弁証論治:

0095:予期不安→体外受精→自然妊娠の弁証論治

症例集→精神的な不安定さ、自律神経失調症、不妊(40歳出産)【case:0095】

・問診
40歳 160センチ55kg 女性

【主訴 自律神経失調症、予期不安が強い、不妊40】

23歳頃から自律神経失調症で精神的に不安定で落ち込み気味。
年に2,3回ぐらい落ち込んでいる。
よくなったり悪くなったりしている。
お酒の飲み過ぎや疲れているとき、寝不足の時におこる。

今回は37歳の春ぐらいから
仕事で頑張りすぎたこと、結婚による環境の変化、引っ越しなどで症状が出現。
自分では、自律神経失調症の既往があり、ホルモンバランスの影響を受けやすいと考え ている。
デパスを処方され3ヶ月ほど飲んでいたが効いている感じがしない。
口内炎や腹痛、動気や夢をよくみるなどの症状が出現。
体外受精の胚移植時、緊張による子宮収縮があり不安が常にあるので治していきたい。

【ふだんの状態について】

全身状態は
 春、夏、に調子がよく
 梅雨や季節の変わ

目、肉体疲労時、気を遣った後は調子が悪い

食欲は普通、規則的、15分ぐらい、空腹感はよくある、食事は美味しい、腹が張ったり
胸焼けはない。
間食はチョコレートやクッキーを毎日
烟草は19歳から26歳まで
週に4,5回程度の飲酒

飲み物は700cc程度を水、お茶、コーラなど

口舌喉の渇きはよくある
口舌喉の違和感は時々

大便は1-2日に1回 張って辛いこともなく、普通便またはコロコロ、太いバナナ、付 着することはめったにない。

小便は1日6~8回 残尿感、尿切れの悪さなどない。30歳過ぎぐらいから夜間排尿が 毎日ある。

寝付きは普通、夢をよく見る、寝起きはよい、疲れが残ることが時々

・・婦人科について

初経は14歳
周期は26日から29日 5,6日間
生理前7日目からイライラ 胸の張り、下腹の痛み(鈍痛)、疲れ、頭痛(左右のこめ か)、常にある鬱、落ち込みも強くなる。

生理がくると高温期に出ていた症状は少し楽になる
排卵期は風邪を引いて熱が出る感じの熱っぽさ、精神的に不安定(軽度)
生理痛は生理の一週間前に下腹に鈍痛
生理の色は出血したときの色、小さい塊、粘った膜、濃血、血液、水様
生理の2,3日目が多い

不妊の一般検査では大きな問題はない、FSHが高いと言われた
自分でのタイミング1年4ヶ月
病院にて9ヶ月タイミング指導を受ける
IVFについて1回実施 妊娠にいたらず。凍結胚が残っているので移植したい

・時系列の問診

20代 夜勤のある仕事をしていた、
  仕事を始めて首を痛めた
  ストレートネックといわれている。
  よく下痢をしていた(緊張したり食べ過ぎたりしたとき)

23歳自律神経失調症の症状がでる。以来年に2,3回症状出現
  症状は口内炎、精神不安、落ち込み、後谿部の頭痛、
  デパスなどでなんとかしのげる

30歳 夜間尿がはじまる

36歳  むちうちで首がはり、手がしびれている(それ以前からも症状は少しある)

36歳結婚 妊娠を希望する
  自分でタイミングを意識する 

37歳 引っ越しで環境がかわり、仕事の無理も重なり、自律神経の症状や、
  予期不安がつよくなる。デパスを飲んでも治らなかった。
  生活などを整え、体調をよくするように努力をはじめる。

38歳4月より 病院にてタイミング療法、9ヶ月

38歳 11月体外受精をするー妊娠せず

38歳 1月 ビッグママ治療室受診

・体表観察

・・望診
爪の根元の色、悪い

・・舌診
やや紅舌
歯痕あり
舌尖に紅点
舌裏怒脹太い

・・脉診
尺位、輪郭があまい
左の寸口 輪郭があまい

・・腹診
脾募あり
上腹部冷たい
左季肋際つまり
裏肝の相火 左あり
上脘、中脘 やや固い
下脘 抜け
臍上向き 
気海抜け
関元 抜けきつい
少腹急結 左抵抗感あり

