弁証論治:

0047:身体作りをして出産 弁証論治

症例集→若いのに良い卵がとれない、極度の冷え性(32歳出産)【case:0047】

・問診

30歳
主訴 不妊 冷え

冷えは徐々におこり、朝、夕、深夜など一定しない クーラー、冬に調子が悪い
悪化傾向にある。3年前からとくに夏と冬に辛い
他に治していきたい症状は? 肩こり、目の疲れ
冷えは自分ではクーラーの中に長時間いたためにおこったと思う
随伴症状 目が疲れやすい
体調に合わせて変化しない
13歳、盲腸手術

・・普段の状態について

クーラー 季節の変わり目 睡眠不足の時
風邪を引くと喉が痛く肩こり

食欲は25歳ころから落ちている 
食事は規則的 空腹感があり、胸焼けはめったにない 間食はしない
飲酒はほとんどしない
飲み物は1200cc以上、緑茶、ほうじ茶、コーヒー、フルーツジュース
喉は時々かわく、違和感はない

大便は1日1回バナナ こぶし大
小便は1日3,4回
睡眠は寝付きはよい、眠りは深い寝起きはよい、翌日に疲れが残ることが時々

初経は11歳 31日5日間
生理の2,3日前から鈍痛、下腹痛
1,2日目が出血が多い
不妊治療 ホルモン検査、卵管造影、精液検査など問題なく原因不明といわれた

・時系列の問診

26歳結婚 妊娠希望

27歳 クーラーの中に一日いる。冷えがきつい職場になる 
   膝下からじんじんする 靴下をはかないと眠れない様になる。
   左目を中心とする目の疲れがでる(コンタクトのせい、悪化はしていない)
   肩こり

28歳 自分たちでタイミング1年

29歳、病院でのタイミング半年、人工授精6回

30歳 1回目 IVF-ET(体外受精ー胚移植) 受精せず
    2回目 ICSI 胚盤胞凍結 妊娠せず
    3回目 1個受精 新鮮胚移植 妊娠せず

・体表観察

・・脉診
左尺中位に芯のような固さアリ

・・舌診
淡紅から淡泊
歯痕ややあり
怒脹アリ

・・腹診
肝の相火なし、 
中脘から関元まで臍を中心として任脉状が抜けあり
肋骨丘 閉じている 臍上向き 
中注盛り上がり
関元 抜け
少腹急結左アリ
中脘固さアリ

・・経穴診
右列缺動きが悪い
左合谷 動きが悪い
右神門 硬結大きい
左内関 陥凹
左外関冷え 動きが悪い
左陽池 やや冷え
左右照海冷え
左湧泉 ゆるみ
右申脈固い(3年くらい前に足首ねんざした)
左大都 陥凹
左公孫 われ
左三陰交 ゆるみ
右臨泣固い
左胆経冷え、動きが悪い

・・背候診
背骨全体が冷たい感じ
上背部 腠理の粗(かゆいこともある)
左右風門陥凹 発汗
右心兪大きい陥凹
左脾兪陥凹
左胃兪 二行(中心)
左腎兪冷え
右次髎つまり

・五臓の弁別

・・肝
肩こり
目の疲れ
生理前に下腹部鈍痛

舌裏怒脹アリ
臍上向き 
中注盛り上がり
少腹急結左アリ
右臨泣固い
左胆経冷え、動きが悪い
右次髎つまり
右神門 硬結大きい
左内関 陥凹
右心兪大きい陥凹

・・脾
季節の変わり目
食欲は25歳ころから落ちている 

中脘から関元まで臍を中心として任脉状が抜けあり
左大都 陥凹
左公孫 われ
左三陰交 ゆるみ
左脾兪陥凹
左胃兪 二行(中心)

・・肺
クーラーで体調悪化
肩こり

右列缺動きが悪い
左合谷 動きが悪い
上背部 腠理の粗(かゆいこともある)
左右風門陥凹 発汗

・・腎
クーラー、冬に調子が悪い
睡眠不足の時体調悪化
生理前に下腹部鈍痛

脉診 左尺中位に芯のような固さアリ
中脘から関元まで臍を中心として任脉状が抜けあり
関元 抜け
左外関冷え 動きが悪い
左陽池 やや冷え
左右照海冷え
左湧泉 ゆるみ
右申脈固い(3年くらい前に足首ねんざした)
背骨全体が冷たい感じ
左腎兪冷え

