弁証論治:

0010:両卵管閉塞そのままで自然妊娠

..病因病理

主訴の下腹の痛みは、卵管造影の検査のあとに出現し、排卵時期に限り、固定性で特に夜に痛みがますということよりオケツの可能性が考えられる。卵管造影がきっかけで下腹が冷えたり逆に詰まっていることが明確になったためにおこったものではないかと考えられる。舌の胖嫩、列缺のかげり、夏が苦手で立ちくらみが多い、朝が苦手など全身の気虚を思わせる項目が多くあります。気虚があるため、ちょっとしたきっかけでオケツの状態をおこしやすくなっているのではないかと思われます。

生理の状況を考えると、生理前1週間ごろから下腹が痛むという腎気の不足の状況、イライラ、吐き気がおこり生理と同時に納まるという腎気の不足、肝気の鬱滞状況が浮かんできます。肝気の鬱滞は案外きつく、生理がおこると、イライラ吐き気はおさまるものの、下腹の痛みは服薬によりやっと納まります。もともと寝つきが悪く眠りが浅いことより、生来腎虚肝鬱傾向にあり、それがそのまま生理の状況とも呼応していると思われます。

また、腎虚肝鬱の傾向は、オケツを生みやすい素地ともなります。体外受精に向けての身体作りは、妊娠を成立させ、妊娠期間を健やかに過ごし、無事なご出産をむかえていただくことを考えていく必要があります。これには、腎気をたて、肝気の鬱滞を取り去り、衝任脉の養いを充実させ気血のめぐりをよくする必要があります。

本症例の女性は、不足している腎気を補い肝鬱を晴らすようにしていきます。また衝任脉の充実は、脾気を養うことを中心とする必要があります。これは、便通もよく、食事も美味しく食べられている状況から、ご自身の生活の中での節制によりおこなわれるべきでしょう。

弁証:気虚 腎虚肝鬱
論治:益気補腎 疏肝理気
腎気を補い全身の気虚を救う。肝気をめぐらせ鬱滞を張らす。

..生活提言

妊娠に向けての身体作りをしたいとのご希望ですね。もともと全体に体力がなく、気虚という全身の生命力が不足している状態です。全身の生命力が不足していると、気血のめぐりが悪くなり、阻滞し痛みなどの原因となったり、妊娠を妨げる要因ともなります。

治療では下腹骨盤を中心とした土台の生命力をつけること(腎気をあげることといいます)を第一と考え、そのうえで、気血のめぐりをよくするように治療していきます。

ご自身の生活の中では、とくに胃腸の状態を健やかにし、食物からのパワーをしっかりと受け止められるように、間食などはやめていただき、規則正しい食生活を心がけてください。また、足三里など毎日の自宅でのお灸もおすすめします。頑張ってみてください。

..鍼灸治療

…初診

1)右合谷、右列缺(ミニ灸)右申脈(ミニ灸)、右陽陵泉、右臨泣(ミニ灸)、左三陰交、大巨(10)
2)肝兪(ミニ灸)腎兪灸頭鍼、次髎ミニ灸、復溜(ミニ灸)

..治療経過

初診から17診目(週に1度の治療)で自然妊娠。
来月体外受精ー胚移植の予定だったが、それをまたずして身体作りの段階にて自然妊娠。
両卵管閉塞との診断であり、鍼灸や身体の力をつけることで卵管が開通したのか、もともとの診断がグレーゾーンであったためなのかは不明だが、ご本人にとって思いがけない自然妊娠で、喜びひとしお。

..妊娠中の経過

自然妊娠するも、10診目までは、ホルモン値が悪く、いつ流産してもおかしくないという状況。鍼灸治療を週に2度にして、とにかく持ちこたえる。
その後、週に1度で鍼灸治療継続。
おなかも張り気味で、少し不安定な妊娠経過なるも無事に自然分娩にて出産。