弁証論治:

0005:肩の痛み、痺症 弁証論治

..病因病理

主訴の肩の痛みは、1年前に左の小指からはじまり左肩が痛み、今年の11月より右の肩前面が痛み、同時に膝、腰などが痛みが出現しています。肩以外の痛みは、自然と治るものの、再び痛み、痛む場所があれこれ移動します。また、全ての痛みは、朝おきぬけが辛いとのこと。40代の後半から、こむらがえりがおこるなど、肝の陰陽のバランスの悪さが伺われます。

生理があると、きつい肝鬱状態があっても下に通じることによりある程度肝鬱が解消される可能性となります。しかしながら閉経により肝鬱が下に解消されることがなくなり、肝気の鬱滞がより強くなったこと。また年齢的に腎虚傾向も加わったため便通が非常に悪くなったと思われます。週に1度で、出ないと嘔吐したり気分が悪くなるなどきつい気逆状態を思わせるものであります。またここまで便通が悪くなるのも、もともとの脾気の弱さもあるのでしょう。

このきつい脾虚肝鬱状態が続く中、精神的なストレスがくわわったため、胃に潰瘍ができるという状態になっています。つまり脾虚肝鬱状態から、一歩進んで肝気が脾胃を犯してしまう状態にすすんでしまったということです。このように、肝気の鬱滞、脾胃をいためる状態、そして腎気の年齢的な落ち込み、が続く中、1年前の柿の季節に左の小指の痛みに始まる、左肩の痛みと、全身のだるさ、やるきのなさが出現しています。

これは、いままでの脾胃の弱さ、肝鬱状態が柿の多食という飲食不節により、脾の陽気が奪われ、一段と器を小さくしてしまったのではと考えられます。脾の陽気不足により、肩関節を温陽できないために肩の痛みとなり、また同様に、脾気が心気を養えないために、だるい、やる気がでないなどの心痺両虚の状態となってしまったのではないかと考えられます。

身体を補うことがなかったため、この状態で1年経過し、ふたたび柿の多食の季節になり、飲食不摂により、また脾の陽気をいためる状態となり、冷えで便通がつくようになっています。便通が柿で付くということは、かなり柿でおなかが寒え、冷え降しをしていると思われます。身体の状態がよいときであれば、下に通じることのほうが身体にとってメリットとなり便通がつくだけで済んでいたのでしょう。

しかし、閉経から続いている肝鬱状態と、一年前から続く、心痺両虚の状態の上に、身体がより冷えにさらされ陽気不足となり、これに、11月18日というはっきりとした日付の記憶があるとおり風邪を引き込んだのと思われ、肺気の弱りとなり右の肺経の始まりである部位からの肩の痛みとなっていると思われる。

今回は、肩の痛みだけに停まらず、全身の関節の問題へと波及し、右の膝、右の臀部の痛みと広がりをみせ、朝の関節の痛み、痛みの移動をともなう状態となっています。

ご本人には風邪の自覚がないものの、大椎の寒えや身柱の発汗、右の肺兪の陥凹、左の列缺の寒え陥凹から風邪の引き込み、内陥が明瞭です。

また、大巨から関元にかけての下腹の寒えや脾兪、三焦兪の弱りや抜けは、脾腎の陽気不足や支えのなさを物語っています。年齢的な腎気の弱り、風邪の内陥、肝気犯胃による脾胃の弱り。ストレスによる、心気への負担、柿の多食による冷え、上記により発症した痺症であると考えられます。

大巨、関元の寒えが明瞭であるものの、睡眠、小便などの状態がよいため、腎気の落ち込みは年齢相当のものと思われる。この経穴の冷えは柿の多食のためかもしれないと考えられます。脾胃の問題は、ここ数年のストレスで潰瘍を起こしてしまうほどであり、また、肝気の鬱滞も一番の症状としては便通異常としてあらわれるように、脾胃に負担がかかりやすいタイプであると考えられます。

..弁証:痺症(風邪、脾虚)
..論治:風邪を払い、脾気をたてる。

..【治療方針】

まず第一に風邪を払うことを目標とします。目標は大椎の冷え、肺兪など。風邪の治療と同時に、脾胃をたてることをします。これは、風邪を払うために脾気をたてることが必要という側面もあります。

神門、内関などをみながらストレスとのかねあいで調整していきます。足三里の大きな陥凹、脾兪、三焦兪も施術観察していきます。この二点でどの程度、やる気の改善、肩関節などの関節の痛みの改善がみられるのか観察していきます。

また、きっかけがご本人の無自覚な飲食不節が原因なので(便通がつくという理由で冷えるものを多食)自覚をおながすことも同時に必要です。

..【生活提言】

1年前からだいぶ体調が悪く、辛い状態が続いていますね。肩やいろいろな関節の痛みと、やる気のなさ強いだるさなどは、身体の中のひとつの出来事として根本原因は同じです。

もともと胃腸の弱さがあり、便通などの状態がよくないですね。この上に、ストレスで胃をいためたり、冷える柿などの食べ物でより胃腸をいためたために、冷えが身体の中に入り込んだため、関節の痛みややる気のなさ、だるさとなっています。柿などの便通のつく食べ物は身体を強く冷やしている場合が多くあります。今回、便通がついているのに、どんどん関節の痛みや辛い症状が強くなってしまったのはこのためです。食べ物に注意して体をあたためるように心がけましょう。

また胃腸の弱さがありますね。お灸の指示をいたしましたので、できる範囲で結構ですから、毎日かかさず施灸をするように心がけてください。がんばっていきましょう。飲食不節の要因となっている柿の多食を注意し(ただし、季節が終わり、すでに便秘がはじまっていますので、今後の問題として)、い、脾気をたてることを治療目標とします。

御自身の養生としては、ストレスと上手につきあうこと。冷える食べ物を控えることを気をつけてたいと思います。

..治療経過

左後谿 左神門(鍼、ミニ灸)
左中府、ダンチュウ(ミニ灸)
足三里(灸頭鍼)
身柱(7)、大椎温灸、
左脾兪(鍼、温灸、10)
左右三焦兪(鍼、温灸、ミニ灸)。
4診まで(週に1度程度の間隔で)
柿をやめたらまた悪くなっていた便通が非常によくなった。
左肩は暖かい日にはあまり痛みがきにならなくなった。
右肩は忘れる日もでてきた。
7診で、肩の痛みはほぼ消失。

カテゴリー: | 投稿日: 2018/06/29 2018/06/29