弁証論治:

0118:リュウマチ→糖尿病併発の弁証論治

・問診
57歳女性 身長169センチ体重55キロ
2012年6月初診

・・主訴

持病からくる全身のだるさ
関節リューマチは2000年~、糖尿病は2012年~発症。
徐々におこり、常時辛い、
クーラー、冬、梅雨時につらい。
症状は安定している。
他に、糖尿病の合併症でおきている末梢神経障害(手足のしびれ)をなおしたい。

【今一番辛い症状について】
2012年3月ぐらいからはじまった。
糖尿病が原因ではないかと思う。
口渇、便秘、体重の減少、身体がだるい、全身的な体調の変化にあわせて変化はしない。
内科医には血糖値のコントロールが先であると言われている。

33歳、急な体重減少 震え発汗 甲状腺機能亢進症 投薬6年で緩解
47歳 生理の血液量の増加 子宮筋腫 投薬、生理終了で減少
47歳 関節痛と変形 関節リューマチと診断 投薬、現在も緩やかに進行

【ふだんの状態について】

クーラー、冬、梅雨時、季節の変わり目、肉体疲労時に悪化
54歳ころから食欲が落ちている
食事は規則的、空腹感は時々、食後の腹脹、胸やけは時々、
野菜(トマト、根菜など)卵、雑穀米、鶏肉、さかな
糖尿の食事療法を始めてから間食はしない。
タバコは20-50歳まで

飲酒はほとんどしない。
飲水は、食事療法開始前は2リットル、現在は1200ccぐらい
 (珈琲、緑茶、ジュース、ミネラル水、紅茶)
口渇はある  (食事療法を始めてからあまり喉がかわかなくなった。)

便通は不定期
 (半年ほど前までは、便秘知らずで1日一回は便通がよい状態であった)
便ができらないことはよくある、コロコロ、量は少ない、付着はない
夜間尿に時々4時ぐらいに起きる。
11時頃にねて、5時から6時におきる。寝つきはよい、寝起きもよい、
翌日に疲れが残ることは時々。

初経は15歳、閉経は55歳
生理の2,3日前に軽い頭痛、軽いめまい。腰が痛くなることがある。
生理がくれば症状は治まる。生理は親指大の塊がとても多かった。
24歳、25歳で出産、母乳はでなかった。

・時系列の問診

33歳、急な体重減少 震え発汗 甲状腺機能亢進症 投薬6年で緩解

40代 握力右40,左40

47歳 生理の血液量の増加 子宮筋腫 投薬、生理終了で減少

47歳 関節痛と変形 関節リューマチと診断 投薬、現在も緩やかに進行
 中指の第二関節が突然腫れた。血液検査では数字がでなかった。
 金注射で手がグローブのように腫れた
 リューマトレックスと痛み止めのロキソニンで対応

55歳閉経 
 血糖値が100を越えていてドクターから閉経と糖尿は気をつけるようにと
 アドバイスをされていた。

57歳(2011年12月)
 水を異常にに飲み始めた。
 62キロ(12月)から55キロ(4月)へと一気に痩せた

56歳(2012年1月) 糖尿病の診断を受ける
  空腹時340 A1c14 尿糖+4 ケトン体+
  1800カロリーの制限
  まわりから痩せたのではないかと言われた

57歳(2012年4月)
  体重55キロ(4ヶ月で一気に7キロ痩せた)
  末梢神経の障害の症状が出始める(しびれなど)

57歳(2012年6月)
   6月 ビッグママ治療室受診、鍼灸治療開始
   糖質制限も始める
   空腹時240
   握力右15,左7

・体表観察

・・舌診
胖大
戦アリ
舌裏怒脹大

・・脉診
輪郭が甘い
尺位が浮位で消える
右の関上やや弦
左輪郭が甘い

・・腹診
右の肝の相火 奥にややつまりあり
季肋際 ややつっぱり
中脘、臍、動悸
大巨、抜け
少腹急結 左やや+

・・経穴診
左内関大きく陥凹
外関こそげ、左動きが悪い
左後谿大きく陥凹
右神門 晴れ
足三里 こそげ陥凹

・・背候診
大椎細絡あり
左胆兪 陥凹きつい
左脾兪陥凹大きい トップ
右脾兪 陥凹 抜け
左右三焦兪から腎兪 底抜けた感じ 

・五臓の弁別

・・肝
48歳 生理の血液量増加 
生理前に軽い頭痛、めまい。
34歳 急な体重減少、震え、発汗
舌 戦アリ、舌裏怒脹大
右の関上やや弦、
右の肝の相火 奥にややつまりあり
季肋際 ややつっぱり
左胆兪 陥凹きつい
月経の経血に親指大の塊

