弁証論治:

0036:不妊不育からの出産弁証論治

症例集→『あの頃の自分に、あせるなって言ってあげたい』(38歳、41歳、44歳出産)【case:0036】

初診2008年10月、出産2011年

来院時、主訴
1)冷え性 2)首の痛み 3)不妊症

・問診

身長 155センチ 体重44キロ 35歳 職業 エステトリートメント

冷え性は子どものころから、深夜に辛く冬の方が辛い、小学生のころから手足両 方ともしもやけになっていた。

首の痛みは1ヶ月前にサーフィンでぶつけてから、朝に辛く症状は一定しない が、だんだんよくなっている。

…普段の状態について

 よく風邪をひく、(くしゃみ、鼻水、喉痛、発熱、下痢、肩こり)
 食欲は普通(30才頃より低下)
 食事時間は不規則で夜食を10時にとることもある
 食べるのは遅い、空腹感はよくあり、食事はいつもおいしい
 胸焼けは腹が張ることはときどきある。間食は1日2回
 飲酒は月に4,5回、飲み物は水お茶など700cc いつも喉が渇く
 口、喉が粘ることがよくある(鼻が悪いので口呼吸のためと本人)

 大便は1日1回 便通できらないことが時々、軟便、下痢錠、付着すること時々
 小便は1日8,9回、夜間排尿は20代半ばより時々夜中の2時頃
 寝付きはよい、眠りは深く、寝起きもよい、疲れが残ることは時々

・時系列の問診

子どものころから冷え性で、子どものころは手足にしもやけができる
 子どものころからアレルギー性鼻炎があり(現在も)、秋が辛い
 30歳結婚 32歳より妊娠希望
 33歳
  20代は体重が48キロだったのに、33歳頃から自然に体
     重が5キロ減ってし まった。
  足が冷たくて眠れない、足のしもやけが再発
  口呼吸が多くなり口が渇く
  不妊治療を開始  フーナー、卵管、ホルモン検査など良好
 34歳で自然妊娠するも心拍まで見えて流産
 不育症の検査で血液凝固の問題を指摘され15週までヘパリンといわれる。

・切診など

緊張感が強く、のぼせている感じ、焦げ臭い体臭

・・舌診
舌裏怒脹ややアリ、舌根部には白苔があるが舌中央部には苔がはげて いてない

・・脉診
全体に脉幅狭く細い

・・腹診
右の季肋部盛り上がり、張りがある、
    心下やや詰まりあり
    下脘が固い 
    臍周の下半分盛り上がりやや冷え
    気海 冷え
    少腹急結 右に少しあり
    脾募 右の季肋部に薄く湿痰アリ
    左右とも肝の相火ややあり

・・経穴診
 両列缺 かげりあり 右<左
 右神門やや硬結
 左霊道こそげ
 左右内関陥凹 右<左
 左後谿 陥凹 ゆるみ ややひえ
 左陽池 冷え
 足三里 ゆるみ冷え
 右申脈、冷え
 右臨泣、詰まり冷え
 左太衝、冷え

・・背候診
 左右風門 ゆるみ
 左風門、肺兪 緩み大きく、二つの間に亀裂
 右心兪、ゆるみ
 左脾兪 大きく陥凹
 左三焦兪 亀裂
 右腎兪 冷え
 左大腸兪 ゆるみ
 骨盤全体にやや冷え、右次髎詰まり

・五臓の弁別

・・肝

子どものころからしもやけ
アレルギー性鼻炎で口呼吸
のぼせた感じ
緊張感が強い
舌裏怒脹ややアリ
右の季肋部盛り上がり、張りがある、
臍周の下半分盛り上がりやや冷え
少腹急結 右に少しあり
左右とも肝の相火ややあり
 右臨泣、詰まり冷え
 左太衝、冷え
 骨盤全体にやや冷え、右次髎詰まり

・・心

やや焦げ臭い体臭(心熱の可能性)
口、喉が渇くことがよくある(心熱、胃熱の可能性)
心下やや詰まりあり
 右神門やや硬結
 左霊道こそげ
 左後谿 陥凹 ゆるみ ややひえ
 右心兪、ゆるみ
左右内関陥凹 右<左

