弁証論治:

0108:できる限りのことはしたい!! 43才出産

症例集→子宮内膜症、チョコレート嚢胞、多難の不妊治療(43歳出産)【case:0108】

・問診
41才の時に、『不妊治療、結果が出ないこともあることはわかってます。でも、できる限りのことはしたいんです。』という真摯な訴えに心うたれました。

初診時点でも、かなりの困難が予想されましたが、その後も、平坦な道ではありませんでした。採卵してもよい凍結胚にならない、日程的に不都合が重なり採卵を逃してしまうなどいろいろなことがありましたが、42才4ヶ月の採卵、43才でのご出産予定です。

特にこの方の場合、採卵は数多くなさっていますが、移植できるような状態の卵が取れないと言うことが治療の困難さを深めていました。

41歳、女性 エステティシャン
身長:170cm、体重:58kg、血圧:104/67
家族構成:夫

肉親の病気の遺伝的傾向:記載なし
主訴・・・(不妊)、肩こり、背中の張り(腰痛)

主訴
徐々に起こり、夕方つらく、時期は一定しない。
肩こりは首の付け根から肩胛骨にかけて
背中の凝りは胃の裏あたりがつらい。
前からよく起こり、特に仕事を始めてから起こる。
慢性的に常にあり、ひどい時は週1回くらいで痛くなる。
疲れがたまっているときに起こることが多いと思う。
首から肩にかけてと背中(特に腰の上あたり)が痛い。
全身的な体調の変化に合わせて、変化しない。
今まで治療は受けていない。

【今回の症状と同時に出てきた症状】

夕方の足のむくみ
目が疲れやすい
夢をよく見る

【その他に治したいこと】

冷え性(手足先)

【ふだんの状態について】

(体調の悪い変化)
クーラー、冬、夕方、肉体疲労時

(体調の良い変化)
記載無し

(風邪)
記載なし

(食事)
食べる量は普通で、30歳頃より食欲が落ちてきている。
食事時間は規則的で、朝:6:30、昼:11:30、夕19:00。
早食い~15分くらいで食べる。
食事前の空腹感はよくあり、普通に噛んで、よくおいしく食べられる。
食後にお腹が張ったり、胸焼けは、時々。
よく食べるのは、白米、パン、肉、魚、野菜。
好きな食べ物:パン。
嫌いな食べ物:貝類、シイタケ、春菊。
間食は毎日で、20代半ばくらいからお菓子や果物を食べている。

(水分)
摂取量は記載なし。
口、舌、喉の渇きは、夜乾燥して時々あり、違和感は無い。

(飲酒)
ほとんど飲まない。20歳から40歳まで20年間続けている。

(タバコ)
20歳から29歳まで9年間吸っていた。

(大便)
毎日か1日おきに出て、たまに4~5日出ないときがある。
便秘でおなかが張ってつらいことは時々で、便秘薬はめったに使用しない。
便が出切らない感じは時々。
便はバナナで、量はこぶし大。
便器に付着することはめったに無く、臭いは普通で時々臭う。
食べ過ぎると下痢をする。
20代は今よりも胃炎などのトラブルが多く、便秘気味だった

(小便)
1日の10回。
残尿感はめったにない。
尿切れが悪いことは無い。
尿の色が悪いことはめったない。
夜間排尿は1回起きることが時々ある。

(睡眠)
就寝22:30~23:00、起床5:00か6:00。
寝付き、寝起きは普通で、夢をよくみる。
翌日に疲れが残ることは時々。

【婦人科の状態】

今一番つらい症状と生理は関連していない。

初経12歳。
生理期間は7日間で、周期は29日。

生理に伴う体調不良は時々。
生理2~3日前から、下腹の痛み、いらいら、頭痛、乳首の痛み、食欲の
増加、甘いものが食べたくなる。これらの症状は生理が来ると治まる。
生理痛は1から2日目に軽めの鈍痛。

生理の量は少なく、小さい塊が混じるが、最近はあまりなくなった。
生理1~2日目が出血が多い。
生理はここ1~2年で量が減ってきた。特に最初の1~2日目だけで、3日目以降は少ない。

