弁証論治:

0176:不妊尋常性乾癬の弁証論治

症例集→バセドー病、尋常性乾癬、体外受精で出産(40歳出産)【case:0176】

・問診
38歳女性 医療職 152㎝ 48キロ

主訴 不妊 冷え 尋常性乾癬(耳、頭皮)

20代半ばぐらい前から皮膚の異常が発症。何件もの皮膚科に行ったが改善しなかった。

皮膚の異常の部位は、頭皮(耳の周り)、手のひら、耳の中だけ。

病院では、尋常性乾癬ではないかと言われた。

冬場は手のひらもガサガサで水疱ができる。頭皮、耳は常に痒みがある状態だったが、 数年前から手の症状はよくなり、全体に症状がよく、頭皮、耳がたまに痒みのある程度だが塗り薬で調子がよい。

空気が乾燥すると悪化、夏場は症状が治まる。今年は発症していない。

他に首から肩の凝りを治したい

半年前から、家の建築、引っ越しをきっかけに血管のざわざわ感と連動する

ひどい疲労感におそわれることがある。

注:鍼灸治療後に妊娠。鍼灸治療中もあった血管のざわざわ感と連動する疲労感は、妊娠はなくなった、強い疲労感もない。妊娠により塗り薬の中断で頭皮、耳のかゆみが再発。

・・普段の状態について

風邪はあまり引かない。

食事は規則的で早食い、かまないことが多い、美味しい。

食事はよくおいしく、胸焼けや腹脹が時々。

よく食べるものは、玄米、キャベツ、バナナ、豚肉鶏肉

間食は週に1度クッキーなどを食べる程度(たまに)

飲水は1200cc 豆乳やルイボスティー

喉口は滅多に渇かない、違和感などは時々ある。

飲酒、タバコはしない。

便通は1日1-2回、バナナ状ですっきり出る。

小便は尿切れが悪いことが時々ある。
 20代から夜間尿に1回2時から4時の間におきる。ときどき白濁する

睡眠 寝つき寝起きは普通、夢はよくみる

半年前の引っ越しから、疲れがたまる感じがして、翌日に疲れが残りだるいことがよくある。

突然血管がざわざわする感じがして、しばらくすると納まり、またざわざわしたりする。

このときはだるさがとても強いことが多く疲労感と血管のざわざわは連動する。

・・婦人科のことについて

初経は14歳 27日型で5日間、小さい塊が混じることもある。

生理にまつわる体調不良はめったにない。

生理前7日頃にオリモノが増えて膣が不快、排卵期にオリモノがでる。

高齢になるにつれ生理の量が減ってきた

・時系列の問診

20代半ば 皮膚の症状が発症(数年前から良好な経過、今年はない)
    部位は、手のひら、耳、頭部(耳の周り)
     いつごろからかは判然としないが、夜間尿がはじまる

28歳 手の震えからバセドー病がわかる(現在も服薬中)

36歳 結婚

37歳 不妊治療スタート
   フーナーテスト不良で人工授精3回

38歳
 IVF1回目 ICSI受精せず
   IVF2回目 2個採卵、一個受精せず、一個新鮮胚移植ー着床せず

38歳(今から半年ほど前)
 家を建て引っ越したころから、血管がざわざわする感じと連動し、強い疲労感を感じることが多くなっている。
 (バセドー病の再発はでななかった)