・・風邪
上背部 腠理の粗(かゆいこともある)
左右風門陥凹 発汗

・・気虚
歯痕あり

・・陽虚
27歳からクーラーのきつい職場にいるようになって冷え悪化
靴下をはかないと眠れない 膝下からジンジン
クーラー、冬に調子が悪い
冷えは徐々におこり、朝、夕、深夜など一定しない
悪化傾向にある。3年前からとくに夏と冬に辛い
背骨全体が冷たい感じ

・病因病理

30歳という若さでありながら、IVF-ET(体外受精ー胚移植)を数回試みるも、採卵できる卵の数も少なく、よい受精卵とならず妊娠と致らないという状態である。

27歳から職場でクーラーによる冷えに強くさらされたころより、膝下からジンジンする冷え、靴下をはかないと眠れないほどとなり、同時に肩こりや左目を中心とする目の疲れが出ており、悪化傾向にある。

二便、睡眠、食事の状態など基本的な生命力は充実しているような問診項目であるのに、冷えの状態がきつく悪化傾向にある。クーラーなどの冷えの外的要因にさらされ続けていること。風門の発汗、大椎を中心とする腠理の粗などから風邪の内陥があるため、肺気が弱り外邪であるクーラーの冷えをより深く体内に侵入させやすくなっていると思われる。また風邪の内陥があるため上焦での気滞が強くなったり、継続する正邪の闘争のため腎気にも負担となり腎の陽気をさらに弱らせている可能性もある。

腎の陽気不足は背骨の冷たい感じとしてあらわれており督脉の陽気不足を直接的に感じさせる。

お腹を拝見すると、腹部任脉にそって中脘から関元まで舟形の大きな抜けがあり、抜けの最下端では関元である。一源三岐といわれ子宮に注ぎ込まれ支え養うであろう任脉の弱さと督脉の冷たさ、そして腎気の弱さが伺える。

腹部の中脘から関元の舟形の抜けという弱さのなか、臍周が盛り上がり臍自体も上向きであり、弱さの中に気の上逆があることが腹部の状態からも伺える。関元の抜けという腎気の弱さが中心にあり任脉全体の抜けた状態の中、風邪の内陥も負担となり肝気は上逆し鬱滞した状態となっていることを示している。左胆経の突っ張り、左の少腹急結、舌裏の怒脹など冷えと気逆の状態が長時間続いたためにオ血の状態も現れはじめていると思われる。

任脉の特徴的な弱りの背景には、背部兪穴の胃兪の二行を中心とする脾兪の抜けから脾胃の力の余力不足も感じる。奇経は正経の余力が注ぎいるところである。全身の脾胃の生命力には問題が生じるほどではないが、任脉の充実は子宮を養い妊娠をするという観点からは大切で存る。脾胃の力を養い任脉に導くことも妊娠のためには必要であると思われる。

・弁証論治

・・弁証

風邪の内陥
腎陽虚
任督脈の弱り

・・論治

去風散寒
温腎補陽
養任督脈

・治療指針

まず第一に疏風散寒し、腎の陽虚、全身の気逆をより悪化させる風邪の内陥を取り去る。

第二に、腎の陽気をたてることを中心に督脉を温養、同時にまた腎の陽気をたてることで脾の陽気を救い脾胃の負担を取り除き、任脉の充実を導く。

・不妊治療の方針
年齢が若い割に、IVF-ET(体外受精ー胚移植)をしてもタマゴの取れる数が少なく、受精卵の状態も良くない状態は、現状のまま、IVF-ETを繰り返しても、同じことである。

外的要因として受けてしまっているクーラーなどの状況をしっかりと防御しつつ、 鍼灸治療で身体の状態を改善し、冷えが改善され、子宮を養う任督衝脉の状況がよくなってから、IVF-ETの再開を試みるべきであろう。目安として半年程度を考える。

・治療経過

初診時

4回目のIVF-ETの周期中 6個受精 すべて8分割で停止
→IVF-ETでの治療を急がないようにアドバイス

自宅での施灸指導、棒灸指導

初診から2ヶ月後

5回目のIVF-ET  3日目胚移植、妊娠せず
→IVF-ETでの治療を急がないようにアドバイス
身体作りを優先してもう少し時間をおいてみようと助言

初診から9ヶ月後

6回目のIVF-ET 2つ成熟卵、3日目5細胞移植、妊娠
無事に出産 おめでとうございます。