【これまでにかかった大きな病気】
記載なし

・時系列の問診

12歳・・・初経。
昔から・・・手足の先の冷え性(現在まで)。
高校時代は運動をしていたので背中の凝りは気にならなかった

19歳・・・仕事始める。
     肩こり(首のつけね)、背中のこり(胃の裏)(現在まで)。

20代・・・体重が最大で65kg
  胃腸のトラブル胃炎がよくあった。今よりも便秘気味だった
 (最近は胃腸のトラブルない)

30歳ぐらいからか肩こり、背中のこりと一緒に腰痛も感じる

30代前半にダイエットをして62キロから58キロ(現在)になる。

38歳結婚
 生理の量が減ってきた

39歳妊娠を希望する
 自分でタイミング6カ月。
 病院でタイミング7回。
 人工授精4回。

40歳 
7月 kクリニックにて採卵(3つ) 新鮮胚移植(8分割)凍結胚1つ
 フォリスチムとクロミッドにて誘発
 着床するも化学流産
9月 融解胚移植 着床せず
11月 漢方周期療法飲み始める
2月 D14 採卵 1つ成熟、8セルにて止まった。d3のf116
   セロフェン10日スプレキュア
3月 D13採卵 1つ成熟2つ空砲d3のf108
   桑実胚にてストップ
4月 d3のf81
  ビッグママ治療室受診
  採卵ー移植 妊娠にいたらず。
5月 スプレキュアしてリセット(前周期デュファストン服用のため)
6月 採卵4つ1個空砲 1つ未熟 2つ成熟ー凍結出来ず。

・体表観察

・・脉診
右尺 中から浮で影薄くなる
右寸 やや浮き気味

・・舌診
淡紅~淡薄
舌裏怒張 ややあり

・・腹診
肝の相火 左きつい
裏肝の相火 あり
中脘 かたい、動悸
下脘 動悸
気海 抜け
少腹急結 左少しあり

・・経穴診
列缺 こそげ(右<左)
右太淵 腫れ
右外関 動き悪い、冷え
左外関 冷え
陽池 冷え(右>左)
神門 奥に硬結
大都 割れ(右<左)
公孫 こそげ(右<左)
湧泉 冷え
太衝 へたれ(右<左)
左三陰交 冷え
復溜 陥凹
足三里 やや弛み

・・背候診
右風門 陥凹
左厥陰兪 陥凹
右心兪 陥凹トップ
三焦兪 抜け(左>右)
左腎兪 陥凹きついトップ
上仙あたり 細絡あり
右次髎 つまり

・五臓の弁別

・・肝
目が疲れやすい
夢をよくみる
昔から手足先の冷え性
生理前に下腹の痛み、イライラ、頭痛、乳首の痛み、食欲の増加がある
(生理が来ると治まる)
生理に小さい塊があったが最近減ってきた

舌裏怒張 ややあり
肝の相火 左きつい
少腹急結 左少しあり
太衝 へたれ(右<左)

・・心
神門 奥に硬結
左厥陰兪 陥凹
右心兪 陥凹トップ

・・脾
よく食べるのは、白米、パン、肉、魚、野菜。
間食は毎日
たまに4,5日便通がなくお腹が張って辛いことが時々ある。出きらない感じもときどきある

中脘 かたい、動悸
下脘 動悸
気海 抜け
20代胃腸のトラブル胃炎がよくあった。今よりも便秘気味だった
 (最近は胃腸のトラブルない)
大都 割れ(右<左)
公孫 こそげ(右<左)
左三陰交 冷え
足足三里 やや弛み
背中の凝り(胃の裏)
夜に口や舌が乾燥して乾くことがある

・・肺
右寸 やや浮き気味
列缺 こそげ(右<左)
右太淵 腫れ
右風門 陥凹
肩の凝り(首の付け根)