・・経穴診
左内関陥凹
左後谿陥凹
神門右>左 はれ 奥に硬結 
左列缺ややこそげ
右太淵はれ
左合谷 こそげ冷え

外関、陽池 右<左 動きが悪い冷え
湧泉冷え
復溜陥凹
左大都あき
公孫こそげ
三陰交 陥凹
足三里 右<左 こそげ
右陰陵泉 動きが悪い
膝関 固い
左太衝 へたれ
左臨泣つまり
陽陵泉 右筋張り 陥凹 左筋張り
大腿胆経 つっぱり

・・背候診
大椎発汗冷え少しあり、細絡少しあり
身柱発汗 ゆるみ
左腎兪陥凹
右次髎つまり
腸骨が前に入っている感じ

・五臓の弁別

・・肝
自律神経失調症の症状が出ているときに夢をよくみる
不妊治療の時に緊張して子宮収縮してしまう。
不妊治療の時に予期不安が常にある。
気を遣った後に調子が悪い
生理周期は26日から29日
生理前7日目からイライラ 胸の張り、下腹の痛み(鈍痛)、疲れ、頭痛(左右のこめ かみ)、常にある鬱、落ち込みも強くなる。
排卵期は風邪を引いて熱が出る感じの熱っぽさ、精神的に不安定(軽度)
引っ越しで環境がかわり、仕事の無理も重なり、自律神経の症状や、予期不安がつよくなる。

舌 舌裏怒脹太い
爪の根元の色悪い
左季肋際つまり
左太衝 へたれ
左臨泣つまり
陽陵泉 右筋張り 陥凹 左筋張り
大腿胆経 つっぱり

・・心
精神的に不安定で落ち込み気味になる(年に2-3回)
自律神経失調症の症状が出ているときに口内炎、動機、夢をよくみるがでる
不妊治療の時に予期不安が常にある。
引っ越しで環境がかわり、仕事の無理も重なり、自律神経の症状や、予期不安がつよくなる。

舌 やや紅舌 舌尖に紅点 舌裏怒脹太い
左内関陥凹
左後谿陥凹 
神門右>左 はれ 奥に硬結 
左の寸口輪郭があまい

・・脾
自律神経失調症の症状が出ているときに腹痛がでる
梅雨や季節の変わり目に調子が悪い
間食はチョコやクッキーを毎日
口のどの渇きはよくある、違和感は時々
生理前7日目から常にある鬱、落ち込みも強くなる。

脾募あり 上腹部冷たい 
臍上向き、気海抜け
左大都あき
公孫こそげ
三陰交 陥凹
足三里 右<左 こそげ
右陰陵泉 動きが悪い

・・肺
左列缺ややこそげ
右太淵はれ
左合谷 こそげ冷え
大椎発汗冷え少しあり、細絡少しあり
身柱発汗 ゆるみ

・・腎
お酒の飲み過ぎ、寝不足、疲れているときに精神的に不安定で落ち込み気味になる(年 に-3回)
不妊治療の時に緊張して子宮収縮してしまう。
肉体疲労時に調子が悪い
30過ぎから夜間排尿が毎日ある
翌日に疲れが残ることが時々
生理前7日目からイライラ 胸の張り、下腹の痛み(鈍痛)、疲れ、頭痛(左右のこめ か)、常にある鬱、落ち込みも強くなる。
排卵期は風邪を引いて熱が出る感じの熱っぽさ、精神的に不安定(軽度)
20代から夜勤のある仕事をしていた。仕事で首を痛めた
引っ越しで環境がかわり、仕事の無理も重なり、自律神経の症状や、予期不安がつよくなる。

