弁証論治:

0032:『卵の質はよくなるのでしょうか?』弁証論治

症例集→質の良い卵が採れず、体外受精で治療が進まない(34歳、37歳出産)【case:0032】

30代前半で体外受精を繰り返すも、質の良くない卵しか採れず、妊娠に致らない症例です。

IVF-ET(体外受精ー胚移植)でもなかなか上手くいかず、妊娠にたどり着けないという悩みを 抱える方は多いと思います。そのときに問題となるのは、『良い卵が出来ない』と『着床しない』ということだと思います。

今回の症例の方は、年齢が30代前半と若いながらも、何度採卵しても『良い卵が採れない』という状況で、変性卵、未熟卵などが続き、やっと戻せる程度の卵が精一杯。とても胚盤胞などまでの培養など出来ずという状況でした。

こういった状況では、何度体外受精を繰り返しても上手くいかないことがあります。

そんなときは、少し引いて『身体作りをしてから仕切り直し』をお勧めします。

しっかりと今の状況をみて、何が必要か、何が不要かを見極め。前に進む作戦をたてるのです。

卵(受精卵)の質が悪いというのは、とても難しい問題です。ただ、『絶対に無理』な状況ではないと私は思っています。前向きに、出来ることを淡々と。頑張って進んでいきましょうね。

・問診

32歳 女性 158センチ 50kg
主訴:体外受精を複数回繰り返すも、卵の質が悪く妊娠に致らない。

・・普段の状態について

30歳過ぎから風邪を引きやすくなった、以前は発熱しなかったのに、発熱するようになった。

最近は風邪を引いて咳が出ると一ヶ月ぐらい止まらない。

食欲は普通、時間は規則的、早食い、空腹感はよくある、いつもおいしい、噛まないことが多い お腹が張ることはない。甘いものは苦手、間食はしない。
水分一日に1~1.5リットル
口が渇くこと、違和感はめったにない。

便通は1,2日に一回 お腹のはり、出きらない感じはない、量は多く形はバナナ。付着することもない。

小便は1日10回 2年前の転職前は1時間に1度ぐらいのトイレ、眠っている時も2回ぐらいトイレにいってしまう、残尿感があり、尿切れの悪さがあったが、最近はない。朝の5時ぐらいに尿意で起きてしまう(以前は2回、今は1回)。

寝付きはよく、眠りは深く、寝起きも良い、疲れが残ることもめったにない。

生理が始まったのは13歳 28日周期で5日間
生理時に下腹に鈍痛、生理前に乳房が張る、小さい塊がまじる。
卵管の手術後、出血の量が増え、生理の日数も増えたような気がする

30歳頃までは、低温期でも36.3度ぐらいあった体温が、全体が下がり、36.0を切るようになり、低温期は35.7度ぐらいになってしまった。高温期のあがりも、30歳頃までは明瞭であったのに、現在は明瞭ではない。

・時系列の問診  不妊について

26歳で結婚 自分たちでタイミング(2年)
    仕事がとてもストレスできつかった

28歳 病院にてタイミング、夜トイレに2回ぐらい行っていた

29歳 転職 引っ越し(アパートから一戸建て)

30歳 卵管狭窄と言われる、手術。
    尿の状態変化(よくなる)、基礎体温の変化(全体に下がる)、
    風邪を引きやすくなる

31歳 IVF-ET 1回目 卵がよくなく3個採卵、3個戻し妊娠せず
    2回目 8個採卵、2コ凍結 移植するも妊娠せず
    いままで、46kgぐらいだった体重が夏から50キロに増える。(自然に)

32歳 3回目 変性卵しか採卵できず
    4回目 3個採卵するも2コ空砲、1個変性卵
    (採卵までいたらず、周期にチャレンジしている数はもっと多い)

注射、ピルなど病院で工夫してIVF-ETをすすめてもらっているが、採卵できる状態にならないことが多く、採卵できても卵の質は悪いものしか取れず、妊娠に致らない。
医師から、卵の質が悪いために妊娠に致らないのではないかと説明されている。
年齢が若いのに、卵の質が悪いと言われている。

・切診など

・・脉診
左尺位に少し力がない、全体に柔らかい、遅脉

・・舌診
淡白から淡紅

・・腹診
心下詰まりなし、季肋部に脾募あり
臍から関元まで舟形の抜け、気海、関元、抜け
右の少腹急結あり
皮膚に弾力はあるが表面が薄っぺらくぺらぺらしている感じ。

