弁証論治:

0107:二人目不妊、マクロビで貧血の弁証論治

症例集→マクロビで体重減少BMI16、二人目不妊、貧血(36歳出産)【case:0107】

・問診

35歳女性 身長158センチ 体重43キロ
2011年8月初診

主訴 妊娠したい、生理周期を安定させたい

【ふだんの状態について】

クーラー 冬、梅雨時、季節の変わり目に体調悪化
食欲は普通、33歳頃から落ちている、規則的15分ぐらいの早食い、
食事はいつも美味しく、腹が張ることは滅多にない
 よく食べるものは 胚芽米、お味噌汁、しらす、梅干し、のり
間食は日2回以上(ヨーグルトレーズン、果物)
水分は1000cc以上、

口は滅多に渇かない~ときどき
大便は1日1,2回、こぶしだい、コロコロ、付着や出きらない感じはない
小便は1日4,5回、残尿感ない。ここ半年ぐらい夜間尿が3時頃1回ある。
寝つきはよい、眠りは深い、寝起きはよい。疲れが残ることはない

・・生理について

高温期に胸の張り、下腹の痛み、吐き気、
 イライラなどがある。生理が来ると症状はなくなる。
 自分では想像妊娠かなあと思う(毎回期待する)
排卵時に下腹部が痛む気がする
生理痛はない、小指大の塊、さらさら、水様、だらだらと日数が長い(8日ぐらい続く)
2010年10月からの月経周期 40、29(薬注射)、27(薬注射するも排卵なかった)、32(漢方薬を飲む)、67(薬なし)、35(薬なし)、45(薬なし)、2011年8月32(薬飲む)

出産1回 流産2回
出産後食べる食べ物を変えて体調が変化した。
産後の身体は回復していると思う。母乳は出なかった。

不妊治療について
 一般検査など問題なし

・時系列の問診

31歳 化学流産(胎嚢見えず)

32歳 稽留流産 (梅雨だった)
  自分としては梅雨や季節の変わり目で体調が悪化したために流産になったと思う

33歳 自然に妊娠できた(体重46キロ) 出産。

33歳 出産後、

  食欲が落ちた
  腰痛になった、
  生理がだらだらと8日ぐらい続くようになった
  生理痛は軽くなった
  食欲が落ちた
  産後体調が悪かったので、食事をマクロビに変えた。
  体重が3キロダウンし、一時は40キロすれすれまでになてしまった。

34歳 出産から1年 貧血で引っかかった

35歳 出産から1年半 体重が少し回復して43キロになった 

・切診など

・・脉診

全体に甘い
右沈でやや弦
寸口ひえきつい
 (今日は外のプールに入って冷えた)