尺位輪郭があまい
関元ぬけきつい
外関、陽池 右<左 動きが悪い冷え
湧泉冷え
復溜陥凹
左腎兪陥凹
右次髎つまり
腸骨が前に入っている感じ

・・気虚
歯痕あり

・・瘀血
少腹急結左抵抗感あり
舌裏怒脹あり
大椎細絡少しあり

・病因病理

20代からはじめた夜勤もある仕事はハードであった。緊張したり食べ過ぎたすると下 痢をするというように肝気犯胃ぎみであり、食べ過ぎでも下痢になると言うことから脾 気も敏感であったと思われる。

23歳から年に2,3回、仕事を始めてから痛めていた首がより重くなり後谿部の頭痛と なり、口内炎、精神不安、落ち込みなどご自分では自律神経失調症の症状と思われる状 態に、お酒の飲み過ぎや、寝不足などがきっかけでおこるようになった。これは現在ま で継続している。

肝気犯胃気味で敏感な脾気であったうえに、夜勤を伴う仕事は腎気を落としがちであっ たと思われる。その上に、お酒の飲み過ぎや寝不足などでより腎気の支えが弱くなると 、心をしっかりと支えられなくなり心気は落ち込み心熱がこもり、口内炎、精神不安、 落ち込みなどにつながっているのではないかと思われる。このときに、脾気が十分にカ バーできていれば心気のよりどころとなるはずだが、もともとの肝気犯胃気味で敏感な 脾気であったので心を十分に養うことができず、心脾ともに落ち込み、より症状を悪化 させているのではないかと思われる。

薬などで症状をおちつけ、疲労がとれ腎気が回復すると、なんとか症状がなくなり日常 生活もそれなりに回復できる状態であった。しかしながら30歳で夜間尿が出現するなど 、少しずつ腎気には負担がかかり続けていたと思われる。

36歳の時に事故でむちうちになり、より首の状態が悪化、腎気に負担をかけるなか37歳 の時の引っ越しや仕事を頑張りすぎることなどが重なり、肝気がより張り、腎気は落ち 込むという状況となった。腎気の落ち込みがきつい状況であったので、いつものように デパスを飲んでもなかなか回復できなかった。これをきっかけに自分自身で疲労が重な らないように生活を整え、腎気を中心に体調をよくしていく努力をなさっている。

不妊治療をはじめ、体外受精へとステップアップしていくなかで、緊張することがおお く、妊娠の可能性が高くなる胚移植後には、ご自身で子宮の収縮がおこっていると思う ような状態となっている。また同じ時期の生理前7日ごろから常にある鬱が強くなって いる。

生理の前7日目頃は腎気の支えの下、肝気が張り陽気を満たし受精卵を迎える時期であ る。しかしながら元々の強い肝鬱が精神的なストレスにより強くなり、また支え土台と なる腎気そのものの不足も強い肝鬱を生じやすく肉体的な緊張を強くし、心気に負担を かけ心熱となっている。また肝気の立ち上がりを支えるために脾腎により大きな負担が かかり、脾腎の虚がきつくなり、脾気も落ち込み心気が養えず、常にある鬱がよりつよ くなるという状態となってしまっている。

また、大椎の冷え発汗、身柱の発汗ゆるみは、いつのころからか判然としないが、風邪 の内陥の可能性が考えられる。この風邪の内陥がより生命力を損傷し続けている可能性 があると思われる。

・弁証論治

弁証:脾腎両虚 風邪の内陥

・治療指針
風邪の内陥
肝鬱によって生じる心熱、全身の緊張感
脾腎の虚によって生じる心気不足。

 風邪の内陥を取り去る。
 脾気腎気を養い、土台をつくり、
   肝気の立ち上がりをしっかりと支えられる身体をつくる。
 場合によっては、強い肝鬱を直接的にさばく

・処置

1)百会、左外関ー左臨泣(+ミニ灸2回)灸頭鍼(足三里、左三陰交)
  (左湧泉、左陽池)ミニ灸2回 関元温灸

2)大椎温灸 申脈ミニ灸
  左脾兪、右胃兪 左腎兪 中膂兪

初診から4診 3週間にて自然妊娠