・・心
口渇
34歳 急な体重減少、震え、発汗
左内関大きく陥凹
左後谿大きく陥凹
右神門 晴れ

・・脾
梅雨に辛い
口渇、便秘、体重の減少 からだがだるい
34歳 急な体重減少、震え、発汗
48歳 生理の血液量増加
55歳頃から食欲が落ちている
空腹感は時々、食後の腹脹、胸やけは時々、
飲水は、食事療法開始前は2リットル、現在は1200ccぐらい
 (糖尿の食事制限をしてから口渇が減った)
半年前(糖尿病発症前)までは便通がよかった。現在は不定期、コロコロ、
 出きらないことがよくある。
56歳閉経時に、血糖値が100を越えているのでドクターより注意を受ける
57歳 水を異常に飲み始めた
   体重が4ヶ月で一気に7キロ減る
脈 左輪郭が甘い
足三里 こそげ陥凹
中脘、臍、動悸
左脾兪陥凹大きい トップ
右脾兪 陥凹 抜け

・・肺
大椎細絡あり

・・腎
クーラー冬に辛い
体重の減少 からだがだるい
48歳 生理の血液量増加
肉体疲労時に悪化
夜間尿が4時くらいにある。
末梢神経の障害の症状が出始める(しびれなど)
脈 輪郭が甘い、尺位が浮位で消える
  左輪郭が甘い
大巨、抜け
少腹急結 左やや+
外関こそげ、左動きが悪い
左右三焦兪から腎兪 底抜けた感じ 

・・瘀血
生理、親指大の塊 舌裏怒脹あり
少腹急結 左やや+

・・気虚
舌胖大

・病因病理

34歳の時に、急な体重減少と慄え、発汗を伴う状態で、甲状腺機能亢進症と診断されている。心気に強い負担がかかり、体重減少という器を小さくするような出来事であったが、投薬で落ち着くことができた。

48歳のころ、子宮筋腫による生理の出血量の増加と関節リューマチの発症がおこっている。子宮筋腫という瘀血によって出血量が増加し、素体に負担をかけたことで、器になんらかの影響をあたえ、関節リュウマチの発症となったのではないかと思われる。

リューマチをリューマトレックスと痛い止めでなんとかコントロールし、生理の出血量の多さも投薬にてコントロールしながら経過。穏やかに進行するという状態が続き、56歳閉経によって子宮筋腫による出血からは解放されたが、医師から血糖値の問題を指摘され、家族歴もある糖尿病の注意を受けるにいたっている。

その後2年間、薬のコントロールにてリウマチとつきあっていたが器を立て直すことはせず、また糖尿病に関しても、特別な注意を払うことなく過ごしていた。

58歳の12月、それまで問題のなかった便通が急に悪くなり、非常に強い口渇が出始め体重の減少も始まる。脾気が急激に落ち込み、脾の陰気不足により強い口渇が生じたものと思われる。1月には血糖値が空腹時で340と糖尿病の診断を受け、そののち4ヶ月で7キロの体重減少となった。

非常に急な脾気の落ち込みは、腎気の支えがなくなったためではないかと思われる。

10年間に渡ってリウマチを薬にてコントロールし続けたが、これによって器である腎気に負担が徐々にかかっていたこと。子宮筋腫による出血が多く器に負担をかけ続けていたことなどがあり、12月に一気に腎気が底割れし、脾気は拠り所を失い、もともと家族歴がつよくあり素因があった糖尿病の発症につながったのではないかと思われる。