・・舌診

淡紅から淡白
舌尖紅
やや膩苔
歯痕あり
舌裏怒脹きつい

・・腹診

右の肝の相火ややあり
裏肝の相火あり
臍引いてくる感じあり
気海抜け
少腹急結左あり

・・経穴診

右の内関ゆるみ
右後谿陥凹 
右神門硬結きつい
左右霊道こそげ
左右列缺ややこそげ
右太淵冷えしまっている
右合谷 つぶれ
大都空きが大きい右<左 公孫陥凹 三陰交こそげ 足三里 右>左 奥から冷え 左外関陥凹、 左陽池冷え ・・背候診 細絡多い 大椎 凸 右肺兪 大きく陥凹 右厥陰兪陥凹 胸椎4番 凸 霊道、至陽、胸椎八番までの椎間は規則的、正常の間隔 筋縮、中枢の椎間は少しつまり 脊柱 空き 接脊 つまりがきつい 懸樞 空き 胃兪大きな陥凹 左三焦兪大きな陥凹 腎兪陥凹 左>右 左大腸兪 仙骨細絡多し、右次髎つまり ・五臓の弁別 ・・肝 高温期に胸の張り、吐き気、イライラ 生理に小指大の塊 産後生理周期が乱れている(長め) 出産後生理は軽くなった 舌裏怒脹きつい 腹 右の肝の相火ややあり、裏肝の相火あり 少腹急結左あり 細絡多い 筋縮、中枢の椎間は少しつまり ・・心 舌尖紅 右後谿陥凹  右神門硬結きつい 左右霊道こそげ 右厥陰兪陥凹 胸椎4番 凸 霊道、至陽、胸椎八番までの椎間は規則的、正常の間隔 ・・脾 梅雨、季節の変わり目に体調悪化 33歳産後から食欲が落ちている 食事は美味しい、腹が張ることはない 大便1日1,2回 こぶし大出きらない感じはない  (便通に問題はない) 33歳 出産後     食欲が落ちた    産後体調が悪かったので、食事をマクロビに変えた。    体重が3キロダウンし、一時は40キロすれすれまでになてしまった。 34歳出産後1年貧血で引っかかった 舌やや膩苔 臍引いてくる感じあり、気海抜け、 大都空きが大きい右<左 公孫陥凹 三陰交こそげ 足三里 右>左 奥から冷え 脊柱 空き 接脊 つまりがきつい 胃兪大きな陥凹 左三焦兪大きな陥凹 ・・肺 寸口ひえきつい 臍引いてくる感じあり、気海抜け、少腹急結左あり 左右列缺ややこそげ 右太淵冷えしまっている 右合谷 つぶれ 細絡多い 大椎 凸 右肺兪 大きく陥凹 ・・腎 クーラー冬に体調悪化 小便1日4,5回半年ほど前から夜間尿がある 睡眠に問題ない(寝つきよい、眠り深い、寝起きよい) 産後ダラダラと生理が長い(8日ぐらい) 産後生理周期が乱れている(長め) 流産2回 出産後母乳が出なかった 33歳 出産後、食欲が落ちた、腰痛になった、   生理がだらだらと8日ぐらい続くようになった   生理痛は軽くなった   食欲が落ちた   産後体調が悪かったので、食事をマクロビに変えた。    体重が3キロダウンし、一時は40キロすれすれまでになてしまった。 脈全体に甘い 右沈んでやや弦 右の内関ゆるみ、 左外関陥凹、 左陽池冷え 懸樞 空き 胃兪大きな陥凹 左三焦兪大きな陥凹 腎兪陥凹 左>右 左大腸兪 仙骨細絡多し、右次髎つまり ・・気虚 舌歯痕あり ・病因病理 33歳の出産前、2度の流産があり、子宮を支える腎気の弱りがもともとあったのではないかという可能性が疑われる。しかしながら、33歳の時に無事に妊娠し、出産まで致った。このとき体重は46キロだった。 出産によって一定のオケツが落ち生理そのものは軽くなったものの、食欲が落ち、腰痛が出現、生理がだらだらと8日続くようになった。出産によって生命力が腎気を中心にひとつ落ちてしまい、自然の回復の流れにのれずにいた。体重も妊娠前の46キロから43キロまで落ちていた(BMI17.2)。 体調が悪いため、食事をマクロビに変え、肉やタンパク質の摂取を少なくし、野菜や玄米中心の生活にしたところ体重がぐっと落ち40キロ(BMI16)、まわりからも『大丈夫か?』と言われるほどの状態になってしまった。食事の制限により、気血の生成が不足し、腎気を落としていた状態に加え、栄養不足が重なり気血両虚となってしまったものと思われる。西洋医学的に貧血が指摘されたのもそのためであろう。 食事を少し改善たところ1年以上の時間がかかったものの、現時点で体重は43キロまで回復した。体重は回復したものの、この半年ぐらいは夜間排尿が続いている。また生理の状況も産後から出血がだらだらと続く、周期が長いなど腎気の弱りを示し、食欲が落ち腰痛も出現している。このことは、あきらかに出産後生命力を落としている状況が続いているのではないかと思われる。現在みられる腎兪の陥凹、左三焦兪の大きな陥凹なども腎気の弱りを示している。 ご本人は現在のご自身の状況を『産後体調は回復している』『疲れが残ることはない』と判断している。体表観察や生理の状況の問診からすると明らかに生命力を落としていることが伺える状況であることには目が向いていない。これはご本人の意識の持ちようとして、常にしっかりと前向きに対処しようという生きる姿勢であろう。この生きる姿勢は、強く肝気を張って生きるということである。平時であれば問題がないが、腎気の弱っている状況では、より強く肝気がたち、その強い肝気自体が腎気への負担となり悪循環に陥っている。 ・弁証論治 弁証: 腎虚を中心とした気血両虚 論治: 益気補腎 ・治療指針 腎気をあげ、出産前の体調までもどす。 腎気の回復に伴い脾気も回復すると思われるので、後天の本をしっかり補えるような環境作りをし、気血ともにまし器を大きくしていく。 ・生活提言 出産後、なかなか体調が戻らず大変ですね。 出産により、生命力を一つ落とした状態が続いています。 鍼灸治療ならびに日々のご自宅でのお灸によって生命力を回復させていきましょう。 また、産後になさった体重減少を伴うような食事療法は、かえって体調を崩す要因になっていたと思われます。偏りのないバランスのよい食生活を取り戻して、妊娠前の 体重まで戻れるようにしましょう。 ・治療経過 初診より週に1度で鍼灸治療  初診 左外関、左公孫、左三陰交、足三里。気海10、関元7   左胃兪、左三焦兪、右腎兪、左大腸兪 鍼して温灸 2ヶ月ほどで体重が少し増える 4ヶ月目で自然妊娠。妊娠32週まで鍼灸治療継続。里帰り出産にて終了。 無事に安産にて男児出産。 治療を振り返って 食事は難しいです。よかれと思っていなさっている食事制限が、かえって健康の足を引っ張っている場合もあります。食事は個別具体的に考えていく問題であろうと感じています。一般論的に『これがよい、これはいけない』と決めつけるのは問題が大きくなる可能性が高いですね。 私が、『その食事療法はあっていないんじゃないかな?』とアドバイスさせていただくのは、この症例のように東洋医学に基づいた体表観察をし、時系列に沿って問診させていただくなかでおこなっています。 食事は人間にとって大切な栄養源ですし、精神的な支えでもあります。またご本人の『嗜好』に大きく左右されます。頭で考えた情報とご自分の嗜好で極端に決めつけるのは危険が大きいですね。とくに、肝気が立っている意識の高いタイプの人は、ご自身にも厳しい傾向があるので、ご自分の不調を無視して頑張りがちです。ほどほどに、そして体表観察をしてくれる他者のアドバイスを聞いてみるのもよいと思います。 この症例の方は初診から1年後、無事に二人目の赤ちゃんを抱くことが出来ました(^^) おめでとうございます。 ご本人からのメール  『思えばちょうど1年前、わらにもすがる思いで(笑)ビッグママを訪れました   まさか一年後に我が子をまた胸に抱けることになるとは、思いませんでした   身体の治療だけでなく、精神面や生活面でのアドバイスも参考になりました   本当にお世話になり、ありがとうございました』  無事の出産おめでとうございます。  頑張り屋さんならではのエピソードが沢山で、私も背筋が伸びる思いでした。  確かに危険な方向にも暴走してしまいますが(^^ゞ、  人として生きていく姿勢がとても美しいと思います。  子育て、楽しんでくださいね(^^)