弁証論治:

0018:無気力、気分の落ち込み、妊娠希望 

…病因病理

30歳過ぎに転居で見知らぬ土地に来たことでの緊張や不安は、精神的な過度な緊張状態を継続的に引き起こしご本人の脾腎の器に過度な負担をかけ、無気力で気分が落ち込みがちになるほどになってしまったと思われます。

主婦として暮らす生活自体に無理がなかったため、日常生活に困るほどの程度ではなかったものの、下焦の力がなく、上焦に過度の気滞があるという状況では、妊娠の希望があってもなかなかかなわず、そのことのストレスも重なり、肝鬱がよりきつくなり、支える腎気にも負担をかけていったため、肝胆の経筋経絡に負担がかかり右でん部の痛みで朝起きれないという状況にもなったと思われます。

お体を拝見すると、一番目立つのが心下のつまり、臍の両横の盛り上がり、肝の相火アリ、そして気海から関元への抜けです。これは、全体的にはストレスなど緊張感があり、上部では心下のつまりという鬱滞の状況を示し、下焦は抜けて力不足を起こしているという全身状態を示しています。

臍下丹田の抜けた状態、列缺から霊道のかげり、舌の胖嫩、脉の細さ、腎兪の抜けなど、身体の土台の力の弱りである腎気の弱りが明瞭で全身の気虚の状態になっています。

また、食欲不振、空腹感や食事に対する美味しく感じることの少さ胸焼け腹脹、便が出切らない、便が付着する状態、足三里の亀裂などから、後天の本を生み出す脾気も弱さをみせ、腎気へのバックアップの少なさを思わせます。

もともとそうであったのかは判然としませんが、強い肝鬱状態は支えとなる脾腎の土台の器をより小さくしてしまうという悪循環をつくり、脾腎の器が小さいから肝鬱はきつくなり、肝鬱はきつくなるから脾腎の器に負担がかかるという状況になってしまいます。この状況では妊娠希望があるものの、妊娠に重要な腎気も足らず、暢びやかな肝気の張りもないという状況になってしまっています。

…弁証論治

1)脾虚肝鬱
2)腎虚
1)疏肝理気 益気補脾
2)益気補腎

妊娠希望があり、腎気の問題も重要ではあるが、現時点では睡眠、小便などに問題が出ていないので、まずストレスにより過度にかかっている身体の緊張を取ることと、便通食欲腹脹などにあらわれる脾気の問題を解決し、身体の力を増すように勤める。
脾気の問題、強い肝鬱の問題が解決した時点で(つまり転居後の不調の段階が解決した時点まで戻ったら)、腎気の問題の状況をかんがみ、補腎をはかる。

…生活提言

お引越しをされて、友達なども少ない見知らぬ土地での生活が精神的な強い負担となっていますね。心身が常時緊張しているということは、身体の力をとても使ってしまうのです。精神的に無理に頑張りすぎたために無気力になったり気分が落ち込んだりしてしまったのだと思われます。そのうえに、早く赤ちゃんをという周囲の期待もあり、より精神的に疲れてしまいましたね。

精神的な緊張感が強いと、身体の緊張も強くなり、こうのとりもなかなかやってきてくれません。精神的な緊張が身体の緊張となり、その心身の緊張が身体の土台の力を使い疲弊させ無気力になってしまうばかりか、妊娠の希望さえも遠ざけます。悪循環になってしまうんですよね。

まず身体の力を取り戻しましょう。胃腸の力が疲弊していますから、まず胃腸の力を取り戻すことと、身体の緊張を取り去ることを目指していきます。

ご自宅では毎日のお灸で手入れしてくださいね(場処は指示いたします)そして鍼灸治療で身体の緊張をとっていきましょう。悪循環から抜け出したら、次は妊娠に目標をしぼって、土台の力作りをしていきます。順番に身体を立て直して、赤ちゃんに出会えるようにしていきましょう。