・体表観察

・・舌診
淡紅から淡白 
やや戦、
舌裏怒脹あり

・・脉診
両尺位やや浮いて輪郭が甘い

左の関上が浮位でやや硬い

・・腹診
脾募ややアリ

肝の相火右アリ

裏肝の相火アリ

気海から関元舟形の抜け

・・経穴診
左合谷冷え陥凹
左外関やや動きが悪い
右後谿やや陥凹
右の神門 硬結
右の内関陥凹

大都大きく割れ
公孫陥凹(右<左、外反母趾もきつく右<左) 三陰交こそげ 足三里冷えこそげ 右臨泣詰まり 大腿胆経きつい筋張り 下腿胆経 筋張り ・・背候診 大椎盛り上がり 大杼発汗 身柱発汗  右心兪、厥陰兪陥凹 胆兪陥凹 左脾兪ややこそげ 胃兪陥凹きつい(左胃兪トップ) 三焦兪やや抜け 腎兪やや陥凹(右>左) 次髎やや詰まり ・五臓の弁別 ・・肝 首から肩の凝り 舌やや戦、舌裏怒脹あり 左の関上が浮位でやや硬い 肝の相火右アリ 右臨泣詰まり 大腿胆経きつい筋張り 下腿胆経 筋張り 胆兪陥凹 ・・心 引っ越しをきっかけに始まった血管のざわざわ感と強い疲労感 口喉の違和感がたまにある 手の震えがありバセドー病発症 右後谿やや陥凹 右の神門 硬結 右の内関陥凹 右心兪、厥陰兪陥凹 ・・脾 胸焼け腹脹が時々 脾募ややアリ 大都大きく割れ 公孫陥凹(右<左、外反母趾もきつく右<左) 三陰交こそげ 足三里冷えこそげ 左脾兪ややこそげ 胃兪陥凹きつい(左胃兪トップ) ・・肺 20代から皮膚の異常が発症(最近は出ていない)耳、頭部(耳のまわり)手のひら 10年ぐらい前バセドー病発症 皮膚は空気が乾燥すると悪化、夏場は納まる。 首から肩の凝り 左合谷冷え陥凹 大椎盛り上がり 大杼発汗 身柱発汗 ・・腎 耳の中の皮膚がガサガサ 小便ー尿切れが悪いことがある。20代から夜間尿がある。 最近疲れがたまる感じが強く、翌日に疲れが残る 高齢になるにつれて生理の量が減ってきた 引っ越しをきっかけに始まった血管のざわざわ感と強い疲労感 脈 両尺位やや浮いて輪郭が甘い 裏肝の相火アリ 気海から関元舟形の抜け 左外関やや動きが悪い 三焦兪やや抜け 腎兪やや陥凹(右>左) 次髎やや詰まり ・・風邪の内陥 首から肩の凝り 左合谷冷え陥凹 大椎盛り上がり 大杼発汗 身柱発汗 ・病因病理 20代より皮膚の異常が発症。手のひら、頭皮、耳の中が症状の中心であり、 冬の乾燥で悪化、夏には納まるということを繰り返していた。手の症状はだんだんよくなり、 頭皮、耳の中の症状も薬の塗布でよくなっている。 また少し遅れた同時期にバセドー病も指摘を受けた。バセドー病は、とりたてて気になる強い症状があったわけではないが、 同僚が同じ病気にかかり、手の震えも病気の一症状だよと指摘されたことで病院受診、 長期にわたる服薬になっている。 手が震えることより、内風の可能性。また皮膚の湿疹痒みより内熱の可能性そして部位がは手のひら、耳のなか、頭皮(耳のまわり)といた場処であり、何件もの病院をかえても納まらなかったと言うことから、この皮膚症状が陰虚熱からおこったものではないかという可能性がうかがわれる。20代より、原因は判然としないものの、陰虚熱をおこしやすく内風、内熱の症状を発していたのではないかと考えられる。そして夜間尿が20代の若い頃からはじまっているので、この陰虚熱は腎虚を中心とし陰虚から発生しているのではないかと思われる。 バセドー病の服薬により、手の震えがおさまり、だんだん手の皮膚症状もよくなったのは、服薬により一定の内熱内風が納まった可能性がうかがわれる、しかしながら、陰虚熱の発生元である腎気を補うことがなかったので、症状は納まるものの不安定な状況で継続し、腎気そのものにも負担をかけ続けることになっていき、夜間尿は続いた。 半年前に家の建築、引っ越しがあり、血管がざわざわする感じと連動する強い疲労感に襲われる様になった。疲労感は数日続くこともあり、すうっと引いていくという状況が継続している。 家の建築や引っ越しによってストレスや疲労がきつかった可能性と、 体表観察(左合谷冷え陥凹、大椎盛り上がり、大杼発汗、身柱発汗)により風邪の内陥がうかがわれる。