・・脾

食事時間が不規則、夜食アリ
間食1日2回
胸焼け腹の張りがときどき
口、喉が渇くことがよくある(心熱、胃熱の可能性)
大便は1日1回 便通できらないことが時々、軟便、下痢状、付着すること時々
舌根部には白苔があるが舌中央部には苔がはげていてない
下脘が固い 
脾募 右の季肋部に薄く湿痰アリ
 足三里 ゆるみ冷え
 左脾兪 大きく陥凹

・・肺

アレルギー性鼻炎で口呼吸
 両列缺 かげりあり 右<左
 左右風門 ゆるみ
 左風門、肺兪 緩み大きく、二つの間に亀裂
 左大腸兪 ゆるみ

・・腎

深夜に冷えが辛い
20代半ばより時々夜間排尿
 左陽池 冷え
 右申脈、冷え
 左三焦兪 亀裂
 右腎兪 冷え
 左大腸兪 ゆるみ

・・陽虚

深夜に冷えが辛い、冬が辛い
子どものころからしもやけ

・病因病理

子どものころから冷え性で冬が辛く感じるような陽気不足があり、その上、手足 にしもやけも出来ていた、大人になるにつれてしもやけはなおっており、それな りに器の充実があったと思われる。

しかしながら20代後半より夜間尿がはじまる。20代という人生の充実期に夜間 排尿がはじまるということより、成長に従い器が大きくなり、それなりに安定し ていたが、20代後半から夜間排尿が出るように、腎気は不足気味であった。

30歳頃より食欲が低下。

33歳の結婚、そして不妊治療の生活は『頑張らなくては』と肝気を奮い立たせ るような状況であった。これにより肝気は脾気へ横逆。下痢状の便通で便器に付 着、足三里に緩み冷え、左の脾兪の大きな陥凹など、脾気の大きな落ち込みを示 している。

脾気が大きく落ちたことにより、20代は155センチ48キロ(BMI19.97少しやせ気 味)であったのに体重が自然と5kg減少してしまい、43kg(BMI17.89の痩せす ぎ)になってしまった。

このころより、しもやけが再発。足が冷たくて眠れないようになっている。ま た、同時期に口呼吸が多くなり口が渇くという愁訴が出ている。肝気の横逆で脾 気が落ちたことが体重の減少まで到達し腎の器がひとつ小さくなってしまったと 思われる。

脾気を落とすことで器が小さくなってしまったが、日々を生活していくためによ り肝気を奮い立たせたたせて生活する必要があったため肝鬱はより強くなった。 器が小さくなったことと、強い肝鬱により、末端で経絡の疏通が悪くなりしもや けが再発、足が冷たくて眠れないようになった。

小さくなった脾気は、心気への養いを充分にすることができず、つよい肝鬱によ る内熱もあったため、口を渇かし、焦げ臭い体臭となっていった。霊道のこそ げ、内関の陥凹、心兪のゆるみなどは脾気が充分に心気を養えなくなっている状 態を示している。舌証をみると、舌根部には白苔があり、舌中央部には苔がはげ ていてなくなっているので、腎気は不足がちながらまだ脾気をバックアップをし ており、脾気を中心に陰気が不足している状態をしめしていると考えられる。

・・弁証論治

弁証: 脾腎両虚 心陰虚(心血虚)
 肝鬱 心熱

論治: 補脾 補血 温腎補陽

・治療指針

1)心熱を納めるべく脾気をたて心の陰気を養う。

2)肝の鬱熱を納めるべく腎気を補う

3)脾気の根となる腎陽を補う

・経過

初診後すぐに、胚盤胞の移植。子宮外妊娠となる。

20診(3ヶ月後) タイミングにて自然妊娠、流産確定
 (この段階ではヘパリンまでの指示はなかった)
 ドクターよりなるべく自然に流産する方がよいとされる。
 流産確定後3週間、11週4日で出血した。
 出血で出る度にすっきりする感じ。