・・経穴診
列缺 陰りあり(右<左)
右神門 硬結
左神門 こそげ、冷え 神門から通里にかけてこそげ
左内関 奥に冷え 
左合谷 こそげ少し
左後谿 冷え緩み
左外関 亀裂
左右足三里 冷え上がる
左申脈 冷え
右臨泣つまり
左公孫 ややこそげ
左三陰交 左紹介 冷え、

・・背候診
上背部 身柱から至陽 腠理の粗
肺兪 陥凹、発汗 (とくに左肺兪は大きい)
左心兪 抜け
左肝兪 陥凹
左胆兪 二行
左脾兪 二行
三焦兪 陥凹(左三焦兪は一番奥深い)
腎兪 小さく陥凹
右次髎 詰まり

・五臓の弁別

・・肝
右臨泣つまり
左肝兪 陥凹
左胆兪 二行
右次髎詰まり

・・心
右神門 硬結
左神門 こそげ、冷え 神門から通里にかけてこそげ
左内関 奥に冷え 
左 後谿 冷え緩み
左心兪 抜け

・・脾
季肋部に脾募あり
自然に体重が3キロ増える 

左右足三里 冷え上がる
左公孫 ややこそげ
左三陰交 左紹介 冷え、

左脾兪 二行

・・肺
30歳過ぎから風邪を引きやすくなった。
32歳 風邪を引いて咳が出ると一ヶ月ぐらい止まらない
皮膚に弾力はあるが表面が薄っぺらくぺらぺらしている感じ。

列缺 陰りあり(右<左)
左合谷 こそげ少し
上背部 身柱から至陽 腠理の粗
肺兪 陥凹、発汗 (とくに左肺兪は大きい)

・・腎
28歳頃 頻尿 尿切れの悪さ、残尿感、夜間尿2回あった
32歳現在 夜間尿1回あるも尿切れ、残尿感などはなし
30歳卵管手術後 生理の量が増え、日数も増えた
30歳から全体に体温が下がる

遅脉
舌 淡白から淡紅
臍から関元まで舟形の抜け、気海、関元、抜け
左外関 亀裂
左申脈 冷え

三焦兪 陥凹(左三焦兪は一番奥深い)
腎兪 小さく陥凹

・病因病理

IVF-ET(体外受精ー胚移植)に挑戦するも、卵の状態がよくなく、採卵までも致らない、卵がとれても、なんとか移植できるという程度の卵(受精卵)しか出来ず、『卵の質が悪いために妊娠出来ない』とドクターから言われている状態です。

ストレスの強い20代の前職では、残尿感、夜間尿、尿切れの悪さを引き起こしている。転職後にそれがなくなったことにより、肝鬱が、腎気にまで直接影響を与えやすい方ではないかと考えられる。

29歳のときの転職により尿意にまで影響を与えるような肝鬱が落ち着いたものの、同じ頃、アパートから一戸建てに引っ越したことを契機に体温が明瞭に下がり、風邪を引きやすくなってしまった。これは、精神的な強い肝鬱があったことで、尿意には直接的な影響がなくなったものの、腎気には負担をかけ続けたこと。また、一戸建てへの引っ越しで身体が冷えたことにより腎の陽気不足を引き起こしたのではないかと考えられる。また強い肝鬱が緩み気が抜けたことで逆に外邪の進入を許し、腎気の弱りがあったため風邪の内陥となり、肺気の弱りと腎の陽気の弱りが強く表れたのではないかと思われる。

切診をすると、目立つのは肺兪の陥凹発汗であり上背部は腠理の粗であり、皮膚は弾力があるものの表面が薄っぺらくぺらぺらしている。これは肺気の弱りが長く継続し、形態にまで影響を及ぼしているのではないかと考えられる。また、腹部の気海から関元の舟形の抜け、三焦兪の奥深い陥凹、腎兪の陥凹などは腎気の弱りが明瞭であることも示している。

足三里の冷えが上がる状況、季肋部の脾募などから、脾気の問題が肺気への養いを不足させそれが皮膚の質感にまで影響を与えるということになっていると考えられる。腎の陽気不足が脾気へ影響し脾の陽気不足、湿痰の発生、そして肺気へ影響し皮膚の質感へとつながっていることが考えられる。去年の夏より、なんとなく体重が増えてしまったことも、脾気の低下、湿痰の増加を示していると思われる。肺気が弱り風邪が内陥しているので風邪も引きやすく、正邪の闘争が起こり続けることにより肺気そのものを痛めること、腎の陽気を奪い続けることにもなっている。