・・腎
肩こり、背中の張り(腰痛)は夕方に辛い
夕方には足のむくみも出現、
仕事を始めてからおこった
疲れがたまると肩こり、背中の張り(腰痛)の症状が出現
目が疲れやすい
クーラー、冬、夕方、肉体疲労時
夜間排尿が時々ある
翌日に疲れが残ることは時々
生理はここ1~2年で量が減ってきた。特に最初の1~2日目だけで、3日目以降は少ない。
少ない出血になっても7日間は続く
生理に小さい塊があったが最近減ってきた

右尺 中から浮で影薄くなる
裏肝の相火 あり

右外関 動き悪い、冷え
左外関 冷え
陽池 冷え(右>左)
湧泉 冷え
復溜 陥凹

三焦兪 抜け(左>右)
左腎兪 陥凹きついトップ
上仙あたり 細絡あり
右次髎 つまり

・・経絡経筋病
肩の凝り(首の付け根)→肺
背中の凝り(胃の裏)→脾

・病因病理

12歳で初経もあり腎気もそれなりに充実しているようだが、子供の頃から手足の先が冷えると言うことから肝鬱気味であったのではないかと思われる。

高校時代はスポーツをし、それなりに気血の巡りがよかったが、 19歳の頃から、立ち仕事が中心の職場になり、肩こりや背中の凝りが出現。

肉体的に少し過重な仕事のなか、頑張って肝気をはって働いていたのではないかと思われる。このころは胃炎などの胃腸のトラブルも多く便秘がちであり、肝気が脾胃を横逆することも多く肝気犯胃の状態でもあったと思われる。このため背中の凝りも胃の裏が多かったと思われる。

30代半ばにダイエットをし、体重を落とした。このころから胃腸のトラブルそのもはなくなっており、便秘も穏やかに軽くなっている。強い肝気犯胃の状態がなくなり、肝気が脾胃を直接犯すことはなくなったのだと思われる。

しかしながら、身体そのものが養われたわけではなかったため、背中の凝りや肩の凝りは継続し、また、だんだん腰痛も一緒に感じるようになった。強い肝気犯胃の状態はなくなったものの、脾気が補われることもなく、全身の肝鬱は続き、腎気にも負担が及んでいったためではないかと思われる。

腎気を補うことがなく仕事が続いていたのでより負担となり、足のむくみなども出現。

1,2年前からは生理の量も減った。腎気の弱りがもともと弱かった脾気へ直接影響し生血不足から生理の量も減ったのだと思われる。

妊娠希望とのこと。現在卵巣の指標であるFSHは一桁であり、卵巣そのものの老化よりも、生理の量が減ったことや生理が7日間も続くこと、また中脘や下脘の動悸など、脾気の弱りからおこる生血不足そして脾虚を中心とする気虚が明瞭である。この脾虚を中心とする気虚によって、肝鬱は強くなり、子宮への養いも不足する。また30代から腰痛を伴うように腎気も弱っていることが子宮への養い不足にもつながっていると思われる。

・弁証論治

弁証 

脾虚を中心とする気虚
腎虚・肝鬱

論治

 益気補脾 補腎

・治療指針
まず第一に脾気をたて補気し全身の気虚を救う。

主訴が妊娠であるので、下焦に気を導き腎気を養う。

肝鬱は基本的にいじらない(もともとの生きる姿勢であり、現在肝気犯胃の状態にまではなっていないため)

・生活提言 不妊治療、生活へのアドバイス

不妊治療に置いて、できる限りのことをしたいという思い、よくわかります。

漢方、鍼灸、病院での治療など、いま精一杯のことをなさっているのだなと思います。

昔からある背中の凝りを中心とした肩こりや腰痛は身体の力不足が根底にあります。

身体の力が不足しているにもかかわらず、日々の仕事や、不妊治療を「頑張って」いるので、肩や背中を懲らせているわけです。また身体の力不足があるので、気血の巡りも悪くなって手足末端の冷えなどにつながっています。根底にあるのは「生命力不足」です。

