あれこれ思うエッセイ集:,

腎の陰陽両虚、八味丸と杞菊地黄丸は逆?

ビッグママ治療室にて、鍼灸治療を行い、良好に経過した患者さんです。 お引っ越しなされたために、漢方薬の服用を始めようとしたところ、薬剤師さんからの アドバイスがあり、ご相談のメールがきました。

からだの左側の痛みとだるさの弁証論治

上記の症例のかたです。私の診立てに沿ったアドバイスをしています。 ただ、薬剤のことですので、最終的には専門家のご意見を優先して頂きたいと思います。 ご参考までということで、コメントをさせていただきました。

ご質問

ビックママ治療室
米山 先生

山本です。治療、有り難うございました。ほんとうに随分と体調がよくなりました。 引越で忙しく、なかなかお灸ができていませんが、やっと落ち着いてきたので、頑張ります。

さて、お尋ねしたいことがあります。先日、先生にアドバイスいただいたことをもとに、 薬局にいきました。そこにいる薬剤師の方とお話をしたところ、山本の場合は杞菊妙見丸がよいいのではないかとのことでした。

八味の方は体をあたためる役割で、杞菊の方は体を冷やす役割、私の舌を見たところ体に熱が籠っているようなので、ということでした。効果が全く逆のものなので、 間違って飲むと逆に悪くなるので、治療室に確かめた方がよいというご指摘でした。 如何なものでしょうか?先生のご意見をお聞かせください。

私からのお返事

こんにちは
お引越しを終えられ、そろそろ落ち着かれたころでしょうか? 年明けからはお忙しくて大分体調を落とされたかなと感じていました。

初診時に拝見したころよりは確かにだいぶよくなってはいますが、 体調が悪くなると、初診時の状況を彷彿させるお体の様子となることがよくありました。気をつけて過ごしてくださいね。そしてなるべく早めにそちらでの鍼灸院での手入れも再開してくださいね。

さて、ご質問の件ですが、 八味地黄丸と杞菊地黄丸は、8つの成分のうち6つまでが同じです。 その同じ6つの成分でできた漢方薬は六味地黄丸といいます。

歴史的には、八味地黄丸が起源200年頃からあった、もともとの処方です。 六味丸は『小児薬証直訣』銭天来1,119年頃からのもの。杞菊地黄丸は清代の『医級』董西園1,777年頃からのものです。

ですから順番としては、八味丸が最初で、使われているうちに、陽気の塊である小児にはその陽の部分は必要ないだろうということで 除去されて六味丸を中心として使用されることになっているわけです。(六味丸は小児の薬として出来たものです)

成分的には、 六味地黄丸に桂皮と附子を足したものが八味地黄丸。 六味地黄丸に、枸杞子と菊花を足したものが杞菊地黄丸です。

つまり、六味地黄丸の成分である
地黄(ジオウ)
山茱萸(サンシュユ)
山薬(サンヤク)
茯苓(ブクリョウ)
沢瀉(タクシャ)
牡丹皮(ボタンピ)

までは、一緒で、そのあとのふたつが違います。

六味丸の6つの成分は、腎陰を補うといわれています。

そして、2つ薬が多い八味丸は、温補腎陽の桂皮と 附子を足し、腎の陰陽両虚を救う漢方薬であると解釈できます。子供は陽気の塊という解釈がなされていますから、 八味丸のうちの暖める部分を抜いた処方になっているわけです。

これに比べて、杞菊地黄丸は、腎陰を補う六味丸に肝の陰血不足を補う処方とい われる枸杞子と菊花を足しています。

効果がまったく逆といわれますが、八味地黄丸は、腎の陰陽両虚を補い、杞菊地 黄丸は、腎の陰虚肝の陰虚を救う薬であります。両方とも腎気を救うのですが、 八味丸が腎の陰陽両虚を救うわけです。

つまり、薬剤師さんのアドバイスは、

腎の陽虚ならば、八味丸
腎の陰虚ならば、杞菊地黄丸

という感じになっており、片方が陽気を補うものであり、片方が陰気を補うもの であるのでまったくの逆の処方という解釈ですが、八味丸は、陰気も補い、陽気 も補うのという両者補う処方であると私は理解しているわけですし歴史的な流れもそうなっています。

そして、山本さんへの弁証でもあるように、山本さんは腎の陽虚が中心であると いうことで私の鍼灸治療をすすめています。 (詳しくは、「からだの左側の痛みとだるさの弁証論治病因病理:弁証論治:生活提言」をご覧ください。個人情報を差し替えた形で掲載してあります)

舌や体の上部をみると、一見熱があるように思えるかもしれません。でも、それは中心(腎、臍下丹田)が冷えている(腎の陽虚)ために、熱が浮いているだけ だと私は考え治療を進めてきました。(つまり、お風呂を沸かしたときに、上のほうは熱いけど、下は冷たい水になっているという状況ですので、私は冷えが中 心であり、もっと熱を入れる治療をするべきだと考えているわけです。お風呂を沸かしていて上部だけが熱ければ全体も熱いと解釈する人はいませんよね)

八味丸は、腎の陰陽両虚を救う処方であり、腎の陰を補う処方と逆の処方になるのではない(陽気だけを加えて、陰気を加えないということではなく、陰気も陽 気も加える処方である)という風に私は考えています。

ただし、薬ですので、実際に山本さんがどういった反応をするのかは、試してみて考えていく部分も確かにありますよね。試してみて、その情報ももとにまた考えていく といとが大事です。薬剤のことですので、処方そのものに関しては、鍼灸師である私の範疇を超えますので、ご参考までということで聞いてください。

薬剤師さんには、今回の方のような解釈をする方が多いのですが、私は上記のように考えております。

ご参考まで。