現時点で、問診上は、便通もよく、夜間尿が1度(明け方に尿位でおきる)、食欲もあり、腹のはりもなく、睡眠も状態がよいということであるが、体表観察からみると、風邪の内陥、肺気の弱り、脾気、腎気の問題は明瞭である。とくに、皮膚の薄っぺらくぺらぺらしている状況は、特徴的で、腎の陽気不足、風邪の内陥が、肺気に強く影響を与え弱らせていると考えられる。現時点の状態は、日常生活をいとなむのにはご本人の意識にのぼるような影響を感じさせないレベルではあるのかもしれないが、妊娠に致らないと言うことを考えると、五臓への強い継続的な負担が、任衝脈の養いの不足を引き起こし、不妊の状態になっていると考えられる。

・弁証論治

弁証 風邪の内陥 肺気虚 腎陽虚 
論治 疏風散寒 益気補肺 温補腎陽 

・治療指針

第一に風邪の内陥を取り去り肺気への負担をとる。

形態にまで影響を受けている肺気の弱りをたてるため、肺気そのものをたてることと、腎の陽気を温養することで脾胃を助け、肺気への充分な養いが届くようにする。

五臓の充実により、任衝脉の充実となるようにしていく。

・生活提言

なかなか妊娠出来ない、それも年齢がお若いのに卵が出来ないというのは辛いですね。

ご自身としては、ご自覚されるような体調の不良はないということですが、東洋医学的な 四診を使いお身体を拝見させて頂くと、身体の充実度が足りないために、 土台の生命力が弱く全身をしっかりと温めることできないこと。そして全身をくるむ 皮膚の養いが足りていないことが明瞭です。

基礎体温表で、以前より体温が全体に下がってしまっていること、
また、皮膚の薄さはご自身でも自覚できると思います。

しっかりとした皮膚になり、身体が温かく充実し、臍下丹田(下腹のおへその少し上です)を充実させ、力強い身体にしていきましょう。

いままで、休みなく高度生殖医療での不妊治療を継続なさっていますが、 半年程度のお時間は、まず身体作り中心と決め、高度生殖医療はおやすみしてみたら いかがですか?。年齢的にも(32歳)おやすみする時間はありますので、いまあせって 何度も体外受精での治療を続けられるよりも、腹をくくって身体作りするべき時期ではないかと思われます。

そして、ある程度、皮膚の状態、全身の状態が改善できたら、再度、IVF-ET(体外受精ー胚移植)への挑戦をしてみてもいいのではないかと思います。

週に2回の治療院での施術
毎日の自宅でのお灸
散歩などの運動、
お肌が綺麗になると言われている時間である10時から2時の睡眠

などをお勧めします。
気負わず、力を抜いてはじめましょう。

・治療経過その1:一人目の出産まで

週に2回の鍼灸治療、自宅での施灸でスタート
7ヶ月後のIVF-ETにて、妊娠、出産

鍼灸治療前には、一度も『良い卵』と言われたことがなかったのに、
初めて『グレードの高いよい卵(胚盤胞)』と言われたとご本人が
とても喜んでいらっしゃったことが印象的です。

皮膚の状態が改善し、身体がしっかりとしたところでのIVF-ETの挑戦。
良い卵の移植でスムーズに妊娠され、ご出産に致りました。

身体作りの大切さを教えてくれた症例です。

初診 08年 3月
週に2回の鍼灸治療開始
自宅施灸は毎日

5ヶ月後 不妊クリニック受診 
    卵巣の数字悪く調整周期

6ヶ月後(30診後) 採卵、多精子受精、未熟など移植できず

8ヶ月後(50診)採卵、グレード1,3胚盤胞になる

64診後 移植
67診後 妊娠 hcg50以上あると
101診 妊娠29w 逆子(横位)とのおと
108診  妊娠35w 頭位に戻っていると
112診 妊娠38w 再度逆子になっていると
114診 妊娠39w 頭位に戻っている

初診から1年7ヶ月後、無事に3200グラムオーバーの女児を出産

おめでとうございます(^_^)

・治療経過その2:二人目出産まで

出産から1年三ヶ月後、再初診。
BMIが16代にまで体重低下。
出産後、仕事やそのほかいろいろなことがあり、とても忙しかった。

腎虚を中心とした気虚が深くなっている。
一時期は体重が42キロまでになってしまった(前回妊娠時50キロ)いま45キロ。
患者さんへは体重がせめて3キロほど増えてから、不妊治療を再開するようにアドバイス。
以来週に1回の鍼灸治療を開始。

1年後、体重も戻り、体調も良くなったので、前回採卵してある凍結胚盤砲を移植
無事に妊娠。
2012年 秋、3200グラムオーバーの女の子を無事に出産。
おめでとうございます。