食事制限により、血糖値がコントロールされ、つよい口渇はある程度おさまったものの、脾気の回復にはつながらず、体重が55キロになってしまったころ、末梢神経の症状が出始めた。四肢の養いが不足してしまったためではないかと思われる。

現時点でつよい脾気落ちが明瞭である。中かん、臍の動悸。左右脾兪の大きい陥凹は、脾胃の支えを失った全身状態をあらわしている。また左右とも三焦兪から腎兪が底抜けたよな状態であるのは、腎気の底割れも明瞭であることをしめしている。

・弁証論治

弁証:腎虚を中心とする気虚 脾虚
論治:益気補腎 補脾

・治療指針
まず第一に、三焦兪から腎兪にかけての底が抜けたような経穴状態を目標に腎気の回復をはかる。
脾気の問題は、腎気の回復の状況をみながら、中かんの状態を診処にして回復をはかる。

・生活提言

急速な糖尿病の進行によって、体重減少や、身体のだるさなどが強くおこりお困りのことと思います。

お身体を拝見しますと、身体の支えとなる土台の力(東洋医学では腎気の力といいます)が明瞭に落ちています。これは、いろいろな病気に対して受け止めていく力がなくなってしまっていることを示しています。胃腸の調子がどんどん悪化してしまったことも下支えになる腎気が落ちてしまっていたためで、このため糖尿病が発症したときに、急激な病状悪化となってしまったのでしょう。

生命力の土台となる腎気は年齢と共に少しづつ衰えていくことは誰にでもある当たり前の流れです。これが急速におこってしまったことが、今回の急激な病状の変化とつながっていると思われます。リウマチと上手くつきあうための長きにわたる投薬は、リウマチそのものの進行は抑え、生活の質を保証してくれるものではあったと思います。ただ、生命力の土台(腎気)に対しては、負担をかけ続けたものであるのは事実でしょう。

複数の病気を抱えると、それぞれの対応について難しいことも多いかと思います。

東洋医学では、その個別の病気、個別の症状に対応していくことよりも、丸ごと ひとつの人間としての有り様をみていきます。

鍼灸では、この生命力の土台である腎気の充実をはかることを目標としていきます。 これによって、リウマチや糖尿病をしっかり受け止める力をつけていきましょう。

ご自身の生活としては、すでに十分配慮なさっているかとは思いますが、 糖尿病対策のための食事療法は大切です。糖質との上手なつきあい方、そして胃腸の調子が悪いとどうしても不足しがちなタンパク質の摂取がポイントとなると思います。 少量頻回にして取るべき栄養はしっかりととりましょう。

また、睡眠は生命力の土台を充実させるもととなります。充分な睡眠を 心がけていきましょう。

・治療経過

初診半年前 体重62キロ 空腹時血糖340 A1c14 尿糖+4 ケトン体+
   食事制限にて血糖値を落とすようにと言われる。1800カロリー。
   3ヶ月で一気に55キロまで減少 体重下げ止まり

ビッグママ 初診時 6月
 空腹時血糖240 
 百会 左後谿(中脘気海)温灸 三陰交、足三里温灸
 肺兪、右膏肓温灸 左胃兪、腎兪 温灸

1ヶ月半後(15診)中脘部に大きな塊、食事が食べられないと訴える
内科で相談するように指示→MRIにて悪性疾患を否定される。なんでもないと。

2ヶ月後(20診)少し食欲がアップ
 体重が52キロへ。中脘の塊が取れ始める。
 空腹時115 A1c6.2 

2ヶ月半後(25診後)
 腎兪に底ができはじめる

5ヶ月後(40診)
 初診時にあった、電気が走るような感じ↓
 末端の違和感も↓ 全体にだいぶ落ち着いている。
 左の内関、外関。百会7 足三里 左胃兪 三焦兪、腎兪

初診から半年で(糖尿病発症から1年)かなり落ち着いたところまできたという感じです。
初診時の電気が走るような感じや末端の違和感もとれ、全体に落ち着いています。
また、リウマチの状況も肘の痛みなど改善できるところまできています。
腎兪、三焦兪のきつい抜けがなくなり、底上げされるのと連動して、ご本人の
だるさ、疲れやすさなども改善されています。