引っ越しによるストレスや疲労と、この時期におこった風邪の内陥によって大きく腎気の負担となったこと、風邪の内陥により気の上昇がおこりやすくなってしまった可能性がうかがわれ、このことにより陰虚熱が再びおこりやすくなり心熱が亢進し、疲労感と同時におこる血管のざわつきという症状につながったのではないかと思われる。 心兪、厥陰兪の大きな陥凹、胆兪陥凹、下腿胆経の筋張りは特徴的である。心気へのかなりの負担、そして心気の根となる肝腎の弱りが明瞭である。 脾胃の状態は、間食もほとんどないため、便通の状況もよく、ご本人の努力によって守られいるのではないかと思われるが、腎気のバックアップがないため、内湿はたまりやすい。 内湿がこの腎気の弱り、心熱が亢進しやすい状態に絡めば非常に問題が大きくなる可能性を感じさせる。 ・弁証論治 腎虚 心陰虚 風邪の内陥 疎風散寒 益気補腎 補益心気 ・治療指針 まず、全身への負担となっている風邪の内陥を取り去る。 腎気をあげることで、心の根をつけ、心熱の亢進を防ぐ。また腎気をあげることで女子胞力のアップをはかり妊娠に 向けての準備とする。 ・生活提言 今まで色々なことがありましたね。 もともと、生命の土台の力(腎気)が弱めだと思われます。 このため、身体の内側に熱が発生しやすく、手の震えや皮膚の異常が 発生したり、きつい疲労感やだるさにつながっています。これはもともとの体質的な弱さからでているため、なかなか病院での治療が効きにくかったのだと思われます。 妊娠には、この土台の力(腎気)がとても大切です。しっかりと 養っていきましょう。 また、出産、産後の状況を支えるのもこの土台の力(腎気)です。 少し心配なのは、土台の力(腎気)の不足に乗じて、再び内熱が発生し 体調の悪化を招かないかと言うことです。産後の体調不良は場合によっては 長期にわたって継続する虚損病のきっかけにもなります。 子育てで自分のことは後回しになりがちな時期ですが、 お母さんの体調がよいことは、子供にとってとても大切なことです。 是非、産後の養生をしっかりして子育てを楽しんでください。 産後の養生のポイントは 1)子育てを頑張りすぎない。母乳や育児に拘わりすぎず  力を抜いてそれなりに過ごすこと。 2)悪露のある間に1回、その後は、定期的に身体の手入れを受けておくこと 3)自宅では背中のお灸を毎日しておくこと。 4)規則的な生活を心がけ、イベントや外出もほどほどに。 ・治療経過 初診~8診まで  引っ越しもあり長くだるさが続いていることが多い。 9診(2ヶ月後)だるさが全体によくなってきた。   とくに、朝の不快感がなくなってきた。   だるさがあっても、治療がきっかけでよくなるようになってきた。 15診(4ヶ月後)  採卵、胚盤胞が凍結出来た。よいグレード。 25診(6ヶ月後)  だるさがあるときもある。波がある。以前よりは良い感じ  ホルモン値が悪く移植見送り 30診(7ヶ月後)  移植できた。  無事に妊娠。hcg20で低めー継続できず。 40診(8ヶ月半後)  前回よりもグレードが悪い卵だが、自分の体調はよい。  妊娠!(頻回に鍼灸治療をする。2日おきに3回を2クール)  妊娠30過ぎより、少し動くとお腹が非常に硬くなってしまい、苦しい。  病院では問題ないと言われた。横になって  休んでいればお腹の張りがなくなり、苦しさもなくなる。 ・ご本人からのメール ○月21日無事出産しました。 予定日より2週間早かったですが赤ちゃんは2900グラムあり元気です。 おかげさまで極まれにみる安産と驚かれたほどのスピード出産でした。 分娩台にいたのはわずか20分です。 負担が少なかったせいか、産後の体調良好です。 私からのメール 無事のご出産、おめでとうございました。 しっかりとした赤ちゃんの誕生、本当によかったですね。 また、直前までしっかりと治療の手を入れてたことと、ご自身の養生のおかげで 無事な安産になったこと、私もとても嬉しいです(^^)。 周りの皆さんもさぞお喜びでしょう! 名前が決まったら教えてくださいね。