週に1度で継続
 しもやけが出来なくなり、手足の冷えがよくなっていった。

80診(14ヶ月後)
 妊娠、ヘパリン始める

妊娠6週 心拍見えた
妊娠7週 肝機能悪化
週に1度の鍼灸治療継続
強いおなかの張りで入院

妊娠37w 鍼灸治療 
  ウテメリン、ヘパリン、バッファリンなどすべてやめている

2011年 2月 無事に3000グラム弱の女の子をご出産、おめでとうござ います。

沢山の出来事がありましたね。

無事にご出産までたどり着けましたこと、本当に私も嬉しいです。

ご本人のこれからの人生にとっての課題は二つあります。
ひとつは、体重が落ちてしまい、しもやけが再度出てしまったことを中心とす る、「身体の力を一段階落としている状態」。これは鍼灸治療により、1度解決し ています。しかしながら、生命力を落とすことで再度出てくる問題です。
「生命の器が小さい」ということなのです。
しもやけ事態が問題ではなく、身体の力自体が落ちてしまったという事実が しもやけということになって現れてくるということが問題なのです。
こういったときには、無理に頑張らず、ご自身の器にあわせて生活していくとい うことがとても大事であると思います。

もう一つは、喉が渇きやすい、少し焦げ臭い体臭がするなどの、身体の内側にあ る熱の問題です。これは第一点目の「生命の器が小さい」ということを土台に派生 してくる問題と、ご自身の頑張り(これを肝鬱、ストレス状態といいます)によ り内側から発生してくる部分があいまって、身体の内側の不要な熱となるわけで す。これを自覚したときには、クールダウンが必要だと思います。一義的には器 を大きくすること、そして熱の暴走があるときには、その調節も考えたいところ です。

なかなか難しい課題ですが、健康に気遣う貴方ならば乗り越えていけるかと思い ます。またお母さんの健康は、赤ちゃんにとっては何よりの贈り物ですね。器に 沿って健やかに生活されることを願っています。

・第二子出産 治療経過

2011年2月第一子出産

2012年4月 第一子が1歳をすぎ、体調を整え第二子出産に備えたいと言うことで来院
 体重妊娠前42キロ現在38キロ まず体重が戻ってからとアドバイス

2012年 5月 体重1キロ増加 黄耆建中湯と当帰建中湯を服用

2012年6月自然妊娠 ー20週までヘパリン
 20w 体重が40キロになった、+2キロ(21w)
 25w 前回の妊娠時は入院などになっていたが、今回はなんとか大丈夫
     夜中に腹が張るようになってウテメリン
     疲れとお腹の張りは連動
 31w 逆子
    最後まで治らず。
 38w 帝王切開にて出産 

ご本人よりのメール

『米山先生、スタッフのみなさん

予定日より16日早い1月○日に、予定帝王切開にて2800グラム弱の男の子を出産しまし た。

何より無事に産まれてよかったです。
妊娠中、本当にお世話になりました。

今はかなり傷口が痛いですが、頑張り過ぎず体調回復したいです。

タイミングをみてご挨拶に伺えたらと思っていますが、まずはメールにてご報告でした 。

寒い毎日ですが、どうぞご自愛ください。』

 無事の出産おめでとうございます。

・第三子出産 治療経過

44歳、妊娠反応が出ましたということで再診。

妊娠5w 体重39.5キロ BMI16

12w 体重 40キロに

20w お腹の重心が下がり始めている トコちゃんベルトをするようにと指導
(すでに人にあげて手元にないとー購入)

32w 体重43キロ(3.5キロの増加)
妊娠糖尿病:病院で1600カロリーの指導を受け、その上で体重を10キロ増やすようにと指導された。

34w 食事記録とBMIの記録を出したら、もっと食べてもよいと病院側が納得してくれた

無事に出産 おめでとうございます。

妊娠34wのころ、

『あの頃の自分に、あせるなって言ってあげたい』

とおっしゃっていたのが印象的でした。9年前の初診。確かにとってもあせっていらっしゃり、お身体を拝見した私が「もう少し待って!」とアドバイスさせていただきましたが、「待つ」ことが出来ずに子宮外妊娠。少し遠回りになりました。

しかしながら、この9年で38,41,44歳の出産で無事に3人のお母さんになることができました。本当におめでとうございます。

不育症でも問題になった血液凝固系の問題は、東洋医学的な弁証論治でも説明させていただいた通り、今後の人生の課題にもなります。子育てで自分のことなどほったらかしになりがちだと思いますが、ご自身のことも少し意識して楽しい子育ての時間を過ごしてくださいね。