーしながらすすんでいきました。

妊娠の希望があるときには薬が使いにくくなります、この時の体調管理に鍼灸は非常によいと思われた症例です。

最後の最後まで、あれこれのトラブルはありましたが、なんとか無事に出産にこぎつけ、充分に大きな赤ちゃんを抱くことが出来たのは、ご本人の努力のたまものです。よかったね、おめでとうございます。