カテゴリー : 不妊・婦人科の症例集 30代前半 不妊

体外受精の結果につながる鍼灸、漢方、養生の必要量(34歳出産)

概要

不妊治療において、養生は大切です。鍼灸治療、自宅養生、睡眠、漢方薬などその必要量をしっかりと満たすことで、妊娠、出産につながった症例です。

(この症例の弁証論治→同一の弁証にて、鍼灸治療頻度などをあげることで、妊娠出産にいたった症例
(この症例を掲載した東洋医学会の論文→同一の弁証にて、鍼灸治療頻度などをあげることで、妊娠出産にいたった1症例
【case:0136】

ご相談内容

32才です。30才から妊娠したいと思い、不妊クリニックにて治療を受けてします。検査などをして取り立てて原因になることはないと言われています。

20代後半から仕事が忙しくなり体調がぐっと悪くなった気がします。血圧も低く(60−90)、生理周期も伸びてしまい、疲労感が残るようになりました。転職し、仕事は楽になったものの通勤距離がのびてしまい体調は回復していません。早く子供を授かりたいと思っています。どうしたらいいでしょうか?

東洋医学的診立て

病院での検査では問題ないと言われながらも、なかなか妊娠しないというお悩みですね。妊娠には、生命力の余力が必要です。つまり身体にそれなりの余裕があって初めて成立するわけです。

ただ、女性のタイプにはふたつあります。

(1)余裕がないから次の世代で! タイプ
このタイプは、ご自身の身体に余裕がないとかえって次の世代にいきましょう! というスイッチが入る方です。母体側がどうであれ次の世代を生み出そうと身体のスイッチが入ります。

(2)余裕がないから、生殖は少しお休みタイプ
このタイプは、ご自身に余裕がないと生理の周期が伸びたり、なかなか妊娠しなくなるなど、いまが余裕がないから生殖などは後回しでというタイプです。

Yさんは、(2)の余裕がないから生殖までには力が回らないタイプだと思います。

お話しを伺いますと、日々のお仕事、生活、趣味などがとても盛りだくさんですね。30代前半、一番充実した世代ですから納得の出来るところです。しかしながらお身体を拝見しますと、

・踵に感じる冷え
・関元(CV4)、腎兪(BL23)、大腸兪(BL25)、湧泉など生命の余力を示す経穴が力がない。
・生理周期のおくれ、生理の塊、舌の瘀斑、少腹急結、歪舌
・大椎の冷え、陶道の発汗

上記などから、素体の弱りがあり、気血の巡りが悪いこと、そして滞りが少し病的に変化しはじめ瘀血という東洋医学で言う血の滞りを感じさせるポイントも出現し始めているという状況です。

30代前半、お若いです。しっかりとご自身の養生に取り組み、不妊治療を一歩前にすすめましょう。私からの提案をしますね。

患者さんへの提案:
(1)週に1度以上の頻度での鍼灸治療
(2)毎日の自宅施灸
(3)十分な睡眠
(4)漢方薬の服用

漢方薬は薬局や専門病院への受診をお勧めします。私がYさんだったら、生薬タイプの八味地黄丸などを選ぶかなと思いますが、具体的なところは、薬局や専門クリニックで相談してみて下さいね。

東洋医学的弁証論治
弁証:腎虚 肝鬱瘀血
論治:益気補腎 疏肝理気 活血化瘀
治療方針:まず第一に腎気をあげることを中心の課題とする。瘀血や肝鬱は、腎気がたつことによって解消しない場合には手を加える。

治療経過

初診:
左外関、三陰交、右臨泣 復溜 中注 関元
大椎温灸 腎兪(BL23)、大腸兪(BL25)

外関ー臨泣: 少陽の枢をたて、腎の陽気をアップさせる。
復溜 中注 関元:  腎の陽気をアップさせる
大椎:肺気を救い、腎への負担を取る
腎兪(BL23)、大腸兪(BL25) 腎気をアップさせる

初診から1-3ヶ月目にやったこと:
・1から2週間に1度の鍼灸治療を受ける
・2,3日に一回程度 ウチダの八味丸Mを服用
・時々自宅施灸
・夜の1時過ぎに寝る。

結果:朝の目覚めがよい、17日かかっていた排卵が13から14日目でおこる。夕方に疲れを感じない。
:体外受精では1個しか採卵できず移植するも妊娠できなかった。

初診から4-10ヶ月目にやったこと:
・週に1度以上の頻度で必ず鍼灸治療を受ける
・毎日自宅施灸
・毎日漢方を規定量しっかり飲む
・11時には寝る。

結果:朝の疲労感が違う、朝から動ける、腰痛を感じなくなってきた。体外受精で8個採卵が出来5個受精、2つグレードの良い胚盤胞が出来た。胚移植し妊娠出産。
図1 治療効果

あとがき

身体作りは、『ある程度』行えば、それなりの結果は出ると思います。体調がそれなりによくなったというのは、不妊という明確な課題がなければOKだと思います。

しかしながら、はっきりとした結果を求める場合は、『必要十分な養生の量』が必要です。

Yさんのすごいところは、しっかりと腹をくくり、いままでと明確に違う養生の量をまもり、結果につなげたことです。これはもうご本人の努力のたまものとしかいいようがありません。さすが! と頭が下がりました。