この生命力不足を救うのに、○○さんにとって一番必要なのは、胃腸の力です。

背中の胃の裏が凝ること、お腹のおへそなどを中心に脉打つ感じがあること、そのほか 胃腸の力を示す経穴が非常に弱っている感じがします。20代の頃には、直接的にストレスなどが胃腸に加わり胃炎などの状態を引き起こしていたのでしょう。そういった ことがなくなっても、胃腸の力自体が健やかになったのではなかったために、凝りの部位が腰まで広がりむくみも伴うようになってきたのだと思われます。(脾胃の力不足より、 腎気の不足もまねくようになった)

妊娠したいというご希望であり、卵巣の機能自体はFSHの数字などをみてもさほど低下していらっしゃらない状態です。胃腸の力をつけ、全身の気虚を救い、気血を骨盤内の子宮卵巣に導き、妊娠を現実のものとできるように頑張って行きましょう。

週に1,2回の鍼灸治療、毎日の自宅でのお灸はしっかりとやっていきましょう。

また、規則正しい生活、睡眠、血や肉になる食べ物(タンパク質脂質など)も、よく噛んでしっかりと接種しましょう。

漢方薬もいろいろと先生が考えてくださっていることと思います。

細かいことはさておき、まず第一に生命力をつけ、全身の気虚を救う方向でご相談を されてはと思います

・不妊治療歴、治療経過

39才
 結婚、不妊治療スタート

39歳妊娠を希望する
 自分でタイミング6カ月。
 病院でタイミング7回。
 人工授精4回。

40歳 
x月 kクリニックにて採卵(3つ) 新鮮胚移植(8分割)凍結胚1つ
 フォリスチムとクロミッドにて誘発
 着床するも化学流産
x+2月 融解胚移植 着床せず
x+4月 漢方周期療法飲み始める(10ヶ月ほどでやめる)
x+6月 D14 採卵 1つ成熟、8セルにて止まった。d3のf116
   セロフェン10日スプレキュア
x+10月 D13採卵 1つ成熟2つ空砲d3のf108
   桑実胚にてストップ
x+11月 d3のf81

  ビッグママ治療室受診
  採卵ー移植 妊娠にいたらず。

41才
x月 スプレキュアしてリセット(前周期デュファストン服用のため)
x+1月 採卵4つ1個空砲 1つ未熟 2つ成熟ー凍結出来ず。
x+2月 採卵を望むも周期スタートできず
x+8月 採卵周期、途中で数字の伸が悪く注射を追加、空砲二つのみ
x+10月 採卵周期、FSHが高くなってしまいセロフェンのみでスタート
     採卵ー2個受精ー胚盤胞まで培養ー凍結出来ず
x+11月 転院
    チョコレート膿腫が大きくなっていることを指摘される(4センチ)
    卵巣の状態は悪いが、成熟卵が取れているので採卵しようということになる

42才
x月 E+Fが40で周期スタート 左に3個、右は内膜症とチョコで見えないと。
   採卵、三つ取れる予定が結局1つしかとれなかった→凍結
x+2月 採卵 クロミッド+ガニレスト 凍結出来ず
x+4月 チョコレート嚢胞が5センチに(1ヶ月前は45センチ)卵が1つ
    採卵周期スタート、1つだけ大きく育ってしまったので人工授精
x+8月 D3で卵胞が見えない(E40 F14)今日からクロミッド
    D9で左5個(10-11ミリ)
    6個採卵、2つ成熟、1個胚盤胞で凍結
x+9月 今までで一番よいFSHなので採卵周期へ
     4つ空砲、残りの1つ異常受精(多核)
x+11月 採卵周期スタートー採卵できずに人工授精

43才
x月 採卵周期スタート 8cellG2凍結、もう一つは胚盤胞凍結出来ず
x+2月 HR周期にて2段階移植 判定日HCG38 

妊娠
 5週 茶色いおりものがある
 15週 歯がうずく
 20週 足がむくむ
 21週 あいうべー体操をするようになって、口の渇きがなくなり口呼吸が治ってきた
 31週 同じお灸を使っているのに、火傷ができやすくなってしまった。
 34週 むくみがきつい(ここから同じ状態続く)
 無事に3500グラムオーバーの元気なベビちゃんを出産